211: 弥次郎 :2021/01/09(土) 11:36:22 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp

憂鬱SRW 未来編鉄血世界SS「永遠の平行線」




 短い期間でまた訪れた火星。以前より増えた軍事衛星や艦艇の数々に白目をむきながらも、ガエリオとマクギリスの二人は火星支部の基地「アーレス」に到着した。
 火星支部長の歓迎をそこそこに受けつつも、彼らは本来の仕事に向かう。つまり、謝罪行脚だ。
 火星連合及び企業連合、さらには地球連合に対し、アリアンロッド艦隊の一部が則に背いて行動を起こしたことの謝罪行脚に明け暮れていた。
 その際の視線の冷たさ、鋭さ、扱いの悪さは言うまでもなかった。無論、無体な扱いを受けたということではない。
礼儀は守られているし、武器を突き付けられているわけでもない。だが、そうでなくともギャラルホルンの一員ということで居心地は悪い。
 それは二人にとっては想定されたことであった。とはいえ、こうまで張りつめた敵意を向けられていると流石に堪える。

「なあ、マクギリス。この状態はいつまで続くんだ?」

 早くも仕事を投げ出したくなったガエリオ。それはマクギリスも同じであった。

「……統制局とアリアンロッド艦隊司令部からは、一応の妥協を取り付けろということになっている。それが得られるまで、だな」
「不可能に決まっているだろ、それは」

 クリュセに設置されている火星連合の行政府の控室にいる二人は、その事実にそろってため息をつく。
確かに命令としては受諾した。だが、その実現は望めそうにない。それが二人の共通認識だった。
 無理もない話だ。護衛戦力によって撃退されたとはいえ、火星連合の代表であるクーデリア・藍那・バーンスタインが命を落としたかもしれなかったのだ。
もしそうなれば、火星連合と地球圏は完全な全面戦争に突入していたであろうし、独立を果たした火星連合も四散分裂していた可能性が高い。
 百歩譲ってアリアンロッド艦隊がクーデリアの身柄を抑えようとしたことが業務の一部であるとしても、それが私情故とわかれば許せないだろう。
曲がりなりにもギャラルホルンが最低限の治安維持を行っていたのだし、それが最悪のラインを超えるような治安崩壊を防いでいたのは確か。
火星連合として独立したとはいえ、ギャラルホルンが即座に敵だ、という認識になることはなかっただろう。それはぶち壊しにされたが。
 そんな中においてギャラルホルンのことを信用できるか、と言われて友好的に接してくる人間がいたら奇跡のようなものだ。

「ああ、実質不可能だろう。だが、経済圏からも突き上げを受けている以上、統制局も何らかの落としどころを得なければならない。
 本来なら首謀者を極刑に処すところであるが…」
「セブンスターズのクジャン家次期当主が首謀者故に手出しができない、か」

 マクギリスはうなずいた。
 そう、クジャン家の次期当主であるイオク・クジャンが実行犯にして首謀者であり、元凶であったのが問題であった。
経済圏の政治的問題に介入したとも言えなくもないので極刑かセブンスターズからの除籍さえも検討されるレベルである。
だが、ギャラルホルンにおいて重すぎる価値を持つセブンスターズ故に、拳を振り下ろしにくいことも確かであった。
明確な政治的介入とはいいがたく、しかして私情で規則を破って武力を用いた。されどギャラルホルンの業務から逸脱しているかは微妙。
そんな複雑な事情ではあるため、この程度の問題で除籍というところまで判断を下してよいか、という問題があった。
 さらには、ぽっと出の火星連合にしこたま叩きのめされ、言いなりになったなどという悪評が発生するのも避けたいという助平心もあった。
 故にこそ、宙ぶらりんとなってしまっていたのであった。

212: 弥次郎 :2021/01/09(土) 11:37:07 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp


 一応、落としどころになるものはあった。イオク・クジャンがいるからこそできる、極めて単純なモノが。

「せめて本人が謝罪をして、反省の態度を形でも示してくれればよかったのだがな…」
「それはないだろう、あんな態度なのだしな」
「言ってくれるな、ガエリオ。私とてわかっている…」

 マクギリスは呻く。そう、最悪、それさえしてくれれば火星連合も納得を得られるのでは、という期待があったのだ。
 過去形であるから察せられるが、そのイオク・クジャンは拒否したのだ。後見人たるラスタル・エリオンの声にも頑として首を縦に振らず、事態が膠着していた。
ラスタル本人が代わりにということも検討されはしたが、当人がギャラルホルン内の政争もあって出向いてこられない状況に陥っていた。
火星連合の樹立の件やイオクのやらかしの政治的な後始末はギャラルホルン内部でも行われており、直接出向いて誠意を見せねばならない状況で二律背反であった。

 そして、そんな膠着した事態に陥ったところで二人が火星に到着した、というわけである。
二人も一応イオクと面談し、説得を試みたが梨の礫。会話が成立していたかも怪しい有様だった。
 「火星連合が悪い」「ラスタルのために行動したのだから正義なのだ」「火星連合に卑怯な策をとられ部下が死んだ」などと叫ぶばかり。
こちらの言葉を受け付けてくれず、とにかく我儘を叫び続け、なぜ火星連合に正義の鉄槌を下さないのだとこちらをののしる始末。
 そういう傾向がある、と知らなかったわけではない。だが、ここまでひどいとは思いもよらなかったのが二人の正直な感想である。
さらに言えば、こんなのがセブンスターズの次期当主かと思うと先が思いやられてしまう。
 本音を言えば、イオクのことなど捨て置いて帰りたい。ここは二人の意見が一致しているところだった。
 だが、宮仕えにそれが許されるはずもない。ガエリオとマクギリスの二人はイオクの身柄の引き受けも任されている。

 しかし、こんなことは猿でもわかるだろうが、今のイオクが自由になったら何をすらかは明白だ。
即座に火星連合への報復を叫んで、セブンスターズの権力を使ってでも戦力を集め、火星に攻め込むだろう。
方々に迷惑をかけ、多くの艦艇やMSを失い、経済圏からの信頼さえも損ねても懲りることなく、勝てない相手に挑む。馬鹿だ。
もう、やっていられないのだ。心情的にも道理を考えても火星連合が正しく、イオクの行動は目に余る。
火星連合が身柄の引き渡しを渋るのもわからなくもない。今回はバーンスタイン代表が狙われたが、次は無辜の民が狙われかねない。
所かまわず噛みついて回る狂犬の手綱と口枷を外すなど、早々にやらないだろう。
 正直、自分たちがやってきて頭を下げて回ってもどうにもならないし、もし解決してもより悪い事象が発生するのは明らか。
火星連合も地球連合も、謝罪を受け入れてはくれるが「部外者に謝罪されても困る」「厳格な処罰を求める」と遠回しに言ってくるのだし。

「火星連合の懸念もわかるし、俺が同じ立場なら同じことを言っただろうな」
「だが、そこを何とかしろと上層部は命じている。しかも、なんとしてもやれとな」

 正直、無茶を命じられている。
 そして、その無茶を押し通すためにもあらゆる交渉材料が提示されていた。賠償金と身代金の支払い、新造されたエイハブリアクターの譲与などだ。
交渉役を任されている二人は当然のこととしてそれを知らされていたし、約束手形までも渡されていた。

「確かに交渉カードとしては悪くはないだろう。だが、火星連合が欲しているのそんなものではない」
「誠意と謝罪、それだな」
「再発防止策も制定して防ぐこともだ。これに関しては私も賛成だが……ギャラルホルンの制度や慣例上、難しいのが実情だな」

213: 弥次郎 :2021/01/09(土) 11:39:45 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp

 そう、ギャラルホルンは純軍事組織であり警察組織である一方で、セブンスターズやそれに連なる貴族階級が存在する一種の封建制だ。
今回のようなイオク・クジャンの暴走を防ぐ方法は、同格であるセブンスターズによる相互監視というモノがあるにはある。
しかし、それは残念ながら火星連合らが求める強制力を伴うものではない。
 統制局や監査局といった組織としてのコントロールを担う部署なども存在するが…セブンスターズに対しての拘束力や強制力には疑問が付く。
そのセブンスターズの一員である二人であり特権について理解しているからこそそう断言できてしまうし、火星連合に一理あると理解できてしまう。

「……LCSで本部にはこのことは伝えてあるんだよな?」
「ああ。だが、何とかせよの一点張りだ」

 それはつまり、上層部やセブンスターズも、火星連合の要求をかなえられないと理解していることを示す。
 いったい何をどうやって何とかしろというのか。相手はごり押しも圧力も通用しない相手なのだというのに。


「はぁ……」
「帰りたい……」

 思わず本音が漏れる。
 ここ数日謝罪行脚を続けているが、収穫はほぼ0だ。状況は何ら変化していない。
 一応ラスタル・エリオンの召喚も具申はしているが、却下されることは目に見えている。
 火星連合の事情も心情もわかるし、ギャラルホルンの事情も分かる。それゆえに、どうにも解決できない。
 だが、役目を果たさねばならない。重い足を引きずり、二人は次なる面会に向かうことにしたのであった。






 そして、彼らの陥っていた硬直状態が解決されるのはさらに数日後、ドルト動乱を経て、火星連合と経済圏が戦争状態に入ってからであった。
 当然のことであるが、ギャラルホルンの立場は経済圏側にあり、セブンスターズの継子3人が敵中で孤立に近い状態になった。
 だが、CGS襲撃の件から走り回り事態の収拾を図って、火星連合や企業連との折衝に奔走したガエリオとマクギリスの二人に免じて、イオクらは解放されたのだ。
マクギリスが物理的に、あるいは主に拳と身体能力によってイオクの頭を下げさせたのも影響しているのかもしれない。
 また、火星圏を離脱するまでの停戦を確約、捕虜となった兵士たちを地球圏へと帰らせることに成功した。
ただし、一度きりの停戦というか紳士協定に近いモノであり、すさまじい温情であったことは言うまでもない。
 それは、これから起こる全面戦争に突入する前の、最後の慈悲。そう、300年という平和の時代が終わり、戦争の幕があがるのだ。
 この時点で、火星連合やそのバックに立つ地球連合の実力を知るマクギリスとガエリオにはその戦争の帰結が見えていた。
 だが、もはや二人がどうしようもないところにまで事態は進み、ノンストップで邁進してしまうことも理解した。向かう先は絶望以外はない。
帰路に就いたハーフビーク級スレイプニルの艦内において、二人が大いにあれたことは言うまでもないことだった。

214: 弥次郎 :2021/01/09(土) 11:40:34 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
以上wiki転載はご自由に。
徐々にエンジンがあった待ってきたので、投下ペースを上げていきたいところ。
オセアニア編の前に後始末の話をあといくつか投下したいと思います。
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最終更新:2023年11月05日 15:39