532: 弥次郎 :2021/02/23(火) 23:31:47 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp

憂鬱SRW 融合惑星編SS「Battle of Mali」4


 剣戟の音が、戦場を彩る。
 片やブリタニア最強の騎士ビスマルク・ヴァルトシュタイン操る「ギャラハッド・レガシー」。
 片や日企連の最高峰ブレーダーの一目連の操るネクスト「永月」。
 二機の武器が、己の誇りと矜持と技量のすべてを込めた剣が、ぶつかり合っているのだ。
 無論のこと、一目連はただ一刀のもとに切り伏せることもたやすいだろう。だが、それではつまらない。
スペック差や積み重ねた技術の差がありながらも、それに抗うビスマルクとの戦いを、あっけなく終わらせてはもったいないのだ。
 だから、相手を試すように加減した連撃を繰り出す。加減しているとはいえ、油断すれば一撃必殺だ。だが、それをビスマルクはうまく捌く。
質量の差や刀剣としての質の差、あるいは機体の馬力の差からギャラハッドはまともに斬機刀を受けることはしない。
うまく立ち回り、直撃を避け、弾いて潜り抜けていくのだ。また、エナジーウィングという第九世代の特性を生かしてこちらが押し切るのを阻止している。

『ぬん…!』
『なんの!』

 そしてもう一つ、未来視のギアスが強力に働いている。数瞬先の未来を見せるギアスは、確実に使い手を活かしていた。
 たかが数瞬あるいは数秒先。されど、それだけの時間があれば生き死にを簡単に分けてしまえるのだ。殊更、このような強者同士の戦いでは。
一瞬の隙を見逃してやるほど一目連は手を抜かないし、ビスマルクもそれらをついていかねば押し切られる。
かといって、隙が見えれば徒に攻めればいいというわけでもない。フェイントや搦め手も織り交ぜて互いの命を奪い合うのだから。
 その戦闘能力の差から常に動き回り、補足されても翻弄することで集中攻撃を受けないように立ち回るビスマルク。
下手に動きを止めるか、あるいは単調化させればそれは即ち死を意味する。
 そう、死のビジョン。ビスマルクはそれと必死の戦いをしていた。相手の動きが早すぎて、反応するだけでもぎりぎりだ。
 だが、そんな中でもわかる。相手は、強い。剣を交えれば、言葉を交わすなどよりもよほど雄弁にわかるものだ。

『ふぅ……ッ!』
『……!』

 荒れる息、全力で動く神経、悲鳴を上げる肉体。
 襲い来る剣戟を捌き、機体を制御し、必死に相手の命を狙う。
 エナジーウィングの刃が放たれるが、それは一瞬の目くらましにしかならない。
 だが、その一瞬で十分。その刹那にギャラハッド・レガシーはコールブランドと共に死角に急速に回り込んでいた。
一目連の利き腕とは反対の左後方、そこまで瞬時に移動していた。

『ほう……』

 一目連はそれを十分認識していた。確かに速い。だが、ネクストやそれ以上の怪物たちから見れば遅かった。
 故に、斬機刀の一刀でエナジーボールの刃を消し飛ばしつつも、左手は素早く腕部に接続されたブレードを振りぬく。
 そこは、ギャラハッド・レガシーの突っ込んでくるラインにピタリと合わされたラインの斬撃。
 ただの一刀。されども、必殺の手の抜かれていない一撃。もはや、そうあることが自然であるかのように、空気が、空間が、鋭く切り裂かれていた。

『ッ……!』

 そして、必殺のそれを、ビスマルクは紙一重に、影響の範囲ギリギリを、繊細なまでの操縦で潜り抜ける。
 ビスマルク自身でさえも、これは死ぬ、という覚悟のうえでの動き。故にこそ、一目連の動きに肉薄した。
斬機刀は大ぶりな刀剣だから、構え直すのに時間を要する。故に腕部にオプションとしてつけられている刀を使ってくると踏んでいた。

533: 弥次郎 :2021/02/23(火) 23:32:55 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp

 そして、普段は動きを阻害しないようにたたまれたそれの展開には時間がかかる。そこに付け込んで接近までの時間を稼ぐ。
これらで稼ぎだされた時間はほんのコンマ数秒以下の時間でしかないだろう。だが、そのコンマ数秒が惜しい。
 そして、一目連の次の動きのビジョンはギアスで見えた。斬機刀を構え、こちらの一撃を弾き、その勢いのまま瞬発して下がる。

『おぉぉ!』

 だが、それを許さない。コールブランドを振り下ろしつつ、機体を上昇。メインウェポンの一撃に機体重量をかけて押し切る形とする。
同時に、次の一撃を放つため、MVSであるカルンウェナンを引き抜いた。こちらの重たい一撃でも、相手には容易くしのがれるのはわかり切っている。
 だから、その先の先に行く。コールブランドの一撃を放ちつつ、間髪を入れないパワーを生かした刺突を。

『!?』

 だが、そのビジョンは次の瞬間に消し飛んでいた。
 加速した相手の旋回はこちらの想像以上で、想像以上のパワーで降りぬかれる---とっさにカルンウェナンを手放し、全力でコールブランドでしのぐ構えに入る。
 そして、見えたビジョンの通り重たい一撃がコールブランドを叩いた。

『ふ、やはり、ここまでは読めないか』

 一目連の声に、ビスマルクは自身のギアスの効力が通じにくくなったことを確信した。
 相手にうまく誘導され、引き込まれた、そして、試されていたのだ。
 そう、ビスマルクのギアスは数瞬先の未来を見通す。だが、見れるのは数瞬先「まで」だ。
ギアスで未来を見たとしても、ギアスで見た結果をもとに行動した結果のビジョンを見るのは時間がかかる。
同時に、見える未来の先に自分の破滅が待っているとしても、認識が追い付くまでにはわずかなりとも間が空くのだ。
 そして、一目連は未来予知されるその先に待ち受けていた。先の先を読まれるならば、さらにその先を読めばよいのだ。

『まさかな…!』
『どうにも動きが読まれていると思ったが、やはりか』

 未来予知は確かに脅威だが、何も常人に全くできないことではない。
 明確なビジョンとしては見えなくとも、未来を予測することは可能だ。起こりうる可能性のパターンをいくつかくみ上げるだけでも対処できる。
 まあ、問題なのはそんなマルチタスクをこなせる人間が早々にいないということであるが、あいにくと一目連はそれができる。
あとは組み立てた動きのどれを選択するのか、その一瞬で決めればよいだけのこと。

『さて……』

 ズンっとビスマルクは体が重くなったかのような錯覚を覚える。
 それは、目のまえの機体が、中に納まるパイロットが放つ威圧。あるいは---殺意。

『仕舞とするか』

 斬機刀を構えなおした一目連は、「それ」を見る。
 感じるのだ。メタな知識として知っているが、それ以上の何かが目の前のギャラハッド・レガシーにはあるのだと。
 そしてそれは、自分もよく見知っていた。もはや惜しいのだが、おしまいにする時間だ。
 この騎士を、ブリタニア最高の騎士と相対し、競い合い、戦えたことに感謝しかない。
 故に、全霊を以て切り伏せる。

(来る……!)

 ギアスのビジョンでその未来を見通したビスマルク。
 何のフェイントもひねりもない、ただ接近し、切り裂いてくるという未来が見える。
 これまで以上に、相手はこちらの命を取りに来ていることは明らか。だから、こちらも意識を集中させ---

534: 弥次郎 :2021/02/23(火) 23:33:34 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp

「なっ……!」

 すべてが、見えていたはずのビジョンが霧散した。
 代わりに見えたのは、一閃。
 それが、未来をかき消した。


「秘技・虚薙(うつろなぎ)」


 どこか遠くから、一目連の声が届く。
 虚薙。
 一目連の流派に伝わる「形の無いをモノを切る」という剣技の、一つの到達点。
 すなわち、物質世界にあるものを斬るのではない、この世のルールの及ばないものをこの世のルールで斬り捨てるという矛盾の一刀。
 あるいは、この世のルールへと超常の理を貶めるという絶技。在り得ないがゆえに在り得るという一撃。
 人のみならず、人外や悪鬼悪霊、怪力乱神の類を切り捨ててきた一目連の流派は、その手の技術を受け継いできていたのだ。
故にこそ、一目連の流派は古来より裏と表の両方にかかわり続けていた。
 閑話休題。そんな一目連にとって、ビスマルクのギアスなどというモノは、端から種のわかった手品でしかなかった。
 だから、未来視のギアスをもたらすビスマルクと世界とを結ぶラインを斬機刀の一刀により断ち切ったのだ。
 とはいえ、最初から本気を出してしまうなど面白みに欠ける。ブリタニア最高の騎士との戦いを楽しみたいのだ。
 そして、最後の手向けの一撃に全力を込めた。

『ハッ!』

 そして、一目連は一息に踏み込む。
 その動きは、流水の流れる如く、風の吹く如く、あるいは雲が流れる如く、一切の澱みを排していた。
 それは最初からそうであったかの如く調和を以て振り下ろされ、ギャラハッド・レガシーをコールブランドごと切り裂いた。

(ふはは……)

 斬られた。
 その認識は当然のようにあった。
 だが、痛みや苦しみよりもはるかに先に出てきた感情があった。

(ふはははははは!)

 それは、大きな喜びだった。
 これほどの相手と戦い、全力を尽くし、そして、敗れる。
 だが、それが痛快でさえあった。なんとも喜ばしいことだった。
 己の最期の戦いが、ここまで上等なモノであろうとは、まさに望外。

『見事だ!』

 それが、送れた最大の賛辞。

『ああ、良き生であった!』

 そして、それが最期の言葉。
 ビスマルクはその愛機であるギャラハッド・レガシーの爆発と共に、意識を永遠に停止させた。
 しかして、その顔は曇りなき笑みで満ちていたのだった。





 斯くして、マリにおける戦いの最後を飾る大勝負、ナイトオブワン「ビスマルク・ヴァルトシュタイン」と「一目連」の勝負は幕引きとなった。
 そして、その後のISAFおよび連合・企業連合によるダメ押しの攻勢を以てマリ会戦はブリタニア側の敗北となった。
 しかし、ビスマルクらの奮戦はブリタニア側の武威侮りがたしと示し、また、撤退までの時間を見事に稼いだことをここに記しておこう。

535: 弥次郎 :2021/02/23(火) 23:34:13 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
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今度はエース同士の決戦を。
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最終更新:2025年02月10日 21:30