584: 635 :2020/12/28(月) 07:14:33 HOST:119-171-231-231.rev.home.ne.jp
銀河連合日本×神崎島 ネタ 民俗学者が見た神崎島番外編 参ノ島 艦(棺)ノ娘
ヴェルデオは海の上に立っていた。
自分は常世神宮にいた筈だ。
そこで儀式が始まるとその光景を知らない筈なのに既知であるような、その場から逃れたいが逃れたくない、
そこにあるものに日本の前エルバイラのように頭を垂れたくなるような感覚を覚えた。
それが気付けば海の上だ。
その海の空は鈍色の厚い雲に覆われて薄暗く、
周囲を見回せば海面を油が覆い、何かが燃え盛る。
燃えているものそれは、海面を漂うおびただしい数の深海棲艦の残骸。
深海棲艦を知人に持つ自分であるなら顔を顰め怒りを覚えるものだが。
自分の知る深海棲艦ではないそう感じた、そしてそれは間違っていないと心の中のどこかが言う。
残骸からは怨嗟と何かへの渇望が感じられた。
そして声が聞こえた。
そちらを向けば良く知った艦娘達。
艦隊の中心には空母加賀がいた。
彼女の口が何を言っているのか分からない。
おそらくは日本語であろうがゼルクォートの翻訳機能の故障かとも思い腕に手を伸ばすがそこにゼルクォートはない。
しかし理由は分からないが加賀の口より出る言葉の意味は分かる。
そしてただただ加賀の清浄無垢な声に聞き入っていた。
『大きな山、小さな山より勢い良く流れ落ちる罪咎は速瀬に鎮まる瀬織津比賣が大海原へ運んで下さいます』
海域を暖かな光が覆う
『大海原へでた罪咎は渦潮の荒々しい潮の流れの中に鎮まる速開都比賣が飲み込んで下さいます』
雲が切れ陽光が差し始め
『速開都比賣が飲み込んだ罪咎は根の国・底の国へ通じる門に鎮まる氣吹戸主が息吹で吹き払って下さいます』
深海棲艦の残骸から光の粒が溢れ出る
『息吹で吹き払われた罪咎は根の国・底の国に鎮まる速佐須良比賣が持ち去り失って下さいます』
いつの間にか海面の油も火も、そして全ての深海棲艦の残骸さえも消え
『こうして失われれば全ての罪咎はなく』
自分の知る深海棲艦達が姿を現し
『全ての罪咎を祓い給え清め給えという願いを天津神と国津神、八百万の神に聞いて頂くことを願い申し上げます』
見上げれば何処までも青い空と海が広がっていた
585: 635 :2020/12/28(月) 07:16:13 HOST:119-171-231-231.rev.home.ne.jp
ヴェルデオの前にはそれは豪勢な料理と酒が出されていたが手を付けてはいなかった。
常世神宮で行われた儀式について考えてそれどころではなかったのだ。
視界の全てが白黒へと変わり、儀式の場に居る筈であるのにその儀式を遠く、通信状態の悪いゼルモニターの向こう側で見ているような。
全く知らないのに知っている景色であるような、そこから離れたいのにその場で自然と頭を垂れたくなる、そんな不思議な感覚であった
そして夢のようなあの景色、あれはなんだったのであろうか?
ヴェルデオはそれを異常と感じたがトーラルシステムはそうではなかった。
光学的、化学的、空間的、重力的にヴェルデオが身につけていたゼルクォートは元より他者のゼルクォート、
持ち込まれたトーラルシステムの観測機器ですら正常値を示していた。
トーラルシステムはそこでは何も起らなかったと断じたのだ。
しかしヴェルデオの感性がそれを否定する。
あの感覚は間違いなく現実であったと、しかし最も信頼すべきトーラルシステムがそれを否定する。
何ともいえないジレンマにヴェルデオが陥っているとヴェルデオに声を掛ける人物が一人。
「酒に手もつけずどうしたヴェルデオ?」
ヴェルデオが声の方を向けば一人の初老の男性、米田一基がいた。
いや実際は初老ではない、妖精の一人だ。
生前、言ってもいいのか分からないかつて皇帝を抱いていた頃のロシア国と戦争をしたこともあるとされる人物だ。
ヤルバーンにも彼を慕う人物は多い
ヴェルデオも防衛会議で会う機会が多く決して知らぬ人物ではない。むしろ友人と言ってもよい。
「ファーダ中将か、常世神宮での儀式について少しな…。」
「ヴェルデオ、俺とお前の中じゃねえか閣下なんて言葉は止してくれ。」
「すまないイッキ、出来れば私の愚痴を聞いてくれないか?」
何か罪を告白する罪人のような顔をヴェルデオは見せた。
宿泊所の離れにて二人きりとなったヴェルデオは儀式を終え心の底に溜まったものを吐き出した。
今まで経験したことない自分の五感や身体が自分のものではない感覚
知らないもの全てが知るものに見え、その場から離れたいのに離れたくない、
そこには何もいないのにまるで島の先代エルバイラを前にしたかのような頭を垂れたくなる感覚。
そしてあの白昼夢、しかしそれらの感覚をなかったものとして扱うトーラルシステム。
米田は黙ってヴェルデオの独白を聞いていた。
「ククク…。」
「イッキ、何が可笑しい…!」
突然笑い出した米田に若干怒気を孕んだ声で問い詰める。
「いやはやすまない。異星人も呼ばれる上に畏敬の念というものを持つものだと思ってな。」
「イケイのネン?」
「いと尊きものを畏れ敬うこと、人が大昔からやってきたことさ。まあ日本でも廃れてつつあるがな。」
「創造主をか…?」
「人だけじゃない、神奈備、神籬、磐座。自然物やその地域一帯、人工物ですら畏敬の対象となりうる。まあある種発達過程文明の証拠みたいなものだ。」
「発達過程文明の証拠…。」
「それにあの場はある種の神域と化していたからな。」
畏敬の念を持つのも仕方あるまいと米田は言う
ヴェルデオは米田の言葉を反芻する。
自分たちが持ち得なかった感覚、それは自分達が発達過程を取り戻しつつある証拠ではないだろうか、そんな考えがヴェルデオの内に浮かぶ。
そんなヴェルデオの心の内を知ってか知らずか中将は話を続ける。
586: 635 :2020/12/28(月) 07:18:11 HOST:119-171-231-231.rev.home.ne.jp
「そうそう畏敬の念といえばな神崎島じゃあ島の人間達に艦娘も畏敬の念を持たれてるぜ。」
「…艦の創造主、フナダマサマだからか?」
米田は違う違うと手を振る。
「その在り様故にだ。なあヴェルデオ、艦娘、艦の娘(カンノムスメ)という存在が島に現れたのは元寇の頃、八百年も前の鎌倉時代の話だ。
その頃はまだ艦と書いていくさぶねと読む方が多かった時代だ。
艦これなんてゲームが出たのもここ何年かだろ?それなのにカンノムスメという言葉が存在する、おかしくは感じないか?」
元寇よりもさらに昔、既にカンノムスメは存在したと言う。
それは現代で知られる艦(カン)の娘、即ち艦娘ではない、常世神宮に仕える唯の人間であった巫女達の一部の呼び名であった。
生と死の境に立ちその生命を持って境界を鎮める者。
死せる魂が再び水面に生まれ出る為に死者を慰めけ夜海へ送るため己を死者の魂と穢れの棺とする者。
棺(ひつぎ)の娘、即ちカンノムスメである。
そして幽世と常世を隔つ神崎島でいう夜海の門、夜海門大神の封印を維持するために死者の魂と穢を抱いた多くの巫女が水底、
夜海へと堕ち封印の礎となった。
境界の封印は多くの巫女の犠牲によって維持されていたのである。
しかしそれが破綻する時が来てしまった。
元寇
島へ溢れかえった死、それは常世神宮とて例外ではなかった。
多くの神官や巫女達が犠牲となり、死と穢が島を覆った。
さらに死と穢れにより弱まった夜海門之大神の封印、されど封印を維持する巫女の多くは犠牲となり、残った者達も少ない死者を夜海へ送るのが精一杯であった。
その時一人の娘が進み出た。
当時島へと出現し始めてた船の魂を持つ娘であった。
娘は言う。
『この身は水底に沈み生死の境を渡り常世へと辿り着いた身、人を乗せて航海するのが船の役目なればこの身を死者を夜海へと渡す船して、
またこの身を楔として夜海門を閉じましょう』
そして娘は同様に船の魂を持つ娘達と共にその身が沈んでしまう程多くの死と穢を乗せて、夜海への航海へと旅立った。
例え乗せすぎた死と穢により、その航海が二度と帰れぬものと知っていても。
斯くして船の魂を持つ娘達が柱となり境界は閉じられ、島に平穏が戻った。
そして島の者は船の魂を持つ娘達に感謝を捧げ、境界を守る巫女"棺の娘"のとして崇め奉った。
「その後棺の娘は短くなり棺娘(かんむす)と呼ばれるようになり現代では軍艦の娘の字が当てられてるという訳だ。
今では本当かどうか確かめる術もない古い古い話だがな…」
587: 635 :2020/12/28(月) 07:20:36 HOST:119-171-231-231.rev.home.ne.jp
米田の言葉にヴェルデオは何故艦娘が畏敬の念を持たれいているのか、遺族の涙の意味がが心のなかにすとんと入った。
艦娘が死んだ自分の愛する者達を次の因果へと正しく導いてくれるからだ。
イゼイラでは人は死ぬと次の因果へと渡り別の自分と一つになるとされている。
それが日本でいう輪廻転生と同一であるならば、正しく次の因果へと導いてくれる存在は敬われるだろう。
されどその存在は人智の及ばぬ人ならぬ創造主とも言えるもの、畏れを抱くのも仕方あるまい。
日本人はそれを感覚的に理解出来る感覚を"まだ"持ち合わせているのだろう。
それは生き残る為の合理化の果てトーラルという圧倒的な科学を受け入れた為にイゼイラ人が失ったもの。
そして一人のイゼイラ人として浮かんだ考えが一つ。
「ヨネダ、ちょっと聞きたいのだが…。」
「うん?」
「私達異星人も艦娘に正しく送られれば再び水面に生を受けることは出来るのだろうか…?
艦娘に看取られれば私と妻も同じ水面に生まれられるのだろうか…?」
ある種願いにも近い言葉、米田は腕を組み唸った。
「あー、絶対とは言えないが、日本じゃ夫婦は二世と言われてるから、多分夫婦でなら来世も同じ所に生まれるんじゃないか?」
「そうか…、ならば一人のイゼイラ人としての仕事を終えた後は神崎島の人間になって妻と一緒に神崎島に住んで一生を終えたいな…。」
「下手すりゃ妖精になり、永遠の時を過ごすことになるかもしれんぞ?」
「愛する者と永遠を過ごせるものならどれだけ苦痛だとしてもイゼイラ人ならば皆願ったり叶ったりだよ。」
ヴェルデオは笑った。
588: 635 :2020/12/28(月) 07:21:22 HOST:119-171-231-231.rev.home.ne.jp
以上になります。転載はご自由にどうぞ。
589: 635スマホ :2020/12/28(月) 07:36:53 HOST:119-171-231-231.rev.home.ne.jp
ちなみに水底に沈み人柱となった巫女は神崎島のある神社で幽婚をすることでその力をが増して境界の封印が強化されます。
所謂レベルキャップが外れるようなものです。
最終更新:2020年12月31日 13:42