227: 弥次郎 :2021/02/21(日) 00:46:19 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
憂鬱SRW GATE 自衛隊(ry編SS「未熟なる果実たち」




 自衛隊や米軍の特地派遣軍の戦力育成は実地訓練も含んでいる。
 幸いというか不幸というべきか、現状、ヴォルクルスが無尽蔵に戦力を生み出し続けているので訓練相手には困らないのだ。
 直近で決戦が近いということもあり、スパルタなのは避けえない。放り出して戦場の空気に強制的に慣れさせるしかない。
もちろん、護衛機というか教官の機体、カタクラフトではなくハイエンドノーマルなどであるが、それらが控えている。
 とはいえ、一歩間違えば死ぬことは間違いない。浮かれてデモンゴーレムに吹っ飛ばされ重傷を負ったパイロットが出たように。

 そう、死だ。訓練中の事故や災害派遣などの例外を除けば自衛隊というのは公式には自衛官の「戦死」というのは存在しない、はずだ。
故にこそ、死というモノへの慣れが、言い方は悪いがピンとこないものだ。
 対して、米軍はそのアメリカの国家事情的に戦死など珍しくはない。戦死だけでなく負傷による後方への移送やPTSDなど、最先端国家故の苦労も抱え込む。
 しかして、そんな両軍をして、特地での死亡一歩手前の負傷者というのは衝撃的な出来事であった。
 悲惨さが違うのだ。コクピットブロックというのはパイロット保護のため頑丈に作られる。されど、それには限界がある。
それは機体に搭載できる防御機構の限度であったり、素材の限界であったりと様々だ。ともあれ、限界はあるのである。
 そして、その頑丈さはイコールでパイロットへの凶器となる。すなわち、装甲がパイロットに襲い掛かるのだ。
 つまり、コクピットごとそのまま圧殺される可能性があるということ。もちろんイジェクト機能も備えているのだが、間に合わないこともあるのだ。
 そのことは無論知らされてはいた。だが、それを体験することとは全く衝撃度合いが違うというモノ。
 戦うことの悲惨さ、あるいは簡単に命が消し飛ぶかもしれないという恐怖。それは、浮かれていた両軍パイロットたちの意識を高めることになった。

 そんな事情があり、実践演習は緊張の中で行われていた。敵の主力は群れからはぐれているデモンゴーレムら。
デモンゴーレムなどの低脅威と言えども死ぬかもしれない。というかだ、最初の重傷者は油断して瀕死のデモンゴーレムに迂闊に近づいたことが原因だった。
だからこそ、油断せずに確実に撃破したと確認できるまで油断はしない。ゲームなどと違い、HPなどは見えないのだから。
 基本的に土が固められたデモンゴーレムはその特性上、単純な徹甲弾では効果が薄い。体の組織を砕くような、例えば榴弾のような炸裂が必要となる。
かといって、徹甲弾が無力かといえばそうではない。土だけでなく鉱石なども体組織に含む場合、それは千社などの装甲にも似た性質を持つ。
さらに鉱脈などから精製されたゴーレムの頑丈な表層を砕くには徹甲弾のような貫通力も必要となるものなのだ。
 殊更、マグチェンジによる弾種の変更が効くライフルやマシンガンを十全に使いこなすにはそういった相手に合わせた選択能力も必要となる。
 あるいは、僚機との連携で、例えば徹甲弾の集中射撃で体表を砕く人間と、吹き飛ばすための榴弾を撃ち込む人間に分かれるなどだ。
 シミュレーションによる訓練は経ている。だが、死ぬかもしれないという恐怖や実践における精神の不均衡までは体験できない。

 そして、重傷者を本当に出した、という体験は、楽観を消し飛ばしたのである。
 だからこそ、実践演習での動きは過剰なくらいに真剣だった。
 今もそうだ、殆ど掃討が終わり、残り数体となってからでも油断はなかった。
 飛ばしてくる衝撃波を十分にかわせる、しかし攻撃が届く距離をキープしつつ、動き回って回避を続ける。
 そして、複数機で同じポイントを狙い撃つことで固い組織を打ち砕きながらダメージを積み重ねていく。

『よし、今!』
『グレネード!』

 そして、75㎜マシンガンの集中砲火でグズグズになったデモンゴーレムに203㎜という大口径のグレネードが撃ち込まれる。
平成世界においてはMBTでは採用されず、自走砲などにのみ載せられるようなそれは、その速力を以てゴーレムの内部へと侵入し、突き刺さる。

228: 弥次郎 :2021/02/21(日) 00:47:31 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp

 そして、遅滞なくその機能を発揮、強力な炸裂でとどめを刺した。
 マシンガンの連打によりひびが入ったところに強力な炸薬の炸裂だ、砕けるどころではない。デモンゴーレムは人に近い形を完全に失ったのだった。

『次!』

 だが、一体を撃破したからと言って油断はしない。
 こうしている間にも他のデモンゴーレムが動き続けていて、虎視眈々と命を狙ってきているからだ。
 だから、複数機でカバーし合う。誰かの死角を常に誰かがカバーし、同時に誰かに死角を委ねる。
 あるいは位置取りを、複数機展開している自軍と敵軍の戦力がどう配置され、どう動くかを認識し、対処する。
 歩兵のようでいて、歩兵にはないレーダーやセンサーの情報と、歩兵とは違う死角の発生に対応しながら操縦をこなす。
 すぐさま撃破を確認したアレイオンのパイロットたちはその銃口を次なるターゲットに向けてトリガー。
無論、射撃をしながら遮蔽物もない場所で足を止めてしまうなどという愚図はせず、衝撃波を放とうとするモーションを確認するや、すぐに回避運動に移る。
いざとなればペイルアウトするための機構があるとはいえ、まともに食らえばそれが働く前に機体ごと潰される。

『リローディング!』
『カバー!』

 そして、僚機との連携は声掛けも必要だ。OSにより自動化されているとはいえ、時間はかかるし動作は制限される。
空になったマガジンをリリース、マガジンポーチからマガジンを引き抜き、新しいものをセットし、コッキングレバーを引く。
歩兵とは違い、それを行うように操作すればいいのであるが、かといって時間がかからないというわけではないし、その間他の武器が使えないもの同様だ。
そして、そのわずかな時間でも武器が使えないとなれば、敵機たるデモンゴーレムに抵抗ができなくなるのだ。
そうなれば---死が追い付いてきて、容赦なく命を奪っていくのだから。
 だから、リロードを行う機体が下がると同時に別のアレイオンがその穴を埋めるように展開、射撃を放つ。
それは歩兵と近く、しかし違う、機動兵器の立ち回り。的を相手に絞らせることなく、それでいてこちらは効率的に敵を叩く。

『くそ、やはり硬い!』
『足をねらえ!動きを止めろ!』
『グレネード!』

 再びグレネードが複数撃ち込まれる。今度は動きを阻害するために下半身や足を狙ったものだ。
 あるいは、地面を砕くための一撃。デモンゴーレムも所詮は地上を歩く巨人だ。足元が崩れてしまえばバランスを崩すのが自然の摂理。
 果たして、グレネードの爆発はデモンゴーレムたちの下半身にダメージを与え動きを鈍らせることに成功した。

『撃て!』

 そして、すぐさま徹甲弾や徹甲炸裂弾の嵐が叩き込まれていき、破壊を体現していく。
 さらにはグレネードまでもが撃ち込まれて行き、やがては最後の一体が力を失って形を失う。

『……沈黙を確認』
『周囲に敵影なし、安全は確保された……でしょうか?』
『動体反応なしだ。状況終了』

 その教官の言葉に、誰もが息を吐き出す。
 人間とも兵器とも違う、オカルトの塊である相手との戦い。
 それは、未知であるがゆえに、そして過去の体験から恐怖を伴う故に全員に負荷をかけていた。
 恐怖というよりもストレス、あるいは、それ以上の何か。

『演習は終了だ、各員帰投準備』

 教官の声に了解の声を発しながらも、パイロットたちは生き残れたことに安堵せざるを得なかった。

229: 弥次郎 :2021/02/21(日) 00:48:45 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp

  • 特地上空 デューカリオン 格納庫


 艦内にいても、戦闘の音は大きく響いている。殊更、居住性をある程度犠牲にしている格納庫内部では、戦闘の音がよくわかる
 その音はまさに腹に響くような重低音。デューカリオンの主砲が火を噴き、遠方から漸減を行っているのだ。
かつての戦艦もかくやの大口径の射撃は確実に数を減らしつつある。デューカリオンだけでなく、その準同型艦のアルゴーノートらも参加しての砲撃。
平成の世においては廃れて久しい大艦隊の砲撃を体験し、あるいは目撃するという幸運である。
かつて世界の海を制した大艦巨砲主義、それが巡り巡ってこの異世界に現出しているのだから。
 いかに高性能な艦と言えども、大口径主砲の振動までも消し去ることはできないのだ。

「おお、揺れるな」

 伊丹はキャットウォークへと降り立った時、改めてそれを感じる。
 それなりの高さのあるそこからうっかりでも落ちないように手すりにつかまり、踏ん張る。
 また斉射が行われたのか、艦が揺れる。いや、どこか遠い衝撃ということは、僚艦の砲撃であろうか。
 陸自所属である伊丹には判別しかねるが、ともかく、それだけのことが行われているということだ。

「おい、ぼさっとしている暇はないぞ。時間は有限なのだからな」
「は、はい」
「伊丹陸尉は我々から目をかけられているが、まだ未熟だ。忘れるな」

 しかし、その感慨はすぐに断たれた。キャットウォークには今回の実地訓練の教官である「モンテ・クリスト」がいるからだ。
オペレーターとして各員の動きを見ていた彼は、いつの間にやらこの格納庫にまで足を延ばしていた。
アフターコンバットケアののちにはすぐにデブリーフィングだ。訓練に割く時間を多くとりつつも、こういった戦闘に伴う形式は重視される。
まして、現段階では平成世界においては1000名もいない機動兵器パイロットの候補者なのだ。急ぎはしても丁寧に育てるのが肝要。
 だからこそモンテ・クリストのほかにも教官のリンクスやレイヴン達はそれぞれが担当のパイロットたちのところに向かっている。
 少なからず伊丹はモンテ・クリストの姿と声に安堵をしていた。というのも、連合の教官たちは場合によっては年下や女性までも平然と混じっているためだ。
頭では理解しているし相応の説明もされているとはいえ、信条や心理的な面から抵抗がある。その点では、モンテ・クリストのような大人は逆に安心する。

(そうだよなぁ……)

 だが、年下まで混じっているのは違和感をぬぐえない。まして、20歳になったばかりのような少女たちまでいるのだから。
連合との交流を持って以来、たびたび栗林や黒川らに窘めている伊丹であっても、どうしても忌避感などは消せない。
 世界が違えば常識が違う。
 教えられたことであり、わかっていることだが、理解しきるまでに時間がかかる。あるいは、納得しきるまでの時間であろうか。
 伊丹個人としては、突飛すぎてあまりリアリティーを感じない。どこか遠い出来事のようだ。
 だが、これが公になれば拒否反応を示す人間も出るだろうと、なんとなくはわかる。
 伝え聞く、この特地への自衛隊の派遣にまつわる交々の事象を見れば、何でもかんでも明かしすぎるのはかえって混乱を生むのは想像に難くない。
自分たちの中でも連合やその人員との付き合いにはトラブルや戸惑いが付きまとい苦労しているのだというのに、より多くが知ればそれは拡散する。
 そういうのを含め、連合の後を追いかけている。けれど、まだその背中は遥か彼方だ。

(だから、未熟か)

 不出来というわけではない。未成熟、ということ。
 遠い遠い背中に追いつけるのか。自分たちはどこまで追いすがれるのか。そんなことをふと考えてしまった。

230: 弥次郎 :2021/02/21(日) 00:50:13 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
以上、wiki転載はご自由に。
ちょっと特地での様子を。

次は平成世界における掲示板の様子でも書いてみましょうかねぇ

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最終更新:2023年10月15日 00:43