100: ひゅうが :2021/02/22(月) 04:14:29 HOST:p185191-ipngn200303kouchi.kochi.ocn.ne.jp
海神の雷世界 ネタSS――――「第1次ニューファンドランド沖海戦(栄光)」
――「本日、天気晴朗なれども波高し」
大英帝国グランドフリート司令長官ブルース・フレイザー
――「合衆国の興廃この一戦にあり。各員一層奮励努力せよ」
合衆国艦隊司令長官アーネスト・キング
――西暦1942年12月1日、中部大西洋において合流した大英帝国陸海空軍は「ホワイトナイト」作戦を発動
カナダ救援に向けて一路、西へと向かった
陸上部隊10万名(4個師団)は英国海外遠征軍(BEF ドイツ・キール橋頭保駐留)から書類上は、実際は英本土各地から極秘裏に抽出されていた
当時最新の高速客船20隻に分乗したことで、平均艦隊速力を強引に25ノット近くに押し上げた艦隊をもって、米軍側の対処能力を超えるスピードでいまだ米軍に占領されていないカナダのニューファンドランド島へ橋頭保を作る
これにより目と鼻の先にあるケベックへと海上機動する
それこそが彼らの作戦の主眼であった
それを読み切られているとはこの時点で英軍は考えていなかった
だが、米軍はそれを読み切っていた
この日のために10年以上も検討が重ねられ続けた対英作戦計画「レインボー1号」
またの名を漸減邀撃作戦
彼らはその原案からすれば20年以上かけて軍備を整え続けていたのである
ゆえに――先手を許す
1942年12月7日、英国第2海外遠征軍と名を変えた上陸部隊はカナダ・ニューファンドランド島へ上陸を開始
しかしそこに米海軍の姿はなかった
おっとり刀で駆け付ける、英艦隊は自らの作戦成功に自信を持った
事前情報によれば大西洋艦隊配備の戦艦の数は8
太平洋上で大演習を敢行中の日本海軍連合艦隊への対抗上、ハワイへの前進配備が実施されるとの情報にほぼ間違いはない
となれば、戦艦15を集中させた英グランドフリートは数的に圧倒的優勢
さらには橋頭保上からの弾着観測に加えて航空部隊の展開によって制空権の確保もできることだろう
「勝ったな」
とグランドフリート指揮官 フレイザー元帥はそうつぶやいたという
だが、12月8日、ニューファンドランド島橋頭保はのべ1000機に達する米陸軍機による猛攻にさらされる。
続いて響くのは、敵艦隊発見の報告。
その数、実に戦艦14 空母3
米艦隊はこのタイミングを読み切り、西海岸サンディエゴ駐留の太平洋艦隊から主力戦艦6隻を抽出
11月中に秘密裡に拡大パナマ運河を通航させて現在地に向かわせていたのである
それは、英艦隊が米艦隊の哨戒網に最初からひっかかっており、さらには情報部もまた偽電を発信し続ける太平洋艦隊に騙されていたことを意味していた
さらには、陸上戦闘機部隊の支援を受けたB-17爆撃機から大量に投下されたもの、それは連繋機雷
数個の機雷を100メートル近いケーブルで結ぶことで、その範囲を通った軍艦の艦首に引っかかり必ず爆発するという古典的な浮遊機雷であった
英艦隊も直掩機を上げてはいたのだが、彼らの空母が有する航空機は(装甲空母の性質上)のべ300機にも満たない
さらには橋頭保構築から時間が浅いことから満載されていた英空軍戦闘機部隊は現地に展開できていなかった
すべてが最悪のタイミングであった
これにより、針路を妨害された英艦隊は、こともあろうにT字を描く米艦隊に向かって突っ込む態勢になる
101: ひゅうが :2021/02/22(月) 04:15:13 HOST:p185191-ipngn200303kouchi.kochi.ocn.ne.jp
フレイザー提督はなんとかして同航戦に持ち込もうと艦隊を一斉回頭させた
それこそが最大の罠であった
距離5万メートルから米艦隊は砲撃を開始。
砲弾を大型化し、砲弾直後に「第2装薬」を設置することで砲身の内部でまるで多薬室砲(ポンプ砲)のように2次加速を行い射程距離を大幅に延伸させた通称「ノーフォーク矢型弾」(実際は回転を前提としてスクリュー状に羽根が設けられていた)の連続斉射であった
そして、艦隊針路の一斉回頭を行うということは、それが完了するまでの5分から10分間は距離がまったく変わらず、敵側からみれば極端にいえば静止目標を撃つほどにたやすいのである
さらに米艦隊には切り札があった
海軍所属の大型飛行船「アクロン」「メイコン」「シェナンドー」
この3隻の大型飛行船はこの日、高度1万メートルに陣取り、高度3000メートルから1000メートルおきに展開するB-17改造の気象観測機とともに極めて正確な気象データを送っていた
さらには、3角測定によって英艦隊旗艦の正確な位置までも把握しつくしていたのである
これに加えて米艦隊は禁じ手を使っていた
東京海軍軍縮条約には、「既存主力艦の主砲換装による口径増大はこれを厳に禁じる」という条項が存在していた
だが、ノーフォーク矢型弾の特性上、発射される弾体は従来よりひとまわり小さくなってしまう
(形状からしてのちの装弾筒安定翼付き徹甲弾ことAPFSDSによく似ているため)
であるならば、主砲の方を巨大化させてしまえば、射程距離も伸び、一石二鳥である
この論理から米海軍は軍縮条約を無視し、サウスダコタ級以降の戦艦の主砲口径を18インチ級や20インチ級に拡大させていたのである
このことから、落下してくるノーフォーク矢型弾の重量は16インチ、いや17インチ砲級に大きく、さらには奇襲兵器であることや命中率があまり期待できないと判断されたことから大量の焼夷弾子を搭載した、いわば榴散弾であった
12月8日午前11時15分
英グランドフリート旗艦「セント・デイヴィッド」(セント・ジョージ級戦艦)はその身に12発ものノーフォーク矢型弾を受け、艦橋構造物をしたたかに炎上させられた
うち1発は、18インチ砲艦のわりには薄い艦橋防御を貫いて炸裂
一瞬のうちにフレイザー提督以下、グランドフリート首脳陣を全員戦死に追い込んでいた
さらに悪いことには、同様の悲劇が巡洋戦艦部隊旗艦であった巡洋戦艦「インコンパラブル」にも発生
こちらは基本設計がWW1の最中であったことからいまだ薄い水平防御を貫かれて一撃で轟沈してしまったのであった
英グランドフリートは、この一撃で頭脳を失ってしまったのである
三次席指揮官であったトーマス・フィリップス大将が事態を掌握するにはさらに15分を要した
その間に、接近してきた米艦隊は通常砲撃に切り替える
18インチ砲が次々に唸り、さらに制空権を確保したことによる航空機からの諸元情報はグランドフリートを次々に血祭りに上げつつあった
「卑怯者のヤンキーが!奴ら主砲を換装していやがるぞ!!」
普段の穏やかさをかなぐり捨てた「親指トム」が絶叫する
このときまでに3隻のグランドフリート所属戦艦が海底に送り込まれていた
当然、その中には総旗艦「セント・デイヴィッド」も含まれていた
この時点で炎上していた「インヴィンシブル」(インヴィンシブル級巡洋戦艦)および「インドミタブル」(同上)および「セント・ジョージ」(セント・ジョージ級戦艦)もまた同様の結末をたどりそうであった
102: ひゅうが :2021/02/22(月) 04:15:49 HOST:p185191-ipngn200303kouchi.kochi.ocn.ne.jp
戦闘可能な戦艦の数はこの時点で英艦隊9 米艦隊は14隻全隻が健在
しかも、浮足立った英グランドフリートの水雷戦隊は、数的に劣勢のはずの米艦隊の突破を許しつつあった
このままでは、漸減邀撃の名のもとに英艦隊は包囲殲滅を許してしまっただろう
だが、そうはならなかった
「命捨てがまるは今ぞ!全艦突撃!!」
突如、ジョージ・スコット代将率いる2個駆逐隊が米艦隊に対して突撃を開始
後世、「ランス・チャージ」と称えられるこの突撃に参加したのは、日本から貸与されていた同国製の特型駆逐艦群であった
彼女たちが装備していたのは、日本海軍が気前よく供与した酸素魚雷ならびに、秘密兵器の「97式噴進魚雷」であった
前者は、魚雷の動力に酸素を用いて従来の圧縮空気で燃料を燃やすものより射程を大幅に伸ばすというもの。
米海軍が秘密兵器としていたそれを10年以上も早く日本海軍は実用化していたのである
彼らはもはや旧式化したそれを射程距離を大幅に削るかわりに雷速44ノットで1万メートル、弾頭に魚雷最適化炸薬TOPEX800キログラム採用という常軌を逸した魚雷に仕立て上げていたのである
さらに、これに続く「97式噴進魚雷」はこの酸素魚雷に続く距離5000メートル以下での近接格闘戦を前提とした「絶対にあたる魚雷」であった
水中にマイクロバブルといわれる小さな泡を放ち、その中をロケット推進で突っ込むことであたかも水上を飛んでいるかのような状態を水中にて作り出す「スーパーキャビデーション現象」を発生させる
これにより得られる雷速たるや、実に200ノット
30ノット程度で回頭したところで、避け切れずに命中するのである
そして、日本製の特型駆逐艦群はこの両者を搭載していた
彼らが突撃した先、そこには米国水雷戦隊およびその護衛についていた戦艦「マサチューセッツ」「ヴァーモント」があった
「われ、血路を切り開かんとす。さらば」
「諸君。彼らこそが駆逐艦なのだ」
駆逐隊旗艦「サンダーチャイルド」(旧名吹雪)からの発光信号に、帽子を目深にかぶったフィリップス提督は幕僚たちにこう語ったという
結果、慌てた米艦隊が包囲網を形成する前に、グランドフリートは「尻尾を巻いて」(米機動部隊指揮官 ハルゼー中将の表現)逃げ出すことに成功した
その意味は、計り知れないほど大きかった
ここまでの罠を張ったにも関わらず、米海軍は英艦隊の完全殲滅に失敗したのである
英国には、何より欲していた本土防衛用の兵力が残されたのだ
だがその代償はあまりに大きかった
この時点で上陸していた兵力7万名は、降伏許可を得られたにも関わらず現地固守を決定
事実上、英本土の編成上から脱落する
さらにはカナダ本土救援の手段も断たれてしまったのだから
最後に、のちに第1次ニューファンドランド沖海戦と称されるこの海戦における双方の被害を記して本稿をいったん閉じよう
【第1次ニューファンドランド沖海戦 両軍損害】
戦艦「セント・デイビッド」「セント・パトリック」「セント・ジョージ」
巡洋戦艦「インコンパラブル」「インヴィンシブル」「インドミタブル」
巡洋艦8
駆逐艦24
戦艦「マサチューセッツ」(大破後自沈)
巡洋艦10
駆逐艦12
――だが、戦争はまだはじまったばかりであった
103: ひゅうが :2021/02/22(月) 04:18:57 HOST:p185191-ipngn200303kouchi.kochi.ocn.ne.jp
【あとがき】――いやー難産でした。双方ともに新兵器を出しまくりです
空にはF4UコルセアとシーファイアにB-17が舞い、20インチや18インチ砲弾が飛び交う大海戦
双方の詳細な動きを書こうかとも思いましたが、こんな感じに簡略化させていただきました
途中、諦めかけてはいふり劇場版に逃避したことも付け加えておきます
ご堪能いただければこれに勝る喜びはありません
最終更新:2021年02月23日 20:27