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銀河連合日本×神崎島 ネタ 民俗学者が見た神崎島番外編 四ノ島 彼岸舟
常世神宮にいた筈の柏木は赤い海を彷徨っていた。
血のように朱い夕陽で血色に染まり幾つもの人影が夕陽を見上げ佇むそんな海の上に柏木はいた。
その人影を他所に沈む夕日を背に遥か遠くに見える白く輝く太陽を天に頂く青い海を目指す青白い肌をした無数のヒトガタ達
その中には柏木が見たことのある姿も見受けられた。
声を掛けても返事はない、能面の様な表情をしたそれら、感情もなく柏木の存在も感知していないような様子で去っていく。
ここが何処か分からず途方に暮れる柏木であったが、
血のような夕陽の彼方、昏い昏い夜の海でナニかが自分を呼んでいた。
それは母の声の様な優しくも恐ろしい声。
その声に導かれ人間である筈の柏木が艦娘の様に海の上を行く、しかしその姿は夢遊病者ようであった。
幾人ものヒトガタとすれ違うが柏木もヒトガタ達も互いに気にすることはない。
黒い光の柱、海に口を開けた漆黒の穴、そこから多くのヒトガタが姿を現す。
その先、柏木が辿り着いたのは広がる紅い紅い血のような彼岸花の咲く花畑。
佇むのは深海棲艦の様な女、その身体は朽ち、よく知る深海海月姫の様にいやそれ以上に爛れている。
女がこちらを向く。
柏木は女が纏う濃密な死の気配に鳥肌が立つ。
突然の足元に柔らかな感触を感じ我に帰る。
柏木の側には一体のくちくいきゅうがいた。
そしていつのまにか死の気配を持つ女は姿を消していた。
くちくいきゅうはこっちへ来いとでも言うように歩みを始めた。
戸惑いながらも柏木はくちくいきゅうに着いていく。
その先には葦で編まれた舟が一つ、くちくいきゅうは柏木にそれに乗れと促す。
戸惑いながらも乗り込むと舟は一人でに動き始め、柏木は意識を失った。
「…ン、マサトサン!」
妻の呼ぶ声に気づけば柏木は常世神宮にいた。
649: 635 :2020/12/30(水) 21:27:08 HOST:119-171-231-231.rev.home.ne.jp
「こうしてその姿で直に話すのも久方振りだが、世界を越えてもなおその姿は解けないのだね…。」
「はい、ただの毒物が原因であった筈なのですが、なぜ世界を超えてもこの姿のままなのか…。」
「最早あの平成の世の民達のその姿への信仰とも言うべきものがかくあれと定義してるとしか思えないな。」
「私は英霊で無辜の怪物の類かなんかですか!?」
「元伝説の宰相で彼岸の存在でもあるのだからあながち外れてもいないのでは?」
柏木は彼の方と会話をする深海棲艦を見つめる。
深海棲艦に多く見られる白に近い髪に磁器のような白い肌、そしてFlagship級などの高位深海棲艦に見られる金色の瞳。
ここまで見れば通常の深海棲艦であるのだが…。
磯風ボイスな深海棲艦、というか深海棲艦の提督であった深海磨鎖鬼。
伝説上や歴史上の人物が登場する創作作品があるのだが、容姿がその作品上のやがて来たる王の一側面に似ていた為、
世間というか世界的に騒がれている人物である。
ついでにこの話を聞きつけた英国が情報提供と共に大英帝国の家長と深海提督との会談を神崎島へ打診していた。
その上「家(国)の英雄は神崎島に実装されているのか!?」と世界各国からの問い合わせが外務省に殺到していた。実装言うなし。
そのために外務省は「俺たちはFG○運営じゃねえ!」と叫びつつてんてこ舞いであると白木は愚痴っていたことを柏木は思い出した。
そして思うあの白昼夢の女性は彼女と同じ深海棲艦なのかと、深海棲艦とはなんなのかと。
彼の方が席を立ち、深海提督がモキュモキュと擬音が出そうな勢いでヤケ食いを始めて暫くし、
柏木は深海提督の元へ行った。
「ふむ、我々の存在は何かか…。なかなかに難しい質問だな。」
深海の提督は顎をさすった。
柏木は目の前の人物がやはりやがて来たる王やその側面とは違う人物だと感じるがやはり姿を重ねてしまう。
「難しい質問なのですか?」
「逆に聞くが、君は日本人とは何か、人間とは何か答えられるかね?」
柏木は答えに窮した。
その様子に深海の提督は愉快そうに笑った。
「そうそれが普通だ。自分や自分の民族、国民、人種、種族についての定義など星の数程存在するものだ。
我々はかつての大戦の死者の怨念かもしれない、人が戦場に置き去りにした後悔や無念かもしれない。
あるいは誰かの見た夢かはたまた独逸の言うセイレーン(海の魔女)なかも知れない。
ああ、大陸の言うKAN-SENとやらと戦う方との可能性もあったな。」
650: 635 :2020/12/30(水) 21:29:12 HOST:119-171-231-231.rev.home.ne.jp
柏木には熱に浮かされたかのように言葉を発するその姿は国民を動かす政治家(デマゴーグ)にも見えた。
熱を収めた彼女は意地悪そうに笑いながら柏木に問うた。
「さて参考までに君の意見を貰えるかね?我々深海棲艦は日本人である君にどう映るのか?」
艦娘の対存在、沈んだ軍艦の怨念或いは荒御魂、旧日本軍の亡霊。
ネットなどで噂される話の数々。
それも一側面であるだろう、しかし柏木には別の考えがあった。
美術史の一貫として様々な異界を学んだ者として、あの夢の光景を見た一人の日本人としての考え。
彼女らが来るは永久に逢魔が時の如き夕陽沈まぬ真紅に染まる海
彼女らが治めるは何人の生命も寄せ付けぬ死の海域
彼女らが出づるは深く昏き海の底
その最奥は鬼や姫が坐すは黒キ陽が登る、紅い紅い彼岸花の咲く暗黒の妖域
罪過の流れ着く地、悪霊邪鬼の根源、妣の国、即ち豊葦原千五百秋瑞穂国の太母の鎮まる道反之大神の向こう側、
黄泉の国の軍勢黄泉軍の舟、彼岸の舟ではないかと。
「そうかそうか、君にとって我々は亡者であると……。」
「………(汗)」
深海の提督の身体からナニかが溢れ出る。
その様子に柏木は冷や汗を流す。
「ククク、そのように緊張しなくても良い。ただ聞いてみたかっただけだ。」
柏木の様子を見て深海の提督は相好を崩した。少し脅かしただけだと。
柏木はほっと息を吐く。
「まあ我々がなんであるかはどうでもいいことだ。我々は我々なのだから。
しかしそこらは興味本位で突っ込んで余り良いことはない。それだけは覚えておきたまえ?」
深海の提督はニヤリと笑った。
そして柏木はあの死の匂いを纏う女について問う。
それを聞いた深海の提督はしばし瞑目し、ゆっくりと目を開くと言葉を出したその存在のことは忘れろ、と。
その真剣な表情に柏木はコクコクと何度も頷くしかなかった。
そして深海の提督は懐より小さなお守りのような物を取り出すと柏木に渡す。
「これは?」
「私がこの姿になった時にいつの間にか側にあった剣の鞘、その一部だ。
現在は私という深海棲艦の一部でもある。まあ気休めにしかならないが穢や夜海を退ける程度の効果はあるだろう。」
それは程度というレベルの効果と物じゃないと柏木は顔を引き攣らせた。
651: 635 :2020/12/30(水) 21:30:02 HOST:119-171-231-231.rev.home.ne.jp
以上になります。転載はご自由にどうぞ。
最終更新:2020年12月31日 13:44