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銀河連合日本×神崎島 ネタ 民俗学者が見た神崎島番外編 伍ノ島 妖ト精(アヤカシトモノノケ)
『艦が傾く…!』
『おい!何処へでもいい捕まれええっ!』
『大尉ぃ!昇降機の穴に人が!人がっ!!』
人が黒い穴に飲み込まれ
『空襲だ!早く防空壕へ!』
『かあちゃ、っあがっ!?』
『坊や?坊や!?イヤァァァァっ!!』
子供が母の前で空から降り注ぐ火の槍に貫かれ
『母ちゃん達の所に兄ちゃんが送ってやるからな…。』
『………。』
『黒い雨、やまないな…。』
赤子を背負う童を黒い雨が打つ
「!ハアハア。」
「ン…?ダーリンドウシタ…?」
「…なんでもない、夢見が悪かっただけだ…。」
「ン、ジャア、私ハ寝ルゾ…。」
「ああ、おやすみ…。」
「オヤスミィ…。」
「どんな夢みてたんだろな俺…。」
神崎島の夏、8月に入り蝉時雨は勢いを増し真っ青な空には巨大な入道雲が立ち上る。
辺勢田市の小さな集落の古い社、鎮守の杜の敷地にある社務所でもある民家その縁側にツナギを着た多川が座り本を読んでいる。
『柏木!この蛇でかいぞ!』
『柏木大臣どうにかして!俺蛇駄目なんすよ!』
『白木手ぇ離せ!こっち来んな!』
社が鎮まる鎮守の杜近くの青々とした稲穂が揺れる水田からはギャーギャーといい年した男達の童の様な楽しげな声が聞こえる
古い夏の日本の原風景を思い出させる光景"神々が恋した"そんな言葉が付くこともある景色である。
「シンちゃんご苦労様。すまないねえ祭りの準備手伝ってもらって。」
「ああ、洩岩のばあちゃん。俺らも好きでやってることだから。」
男性は本から顔を上げ、声を掛けた人物に顔を向ける。
たっぷり氷を浮かべた涼し気な麦茶の入った器をお盆に乗せたばあちゃんという言葉が似合わぬ金髪のショートボブの童女がそこにいいた。
多川は妖精でもある童女の実際の年齢は知らない。
しかし故郷の祖母、実にそんな言葉が似合いそうな雰囲気の人物である。
普段は洩岩神社で神社の宮司をしており神事で他所に出向く際は市女笠に青と白を基調とした壺装束を纏う。
そんな神職でもある彼女の市女笠を神主帽と呼ぶ者もいるとかなんとか。
670: 635 :2020/12/31(木) 07:21:25 HOST:119-171-231-231.rev.home.ne.jp
「でも洩岩の御山の方はいいんですか?」
「ああ、あっちはあの子達がいるさね。本来こっちみたいな小さな社が本業だよ。」
なんでもないように手をヒラヒラと振るばあちゃんと呼ばれる童女、
全員外見年齢が七歳未満とはいえ戦前に生まれの方達を子供扱いとは本当に何歳なのであろうかと多川は考える。
「そういやシンちゃんは里の祭は初めてだったね。」
「ええ…。」
「そいじゃ今度一緒に浅間さん所まで神事の忌火もらいに行くかい?」
童女はケロケロ、いやケラケラと笑いながら言う。
フロム脳な患者やカワミン成分保持者より熱い視線向けられる浅間神社と
一部のホラゲーシリーズ愛好家から日上山とか呼ばれる洩岩高地、多川は嫁と嫁の友人2名の会話を思い出した。
『太陽をタタエヨ!』例のY字ポーズ
『射影機ヲ作ラナクテハ。零式フィルムモ必要ダナ。デ麻生博士ハ何処ダ?』
「そういや何を読んでるんだい?」
「ああこれですか?」
多川は『民間傅承』と書かれた本の表紙を童女に見せた。
「この本、艦娘さんや島についての伝承について調べたことが載ってましてね。俺も島に関わりが深いですから少し勉強しようと思いましてね。」
「ほおー勉強熱心なことだねえ。」
童女は関心、関心と言い、まるで祖母に褒められたように感じ多川は照れくさげに頭を掻いた。
そして童女は多川から本を受け取りパラパラと捲る。
「ああ、この娘らのことかい…。」
「ええ、島にもこんな悲しい歴史があったんですね…。」
「「……。」」
二人の間を涼やかな風が通り過ぎる。
「シンちゃん、その話の続きに興味あるかい?」
「…それは…。」
「語ってあげようか、その話の続きを…。」
671: 635 :2020/12/31(木) 07:22:03 HOST:119-171-231-231.rev.home.ne.jp
艦娘、御船さんが島に現れる前、おんなじお役目したその巫女さん達はね。シンちゃん達と同じ唯の人だったんだよ
でもそのお役目は巫女さんとはいえ人には重すぎたんだよ
大層な量の死や穢を抱え込んだ巫女さんは自分が夜海濡れして世に災い振りまく前に夜海の門に堕ちて楔となり封印の礎となっていた
それこそ数え切れない程の命を犠牲に門は閉じられてたという話さ
そんで大昔に支那の軍勢が島を襲った時があってね
そん時に島でも大勢の人が犠牲になって島中を死と穢が覆って門が開きかけてしまったそうだ
支那の狼藉で常世神宮でも巫女さんが大勢亡くなられてなあ
生き残った巫女さん達も少ない死者を送りるのが精々だったそうだ
それこそ夜海の門を閉じることなぞ出来る筈もないわな
そんな時にな御船さんが名乗り出たそうだ
自分達は船だから大勢の魂や死も穢も運べるから自分達が夜海へ運ぶと
人を運ぶのが自分達の役目だからとおっしゃってな
多分ただの人だった巫女さんが人柱になっていくのが忍び難かったんだろう
それで御船さんは自分が沈んでしまうぐらい多くの死者の魂、死や穢を載せて夜海路へと旅立った
御船さん自身がもう島へ戻れぬ旅路だと知っていてもな
そして御船さんが死と穢を島から持ち去り、自身が柱となることで夜海の門は閉じられたそうだ
それから民と巫女さんらはな御船さんの思いに感謝して巫女の呼び名を御船さん達に贈ってな
以降島に現れる御船さんはその時の御船さんと同じ名前で呼ばれるようになったそれがカンムス
そしてそのお役目を代々引き継いでいるんだよ
御魂を夜海へ渡し、穢と死を流しし、夜海を鎮め、夜海門を閉じる
全ては御魂が水面に生まれ変わるため
今では御船さんも大きくなったから沈むことはなくなったそうだがね
「まあ、こんな話さね。」
「艦娘さんも犠牲になっていたんですか…。」
大勢の島の巫女の犠牲により夜海の門は守られてきた。
しかしながらそれを破綻させてしまったのは現世の人間であったことに嘆きを感じざるを得なかった。
そしてそれを再び閉ざしたのは艦娘の命であった。
「ん?」
多川は魚の小骨が喉の奥に引っかかてるような感覚を覚えた。
「ひーここまで来れば追ってこないだろ!」
多川がそんなことを考えていれば、蛇を持った人物から逃げてきたアイドル兼業農家の男が庭先に走って入ってきた。
全力疾走したせいか息も絶え絶えだ。
「お、多川さん!麦茶じゃん。ちょっとくれよ。」
目敏く麦茶を見つけると多川がまだ手を付けていない麦茶を一気に飲み干した。
「プハー!生き返るはコレ!誰入れたのコレ?」
「私だよ。」
「ばあちゃんが?流石ばあちゃん。」
そして二人は会話を初めた。
672: 635 :2020/12/31(木) 07:22:58 HOST:119-171-231-231.rev.home.ne.jp
「多川さんと二人して何してたのよ。」
「この本の内容についてだよ。」
「あああーあー、赤い海とかの、俺も漁港のおっちゃんに禍津陽に照らされた大禍時の夜海ノ海には出るなって言われたっけ。」
「!!!」
そうだ、夜海ノ海は"未だに"存在するのだ。
かつて古き艦娘の犠牲により夜海門は閉じられた筈、しかし未だに夜海ノ海はそこにあるのだ。
『?!!』
「やべ!あいつらこっち来る!ばあちゃん、俺がここにいた事言わないでくれよ!!」
「はいはい、さっさとお行き。」
男は走り去って行った。
「洩、「何で夜海門が開いたのかかい?」、 !?」
「そしてなぜ未だに夜海ノ海が鎮まらないのか…かな?」
「どうして…。」
多川の言葉を予想していたかのような童女の言葉に多川はたじろいだ。
童女は多川の顔を覗きこむ。
覗き込む童女の蛇の様に無機質な瞳に映る自分の姿、何時もと変わらぬ筈なのに蛇に睨まれた蛙の様に動けなくなる。
「祀ろわぬ死と穢が多い程に夜海門は簡単に開くものさ。」
「そしてそれらは未だに生まれ続けてる。ある学者の話だと現在戦火で死んでるのは毎年十五万だったかな?」
「それにねえ、七十年以上の昔、昭和の御代に日ノ本の國で起きた惨禍は子供でも知っているだろう?」
童女の言葉で思い出したのかのように多川の脳裏に思い浮かぶは島に来て見た悪夢。
見知らぬ誰かを襲う惨禍、傾く艦の黒い穴に飲まれ、空から落ちる火の槍に生きたまま貫かれ、黒い雨に侵される。
今日まで何故忘れていたのだろう。
ソレが門を開いたのか、そして今なお生まれ続けるモノが開き続けているのか…。
「恨み辛みを持って逝ったやつはやられた事を永劫に忘れられることはないんだよ。いや、忘れることを許されないんだよ。」
「何処までも何処までも生者を引きずり込もうと同じ目に合わせようとするのさ。」
「恨み辛みを残して逝った者達は何処へ流れ去ったのか。」
「酷い後悔を残して死んだやつも同じようなもんさ、引きずり込まないだけマシだけどね…。」
彼らは人に害為す鬼(モノノケ)に成り果てたと言う童女。
そう話す童女の表情は文字通りの能面、島の月蝕の面にすら似ている。
「元寇の時、島で門が開きかけた時ですら多分万を超えることはなかった。」
「それがこの國だけでも三百万柱以上、世界規模ならば数千万は下らない。」
「どれだけの祀ろわぬ死と穢が常世に流れ着いたと思う?」
「それだけのものが溢れ返ればどうなるか…。」
675: 635 :2020/12/31(木) 07:32:46 HOST:119-171-231-231.rev.home.ne.jp
最後の部分一部追加し修正
童女はケタケタと嗤う。
「それらは時間の流れの違う常世ですら気が遠くなる程の歳月を掛け、
艦娘達がかつての大戦の写し鏡を覆し流離い続け罪という罪は払われ鎮められた。」
「そして深海棲艦は鎮まり、怨念に雁字搦めにされてた艦娘は助け出され、
そしてあの子達は人ならざる者(あやかし)になり果てながらも私の元に帰ってきた。」
「でもそれら全て鎮められただけなんだよ…。和御魂と荒御魂は表裏一体、いつ何時反転するのか…。」
「なーんてね。」
今までの姿が幻のように童女は何時もの穏やか笑みへと戻り多川に背を向けた。
童女の荒ぶるものの両面の様な表情を見て多川の背には冷たい油汗が流れていた。
それでもと多川は思う童女が語る者達に対し自分は何が出来るかと。
童女はそんな多川の方を振り返る。
その顔は泣き出しそうな、嬉しそうな、誇らしげなそんな表情をしていた。
「この國は平和だと、この國で自分達は泰平の世を生きていると誇りなさい。それが彼らの願いだったのだから。」
「子に孫に語り継ぎ、伝えていきなさい。忘れられてしまうことこそ私達にとって本当の意味での死なのだから…。」
童女はまるで多川の心を読んだ様に優しく言った。
674: 635 :2020/12/31(木) 07:26:47 HOST:119-171-231-231.rev.home.ne.jp
以上になります。転載はご自由にどうぞ。
なんか電波が降りて来ました。何故だ?(´・ω・`)
最終更新:2020年12月31日 13:46