2: ひゅうが :2021/02/20(土) 00:14:18 HOST:p185191-ipngn200303kouchi.kochi.ocn.ne.jp

海神の雷世界SS―――「発動前夜」


――西暦1940年6月、フランス・コミューン国とアメリカ合衆国は鋼鉄協約と称される同盟関係を締結。事実上アメリカ側がフランス側にたって欧州へと軍を進めることに同意した
これに伴いアメリカ国内ではフランス向け援助物資としてレンド・リースと称する大規模な軍需生産が開始
その実態は、フランスの有する広大な植民地の切り売りそのものであったのだが、スポンサーの甘言にドイツ憎しで凝り固まっていたフランス市民は易々と乗ってしまった
さらに時を同じくするようにして、欧米の金融界に大きな地位を占めていたユダヤ人への差別が顕在化
これを幸いとして機会主義者であったロング政権は国内の資産没収とともにユダヤ系企業の国有化、彼のいうところの「国家非常経済化」を推し進めていった
さらには、満州向け貿易を行う国家独占企業としての「ルーズベルト・トラスト」が設立(なお前大統領とは何の関係もない)。ここが発行する特別手形、歴史用語でいうところのメフォ手形を担保とした国内投資の増強が開始されたのであった
そしてその投資先は、ルーズベルト政権下におけるTVA(テネシー川総合開発計画)だけでなく、パナマ運河のさらなる拡張に加えて国内インフラの大規模再構築に及んでいた
19世紀に構築された鉄道中心のインフラを、思い切って自動車中心の高速道路網へ再構築せんとするこの計画は日本帝国の国土省が「これだ!これがやりたかったのだ!」と新幹線鉄道計画に対する対案として持ち込むほどの完成度を誇っていた

これらの政策に加えて、英国がその無尽蔵の富で後援するドイツ共和国政府や、その同盟国となりおおせた(それまでは英国は東ロシアことロシア帝国政府の方を正当をみなしていたのだった)ロシア共和政府とフランス・コミューンとの間の「素晴らしき大きな戦争」が巻き起こす大規模消費は合衆国経済に未曽有の活況をもたらした
誰もが歓喜した。
そして、お飾りの大統領であったリンドバーグ大統領が謎の死(のちにユダヤ人青年による暗殺と断定)を遂げ、ロングが大統領と副大統領、そして上院議長を兼ねる総帥の地位を占めても反発するものは文字通りに圧殺されていったのだった
底冷えどころか絶対零度の景気であった米国造船業界に軍需という新たな血が強引に注ぎ込まれたのもこの頃になる
彼らが建造したヴィクトリー船と呼ばれる全溶接輸送船群は大西洋を幾度も往復し、米国製兵器をフランス・コミューン軍に引き渡していった

3: ひゅうが :2021/02/20(土) 00:14:52 HOST:p185191-ipngn200303kouchi.kochi.ocn.ne.jp

こうした状況を座視しているほど、大英帝国はあまくなかった。
彼らは大西洋上に臨検艦隊を派遣。輸送船団の阻止を図った
しかし、これも合衆国側が巡洋戦艦複数に航空母艦まで含む護衛艦隊を船団にくっつけるまでだった
堂々たる国際法の無視である
彼らは高らかに、「もはや東京条約体制に従う必要を認めない。われらは世界新秩序(ニュー・ワールドオーダー)を建設し、旧秩序を『黙殺』する」と宣言した
この「黙殺」表現がのちにチャーチル政権によって大いに利用される皮肉を生むのだが、ひとまず置いておこう
1940年後半から1941年にかけて、心あるフランス・コミューン軍首脳部は「アメリカがすべてをつかむ前に戦争を終わらせる」ことを目的としてのちに電撃戦といわれる陸と空が一体となった戦車による浸透突破作戦を敢行
ドイツ首都ベルリンを陥落させ、西プロイセン近くのオーデル川沿岸まで達しようとしていた
だが、ここで中東欧の大国であったポーランドが中立を破棄
宿敵であるはずのロシアと結んで参戦し、チェコやハンガリーもこれに呼応。南ドイツからの包囲戦を仕掛けられたことによって再度形勢が逆転する
兵站線の柔らかい脇腹を擁するところのイタリア統領ムッソリーニのもたらした会心の一撃であった
この期に及んで中立を守り通してフランス側に圧力をかけ続けたイタリア軍は、実力以上の力を発揮していたといえよう
こうして、1941年後半、ドイツ中部にはかつての西部戦線のごとき重厚な砲兵陣地群が走り、熾烈な火力戦が展開されるに至ったのである

そして、華麗な戦争に世界が注目する中で、仕掛けは完全に発動されようとしていた
1942年、カナダ東部のフランス語話者が多数派を占める広大な地域、ケベックにおいて独立運動が過激化しはじめる
そしてそれこそが、ロング総帥が目指す「世界を革命するための一撃(力)」その発火点であった
彼らは、大英帝国の重要な一員であるカナダを生贄に捧げることで大英帝国が世界を支配する力の根源たるロイヤルネイビー(英国海軍)を一撃のもとに撃滅し、一挙に世界の支配権を奪取せんとしていたのである

かくて、1942年11月1日が訪れる――

4: ひゅうが :2021/02/20(土) 00:15:39 HOST:p185191-ipngn200303kouchi.kochi.ocn.ne.jp
【あとがき】――長らくお待たせしました。本編再開であります
概ね、前に示した予定表通りに進めてみております

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最終更新:2021年02月23日 20:25