676: 名無しさん :2021/02/10(水) 01:59:39 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp
やっべ、単発ネタなのに1万字超えた。……単発だし次から気を付ければいいよね
ごめんなさい

元々はなろう連載を目論んだネタなんですが、なかなか始められない
と言うわけで、夢幻会を突っ込んだ一発ネタにしてみました
メインテーマは『全世界同時末期戦』

元々は酔った勢いで「世界大戦って世界って単語使うくせに地球の半分も焼いてねーな。もっと国を焼こうぜ」
と言う発想から5大陸全部に戦火を及ぼそうと作ったネタです
1万字超えた長い奴なんでスレ汚しかもしれませんが、投下します

677: 名無しさん :2021/02/10(水) 02:00:19 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp

  ―― 終戦協定締結から半年、占領下大日本帝国、帝都東京。帝国ホテルにて ――

 その男は、トレードマークとなるコーンパイプを口から離してただ一言だけ命令を発した

「ベーカー62だ」  「「「Sir!」」」
幕僚という名の側近たちが動き出す。大日本帝国帝都東京の帝国ホテルの豪華な一室にて
新たな戦争が……継続大戦が始まる。


 ―― 小一時間がたち ――

「まずは報告を」
やっとの思いで貸し切りに出来たどこぞの料亭の一室に様々な面々が集まっていた。
例えば海軍大将嶋田という男。
例えば陸軍中佐辻という男。
他にも様々な面々が。
全員に共通している点があるとしたら……

「この世界線では初めましてですね。皆さん。これが『夢幻会』の初会合となります」
焼け野原となった帝都東京において、残っている僅かな区画にある小さな料亭をようやく貸し切り
新たな世界線での1回目の会合が開かれる。

「この世界線に今現在調べた限り、転生者がいた痕跡は見つけられませんでした。
つまり、この世界線は自力で史実を超える発展を手に入れ、そして史実を超える破滅を得たと言う事になります」
「……4つの原爆を落とされ、限定的とはいえオリンピック作戦で九州で本土決戦、コロネット作戦発動間近という破滅か……」
「……おおざっぱにまとめると、史実とは違った世界近現代史を辿ったことで史実で枢軸と呼ばれた国々は軒並み
国力を拡充する事に成功するも大正義米ソの大軍勢に11年かけて蹂躙された……そういう世界線ですね」
彼らの目の前には料亭と呼ぶ施設に似合わない物がしかれていた。
それはかつて、この国の軍隊が使用していた戦況図。
大体7年ほど前に使われていた地図と2年ほど前に使われていた2つの地図。

「南米戦線……この文字を見るだけで頭がどうかしてしまいそうだ」  「このインド南方戦線も頭痛いですよ。セイロン島の攻略に成功してるし」
「なんでアフリカまで帝国陸軍が出っ張ってるんだ。スエズの枢軸専用要塞化作戦で、枢軸陣営の完全連結? 意味が分からない」
「絶対国防圏が完成しているだと……?」  「ここを見てください。満州にドイツ軍が出張してますよ……」
でたらめな戦線に皆頭が混乱する。
朝目覚めたらこんなトンデモ世界線に到達していたと言う事情を抱える夢幻会の面々にとってもぶっ飛びすぎて頭が痛い。
実のところがんばって思い出そうと思えば、この世界線での活動した1人の人間としての記憶もある程度は思い出せるが
余りにも衝撃的な情報の数々に大混乱である。

678: 名無しさん :2021/02/10(水) 02:02:12 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp

「……歴史を簡単に整理すると、日本に関しては3つのターニングポイントがある事が分かりました。
一つ、大久保利通暗殺が失敗し、大久保利通は天寿を全うしています。72まで生きたようで。
一つ、日露戦争が史実より長くなり、泥沼化してます。
一つ、第1次世界大戦に史実陸軍が構想していた形で参戦しています
この3つにより、日本は最低でも史実の3倍、部分的には5倍程度に国力が肥大化しています。
これは概算であり、あくまでも最低です。……ひょっとしたら全体平均値10倍前後かもしれません」

「それぞれのターニングポイントが直接的に与えた影響は? もう少し詳細を」
近衛。その名を持つ一人の老人の質問。

「大久保卿が暗殺されなかった事で、史実にあった政変や派閥抗争などの多くが抑制、或いは激化しました。
少なくとも、下手な行動を取れば大久保卿の手で大粛正の嵐が吹き荒れる事になった……ようで」
大久保利通の暗殺の失敗が与えた影響は大きく、史実で大活躍した多くの人物たちが一度は失脚し
民間へと流出後、再び拾われると言う事を何度となく繰り返す事になっている。
と、同時に民間で使えそうな人材もまた一緒に政府に供給される。

「日露戦争は日本海海戦の直後に、何を思ったかは知りませんがクロパトキンが全戦線大攻勢に出てます
『クロパトキンの最終攻勢』と呼ばれてるこれで日本側は文字通り総崩れを起こしました。
おまけに、時化で輸送船が1隻沈んだようで日比谷焼き討ち事件は2回にわたり日比谷事変と呼ばれるとんでもない
大騒動に発展しています」
史実においても学説によっては第ゼロ次世界大戦と呼ばれる日露戦争だが、この世界線では明確に
WW0と呼ばれている。と言うのも日本側は泥沼化した戦線を必死に支えるため、ついに若い女性の労働徴発や志願兵受付さえ
行わざる終えず、文字通り、世界最初の国家総力戦体制の構築を目指すことになったのだ。

「最後のWW1ですが、日露戦争が樺太経由でのシベリア侵攻による、シベリア鉄道の占領作戦が発動されたことで
一応史実と同じように判定勝ちになりました。が、作戦その物は完遂できず、犠牲も酷く、また史実以上の借金を背負う羽目になり、
そういった諸々の問題から史実陸軍が構想したイギリス、ロシアの十分な協力の下、シベリア鉄道経由での
東部戦線30個師団展開をやる羽目になったようです」
その代わり、WW0を経験した日本はそのノウハウをイギリス、ロシアに提供。イギリスとロシア、フランスから
様々な技術情報を代わりに手に入れた。そして史実以上にドイツを追い詰め、ロシア革命の勃発を遅らせると言った結果をもたらした。

679: 名無しさん :2021/02/10(水) 02:02:49 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp
「これらの出来事が世界史に与えた影響も無視できず、ソ連は間違いなく史実よりパワーアップしています。
ドイツは黄禍論の本場と言う事もあり、ドイツ、日本は犬猿の仲となり、対ソ連を主目的とする三国同盟の成立は
かなりセンセーショナルな話になったようですね。おかげで、イギリスでは東洋外交は不可思議とか言い出して政権が
揺らいでますし……」
それどころか、史実より力のあるソ連はそれだけアメリカの眼を眩ませた。
ソ連の拡張にはアメリカも大いに関わっており、枢軸陣営の本当の目的は米ソによって結成された『大連合(グレート・ユニオン)』への
対抗措置であったと言える。米ソの結婚とまで言われた『大連合(グレート・ユニオン)』と枢軸の冷戦に世界は悩まされることになる。

「この世界線でのWW2は、枢軸が肥大化していく『大連合』の拡張を防ぐべく行った数度の『予防戦役』がすべての始まりだとか。
エスカレートしていって、ついには世界の半分を戦火で焼く史実より遙かに酷く、広く、おぞましい大戦が始まったと」
11年、日本参戦年数9年にわたって続いた戦争は、アメリカの作った核兵器を1発日本側が奪取作戦に成功。それを元に
史実枢軸陣営において尤も核開発を進めていた(と言うより日本くらいしかやってなかった)日本はついに2発の核爆弾を完成させた。
1発は北朝鮮で核実験に使用し、もう1発はアメリカから奪った物と一緒に米ソ軍の頭上に落とした。

「だが、代わりに4発の核を立て続けに食らいました。ドイツも1発食らってます……。そして日本の降伏と共に終戦。
降伏から半年、今もなお、日本には占領軍が続々と上陸しています。尤もこれらの占領軍はすぐにでも新たな戦争に使われるんでしょうが」
戦争が進むにつれて、『米ソの新婚旅行』とまで称されたWW2もだんだん米ソの殺戮競争へと変わっていった。
お互い、相手が大敵でしかないと気がついたかのように。そして、ついに日本の降伏を持って『米ソの離婚』と称される事件が発生。
ソ連が『大連合』からの離脱と『世界革命評議会』の設立を宣言。諜報活動により金日成攻勢の情報をつかんだ米軍は動き出す。

「マッカーサーが先ほど、『ベーカー62』の発動を命令したそうです。まもなく、北海道と朝鮮半島の放棄作業が始まり、大陸沿岸主要都市への
核攻撃が始まります」
「……史実でも与太話でありましたね。日本の核兵器開発施設が北朝鮮にあり、核実験も行われた。ソ連が凄まじい勢いで満州侵攻を行ったのは
核実験を感知しその施設を押さえる事が目的だった……って言う感じの話が。たぶん話に尾ひれが付きまくってそんな話になったんでしょうが……」
「この世界線だと笑えないですよ。本当にそうだったとしてもおかしくないでしょ!」
「つまり……ソ連も遠からず核兵器の開発に成功するって所か」
「「「…………」」」
料亭の一室で、沈黙が支配する。

「なんでこんなすべてが手遅れの世界線に今更目覚めたんだか……」  「……ひょっとしたらまだ終わってないのかもしれません」
「と言うと?」  「要するにこの核戦争、WW3? で日本を生き残らせろと言うミッションかもしれませんよ」
「そんな無茶苦茶な」
だが、やるしか無い。困った事に目覚めてしまったのだ。このクソみたいな世界線に。

「東条さん。この帝国に陸軍は……どうなんだ?」  「それなんだが、まず簡単に説明させてくれ」
そう言って彼は史実で38式歩兵銃と喚ばれた物を取り出す。

680: 名無しさん :2021/02/10(水) 02:04:05 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp
「これ、この世界線だと36式歩兵銃なんだ」  「は?」
「一式戦、隼に至っては史実計画より早いに37年に制式採用、量産開始だ。海軍のゼロ戦も96式って喚ばれてるぞ」  「……どういうこと?」
「要するに、航空機は4年速く、それ以外の兵器は2年早くに次々と開発されて採用されている。ああ、俺が調べた限りじゃそのおかげで
ゼロ戦のバリエーションが減ってたぞ」
実のところ、史実とスペックは大きく変わらず機械的問題点も特別変わっては居なかった。せいぜい、量産性と整備性、そして信頼性が史実より
改善されてる程度であり、ぶっ飛んだ性能を持つ物は無い。それでもそれらは大きな要素、史実よりパワフルな米ソの2正面作戦に9年間(11年間のうち正式に参戦した年月)
もたえ、大きな犠牲を払わせた原因と言える。

「なので、史実では量産なんか出来なかった5式戦車に当たる3式戦車が量産配備されていた。……と言っても国内にはかき集めても1個師団をようやく
編成出来る程度の数しか無かったがね。どうも武装解除が中途半端であちこちに武装した部隊が残ってる。完全武装で今も戦える優良師団が国内10個もあったぞ!」
おそらく、その10個は本土決戦用に温存されていた最後の決戦戦力だと思われる。おかげで、史実ガーランドコピーである4式半自動小銃に
あたる2式半自動小銃や2式戦車(史実4式)、1式戦車(史実3式)などが配備されている。そう説明した上で、東条は「ただし……」と言葉を続ける。

「どうも人的資源の問題に厳しいところがあったようでな。1個師団は女子供からなる少年兵ばかりの師団だったよ……」
「女子供ォ!? 練度とかは大丈夫なんですか!?」  「普通の歩兵師団としては十分次第点だ。逆に言えば装備を充実させてやってそれで限界と言うべきか」
その上でと言葉を続ける。曰く、実のところ国内で武装解除されたばかりの部隊をもう一度動員すればあと5~6個の師団を2週間程度で用意できそうだと。
だが、それ以上は奪われた権限などを時間をかけて取り戻し、再び戦時体制に入らないと無理であり、実質的に陸軍は

「やろうと思えば防衛に限り1~2ヶ月はこの世界線の米ソ相手に圧倒してやる。3~4ヶ月は勝てなくても負けない戦いをやれる。だがその後は全く保証出来ない」
「……大連合の日本占領軍は既に米軍が7個師団上陸しています。英仏協商軍が1個師団ほど……。まだまだ米軍は送り込むつもりのようで……
少なくとも、マッカーサーが決断した戦争を日本列島とその周辺の海と沿岸をステージにドンパチする以上まだまだくるでしょうね。あのソ連がよりパワフル
……米軍より師団数が少ないなんてあのソ連ならあり得ないでしょう……」
と、そこで新たな疑問が発生。

「まって、また新しいワードが出てきた。英仏協商?」  「ああ、どうも枢軸と大連合の冷戦時代って微妙に三国志だったようなんですよ」
大連合が結成され、それに対抗するように日独伊三国同盟が成立、そのまま枢軸と喚ばれる陣営となった事で世界は二大陣営がにらみ合う
そんな時代に突入した。が、その時代に迷惑していたのがいる。
大英帝国だ。

681: 名無しさん :2021/02/10(水) 02:04:39 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp
「で、さすがはブリカス。栄光ある孤立とか言ってられない状況において、自分を高く売りつける事で状況の打開を図った。
それが、似たような事情を抱えるフランスと手を組んで新たな陣営を立ち上げる事。そしてその陣営をオークションにかけた」
「……代価は繁栄と安全保障とか?」  
「ええ、そんなところですよ。オランダやベルギー、スウェーデンあたりを巻き込んで『協商』を立ち上げ、枢軸と大連合を天秤にかけた」
大英帝国に取って、枢軸への接近は問題が大きかった。だが、米ソ主導の大連合もまた帝国の維持に取って反対の結果をもたらしかねない
かといって、どっちつかずではいずれ潰される。それを解決する秘策が陣営を作って、その陣営を高い値段で売ると言う物。
枢軸陣営にとって、自分たちは大連合への当て馬だと分かっていたが、無視できず多額の工作資金が大英帝国に流れている。

「インド洋での各種作戦はそもそもこの世界線の日本が、日本としては珍しく一から緻密に計画した戦争戦略によって形成された物のようです
彼らは絶対国防圏の確立と……協商、特に大英帝国をこの戦争から離脱させ、その協商の手引きで講話を行うと言う計画を立ててました。
ペルシャ戦線はその要とされたようです。何しろ大英帝国唯一にして最大の油田地帯。米ソの連結線。そのペルシャを寸断すれば……
こうして、地獄のペルシャ戦線は始まったようで。そのペルシャ戦線を作る為、事実上インド洋が主戦場と見なされたようです」
尤も戦況図を見る限り、その戦略は破綻してしまったらしい。
絶対国防圏が完成した事で、日本は満州以外では5年にわたり、重要勢力圏への侵攻を防いだとされている。だが、
同時に広すぎる戦線は明らかに日本の国力を大きく超えていた。むしろそんな大戦争を9年間繰り広げた頭のおかしさよ。

「で、海軍はどうなのだ?」
「……航空機に関してはまだ調べきれていない。だが、艦艇に関しては史実、降伏の時と変わっていなかったよ。いくつかの例外を除いて」
「例外?」  「大和型4隻、全部完成していた。幻の4隻目は装甲空母だけどね。なのでその4隻目が生き残って連合艦隊旗艦だよ」
「あと、超大和型が未完成で1隻、ドッグに横たわっているよ」  「……頭おかしいな」
史実より強かった帝国海軍。そしてそのザマが史実と同じ状態の連合艦隊。むしろよくそれですんだと言うべきか。歴史の奇跡か。

「2発は史実通りの広島長崎、3発目は作戦行動中の大和におとされ、4発目が平塚(神奈川)に……あそこには海軍の弾薬工場が
ありますから……史実以上に軍需工業地帯だった用で、そこに落とされ全国どこもかしこも焼け野原ですし……。
他で何とか確保するにしても、ただでさえ、ぼろぼろの連合艦隊。最悪数回の戦いで終わることになると思ってください」
「……米国の支援とかがないと数度の戦いで海軍はダメになるって事ね」  「悔しいですけどね」

682: 名無しさん :2021/02/10(水) 02:05:18 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp

 ―― 旧ドイツ第3帝国、東部暫定境界線にて ――

 ジェーコフと言う人物は己をよく知る人物であった。自分に何が得意で何が不得意かをよく知り不得意に飛び込む真似はしない人間だった。
そんな人間だったから祖国の状態にも実のところ冷静に何が得意で不得意か、決して人前では口にしないがそれを良く理解していた。
だからこそ、現状に小さな不満と不安を抱えていた。

「目の前に協商捕虜軍か……。日本人が多数見られるな……」  「同志ジェーコフどうしたのかね?」
「……いや、我々に作戦術の基礎を教えてくれた日本人の姿を見て、彼らを超える事が出来た党の力に感銘を受けているのです!」
「そうか! それは良かったよ、同志。ただ……一つ瑕疵がある。確かに作戦術の基礎にヤポーシュカの手が入ってる事は認めよう
だが、それだけだ。最初から我らが上だ。君主制などという前時代の遺物に固執する彼らはそれを捨てたブルジョワヤンキーの方がまだ進んでいる」
すぐとなりで唱えられる政治将校の言葉が終わると同時にジェーコフは双眼鏡で見える向こう側を見ながら、指先を動かし、部下へと指示を伝える。

「コリアで始まる戦闘が規定の戦闘範囲を超えた場合、すぐにでも進軍する。今度こそパリへ突撃するぞ」
尤もその先はたぶん続かないと思いつつ。


「ありゃ、すぐにでも出る気満々だな」
大日本帝国陸軍イタリア派遣軍の富永少将改め、英仏協商第2捕虜収容所管理連隊第2部隊の富永は双眼鏡片手に固いパンを囓りながら暫定境界線の向こう側に
見えるソ連軍を見ていた。

「こ、まんだー、トミナガすぐにでも出るの?」
後ろを振り返り、声の主を見る。まだ14のドイツの少女が似合わぬ泥で汚れ、ボロボロのドイツ国防軍の軍服に英仏協商捕虜を意味するステッカーを貼ってそこに立っている。

(どうして、こうなっちまったんだろうな……)
夢幻会の富永では無く、この世界線の軍人富永であった頃の記憶を振り返る。そうあれはもう5年以上昔になる。忘れられた煉獄、南米戦線。

南米にも枢軸陣営の国が居る。ベネズエラや史実でもアンチイギリスの英連邦だったアルゼンチンと言った国々だ。国力が拡充した結果が
枢軸に入ってのアンチ英米だったのだ。
結果として、彼らへの最低限の政治的ポーズとして、枢軸の三大盟主国、日独伊は戦力を派遣せざる得なくなった。
とはいえ、南米である。彼らはやっとの思いで1~2個の連隊の派遣と作戦機の供給を行い、南米戦線を形成した。
が、アメリカの裏庭でそんな事をして、アメリカがぶち切れないハズが無い。せいぜい現地での軍事教練程度と思われていた日独伊が派遣した
それぞれ1~2個の連隊はすぐさま多国籍大型師団となり、補給の難しさなども相まって『忘れられた煉獄、南米戦線』と言われるようになった。
とはいえ、アメリカ側もクソインフラの南米に大軍を派遣しても反米感情も相まってうまくいかないと冷静に判断、少数精鋭で押しかけた結果

683: 名無しさん :2021/02/10(水) 02:06:20 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp

(……数年ずるずると続く激戦区になった……)
日独伊は少数精鋭、アメリカも少数精鋭、正直戦争に強いと言えないベネズエラやアルゼンチンの軍隊。
必然的に枢軸軍も大連合軍も共に徒歩での機動防御と浸透強襲作戦に明け暮れる事になる。せっかく占領した場所も数日で奪われ奪還作戦を実施。
占領防衛が出来るだけの能力が無いから数日後に再び奪い奪われて……。
帝国陸軍は絶対国防圏が完成した時には新たな作戦機提供と引き替えに戦線を整理、南米を放棄するつもりだったが政治的事情やアメリカ海軍の妨害により
結局ドイツ軍の撤退に同行させてもらう形で大西洋ルートでの脱出となった。こうして、南米派遣軍は看板をイタリア派遣軍に付け替え、挙げ句の果てに
ドイツ軍のパシリとしてバルカン半島の戦場で独ソ戦としゃれ込むことになった。

「……トミナガ?」  「こいつらもよくまだうごくなぁ……たった2両だけど」
日本から持ち込まれた2式戦車と3式戦車(史実4式、5式)、結局の所、M4シャーマンにタイマンで勝てる。と言うだけの性能の戦車でしか無いところが日本の限界を
感じさせている。しかし、困った事にこいつはそれなりの数がそろった時だけとはいえバルカン半島やアフリカにおいてドイツ軍では重宝されていた。
簡単な話だ。ドイツより工業技術の低い日本で作られたシャーマン越えの戦車である。
ついでに、史実より生産性が上がっている。最低限の数さえあればドイツの工芸品染みたハイパー強い戦車より、最悪、使い捨てが効くのである。
日本がこの世界線において史実より生産能力が上がっている理由は単純明快だ。
WW1の時、後に正式にWW0と数えられるようになった日露戦争で国家総力戦の基礎に繋がるノウハウを構築した日本はそれを各国に提供する際各国の
技術と取引を行った。しかし、そもそもどんな技術があるのか知らなければ意味が無い。

(アンリ・ファヨールだっけ? 知らない名前だったけど、この間夢幻会の連中に話したら知ってる奴はすげぇ顔してうらやましそうにしてたっけ)
こうして査察団が各国に送り込まれ、史実でもまだ生きていたとあるフランス人と査察団に入っていた住友財閥が接触したのである。
経営学、経営戦略論、そして大量生産理論。これら3つの理論には2つの始祖と再編者たちの系譜がある。
一つが日本でとても良く名前を知られた人物。テイラーと言う人を始祖とするテイラー主義、科学的管理法学派。
そして、もう一つが日本人がその恩恵を受けているにもかかわらずその存在を殆ど知らない物。
管理過程学派、フランス人アンリ・ファヨールを始祖とするファヨール学派である。
実のところ、テイラーもファヨールも史実では半世紀から1世紀近くにおいて忘れ去られていた人物である。
なお、最後の再編者たちの系譜をバーナード・スクールと呼ぶがそれは脇に置いておく。

テイラーの場合は単純で
  • 詐欺師と思われた
と言うのが理由だ。テイラーの科学的管理法を始めて聞いた経営者の多くが、ただ表面だけ真似して労働者から搾り取ろうとした。
当然労働者サイドにそんな意図が目に見える経営術に従って生産性を分かりやすく上げるはずが無い。結果として科学的管理法は
次々と各所で失敗。経営者と労働者それぞれに恨まれる羽目になり、忘れ去られることになる。

ファヨールの場合は少しだけ複雑だ。
  • 優秀なインテリであったが、それ以上にたたき上げのファヨールはエリート主義のフランス社会に取って異分子であった
  • テイラーと違って著作が未完の大作となってしまった
  • ファヨールの死後、ファヨールが成長させたコマンボール社はファヨールの遺産により大きく一度は飛躍するが遺産を使い果たすとすぐに破産し
20世紀前半のうちに消えてしまった。
  • 彼の息子は皮肉な事に狂信的なテイラー主義者であり、父親の偉大な業績と理論に背を向けてフランスでテイラー主義の伝道者となってしまった。

684: 名無しさん :2021/02/10(水) 02:07:10 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp
しかし、この世界線におけるファヨールは少しだけ違った。WW1の時に、住友はコマンボールという未来の無い鉱山会社をたった数年で立て直し
次々と斬新なアイデアを形にして、生産性を上げていくファヨール本人と……史実では未完の大作を書く構想を始めた時期の彼と
接触することになったのだ!

と、ここまで言ってもファヨールなる人物を知らない人には彼が成し遂げた事がどんな物なのかよく分からないだろう。なので
ファヨール学派の系譜に位置する偉大な理論の一つを提示しよう。
Plan Do Check Act (計画し、実行し、調べて、改善する)
P.D.C.A.サイクル。
その基礎概念の生みの親であり、最初にそれに限りなく近い事を現場で実践し、成功した人物。それがアンリ・ファヨールだ。
同じ鉱山業種であった住友の人間だったからこそ、ファヨールのコマンボール社を見たときの衝撃はとんでもない物だった。

「トミナガ……?」
すぐさま、彼の業績やその経営手法は日本人の研究対象となり、日本の産業界を席巻、その流れは当時は同じ同盟国と言う事もあり
近代化に乗り遅れていたロシア帝国にも波及する事になっている。もっと言えば史実世界線においてファヨールの理論は後に
軍隊の組織運営にも取り入れられていたような物だ。その有効性に帝国陸海軍人や官僚たちが気がついた時、日本の国力が肥大化を始める
最後の起爆剤となった。
特に、ファヨール研究の一つの成果である、コンティンジェンシー理論は帝国陸海軍人の中に熱狂的な狂信者を生み出したほどである。

「ああ、すまんすまん。考え事だ。……たぶん協商は俺たちをソ連軍にぶつけるつもりだ。ジュネーブ条約をなんだと思ってやがると言いたいが
バカ正直に守ってる連中が今は少なすぎるか。ウチの祖国(大日本帝国)に至っては参加してないしな……」
「……それでも大連合に捕まるよりはマシ。……ありがとうトミナガ」  「いや、おまえさんたちは頼まれただけだ」
バルカン半島の戦いの真っ最中にベルリンが陥落し、ドイツが降伏したというニュースがようやく届いたとき、ソ連軍の大軍は今まさに枢軸の日独伊の
バルカン軍団は飲み込まれ消滅の危機に遭った。


―――― ――――――
「トミナガ。おまえたちはどうする気だ?」  「敵はこちらを両翼二重包囲しようとしている今しかありません。脱出出来る機会は今だけなのです!」
「それは分かっている。だが、どこへ? 本国は降伏した。イタリアも落ちた。どこにも逃げ場は無い」  「まだあります! 前進するのです!」
「前進? おまえさんまさか……」
富永はドイツ国防軍大将の階級章の前で宣言する。

「敵の機甲師団を真っ正面からぶち抜き、可能ならばギリシャ、マケドニアまで進みます! 『進撃(撤退)』するのですよ!」
ギリシャ、マケドニア……そこに何があるのか。意味を理解したとき今まで日本人をただの使い勝手の良い自立式サル人形と
心の奥底で思っていた大将に電撃が走った。

「き、貴様は……」  「大連合に捕まってしまえばもうどうしようもない。ならば協商に降伏する! 協商占領地までまっすぐ突っ込むしかありません!」

685: 名無しさん :2021/02/10(水) 02:08:08 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp
――――――――――――
「こまんだー」
14のドイツの少女。いや、ドイツだけではない。少女だけでは無い。少年少女。
脱出する富永に託された少年兵たちの群れ。

「頼む……」
泥沼化する戦いの果てに、人的資源の問題は各国を直撃。日露戦争時、志願に限り若い女性さえ軍人にした日本という実例は
少年兵たちを戦場に送り込む仕組みへと各国で至った。
けれどもそれは未来の破損。

(15と21それ以外……)
開戦時に15歳もしくは21歳であればあえて永久徴兵免除とすることで未来への人材プールを守ると言う最低限の保険こそ
日本では行われそれを真似した物が後からドイツとイタリアでも始まったが、逆に言えばそれ以外の年齢層は根こそぎ動員へと繋がっていった。
イタリア派遣軍。戦闘群連隊という自力でたどり着いた帝国陸軍流の連隊戦闘団もどき2個をまとめる独立混成旅団長だった富永の元には
各国の少年少女と将来有望そうな若手将校が幾人か集められてしまった。

「もはや、全軍での撤退(前進)行動は不可能である。傷病兵を多く抱え、戦車の多くが部品、燃料を失ってただのスクラップになっている。
だが、支援作戦は行える。トミナガの旅団を再編、師団規模とする。残る将兵諸君はトミナガ師団の脱出を支援し援助する」
ドイツ国防軍の大将を示す階級章。一呼吸。参謀将校たちのすすり泣く声が時折聞こえてくる静寂。

「むろん、トミナガ以外に脱出出来そうな部隊は各自の判断で脱出したまえ。祖国の未来に向かって前進するのだ。
その上で優先順位を間違えてはならない。自らの脱出が叶わぬ場合は、しんがりとして、或いは1人でも多くのヤンキーとモスカーリどもと
戦って死ね! トミナガたちを脱出させるために!」
如何に温暖なバルカン半島と言っても北部での冬は冷え込む。時折煤で汚れたどす黒い小さな雪が降る中で、バルカン軍団による
最後の大決戦が始まろうとしていた。目的はただ一つ。1人でも多くの祖国の子供たちを…………。


―― ――――――――
轟音、爆音、炸裂音!
戦車が得意とする平原は無く、起伏の激しい場所。砲塔の中で人間が天井に頭をぶつける中、次の標的へ

「テッ!」
戦車砲が火を噴き、目の前のT-54.46型の側面装甲を爆轟と共に黒煙の柱が立ち上り燃える。
3式戦車が動けるまで後せいぜい数キロ。部品は摩耗し共食い整備でかろうじて動かしてるし、砲弾の数に限りがある。
だから勝手に数キロと考えた。そして自分の車両だけじゃ無い。他の貨車の類もきっとそうだろう。その後は徒歩で。

「帝国陸軍の伝統! 徒歩運動戦を見せつけてやる前に、路助のアホに目に物見せてやれ!!」
尤も帝国陸軍の伝統芸能である徒歩運動戦をドイツやイタリアやその他各国の少年兵にやれと命じるのは
無茶があるだろう。故にやらなければならないのは

「敵の兵站デポはどこだ!? 最低2両! トラックを鹵獲しろ! T-34でもクリスティーでも何でもいい! 使えそうな敵車両を
1両でも多く鹵獲しろ!! それでバルカンを突っ走れ! デポにたどり着いたら5分だけ時間をやる!
整備兵はそれで直せる物は直して見せろ!!」
「将軍! 新たに戦車1個中隊きます!」  「底なしかよ!」
T-54.49型に率いられたT-34.85の中隊。
それだけでは無い。ソ連軍の戦い方の本質は全縦深への同時攻撃と全戦域での大規模突破、そして無停止進撃。
つまりは必ずそれが居る。それが居なくても代わりにそれが大空を染め上げる。

「トミナガ! ヤーボだ!」
P-47サンダーボルトの編隊。
結婚とまで称された米ソの仲の良さと大連合という同一陣営だからこそのソ連製サンダーボルトの群れ。
反応するように動き出すのは、たった2両しか無いチハの車両に86式野戦高射砲(史実88式)と90式車載機関砲(史実92式)を1門ずつ
搭載した『対空チハ』。

686: 名無しさん :2021/02/10(水) 02:09:04 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp
「まて! まだ撃つな!! 対空噴進砲用意!」
7式挺身噴進砲対空仕様。バックブラストによって死なないように人間が持つのでは無くリアカー式の4連装にされている。
専用のロケット榴弾を打ち上げて敵機を攻撃するそれは、残念なことに有効性は低いと言わざる終えずただの嫌がらせ兵器でしか無い。
それでも時にそれを敵軍に向けて撃ったときは恐怖の対象となり、4連装のロケットリアカーは最優先での撃破対象として扱われている。
史実帝国陸軍には一つの悪癖がある。現場の創意工夫が広まらず組織的学習能力に難ありと言う部分だ。
理由は単純で、帝国陸軍の兵器はそのすべて、天皇陛下から預かった大事な物であると言う建前だ。いつかきれいにして返さないといけない。
故に、現場での改修や改造は控えるべきで、わかりきった蛮勇的使用法はもってのほかであると言う物だ。結果として現場の創意工夫は
きわめて限定的にならざる終えず、問題も多かった。

「撃て!」
2両のロケットリアカーからそれぞれ4発のロケット榴弾が飛び出す。そして空中で起爆。
その花火を避けるように動いたヤーボの群れ

「チハ、今!」
対空チハがその高射砲と大口径機関銃(車載機関砲)を駆使し、ヤーボの編隊へと。
尤も一時的に追い払うのが限界だろう。そして、それも貴重な対空チハ2両の喪失の引き替えの。
対空火力を失ったと言うより、貴重なタンクデサントで兵隊を運べる車両が減った事の方が大きい。

「トミナガ、ヤーボがいったん距離を取っていくぞ!」  
「なら今しか無い! 突っ込め!! 敵の戦車隊に! 接近戦で、ヤーボが、撃てるわけないだろ!」
現場の創意工夫が出来ない軍隊とそれが出来た軍隊がぶつかった分かりやすい実例が史実にある。
史実ノモンハン事変だ。キルスコアだけで話せば日本が勝ってもおかしくは無い戦いだが、戦略目的からすればとんでもないボロ負けの戦い。
後のイメージと違い、この時代のソ連戦車部隊はそれこそ火炎瓶でも適当に投げてるだけでぶっつぶせるようなカスであったと言っていい。
だが、ソ連軍兵士たちだってでくの坊でも無ければ死にたがりでも無い。彼らはすぐさま戦車の現地改良を始める。そしてその有効性を一回でも
確認したら、上が命令するよりも前に全軍にそれは広まっていった。こうして、初期の戦いと末期の戦いで帝国陸軍は十数時間程度の時間で
学習し対応する強大なソ連軍を目撃することになる。こちらの戦術、兵器、運用。そのすべてを驚異的な速度で学習し対応策を提示してくる軍隊を。





「クソっ、こいつもダメか」  「政治将校とやらに有能がいたようですね。このデポに無事そうな車両はトラックが2両だけ……」
「敵戦車とヤーボに時間を取られすぎた。60秒後に出発するぞ!」  「せめて10分の休息は……無理ですね」
「足を止めれば死ぬのはこっちだ。ソ連軍お得意の無停止進撃をやんなきゃいけないのはこっちだ」
史実帝国陸軍の悪癖はアンリ・ファヨール理論を受け入れた事による意識改革を通じて解消されたと言って良い。
何故ならばファヨールはトヨタ式……現場の創意工夫を最善と尊ぶ『創意』という概念を中心核においている。
何よりも史実より泥沼化し、長期化した日露戦争の記憶が、『何だってしなきゃ滅びる』というメンタリティを作り上げた。
ロケットリアカーも現場の創意工夫で作られ、今や広く各所で作られてる物だ。挺身隊用の7式噴進砲を4つ
リアカーにアタッチメントを組んで取り付ける。バックブラストによる事故を防ぐためにこんな形になった。
まだまだ未来のロケット砲や彼の傑作RPG-7のようにはいかないらしい。

「トミナガ! 新たなヤーボが!」  「ウッソだろおまえ!」
直後、聞き覚えのある轟音がヤーボのエンジン音をかき消す。

「メッサーシュミット!!」
バルカン軍団の虎の子、最後のMe262飛行小隊。そのうちの1機。そして、その姿を大空で見るのはそれが最後となる。

『――見つけた。トミナガを見つけた!! 少年兵たちもまだ生きている!』  
『 全機に告ぐ。全部たたき落とせ! カミカゼしてでも敵の滑走路に大穴開けろ!』


日独伊やその他の国籍の軍隊が加わり、最終的に7個師団規模にも及ぶバルカン軍団。
協商に捕虜となった2個師団規模の兵員を除く人員の行方は大戦終結から半年たった今でも分かっていない。
生き残った軍団の人員は皆口を揃えて次のような事を発したという。

―――― 「 最高最強最速で最悪最恐最後の『電撃戦(プリッツ・クリーク)』だった 」と……。

687: 名無しさん :2021/02/10(水) 02:09:39 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp

協商、すなわち大英帝国とフランスは頭を抱えた。何故か『大連合(グレート・ユニオン)』より倍以上の
捕虜を抱える羽目になり、彼らへの生活費がバカにならないのだ。
そこで考えを改めた。捕虜は枢軸の軍人たちである。多少年齢が気に入らない連中が混ざっているが
どうせ、大連合は空中分解の果てに米ソの頂上決戦が始まるだろう。ならばその時に備えてフランスの
肉壁として旧ドイツ領内で暴れてもらおう。

「そろそろ帰ろうか。飯の時間だ。自分でせっかくのご飯の機会を減らす必要は無い」
「うん。行こう。こまんだー」
とはいえ、大英帝国ことイギリスは国民性として子供にはとても甘い。子供の命ガーと言われたらパブロフの犬みたいに
反応してしまうほどに。
捕虜収容所管理部隊なる捕虜を使用した即席の連隊や師団の数々の中に、旧バルカン軍団富永師団を
ベースにそのまま編成されたその部隊がある。おそらく遠からずこの部隊は後ろに下がる事になるだろう。
尤も……

(……あっちが先か。こっちが下がるのが先か……運次第だな)
富永は食事を楽しみにしているドイツの少女の姿を目で追いながら思うのだ。破滅は近いと。

688: 名無しさん :2021/02/10(水) 02:10:44 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp
―― 朝鮮半島、釜山にて ――

 帝国海軍の将官である草鹿にとって、復員船団と称する連合艦隊の生き残りをこの港町に寄港させるのは正直な所、悔しさが胸から
わき上がってしょうが無かった。
が、夢幻会の1人として目覚めた今だともう一つの思いがわき上がってくる。

(むなしさか……)
既に終わった世界線。今頃、この世界線初めてとなる夢幻会の会合が帝都で行われているであろう状況下。それでも思わざる終えない。
この世界線は既にすべてが破綻した世界線だと。
無理を言って1人にさせてもらい1人、港を彷徨い歩く。

(……史実の韓国とも、俺がしってるあの平成の朝鮮半島とも違うな……)
この世界線の日本は日露戦争が泥沼化しシベリア出兵の果てにようやく判定勝ちを拾えた国だ。そんな国に史実のような併合は無理だった。
資金が足りない。無理だ。政治環境が併合を不可避だと説いたとしても、扱えない。
……とはいえ、無理難題をかなえるために出した知恵、それが『藩王国』にして独立採算制を取るという物。

(けど、この土地の腐敗貴族どもがまともに統治出来るとは思えない……)
故に、大韓帝国皇族を立てて、朝鮮半島を三韓……高句麗、百済、新羅の3つの藩王国に分割、日本が派遣した少数役人で
統治出来そうな形態を作った。藩王国政府の実態は数十人規模の日本人官僚に使われる朝鮮人役人の群れであったのだ。
尤も三分割の独立採算制で早急な近代化と国防強化が出来る訳無いので、縦に2本、横に2本からなる朝鮮半島縦横鉄道の計画だけは
全額日本政府持ちで進められる事になる。
そして、大正期、そして昭和へと進むにつれてこの世界線の大日本帝国は史実よりバブリーでちゃんと知性を活用出来る余裕を得ることになる。
だが、そのことが余計にすべてを追い詰めている。

(統帥権干犯……騒ぎ事態はこの世界線でもあったみたいだけど、史実みたいな方向に進んでない。……史実みたいに
全部暴走した軍部が悪いんですカードが使えない……)
帝国憲法において悪魔のように語られる統帥大権だが、ぶっちゃけ文面と純粋な法理論だけで言えば何が問題なのかさっぱり分からない。
むしろ諸外国においても同様の物がある以上、それが無い日本国憲法なる物の方がぶっ飛んでいるとも言える。
つまり、日本だけ何故か、他の国では問題無い物が爆弾になった。
そうなった原因は2つ。政治家の自爆と、政治家嫌い、アンチ議員を拗らせた山縣有朋が帝国の体制に仕組んだ対議員用ブービートラップの数々。
……逆に言えばその2つを事前に対処していれば何とでもなる。
そして、それが逆にこの世界の日本を現在進行形で追い詰めている。……国体がどうなるか最悪分からない。

「すべてが終わった世界戦……」
思わず口から出てしまう言葉。ふと立ち止まって風景を眺める。
そこに、1人の帝国陸軍の軍服を着けた人物が近寄ってきた。

689: 名無しさん :2021/02/10(水) 02:11:59 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp

「草鹿提督であられますか!?」  「あ、ああ、そうだ。よく分かったな……」
「私は初代ではありますが、純血の軍人を目指しておりますゆえ!! 将官の皆様のお顔を写真集で知っておりました!」
「お、おう……」
史実と違い、この世界線の帝国海軍は複雑だ。
バルチック艦隊を打ち破る日本海海戦の栄光によってるまさにその時、何を思ったかは知らないが
クロパトキンが後に『クロパトキンの最終攻勢』と呼ばれる『全戦域全面大攻勢』に打って出たのだ。
そして、帝国陸軍の戦線は各所で崩壊、総崩れとなった。
この状況下で何とかするべく、血反吐を吐く思い出補充兵と補給物資を詰んだ輸送船が出航して……時化で沈み
そのことを政府の人間たちがそろって嘆いていたその場面を見事に盗み聞き成功させた新聞記者が煽りながら暴露。
『対馬を祝福した声はたやすく呪詛へ変わる』。

「純血軍人で陸軍か……やはり海軍は嫌かね?」  「えっ!? い、いえそのようなつもりはありません! 本当です!」
「ははっ、いやすまん意地悪な冗談だったよ」
第1次日比谷事変で容赦なく海軍省は襲われ、栄光とかっこよさを併せ持つその海軍の軍服は、唾と石と泥を投げられる
単なる的に落ちぶれた。民衆からして見れば東郷平八郎は軍神でも何でも無く、期待させるだけ期待させたペテン師に成り果てたのだ。
勝った。大勝利だ。栄光の大勝利に戦争は終わるのだと期待させて見ればこのザマ。おまえたちは何のためにいて
何のために誰と戦ったのか。真の敵はクロパトキンであり、輸送船を救えなかった愚か者たちであると。
返せ、俺たちの兄弟、親父を帰せ。息子を帰せ。ああ、娘が国に徴用されていく。女子供までもが兵士に志願していく。
『 おまえたちは誰と戦って、結局何をしたの? 』
帝国海軍の栄光の大勝利、日本海海戦を称えるのは他国人ばかりとなった瞬間であった。

「だが、すまないね。たぶん軍は解体される。純血も何も……」  「それでも……私はそれを目指しております。そうなると確信しております」
「……そういえば君、名前は?」  「ハッ! 高木 正雄帝国陸軍中尉であります!」
「……ッ、高木 正雄……君か。いい目をしている」
もう少しで、驚愕の表情を表に出していたであろう。その名を持つ人間はもう一つの名前で知られている。朴正煕だ。

「こんな状況じゃなかったら、君の出世の力になれたかもしれないが……すまないね」  
「いえ、必ずや軍は再建されます。帝国軍では無くとも、誇り高き国家の防衛軍として! ……出なければ、朝鮮はアカの血に全土が染まります」
言葉を失った。後半の言葉は力強く、まっすぐな瞳で語られる言葉であったからだ。
満州で8年間繰り広げられた日ソの激戦は朝鮮半島に住む人々に恐怖を与えるのに十分であったと言って良い。
ましてやついに高句麗領土の半分の占領に成功し、ソ連軍はついに大日本帝国の核施設へ踏み込んだ。

「……君は口は固いかね」  「? 一体何を」
「占領軍は朝鮮半島の放棄を決定した。半月もすればソ連軍がここに押し寄せてくる」  「――――!?」
驚愕の顔。相手はあの朴正煕。だからこそつい口が開く。

690: 名無しさん :2021/02/10(水) 02:12:42 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp

「金日成という男がいる。あの男が、半島全土を手にするべく、スターリン、トロツキー、ニコライ、そして毛沢東と董必武の承認を取ったそうだ。
動員される戦力はおよそ17個師団。機甲師団が2個混じっている。場合によっては中ソが北九州上陸を目指して動く……らしい。
……情報はどれほど秘匿しようと漏れる物だ。何しろ米ソは離婚する前までは世界相手に新婚旅行を巡り歩いていたんだからな。
マッカーサーはその情報を受け、半島の放棄と原子核反応兵器を本国から急ぎ輸送させている……」
驚愕を超えて蒼白となった表情。人間はこんな顔も出来るのかと草鹿は少しだけ状況に合わない学習をついしてしまう。
そして、それがちょっとだけ楽しくなった。

「……な、何故それを私に……」  「純血軍人を目指すと言う君の目が気に入った。言いふらさんでくれよ……」
2度にわたる日比谷事変の後、日露戦争の後、帝国海軍は一つの学習を得た。民衆という物は信用出来ないと。
だが、同時に民衆の心が折れない限り、どれだけ苦しくても戦争は続ける事が出来るのだと。
戦争に勝つとは、究極の所民衆の心を何度でもたたき折る事を刺すのだと。日比谷事変の最初のきっかけとなった
新聞報道に帝国海軍が目を向け、プロパガンダの研究へとのめり込むのはある意味で当然と、何時しか
新聞、雑誌などの『御覧のスポンサー』の一覧に『帝国海軍』の4文字が並ぶ事になっていく。
逆に言えば、一撃講和論とは、民衆の心が折れない限り、絵に描いた餅以下であると気がつく伏線にもなる。
そして、帝国の民衆の心をおらせないためには時に、無駄な行為が必要であるとも。

『 帝国海軍は帝国臣民を守る実力と気概がある 』そのような喧伝を積極的にしなければならないと。

その状況で第1次世界大戦へと帝国は足を踏み出していく。
フランスへの査察団の中にいた住友の人間が、コマンボールの噂を聞きつけ、観光気分で訪れ衝撃を受け、
『コマンボール詣で』が査察団及び財閥の大流行となる中で……海軍は住友経由でファヨールと出会う。
何しろ、住友は海軍との付き合いが強い。その住友の人間が大興奮しているのだから興味を覚えるのだ。
かくして、戦時量産型の駆逐艦などを作る過程に導入されるファヨール学派の成果に……焦りを覚える勢力があった。
住友に出遅れた三菱である。こうして三菱もファヨール学派の導入を図るが、ただでは起きないのが三菱である。
何しろ、ただでさえ出遅れているのだから、ただ導入したところで後追いにしかならないと彼らは見切っていたのである。

「……提督。武器庫の管理について聞いても大丈夫ですか?」  
「私には答えられん。……だが、復員で混乱しているからな。おまけに本国では手当たり次第機密書類を燃やしたせいで
何がどこにあるか把握出来て無いという噂話だ。この状況下では逃亡兵も処罰出来ないだろうなぁ……今は」
ファヨール学派の基本は現場の創意工夫を生かす管理体制を作り続けること。そしてそれに尤も重要なのが管理職の
育成であると考えている。……だが、困った事に帝国にはこの教育された大量の管理職が居なかったのである。
軍人以外では……。
なので、三菱は横紙破りに手を染めた。陸軍幼年学校、士官学校、そして海軍兵学校への卒業予定者の前に
札束の山を積み上げたのである。
……今では2代続けて、財閥の誘いを断って軍人一筋の道を進んだ人間を『純血軍人』と呼ぶ風潮さえある。

691: 名無しさん :2021/02/10(水) 02:13:13 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp

「……提督。武運長久をお祈り致します」
敬礼。敬意の念が伝わってくるほど見事な。

「……」
草鹿もまた敬礼を返す。そして、帝国陸軍の軍服はその身を翻す。
遠からず、武器庫の武器が行方不明になるだろう。大量の脱走兵も生まれるかもしれない。
けれども、少しだけ心が澄み渡った。

軍服に投げられる罵声。それは陸海軍関係無しに浴びせられる唾であった。
けれども、海軍にとって、大勝利の後に裏切られるように吐きかけられるそれは、組織的トラウマであった。
プロパガンダ研究の結果として行われた護送船団してるフリ作戦は何時しかフリでは無くなり、御覧のスポンサー一覧の
帝国海軍の4文字は陸軍、内務省、外務省を焦らせるだけの物があった。
2度に渡る日比谷事変のトラウマもあり、何時しか陸軍もまたスポンサー一覧に名前を載せるようになり、
内務省は宣伝庁と保安隊なる準軍事組織を編成する事になる。結果論ではあるがそれにより
515も226も未遂騒ぎも全部消えて無くなった。

大英帝国において、日露戦争を研究材料にして国家改造を議論していた
フェビアン協会との繋がりを持った政治家や軍人たち、官僚たちは適切に国力の増強に成功させ――

――それでも歴史はまるで総力を挙げて進むように破局的な戦争へと踏み出していった。
終わった世界線。そうかもしれない。だが、本当にそうか?
これから始まる新たな破局に立ち向かう1人の軍服男の背中に――――――草鹿は小さくとも希望をみた。

時代は、1950年6月。日本降伏より半年。史実なら朝鮮戦争の始まりである。
この世界線の人々は後に、『継続大戦』と呼んだ。

692: 名無しさん :2021/02/10(水) 02:15:31 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp
以上です。全世界で泥沼で長期の末期戦をさせようと思った結果
ほぼすべての国の国力を大なり小なり強化すると言う歴史改変を強いられた結果

とにかく全部蹂躙してやろう! って気分になったネタです
多少下駄を履かせれば米ソならいくら盛ったってええやろ……(暴論)

と言うわけで本作最大のご都合主義は、実は史実独ソ戦レベルの苦戦と激戦を9年間くらい続けて
戦い抜いた米ソだったり……

ものすごく長くなりました。ごめんなさい、終わります

700: 名無しさん :2021/02/10(水) 17:23:59 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp
皆様が楽しんでいただけで幸いです。
最初言いましたとおり、元々はなろう連載を目論んだネタでして、今でも目論んでは居ます

何時始まるか全くわかんないけど(今年の夏にはやろうと思っている。思ってるだけで2年くらい経過)
なので、一応この後どうなると言うのも考えては居ますけど夢幻会突っ込んだ為、もう自分にもどうなるか分かりませんw

米ソの財政や人口? 多少下駄さえ履かせればいくら盛っても米ソならええやろ(再びの暴論)
ま、まぁ、一応設定上はその辺も一応触れてはいて、例えばソ連の人口は革命時の内戦やウクライナの餓死などが減った事で
元々多めになってたり、アメリカはイギリスの国土防衛法を見習った国家戦勝実現法とか言う法令を定めての史実を超える戦時統制体制
を最初期からやってたり、そんな感じです

それでも財政やら人口ピラミッドはトンデモになってまして、だからこそ今頂上決戦をしようとしてるという
米ソ「「このままでは二度と戦えなくなってしまう。戦えるウチに奴らを叩くぞ!」」
みたいな。夢幻会無しバージョンの話ですが
ベーカー62は本国の反発や日本政府の反対などの要素から史実ベーカー65方向に修正
(朝鮮半島の放棄、北海道は状況を見て放棄、核兵器は4発まで)
継続大戦は1年半、パリにて停戦発効。ドイツはきれいに2分割、釜山を除く朝鮮半島全部陥落。日本本土決戦も起きたけどそちらは
全部叩き出した感じで終結。11年後に我慢できなくなった韓国軍による北進開始、日本が参戦して日本海戦争勃発。
38度線で停戦。以降、大まかな流れだけは90年代まで史実通り

米ソ東西冷戦の終結は2001年9月11日のソ連崩壊。日本は『21世紀最後の反共軍国主義国家』と呼ばれる猛犬に
尤も共産主義が関わらない限りは無害なチワワ扱いでエステニックジョークでも

『売れないホテル、困って看板を出した。「宿泊料の一部を反共産主義活動に寄付しています」
日本人が山ほど泊まりに来て人気ホテルになった』という感じの国になってます。あくまでも夢幻会無しバージョンです
なので、このスレの場合では分かりませんw

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2021年02月13日 11:26