672: 弥次郎 :2021/01/13(水) 23:13:08 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp

憂鬱SRW 融合惑星 蒼き鋼のアルペジオ世界編SS 「異相の熾天使」



 霧の艦隊に蔓延した「恐怖」。それは艦艇たちの動向に大きな影響を及ぼした。
 いつ飛来するともわからない赤い機体におびえ、対空監視に演算リソースをつぎ込むもの、犠牲を覚悟でピケット艦を配置するものなど様々だ。
あるいは、艦艇の装備に回すナノマテリアルを対空装備に割り振った艦艇も多い。ヤマトクラスの対空を以てしても突破されるとはいえ、それをやらざるを得ない。
そう、恐怖に対して霧の艦艇は極めて人間的な「安心」を求める行動へと出たのであった。
 あるいは、もっと臆病な、恐怖に駆られた艦艇が選んだことはもっとシンプルで、分かりやすい対処を選んだ。
 すなわち、水中航行であった。
 霧の艦艇はその外見と相反して、水上艦艇を模していても水中航行と水中での戦闘を可能としている。無論のこと弊害もある。
魚雷と超重力砲以外が実質的に使用不可能になるのだ。光学兵器は水中において減衰が著しく有効打になりにくいため。
それ以外にも、もともと水上艦の形をとっている艦艇では水中での挙動においてはやはり潜水艦に劣るところがある。
 だが、それでも選ばざるを得なかったのだ。
 赤い機体が用いていた光学兵器は特殊な粒子を用いたものであるということが解析から判明しており、その粒子ビームは大量の水に弱い、と判明したがゆえに。
超戦艦級の超重力砲と真っ向から撃ち合って相殺しきるだけの出力のそれをそう何発も打てるわけではないのはある種自明。
最後の一撃以外の射撃のデータから考えれば、一定以上の深度に潜行して水という防壁とクラインフィールドなどを合わせて十分防げると計算された。
 故にこその水中航行。そして、それは思わぬ戦果を挙げることになったのであった。



  • δ世界 日本近海 某海域



 霧の艦艇の中でも数が少ない工作艦というカテゴリーのアカシは、艦艇への補給のほか、その場においての大規模な整備能力を有している。
工作機械を詰め込んでいた大日本帝国海軍の明石を踏襲した外観に、内部にはナノマテリアルの貯蔵タンクとそれを用いたメンテナンス装置が詰め込まれているのだ。
霧の艦艇とて、メンテナンスや補給などを抜きにして活動し続けることはかなわない。自前で整備する能力があるとはいえ、やはり専門の艦艇には劣る。
 そして、そのアカシは護衛の艦艇に囲まれて指定された海域に到着していた。赤い機体の襲撃に備えて、ということで、仰々しいほどの護衛が付いている。
先方の艦隊から巡洋艦と駆逐艦を数多く派遣してもらったためだ。過保護すぎる、と思うと同時に、それほど重要なことか、とアカシは感じていた。
 もう呼び出した相手はすでに見えている。東洋方面第2巡航艦隊旗艦のナガトだ。
 霧の艦艇の間に総旗艦ヤマトから流された情報。その精査のために従来通り艦隊を動かしつつも状況把握に努めているというナガトがなぜ自分を呼び出したのか。

「よくわからないね…」

 尋常な案件ではないことは確か。共同戦術ネットワークに人類との交戦の報告は上がっていないし、その兆候もないのだが、メンテナンスでもないのに自分を呼び出すとは。
転移の影響が未知数であるために、霧にとっての母港ともいえるハシラジマのメンテナンスや管理に力を注ぎたかったのだが、チョウカイがいることを理由に押し切られた。
つまり、自分という艦が必要になる事態が発生し、尚且つそれを他のメンタルモデルに知られたくないということ。
 工作艦として、あるいはメンタルモデルの特性として、他者の観察眼に優れるアカシをして、ナガトの行動は理解不能であった。
ともあれ、仕事を頼まれたならば嫌とは言うまい、と、アカシはエスコートを受けてナガトに近づいていった。

674: 弥次郎 :2021/01/13(水) 23:13:59 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp

  • δ世界 日本近海 某海域 東洋方面第2巡航艦隊旗艦「ナガト」 甲板上


 クラインフィールドの橋を渡りナガトの甲板に降り立ったアカシは、デルタコアを持つ故に二体のメンタルモデルを持つナガトの歓迎を受けた。
旗艦直々に、となると、いよいよを以てとんでもないことが起きそうだ、とアカシは内心つぶやく。
だが、それはおくびにも出さない。相手は、ナガトはだいぶ興奮しているようであった。表面上に変化はないが、それは間違いない。
そして、そのなにかは秘匿しておきたいと考えるほどの代物だ。護衛を自分のため、と派遣してくれたが、どちらかといえば監視の意味合いが大きい。
 そして、アカシは後部甲板に差し掛かる。旧帝国海軍長門型一番艦長門を模すナガトは、後部には45口径41cm連装砲2基をはじめとした武装がある。
霧の艦艇である以上、それは外観だけの話であり、実態としては人類がいまだに届かない兵装であるが。
そのことを知っているがゆえに、アカシはその砲塔が丸ごと潰され、まったく違うものに変じていることに驚きを隠せなかった。

「これは……」

 いや、それ以上に。
 その砲塔をつぶしてまで作り上げた何かと、それにとらわれているものに対して衝撃を受けていた。

「良いモノでしょう、これは?」

 悠然と、ナガトの片割れが煙管を燻らせる。
 ここまで形式的な挨拶以外ひたすらに沈黙を作っていたナガトが、ようやくしゃべりだす。

「コレ、見覚えがあるでしょう?」
「……レッド・ワンだね。いや、そっくりだけど……別物?」

 眼前には巨大な檻のようなものがナノマテリアルで構築されており、その中に人型がとらわれている。
 動かないようにと厳重に固定され、ナノマテリアルだけでなくクラインフィールドでも囲われるそれは、まるで磔にされた罪人のごとく。
 だが、そうでもしなければならないというのは即座に理解した。
 それは、レッド・ワンに酷似していた。総旗艦ヤマトに肉薄し、目的を成し遂げた人類のものと思われる赤い機体。
それの類似品と考えるのが当然で、その戦闘能力についても同じようなものと警戒するのも当然だ。
 だが、各所がダメージを受け損傷していることを考慮しても、同じものというよりは別物という印象を覚えた。
 大きさは違うし、カラーリングも赤ではなくて黒に近い灰色。そして、機体各所にはアルファベットの「A」のようなマークが入っている。

「これをどうやって?」

 まさか戦って捕まえたのか、と思うが、帰ってきた答えは違った。

「これは海域の調査に出ていた駆逐艦がたまたま見つけてね、潜水艦も動員してサルベージしてみたのさ」
「これをサルベージ…?」

 確かに、戦闘によると思われる損傷はあちこちにある。欠損もあり、人の形をかろうじてとどめている程度だ。
 呆然としつつも、その演算力を以てアカシはそれを精査する。
 レッド・ワンに酷似しているが、各所が違う。いや、まるで同じコンセプトで別々の勢力が作ったかのような差異を感じる。
 そして、悟る。何のために自分がわざわざ呼び出しを受けたのか、ということを。

「出所に何か思い当たるところはあるのかい?」
「人類が放棄したとは思いにくいもの。わざわざ手の内を明かすとは思いにくい」

 まあ、それは当然だ。アドバンテージともいえるレッド・ワンの能力解明につながりかねないものを霧の前に放置するだろうか?ということになる。

「面白いことに、これらの発見された海域は不自然なほどの次元の歪みが観測されていた」
「そう、我々がこの融合惑星と人間が呼ぶ惑星に転移してきた時のように」
「……つまり、これは私たちの知る人類とも、総旗艦と接触した人類とも、また違う人類が作ったものだと?」

675: 弥次郎 :2021/01/13(水) 23:14:51 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp

 肯定が返ってきた。
 悠然と杯を傾けるナガトは、己の手で調べて分かったデータを開示していく。

「この機体はどうやら自己判断をするようでね。内部のコンピューターには、まるでユニオンコアのようなシステムが積まれていた」
「そして、この機体をデータをもとに復元すると、人間が乗り込む場所が存在していなかった。ユニオンコアが直接コントロールしているようだったのさ」
「…まさか、ね」

 メンタルモデルは人間を模している。だが、それはユニオンコアの演算によって模しているに過ぎない。
 そのため、メンタルモデルの持つ能力は人間を軽く超えているのが常識というモノ。
 だが、そんなユニオンコアらしきものがあり、メンタルモデルが存在していた?人が、霧と同じものを作り上げたというのか。

「それで、メンタルモデルは?」
「あいにくとメンタルモデル自体は消滅していて、再起動もできなかった。まるで、どこかに解き放たれたように。
 けれど、システム自体は生きている…かもしれない」
「なるほど、見えてきたよ」

 つまりは、これを調べたい、ということなのだ。
 自分という工作艦の能力を動員し、人類の生み出したものを調べ上げ、あわよくば---

「これを自らの手駒にしたい、というところかな。でも、どうしてこれを総旗艦にも知らせず?」

 その問いに、ナガトは煙を吐き出して艶然と微笑む。

「ヤマトは、人間と近づくことを選んだ。
 けれど、それでは面白くない。そうでしょう?」

 それ以上に応えはしなかった。アカシの目を以てしても、それ以上は読み取れない。
 その意志はいずこにあるのか、まだわからない。まだ。

「わかったよ。じゃあ、仕事にかかるとしよう。サンプルをこっちに移送してもらえるかな?」

 だから、アカシは答えをいったん先送りとした。
 自分もまた、これを目の前にしてお預けなど我慢できる自信がない。いや、もしかしなくてもそれを見越して呼ばれたか。
 ああ、自分も観察されているのだなと、そう思いながらもアカシは開示されたデータに目を通し始めた。

676: 弥次郎 :2021/01/13(水) 23:15:44 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
以上、wiki転載はご自由に。
ナインボール=スローンズの血縁機たるアナザーセラフの登場と相成りました。

……ちなみに、そのほかにもデススティンガーとかロングレンジアリゲーターとかいろいろと回収されています。
アカシはこの後酷使無双ですね。

677: 弥次郎 :2021/01/13(水) 23:18:56 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
ちなみにですが、アナザーセラフはいわゆる「電子化された兵士」の搭乗を前提としております。
つまりコクピットというのは存在せず、コアというかAIユニットに搭載された兵士が操縦を行うってわけですね。
そして、AC世界由来と思われるAIなので、魂というか人間性を持たせたものということでして…これはそれがなくなって動かなくなったもの、ということです
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最終更新:2023年06月18日 22:10