682: 弥次郎 :2021/01/24(日) 13:22:07 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
憂鬱SRW 融合惑星編SS「Battle of Mali」3
誘いこまれている。その認識はビスマルクの中にあった。
敵の首脳部を精鋭部隊の投入を以て叩き、戦局を覆すという戦術の実行のため、自分たちは戦場の確定後に迂回と突破を仕掛けていた。
だが、敵の増援が駆けつけて立て直しが進められ、敵の防御が単一的なモノからにわかに変化した。縦深が深くなったのだ。
おそらくではあるが、敵司令部は後退をした。それはKMFの展開力をもってすればすぐの距離であろうが、その隙間に敵は戦力を速やかに展開し、防御を敷いた。
そして、自分たちから見て後方、戦線を維持している友軍の方でも敵の圧力が急速に強まっているのがなんとなくわかる。
そんな中で自分たちだけが前進できているのは明らかにおかしい。順調すぎて露骨に罠だと分かる。
だが、後方からの情報では自分たちには前進という選択肢しか存在していなかった。有利であれ不利であれ、勝つにはそれが必要だから。
連れている部下たちも、自分と同じく理解しているだろう。自分たちは、竜の咢に身を投じつつあるのだ。
『!?』
そして、それは唐突に発生した。長距離侵攻用ブースターユニット「ファーフナー」にダメージが入ったのだ。
機体を覆うブレイズルミナスと堅牢な装甲が一度に破壊され、致命傷を受けた。いったい何か。
こちらへの射撃を行う敵機はファクトスフィアでとらえて回避を続けていたというのに、どうやって?
だが、うだうだ考えている暇はない。速やかにKMFとブースターユニットの接続を切り離し、エナジーウィングでの飛行に切り替える。
自分だけではない、随伴してきていたKMF「ペレアス」らも次々と破壊を受け、「ファーフナー」をパージしていく。
『ビスマルク様!これは!?』
『油断するな、攻撃を受けている!』
不可知・不可視の遠距離攻撃。完全に不意打ちを受けた。
まあ、それも当然だ。戦線を飛び越えて移動するKGFがいたら、まして司令部に吶喊していれば妨害を受ける。
だが、まったくわからないのはどうやって攻撃を仕掛けてきたのかだ。殺意のようなものは感じたが、それしかわからなかった。
周囲を確認するがどの敵もこちらを遠巻きに撤退する方向に動いており、こちらへ意識を向けつつも、攻撃は狙っているように見えない。
だが、ビスマルクは理解していた。先ほどの攻撃の主は、未だにこちらを狙い続けているのだということを。
「……」
そして、少し前進した開けた場所で、それは待ち受けていた。
大型化したKMFのさらに上を行く巨体の人型兵器。周囲に味方を連れておらず単騎。
だというのに、その姿は悠然としていた。こちらに気が付いているであろうに、何の余裕か。
そのほかに特徴的なのは、エリア11にかつて存在したというサムライのように腰に佩いた長刀であろうか。
ビスマルクはすぐに己のギアス、数秒先の未来を見る未来予知のギアスの封印を解いた。
出し惜しみはできないと直感的に理解する。武器を向けられているわけでもないというのに、己の第六感が警鐘を鳴らし続けている。
『ナイトオブワン、ビスマルク・ヴァルトシュタインとお見受けする』
開かれた通信回線越しに、落ち着いた男性の声が聞こえる。
目の前の機体のパイロットだ。声一つでさえも、明らかに強者とわかった。
自然とギャラハッド・レガシーの主兵装であるコールブランドを抜き放つ。抜かねばならない、ギアスと直感とが叫んでの行動だった。
『ふ、やはり……貴殿ほどとなればわかるか』
いつの間にか、相手はその手に短刀を抜いていた。ギアスで見えたビジョン---あまりにも速い動きで短刀が投じられる光景のままであった。
683: 弥次郎 :2021/01/24(日) 13:23:15 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
「この私を試したのか」
『強い相手と戦うのは誉。されど、弱い相手と戦うなど正直なところつまらないものだ』
相手は言いながらも、決して隙を見せていない。
むしろ、集中力を研ぎ澄ませているようですらある。
『この戦場において、そのようなことをいちいち気にするものか?』
『貴殿とてわかっているはずだ。この戦場の帰結を』
『……』
問いかけへのビスマルクの答えは、ない。ひどく単純なことだった。もはや、決まったことを確認しているに等しい。
そう、この戦場は最前までぎりぎりブリタニア側が押し切れそうなところまで行っていた。それこそ、あと少しのところで。
だが、にわかに敵の増援が展開し、一気にひっくり返してしまったのだ。まさに一騎当千の戦力が決まりかけたそれを覆した。
そして、同時に展開された物量は贔屓目に見てもブリタニア側の総数を軽く上回っていた。疲弊していたこちらにとってはつらすぎる相手だ。
そのカードがオープンになった時点で、すでに決定的だったと判断している。だからその時点で後退を進言したし、そのために自分たちは行動した。
そして、その行動の果ても想像がついていた。それはまさしく決死の行動になるのだと。
誰かが敵軍を足止めしなくてはならない。あるいは相手の進撃を押しとどめるような何かを起こさなくてはならない。
だから、敵司令部への突入という行動を前倒して行うことにしたのだ。うまくいけばそれでよし。少なくとも友軍の助けにはなる。
このマリ戦線の帰結はほかの戦線にも大いに影響を及ぼすことになる。最低でも打撃を与えて引き分けとしなければ、この戦争そのものにも関わる。
そして判断を下したときの状況では、それができるような部隊が自分たちくらいしかいなかったのだ。
『……』
『貴殿も、貴殿の部下らも、よき武人だ』
一目連がたたえたように、それは英断であった。
ビスマルクらの吶喊、それも的確に隙間をついた攻勢により、ISAFと連合の増援部隊はバトンタッチに支障をきたし、同時に周辺部隊の混乱を誘った。
たぐいまれなる戦術眼と洞察力、そして、それを計画して実行に移すだけの戦闘能力。なるほど、ナイトオブワンの名に恥じないものだ。
『この一目連、惜しみない賛辞を贈ろう。そして……』
そして、そのメインウェポンたる長刀---斬機刀が抜かれた。
一目連のネクストの主兵装として長らく使われたそれは、無駄のない美しい動きでその切っ先をギャラハッドに向ける。
それだけで、空間が鳴いた。
尋常ではない使い手に、尋常ではない一振りの刀、尋常ではない乗騎。その三つが合一している。
この感覚、そして、威圧感。間違いなく、あのマリアンヌ・ヴィ・ブリタニアすら凌いでいる……!
『全霊を以て、お相手しよう』
「押しとおる!」
ギャラハッド・レガシーもまた、応じるようにエクスカリバーを構える。
そして、部下たちも指示がなくとも自然に展開。目の前の強敵に備えた。
マリ戦線における一大勝負が、今幕を開けた。
684: 弥次郎 :2021/01/24(日) 13:24:33 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
『撃て!』
機先を制すように随伴していたペレアスのヴァリウスが放たれる。
飛び込んでくる砲火を一目連は煩わしげに斬機刀の一振り、ただ一振りを以て切り払う。回避も防御も選ばずに、ただ刀の一振りで消す。
まるで、手のひらを振ってろうそくの火をかき消すかのように、ヴァリウスのレールガンやハドロン砲は霧散する。
(やはり……)
ありえない、と思うが目の前で見せつけられればそうとしか言えない。
この目の前の男は、斬撃の一撃を「飛ばす」ということをしてこちらを攻撃したのだ。
ビスマルクも理解しているが、たとえ直撃しないように寸止めしたとしても、剣の一撃は衝撃を伴うものだ。
それを、あろうことか、はるか遠方を高速飛行する「ファーフナー」に直撃させたのだ。それならばセンサーが感知できないのもわかる。
同時に、そんなものにそれほどの威力を持たせることができるというのか、と驚愕も生じる。
だが、驚いている暇はない。弾かれる未来は見えていたので、コールブランドと共に吶喊した。
それを悠然と待ち受ける一目連の一撃のビジョン、斬りかかることをとっさに投げ捨てたビスマルクは、カウンターの一撃を受け流す。
コールブランドという大剣を以てしても、受け流すことしかできないような重たく鋭い一撃。受け流し、軌道上から自機を逸らすことでダメージを回避する。
(ぬぅ……!)
強い。いや、相手が強すぎる。
ビスマルクの乗る「ギャラハッド・レガシー」は第九世代相当のKMFのスペックを有している。
搭乗者が、サイボーグ化によって強化されており、尚且つナイトオブワンに相応しい技量を持つビスマルクだからこそと生産性を投げ捨てたものだ。
その「ギャラハッド・レガシー」でさえも、目の前の機体との間に明確なスペック差があり、埋めることができずにいた。
まだ剣を交えて一合ばかりであるが、ビスマルクはそれを認識した。あの枢木スザクもかわいく見えるほどに、相手は強い。
(だが……!)
負けてやるわけにはない。
反撃に襲い来る一刀をこれまた弾いてかわし、すかさず襲い来る連撃を捌いていく。
一切無駄がなく、鋭く、それでいて、こちらの命を刈り取る重たい一撃。
これでも、未来予知のギアスは全力で働いている。だが、そのアドバンテージがあってもなお反応が追い付かないし、まともに相手にできないのだ。
『お前たちは手を出すな…!』
通信回線で部下たちにそれを告げるが精いっぱい。返事も無視だ。
エナジーウィングを展開し、全力の機動で相手を攪乱するが、相手はそれに容易く追従してくる。
というか、瞬発音と共に相手はまるでワープしたかのように移動をしている。接近も回避も相手が何枚も上手で、たやすく翻弄されている。
十数合と撃ち合う頃には、すっかりビスマルクの息は上がってしまっていた。サイボーグ化されてもなお、相手には追い付いていけない。
『…………見事』
ギアスによるビジョンに若干の頭痛を感じながらも戦いを続行しようとするビスマルクの耳に届いたのは、一目連の称賛の声だった。
685: 弥次郎 :2021/01/24(日) 13:25:07 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
『貴公……』
『見事な太刀筋、戦い方、そしてその在り方。ブリタニア最高の騎士というのは、決して伊達ではない』
戦いのさなかに、何を考えているのか。そう思い、問いかけるが相手の言葉に邪気はない。
そう、一目連は純粋に剣士としてビスマルクを称賛していた。掛け値なしに、一切の裏などなく。
『こうして戦えることを、実にうれしく思う』
もちろん一目連はブリタニアのなしたことを知っている。原作の世界でのことも、この世界に転移してからのこともだ。
だが、それはそれである。そんな些細なことなど、この場において、戦士と戦士の間に何の関係があるというのか。
考える価値もないし、そんなことを勝負の場に持ち込んでいる時点で無粋の極みである。
だから、一目連はこの場を作り上げた。一対一の状況を、ブリタニアの騎士との一騎打ちを。
ビスマルクの側も気が付いたのだろう。そう、彼の部下たちは未だに攻撃を受けていない。周囲の兵力は包囲をするだけで、攻撃を仕掛けていない。
それどころか、ビスマルクと一目連の一騎打ちを固唾をのんで観戦している状態だ。
『どういうつもりだ』
『先ほども言った通り。すでに戦場の帰結は決まったようなもの。
このまま無慈悲に貴殿らを倒してしまってもよいのだろう。だが、それでは面白くない』
故にこれは、と一目連は言葉を紡ぐ。
『私の我儘だ。一人の剣士として、一人の騎士と戦いたいというな』
ビスマルクは虚をつかれる。そして、ようやく理解した。戦場の帰結が定まってなお、挑んできた理由を。
ただの戦場の掃討のためではない。ただ強敵を倒して友軍の被害を減らすためでもない。純粋にぶつかってきたのだ、この男は。
(私は……)
それはビスマルクにとってはある種霹靂であった。
すでに仕えた君主であるシャルルは死に、敬愛するマリアンヌも消え、果ては自分は枢木スザクに敗れた。
騎士としてはもはやこれまでにないほどの失態だ。故にこそ、剣を置くことさえ考えもしたほどに。
だが、自分の剣をブリタニアは欲している、シャルルの意思は生きている、ただそれだけを支えとしてこれまで戦ってきた。
騎士というよりは、ただの歯車のように。周りはナイトオブワンとして自分を見てきているが、自分は自分をそう見れなかった。
だが、なんということか。ここにきて、騎士として戦える場が用意されていようとは。
嗚呼、なんという望外な場であろうか。今更という感覚はする。だが、それを補って余りある喜びがあった。
死んでしまいたいという感情があったことも確かだが、ここで敗れてしまおうが後悔だけはないという確信があった。
『吠えたな、異郷の剣士』
コールブランドを今一度構えなおし、ビスマルクは獰猛に笑う。
『ブリタニア帝国とシャルル様にささげたこの剣、甘く見るな!』
『来い……!』
そして、二人の剣士は同時に踏み込む。
激突が、戦場を揺らした。
686: 弥次郎 :2021/01/24(日) 13:27:10 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
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次回、決着。
最終更新:2025年02月10日 21:28