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銀河連合日本×神崎島 ネタ 民俗学者が見た神崎島番外編 弐ノ島 夜海ノ門



二藤部の前には先程と変わらず常世神宮の景色が広がる。
しかし、そこには二藤部の知る人物はいない。
柏木もフェルもヴェルデオも。
常世神宮に集まった人々、その表情には焦燥が見受けられる。


「また死体が流れ着いたぞ!一体現世では何が起きているんだ!?」

「新たな艦娘の話では米国と戦争中だという話だが…。」

「艦娘がまた倒れた!もうこれ以上送るのは無理だ!」


そこへ一人の男が駆け込む。
二藤部には最後の言葉が耳に残った。


「海が、海が血に染まっています!」



全てを終えて神域ではない常世神宮敷地内の宿泊所で開かれた宴。
二藤部はちびりちびりとビールを飲んでいた。消化器系のこともあるので日本酒や焼酎などの度数の高い酒を浴びる程飲むことはない。

上座を見れば神崎提督と神前で舞う巫女を務めた艦娘大和が座っている。
そしてその次席として常世神宮の巫覡の娘達が座る。
確か名字を黒澤、水無月、天倉、不来方、雛咲…後はなんと言ったか。

あの儀式、そしてあの白昼夢はなんだったのか、天下泰平・五穀豊穣を祈る皇室や伊勢の神宮の儀式とは異なるもののように感じる。
死者を慰めるだけではない、鎮守府の名の通り何かを鎮め守る為の儀式なのであろうか。
少々アルコールの回る頭でそんな事を考えつつぼんやりと上座を見つめていると二藤部に声を掛けるものが一人。


「二藤部総理、コップが空いていますがお注ぎ致しましょうか?」


今回の神事の為に神崎富士こと天叡山に座する浅間社から来た巫女だ。
流れるような黒髪に楚々とした佇まい、黒と緑のヘテロクロミアの瞳が特徴的な美しい女性だ。


「…ええ、お願いします。」


二藤部の持つコップに黄金色のビールが注がれていく。
二藤部も男だ、美しい女性に酒を注がれて少々気恥ずかしさを覚える。
そして注がれたビールで口を潤した。


「先程から上座を見てらしたようですが何かありましたか?」

「いえ…儀式の時の大和さんの笑ってはいけない…でしたっけ?それに出演している時の姿が私の中で一致しないものでしてね。」

「それはしょうがありませんね。滑稽さを求めるものと今回の儀式は性質の違うものですから。」


浅間の巫女はころころと笑う。


「後、大和さん達が執り行った儀式が私の知る神事と違うように感じましてね…。」

「仕事柄多くの神事、祭祀に関わることが多いので天下泰平・五穀豊穣などとは違う神事ではないかと思うのですが…。」

「……。」

「浅間さん?」

「総理、酔い冷ましに外へ少し出ましょうか。」

564: 635 :2020/12/27(日) 22:04:11 HOST:119-171-231-231.rev.home.ne.jp

二藤部は浅間の巫女に連れられ外へと出た。
見上げれば夜空には息を飲む程美しい満天の天ノ川と月が見えた。
月明かりで星光は消えるものであるがいかなる理由か。


「月が綺麗ですね。私達が常世で見ていた常世の月とはやはり違いますね…。」


月が綺麗、その言葉に二藤部はドキリとするが常世の月という言葉が気になった。


「常世の月とは?」

「ご存知の通り私達がいた現世とは違う異界・常世、その常世の月を指します。天文学的に見ても本物の月でないことは確実でしたが。」


信じる信じないは自由だと前置きをし、浅間の巫女は月を見上げたまま話続ける。


「あの常世の月がどのように生まれたのかを私達には知る術はありませんが、古い言い伝えによれば神代の月であると言われています。」

「神代の?」

「神代の月は不死の力あるとも死の国への門とも言われています。その力を封じ現し世から遠ざけるために月夜見神が神代の月を常世へと持ってきたとも。」

「……。」


常世神宮に仕える巫覡の一つ、月夜見神を祀る社の守り人、月森はそんな月を守護する役目にあると言う。
そして浅間の巫女は月に向けていた目を二藤部の方に向ける。
二藤部にはその表情がまるでこれから託宣を行う神官のように見えた。


「神崎島の巫達、特に艦娘は夜海と常世の境を閉じ、その封印を守る役目を帯びています。それが神前(かみのさき)であり常世の前(さき)であるこの島の役目とも。」

「黄泉と常世の境界を閉じ守護するのがこの島の存在意義であると?…そういえば先程から黄泉と常世を違うようにおっしゃってますが、何故?」


軍艦畝傍やかつての平氏の落人のように生者はほぼ一方的ではあるが常世へ渡ることは不可能ではない。
その時点で常世とは完全な死者の国ではない。
されど夜海は違う。
現世に接する海の最果て、沖縄ではニライカナイ、大陸では蓬莱とも呼ばれる常世に対し、
夜海は神代の昔に夜海門大神の封印により生死の境界を敷かれた完全なる死の世界。


「つまり島には黄泉への入口が存在し日本神話でいう黄泉比良坂であると?」

「それは私達にも分かりません。それに島では夜海との境界は幾つかあるとされていますが、島が黄泉比良坂かどうかまでは…。
 また、私たちは死の国を黄い泉ではなく伝承から夜の海と書き夜海の字を当てております。」


浅間の巫女は語り続ける。


「夜海の門、夜海門は非業の死を遂げた者が多く死の匂いが濃い程、穢れが多い程に夜海の門の封印は薄くなります。
 この島は祀ろわぬ死者と追われた者が流れ着き、諸々の罪禍穢れが流離い失う海の最果て、かつて常世にありし夜海への入り口のに最も近き島。
 現し世へと戻りこの度多くの死と穢、天津罪と国津罪が島へと流れ着きました。
 故に死者を慰め穢れを祓い正しく夜海へ送る為、夜海門を鎮めるため今回の儀式は行われました。」

565: 635 :2020/12/27(日) 22:06:39 HOST:119-171-231-231.rev.home.ne.jp
天津罪国津罪、総理として祭祀への参加も多い二藤部はその言葉を知っていた。
現代で言う犯罪だけでなく病気・災害を含み日本国内において天津罪国津罪となるものは現代でも多い。

串刺・他者の土地を奪い、土地に呪いを掛ける罪、生膚断・生きている人の肌に傷をつける罪、死膚断・死んだ人の肌に傷をつける罪、
畜仆し蠱物する罪・動物を殺傷しその屍体で他人を呪う罪、火焼・火災による焼死、
そして高津神の災と川入、即ち天災と溺死今回の儀式の対象となったものだ。

そして思うもし儀式がなければどうなるのかと。


「浅間さん、その儀式が正しく行われない場合は…どうなるのです?」

「それは…分かりません。常世では深海棲艦が姿を現しましたが、現世では生死が分かれる前、神代へと戻るのか死が現し世に溢れ返るのか…。」


境界が閉じられなければ大きな災禍が現し世を襲うだろうという。
かつてない死と穢が常世を覆い禍津陽と共に夜海が広がり、黒キ陽が昇り夜海門が開いた際には深海棲艦が大量に出現、深海大戦の引き金となったという。

その言葉に二藤部の喉がカラカラに乾く、もし、もしもあの時政権を奪還出来ずにいたらもし帰属が上手くいかず島が大陸の手に落ちていたら。
島は世界はどうなっていたのかと、それを想像し背筋が凍る感覚を覚える。
二藤部は頭を振りその想像を振り払い、浅間の巫女にもしもの時のため自分たちも儀式は可能かと尋ねた。


「やめておかれた方が宜しいかと。」

「何故?」

「儀式は艦娘を巫女とし行われています。人ならぬ彼女達の代役を現世の人間が行うのは大きな代償を払うことでしょう。」


多くの艦娘は沈み、死んだ乗組員を乗せたまま現し世より常世へと辿り着いた、謂わば生と死の間を航海する存在でもあるという。
生者である人間が生死の境に立つ、そのようなことになれば生身のまま夜海へと堕ちると。


「そもそも先の大戦での敗戦、伝統を捨て去って来た今までの日本の状況で少なからず異界との境界を守る寺社や儀式も失われているでしょうから、
 境界を守る巫やその術もどれだけ残っているかどうか…。」

「その可能性もありましたか…。もしかすると…異界との境界を守る者がいない地域のある可能性も?」

「はい…。」


新たなる腹痛の種に頭を抱える二藤部。
現実に神田の『公』や讃岐の『院』、筑前の『天神』のこともある巫女の言葉を無視することは不可能だ。
これはサブカルチャーに詳しい三島や突飛な知識や発想を持つ柏木に話すべきと二藤部は思う。
もちろん事が事なのでやんごとなき方へも相談が必要だろう。


「そういえば今日の儀式に名前などはあるのでしょうか?事前に告げられなかったので疑問に思いまして…。」

「…儀式の真名は諱故に語ることを慎むべきなので島でも極一部しか知らされておりません。それ故にお伝えはしませんでした。」

「そうですか…。」

「しかし、通り名で宜しければ…、我々は"御船渡し"そう呼んでおります。」

「御船渡し…ですか…。」

「はい、艦娘という船に乗せ夜海へと渡す故にです。」


その言葉に二藤部は神前の桐の柩に眠る者達を思い出す。
そして安らかに眠りについて欲しいと願わずにはいられない。


「…彼らは、島へと流れ着いた方達は正しく渡れたのでしょうか?」

「はい、それは間違いなく…。送られた御魂は何時の日か再び水面に生を受けるでしょう…。」

566: 635 :2020/12/27(日) 22:07:46 HOST:119-171-231-231.rev.home.ne.jp
以上になります。転載はご自由にどうぞ。

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最終更新:2020年12月31日 13:41