244: 弥次郎 :2021/01/30(土) 18:25:26 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
憂鬱SRW 未来編鉄血世界SS「無知なるは罪、知りたるは…?」
地球圏へ、ギャラルホルン本部であるヴィーンゴールヴへと帰還したマクギリスを待ち受けていたのは、昇進と仕事であった。
驚きの二階級特進。特務三佐から特務一佐への昇進である。火星支部の暴走に始まった一連の仕事をこなし、火星連合などとの交渉を担当した功績から一階級。
さらに、新たな仕事に就くにあたって必要だろうということからさらに一階級。合計で二階級分昇進ということになった。
これを告げられたのは月によって取り急ぎの報告などを済ませた直後のことであった。親子とはいえ上司と部下の関係にある都合上、拒否などはしなかった。
だが、マクギリスが欲していたものは昇進やギャラルホルンのポストや恩給などではなく、休みであった。
火星での激務を経て一度地球に戻りかけ、そのあとすぐさま戻ってさらに交渉と謝罪行脚を重ね、マクギリスの肉体はボロボロであった。
過労・睡眠不足・ストレス、その3つが体のあちらこちらに影響を与え、健康だったはずの肉体をむしばんでいたのだ。
最低でも医療機関で一か月の療養が必要と診断され、火星連合や地球連合の厚意によりガエリオともども処方箋や医師の診断書を受け取ることができたのだ。
しかし、世間はそれを許しはしなかった。火星連合との戦争の勃発である。
正確に言えば、4つの経済圏と火星連合の間に宣戦布告がなされ、その経済圏の実働戦力としてギャラルホルンが動くのだが、ここでは省略しよう。
ともあれ、戦争となることで、ギャラルホルンは戦力の編成や招集、さらには大規模な戦争に向けた準備に追われることになった。
そして、敵となる火星連合や地球連合がどのような戦力を有しているのか、それに対抗するためにはどうすべきかの対策を練らねばならなかったのだ。
というのも、アリアンロッド艦隊が敗れた、というのはギャラルホルンでもひときわ大きな衝撃であったのだ。
これまでは火星支部のいうなれば雑魚が蹴散らされた程度であるのだが、懐であるコロニー群でアリアンロッドが、となると話が違ってくる。
全世界に向けて戦闘の様子は放映されており、誰もがそれを目にし、圧倒的な力の差を見せつけられてしまったのだ。
ここまでくれば隠し通せるものではなく、さしものイズナリオもラスタルに何とか責任を押し付け、再発防止と対策を打つことを確約せざるを得なかった。
斯くして、火星において最も情報を集めていたマクギリスらは招集を受けることになったのである。
用意されたポストは、統制局直轄組織として編成された「対火星戦略局」の「総務部部長」。
つまるところ、戦争にかかわることならばおよそのことを火星連合と地球連合相手に戦略や戦術の構築、戦力の調達や開発を行うということになる。
それを言い渡され、いったいどのような顔をしたのかは想像に任せるとしよう。
- P.D.世界 地球 ヴィーンゴールヴ 対火星戦略局総務部オフィス
編成されて動き出してから一週間後。
かつては火星支部のMSパイロットであったアイン・ダルトンはマクギリスに引き抜かれる形でこの総務部所属の局員となった。
自分のような人間が、と最初は固辞したのであるが、火星連合や地球連合を知る人間が一人でも欲しい、との説得を受けてのことだった。
まさか地球で、しかもヴィーンゴールヴという場所で働けるとは、と最初は少なからず心を躍らせたものだ。最初のうちは、だが。
「残念だが、荒唐無稽にもほどがある。論じる価値もない」
「そんな!」
「君はいったい何を資料から見て取ったのか?彼我の戦力差は最低でも十数倍以上だぞ?各個撃破に持ち込むなど夢物語だ」
「ですが、それが欺瞞という可能性もあり得ます!」
「ではその根拠は?相手は火星連合だけでなく、この太陽系の外側からやってきた巨大な国家群も含まれている。
単純な兵力の時点で圧倒的に上なのは明白。そして、遠隔地だからと言って油断はできない。すでに火星という土地があるのだから。
ともあれ、そこを根本的に直さねば採用はできない。以上だ」
そして、今日もまた、持ってきた計画案と共に廊下へ放り出される局員を見送ることになったのであった。
「はぁ……」
自分のデスクでパソコンを操作し、ご高説していた内容を破棄しながらも、澱んだ目でアインはため息をついた。
日に何十とある火星連合との戦争計画についてのプランの持ち込み。これまでに持ち込まれた多くが荒唐無稽もいいところであった。
245: 弥次郎 :2021/01/30(土) 18:26:37 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
この案の持ち込みとプレゼンスというのは、マクギリスが考案したものであった。
対火星戦略局の名前を使い、マクギリスらが収集しまとめた火星連合や地球連合に関する資料を基に取るべき案を広く募集する。
「そもそも相手にどんな手を使おうが勝てるわけないだろいい年こいて腐り果てたショタコン野郎(上品な意訳)」というマクギリスだが、それを言うのは憚られる。
ということで、広く意見を募り、その中から比較的ましな意見を拾って上申しよう、というわけである。
あわよくば、自分の持ってきた資料から現実を悟ってギャラルホルンの無謀さを知る人間を増やしたい、という欲もあった。
が、その思惑は大いに外れてしまった。
人間、見たいこと知りたいことしか認識しないのである。
そも、300年間という長い期間、多少の小競り合いはともかくとして戦争などというモノがなかった世界である。
軍事組織であるギャラルホルンにおいても、その手の知識はもはや古典の類になって久しいのである。
よって、大規模な戦争だというのに、それを忘れた計画をぶち上げられ、ご高説を受ける羽目になったのである。
それらの古典的な知識をマクギリスらから説明を受け、アインはある程度理解している。
戦争とは、これまでの治安維持だとか海賊討伐だとか、そんなものを飛び越えたスケールで行われるものだと。
そんな常識を身に着けているアインにとって、それを理解していない案をずっと聞かされるのは苦痛以外の何物でもない。
「クランク二尉…音を上げてもいいでしょうか…?」
「耐えてくれ、アイン……心が折れそうなのは、お前だけではないのだ」
デスクを並べるクランクも、ため息とともにいうしかない。
地球が任地となるのはギャラルホルンでもエリートの仕事だ。だというのに、この体たらくである。
火星や圏外圏というのはへき地であり、同時に嫌われ者や優秀ではない人間を体よく追い払うための場所と言ってもいい。
「地球出身のエリートたちには戦争だという危機感はないのでしょうか?」
俗にいう嫌われ者、圏外圏出身者の血を引くアインは、思わず言葉に毒が混じってしまう。
それを聞かなかったことにしたクランクはあきらめ顔だ。
「恐らくはない。思い出してみろ、ここに来た局員たちの表情を。自身に満ち溢れていて、傲慢でさえある。
圧倒的な戦力差でこちらが不利だというのに、なんとも暢気だっただろう?」
「それは……確かに」
「我々も一歩間違えばあちら側だった。だが、何の幸運か現実を知ることができたし危機感を覚えた。
この危機感を共有すべきだが、相手が受け取ってくれないのではな」
それに、とクランクは自分のデスクでうなだれるようにして何やらぶつぶつつぶやくマクギリスを見る。
「一番お辛いのはファリド特務一佐だろう。一番現実を見ることができているのは特務一佐なのだから。
しかし、どのような案であっても目を通し、添削しなければならない。そして、それらを上申しなくてはならない」
考えるだに、地獄だ。たわごとを強制的に聞かされ、見せられているのだから。
「…そうでしょうね」
「それにだ、抜け目はないだろうから次善の策があることは確かだろう」
果たして、クランクの想像は正しかった。
ギャラルホルンの実態、戦争に適していない現状を報告するための証拠集めも兼ねる計画は順調に動いていた。
つまり、これだけ現場と戦争の作法というかやり方は意識や方法論が乖離しており、戦争というモノを行うにあたり再教育すべき、という意見をまとめているのだ。
古典に等しいとはいえ、古典はあるところにはあるものである。なおのこと、ギャラルホルンという一大組織には、だ。
そして、マクギリスはこれらに目を通しており、戦争において必要だと理解した。
246: 弥次郎 :2021/01/30(土) 18:27:12 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
切欠は情けないことだがカラールで購入した戦略SLGという情けなさであったが、ともあれ、そういう意識を持っていたのである。
斯くして、マクギリスは戦争をやるにしてもお粗末すぎるギャラルホルンの意識改革に乗り出したのであった。
(ふふふふふふふふふふ………!)
そして、ひたすらにデスクにかじりつくマクギリスの目はもはや危ないものだった。
クランクが危惧した通り、だいぶ参っていた。胸中で呪詛を垂れ流しにして、それでも仕事だけはこなす。
本来ならば与えられる余暇がほとんどなくさらに仕事を上乗せしてくるとか、過去の所業を差し引きしても殺意を滾らせるのに十分すぎた。
ガエリオに諫められ、アルミリアに癒されていなければ統制局の局長室に重武装で殴り込んでいた自信がある。
経済圏にしてもそうだ。相手がいったいなんであるかも大して確かめずに戦争を吹っかけるとか正気ではない。
一度手袋を投げつけた以上、引っ込みがつかないのはわかる。だが、せめて現実を知っておくべきだとは思うのだ。
あの地球連合までもテロリスト認定?そうなればもはやルール不要と殴り掛かってくること請け合いだ。
文字通り手段を選ばないとなれば、あるいは無関係の民間人を考慮しないとなれば、この惑星など簡単に火だるまだ、物理的に。
なので、そんな感じのレポートを書いている。ギャラルホルン上層部や経済圏に理解させるために。
まあ、まともに受け取られるとは限らないし、あのドルトでの観艦式を見てもなお宇宙艦隊を差し向けるとほざく連中がいる程度にはギャラルホルンも終わっている。
(いっそバカどもには死んでもらった方がよいか…)
真面目にそう思う。そうすれば、相対的に面倒な意見は消えていくだろうと。
いや、と考えを否定する。追い詰められればより刹那的な行動に出るものだ。
火星で見た娯楽にはそういったもの、旧世紀の戦争における軍人たちや政治家の動きを描いたものがあった。
追い詰められる中で正気を失ったかのような判断をしたり、決断が突拍子もないものになったりとなることもおかしくない。
戦争に備えている軍人たちでさえあの有様なのだ、戦闘はともかくとして戦争に関して素人の経済圏やギャラルホルンがどう動くか分かったものではない。
(優先すべきは……絞らないとならないな)
ともあれ、自分の優先事項は決まっている。自分と、友人や部下たちの命が最優先だ。
欲を言えばバエルを持ち出したいところだ。アレは個人的にもそうであるが、連合にも価値がある…かもしれない。
300年前のガンダム・フレームが火星連合や地球連合の広報にわざわざ乗せられたことには何らかの意味があるかもと推測したのだ。
それに、あれは厄祭戦を終わらせたアグニカの遺産。どこの馬の骨とも知れないギャラルホルンの人間に好き勝手されるのは我慢ならない。
まあ自分もそのギャラルホルンの一員であり、私情丸出しであることは否定しないが。
ともあれ、マクギリスはおのれに課せられた職務と並行して、そのあとのことを考え続けていた。
やがて地球で起こるであろう最後の戦い、北欧神話における世界の終焉、ラグナロクに備えて。
それはおそらく、この世界の行く末さえも大きく左右するものになるだろうと理解している。それを越えねば、未来はない。
(未来、か)
いつのころからか、野望よりもそちらのことを考えることが多くなった。もう、ただそれだけでは終わらない情勢になったゆえだろうか。
それとも……もう違う地平を見てしまったからだろうか?わからない。わからないことであるが、いずれ迎えることは確か。
一先ずは憂鬱な現実に立ち向かうことにするのだった。
そして、声を張り上げて、目の前で礼儀もなく空論をぶち上げる相手に吠えてやるのだ。
「論外だ、論外!」
今日もまた、総務部にはマクギリスの声が轟くのだった。
247: 弥次郎 :2021/01/30(土) 18:28:44 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
以上wiki転載はご自由に。
人生で最も不遇な時期かもしれないマッキー。
ガエリオやアルミリアとの時間を作っていないと、ストレスからアグニカポイントが跳ね上がって暴発する可能性がありました。
だからこそ、時に強引に選択肢を選んでおく必要があったんですね(構文)。
最終更新:2023年11月05日 15:33