319: 弥次郎 :2021/01/31(日) 17:56:34 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
憂鬱SRW 未来編鉄血世界SS「大侯爵」



  • P.D.世界 地球 ギャラルホルン本部「ヴィーンゴールヴ」地下層「バエルの祭壇」



 ASW-G-66 ガンダム・キマリスの前で、ガエリオはその姿を見上げていた。
 かつて、ボードウィン家の始祖が厄祭戦で運用したとされる骨董品物のMS。その程度の認識だった。
 だが、その本当の歴史を調べ、理解した結果、このMSの価値はそんなものではないと今のガエリオは理解している。
 極めて効率的な殺戮マシンであるモビルアーマーを討伐するために開発された決戦兵器、それの一つがこのキマリス。
人間をやめて、人間を救うために奔走した戦力。あの暴力の塊であるMAを打ち倒せるスペックを秘めた、まさしくロストテクノロジーの産物。
暴力を打ち倒すための、さらに強力な暴力。怪物を打ち倒す怪物。厄祭戦時の技術が惜しみなく使われた究極形。それを自分は目にしているのだ。

「……儀典用ではなかった、ということか」

 キマリスには今現在メカニック班が取り付いており、マクギリスが語った厄祭戦やガンダム・フレームの事実を確認するべく作業が行われている。
儀典用に動かすということから定期的にメンテナンスも行っており、保存状態も良いことから作業は順調に進んではいる。
正直、知らなければそのままであっただろう。だが、こうして調べれば、最早知らなかったころには戻れない。
 ガエリオの手元のタブレットには逐次データが送られてくる。キマリスのコンピューターに記録されたデータや解析結果だ。
阿頼耶識を前提に設計され、とてつもないスペックを有するまさに怪物あるいは悪魔。なるほど、あのMAを打ち倒すならばこれくらいは必要となりそうだと納得した。
 地球に帰還して新たな任務の合間を縫い、ガエリオはこのキマリスについて調べていた。MSだけでなく、家に伝わる資料についてもだ。
 それらの結論は、厄祭戦の真実と、セブンスターズやギャラルホルンが平和のためにこそ過去を封じ込めた、ということだ。
阿頼耶識が忌避されるのも、MAについての伝承が途絶えていたのも、すべては過去の忌まわしいものを封じるため。
平和を作り出すために、戦争の後の情報統制や物品の回収による証拠隠滅などをギャラルホルンは過去に行ってきたのだ。
故にこそ、300年という期間の、一応の平穏と戦争からの復興を成し遂げている。
 なるほど、あれほどの悲劇と、それをねじ伏せるための力。平和を作ったとしても、それは悪用しようと思えばいくらでも悪用できるのだ。
だから、それを忌避させ、忘却させ、記録を抹消した。そうしなければ、また厄祭戦を繰り返してしまうから。

(しかし、厄祭戦の残り香はまだあったわけか)

 そう、MAを討伐したとしても、すべての破壊が確認できたわけではない。
 事実、火星周辺ではいくつものMAが発見されているのだという。火星支部で見たハシュマルタイプもその一つ。
 そして、見つかっている以上、他にもあると考えるべきで、いつ何時厄祭戦再びとなるかわからない状況だ。
 そうだとするならばギャラルホルンがこの後すべきことなど決まり切っている。MAについての資料を集め、密かに探し出し、破壊もしくは無力化することだ。
悪用されないためにも、情報を統制して行うべきだ、というのはガエリオも賛成だ。悪用しそうなセブンスターズの人間を知っていることだし。
 正直なところ、火星連合との戦争などやるべきではないのだ。それよりよほどやるべきことがある。
 だが、ギャラルホルンという組織の成り立ちや仕組みの都合上、それをやらざるを得ない。

「くそ……」

 何とも、やるせない。火星でMAを初めて知った時以上の感情が渦巻いている。
 だが、組織に属する人間として、組織の事情が優先されるというのがわかっている。故にこそ、歯がゆい。やるせない。そして憤りを隠せない。

320: 弥次郎 :2021/01/31(日) 17:57:14 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp

 ガエリオもまた、対火星戦略局に招聘されている。
 所属としてはMS戦技研究チームということになる。つまり、火星連合や地球連合の機動兵器や艦艇を相手取るための手法を編み出すチームだ。
 はっきり言えば、そんな泥縄式の対策など意味がないと理解している。火星連合自体が抱えているMSはまだ何とかなるだろう。
火星に監査で赴いた際に調べたところ、火星連合軍の母体となったカラール自治区治安維持部隊は編成されて間もない。
それが拡張したということならば、おそらくMSなどは持っていたとしても運用経験や練度などで劣る可能性はある。
 だが、問題は地球連合や企業連合だ。彼らは比較にならないほど経験があり、練度が高く、既存のMSを圧倒するだけの技術を有している。
それこそ、今のギャラルホルンどころか、300年前の技術さえも凌ぐかもしれないほどに。
 そして物量に関しても恐ろしい限りだ。火星で見た光景、そして、ドルトでの観艦式などを見ればいやでもわかる。
まさに星のような数だけ展開する膨大な艦載機・艦隊・機動要塞。あの数を展開されれば、たとえ練度で勝るとしても不利は間違いない。
 無論、対策を練ることが愚かしいとは言わない。軍人である以上そう命じられればやるしかないのはわかっている。
だが、そうだとしても抵抗することさえ難しいと言わざるを得ない。ガエリオも連合の戦力を知っているのだ。
一応形として訓練はつけてはいるのだが、明らかに弱い。火星のアリーナリーグで見られるACから見ればなんと動きが単純で弱いことか。

「はぁ…まったく…」

 こうしてキマリスを見に来たのは、これら厄祭戦時代のMSの戦力化というのが立案されているためだ。
 セブンスターズに限らず、ギャラルホルンの名のある家に対してもMSの提供が呼びかけられているのだとか。
その一環でガエリオもこのキマリスを調査することになったのだ。
 一応、状態が良く装備などもそろっているので各所の整備やシステムの入れ替えをやれば実践投入できなくもないだろう。そもそも、動かしていたのだし。
 しかし、十全なスペックの発揮にはやはり阿頼耶識が必要だ、という結論は変わりがない。そして、それを口に出してはいない。
現状の阿頼耶識の施術はその成功率も低く、まして子供を犠牲にする必要があるというモノだ。たとえ有用だとしても、使うわけにはいかない。
それをやれば、ますます連合を怒らせることになるし、さらにはギャラルホルンが自ら宇宙海賊などと同じところに堕ちる羽目になるのだから。
まあ、失態続きでギャラルホルンの権威がどの程度残っているかなど不明なのだが。

「失礼いたします、ボードウィン特務一佐!」
「ん、どうした?」

 益体もないことを考えていると、一人が駆け込んできた。

「どうやら宇宙ではまた動きがあったようです」
「その言い方では、またコロニー関連か?」
「はい、こちらを」

 差し出されたタブレットの情報に目を通せば案の定の情報が載っている。
 コロニーの独立運動が経済圏のお抱えコロニーで起こり、現地の部隊が蹴散らされ、火星連合が味方した、というモノだ。

321: 弥次郎 :2021/01/31(日) 17:58:02 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp

 着々と火星連合、そして地球連合は版図を拡大し、地球へと迫りつつある。ガエリオはそのことを強く認識した。
ラグランジュポイントのコロニー群が火星連合に味方すれば、制宙権は火星連合のものになっていく。
それは搾取されるコロニーの労働者たちを救うためという目的に隠れた強かな戦略だ。
火星と地球を結ぶ航路は制圧されているとのことだし、その中継点となるような宙域も抑えられつつある。
下手をしなくとも、経済圏やギャラルホルンは月軌道より外側に出ることが難しくなってしまうことだろう。

「……アリアンロッド艦隊の戦力の動きが悪いところをつかれたな」
「はい。エリオン公の暗殺騒ぎもあり、統制は乱れていることが否めません。
 それに加え、宇宙戦力が分散して各コロニーの警戒を担当せざるを得ない以上、どこも戦力不足気味ですから」
「ドルト・コロニーの件で経済圏に尻を叩かれているのはわかるが、辛いものがあるな」

 そう、ドルトの成功例は衝撃を与えた。与えてしまった。ギャラルホルンや経済圏の搾取に抗うことが可能なのだという希望をばらまいたのだ。
もとより碌な扱いを受けておらず不満をくすぶらせていた各コロニーはこれまでは堪えるしかなかった。
だが、そこにギャラルホルンを凌ぐ勢力による援助が公言されて実際にされたら?当然、爆発するものが爆発するだけだ。

「とはいえ、これでは火星を直接叩く、という案は使えなくなるな…」

 マクギリスとも話していたことだ。当初は真っ先に火星へと戦力を送り込むことで火星を制圧。火星連合を壊滅させるという案が主流だった。
 だが、先見艦隊が発したところ、火星までの航路がおおよそ制圧されており、要塞までもが展開しているとのことから事実上没になっていた。
そうなれば別ルートからとなるのだが、前述のように中継点となるコロニーは次々と火星連合側についている。

(そうなれば、戦略目標はおそらく…クーデリア・藍那・バーンスタイン代表か)

 彼女は火星から地球へと向かい、国交樹立を図ると公言しており、事実行動している。
 護衛戦力が多数張り付いていることは明らかであるが、火星連合や地球連合全体の戦力から見れば少ない。
 だからホームグラウンドに引き込んで捕まえてしまえば蹴りが付く、そうなるのは必然であろう。

「とりあえず、この事実は別に隠さなくていい。いずれ公にされることだしな。
 ただ、徒に騒ぐなとは釘を刺しておけ。暴走してバカを見るのはごめんだ」
「承知いたしております」

 彼はボードウィン家の子飼いだ。主命ということだから扱いについては良く心得ているはずだ。
加えて、イオク・クジャンのやらかしを正確に伝えてある人間でもある。悪いようにはしないだろうという信頼はある。

「……」

 そして、もう一度キマリスを見上げる。
 世界を、人々を救うために、人間であることを捨て、悪魔と契約を交わした先達。
 その先達が望んだように我々は生きているのだろうかと、ふと考え込んでしまう。
 意思などない、ただのMSであるはずのキマリスの視線が自分に深く突き刺さるかのような感覚だ。

「ああ、まったく……」

 背筋に走る悪寒を振り払い、ガエリオは明るくはない未来を想像してため息をついた。
 キマリスは、大侯爵たる悪魔の名を冠するMSは沈黙したまま。されど、何かを伝えようとしているかのようだった。

322: 弥次郎 :2021/01/31(日) 17:59:01 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
以上wiki転載はご自由に。
ガエリオの様子を書いておこうかなと思いまして。

GATE編はちょっと私好みのMSVでも出そうかなと考えております
旧式のMSが投入されたとのことですし、それで一本かけそうな感じです。
まだ話の流れをくみ上げている最中ですけど…
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最終更新:2023年11月05日 15:29