9: ひゅうが :2021/02/20(土) 00:47:01 HOST:p185191-ipngn200303kouchi.kochi.ocn.ne.jp
海神の雷 SS―――「発動」
――西暦1942年11月1日、この日はカトリックにおける万聖節であった
だが、祝祭の喜びはことカナダのケベックにおいては存在していなかった
あったのは、独立戦争の発火というその一点であった
元来、ケベックは難しい地域である
プロテスタントである英国の一員でありながらも、その歴史的経緯からフランス系住民が7割と多数派を占めており、同じくカトリックの少数派イングランド系と共存していたからである
しかもその枢要な地域は大西洋側に面しており、カナダのもっとも豊かな部分であるといってもよかった
この場所で独立運動が発生するのはある意味当然であった
だが、それが独立戦争に発展するにはさらに外部からの風と火種が必要であった
合衆国こそがそれであった
彼らが送り込んだFBIお抱えの工作員(エドガー・フーヴァーなる若者が熱心に作り上げた国家保安隊員)たちが資金を提供し、またフランス本国が思想的な指導を行うことで得られた革命機運は、それをある程度把握していた大英帝国情報部の予想よりもはるかに早い蹶起を可能にしたのであった
前日のハロウィンのお祭り騒ぎを隠れ蓑として大量の武器弾薬を移送した独立派は、米本国の好景気にも関わらず欧州での消費に関わることができなかったケベック住民の心情的反発をバネとして激発
カナダ政府機関の大規模爆破テロおよび駐留の王立騎馬警官隊への襲撃を開始したのである
ラジオ局を占拠したあとの行動は、4年あまり前の合衆国の焼き直しであった
偽の虐殺情報が横行し、合衆国らしい演劇のごとくそれに対する抵抗が誘発された
この時代、メディアをおさえた者を止められるものなど存在しない
だからこそ、独立派は政府機関とともに新聞社をも襲撃。ラジオ音声や壁新聞以外の情報伝達手段を奪ったのだった
こうした動きに、大英帝国の対応は遅れに遅れた
何といっても彼らは欧州大陸を注視しすぎていたのだ
このとき、元合衆国陸軍総参謀長にして、現
アメリカ義勇陸軍総司令官 ダグラス・マッカーサー大元帥率いる「義勇軍」3個師団がフランスへ堂々の上陸を果たしていたからである
ロング総帥は政治的に厄介者であるこのマッカーサーを見事に政治的な囮にしてのけていたのだ
さらに時期も悪かった
かねてより大腸がんの闘病中であったネヴィル・チェンバレン首相が8月に死去した英国は総選挙後も混乱の真っ最中であり、与党保守党内でも後継首相を誰にするのか姿勢が定まっていなかったからである
このとき、保守党は臨時首相として前首相のボールドウィンを担ぎ出した暫定内閣を設置して対応しようとした
しかし、勢いに乗るケベック革命勢力がカナダ主要部分の占領に乗り出してからは後手後手の対処に終始
さらには合衆国軍によるカナダへの直接侵攻が開始されたときに、大英帝国は全力を挙げたカナダ救援を決断することになる
大英帝国海軍が誇るグランドフリート、戦艦15 空母4 以下補助艦艇150余
さらには英国海外遠征軍から抽出された4個師団10万名
亡きチェンバレンが営々と増強に励んでいたがために即応できた兵力は、海外投射兵力としては第1次世界大戦以来のものであった
――そう。ロング総帥の目論見通りに。
10: ひゅうが :2021/02/20(土) 00:47:39 HOST:p185191-ipngn200303kouchi.kochi.ocn.ne.jp
【あとがき】――新鮮な新作です(おい)
最終更新:2021年02月23日 20:26