765: 弥次郎 :2021/02/27(土) 19:21:05 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
憂鬱SRW GATE 自衛隊(ry編SS 「婚活戦士大空流星」




 平成世界のパイロット候補者たちを鍛える教官を務めるアクアビットのリンクス「ラヴィエベル」はいわゆる堅物である。
 よく言えば奇才、悪く言えば変人、言葉を選ばずに言えば頭のネジの外れた研究者たちの多い企業とアクアビットは見なされているが、その中にあっては異端に近い。
が、それはあくまでも社風の話だ。真面目に考えて行動する人間がいなくてはアクアビットという会社は立ち行くはずもない。
故にこそ、ラヴィエベルにとって変人のレッテルを張られるのはあまり良い感情を抱けないものだった。

 しかして、その堅物、物おじすることなくズバズバ物を言う姿勢というのは、苦手な人間にとっては苦手なものだ。
 殊更、平成世界の日本人のパイロット候補者たちには、なかなかに堪えるところがある。それを彼女が知ったのは自然な成り行きであった。
 彼女は真面目であるが、それは誠実であろうとする意志に由来する。遊び心がないわけではない。
 だが、命や人生のかかっているのが平常なのだ。生半可に甘やかせば死ぬ。負傷者も出ている状態なのだから、なおのこと。
 さりとて、あまりに締め付けすぎるのもよくはない。ではどうするべきなのであるか?

「ということで、打てる手がないかと相談したいわけです」
「……なるほど。同じ大洋連合系、殊更に旧日系の流れをくむ私に」

 間引きや平成世界のパイロットたちの教導、そして自身のトレーニングや調整の合間。そのタイトなスケジュールを縫って、ラヴィエベルは流星を訪ねた。
 大空流星。日企連リンクスのリーダー役であり、リンクス同士の交流において社外のリンクスと積極的にかかわる窓口であり、尊敬すべき上位ランカー。
 そして何よりも、日系人だ。大洋連合の根っこの大きなウェイトを占めるのはかつての大日本帝国であり、日系人。
殊更、流星は純度の高い日系人だ。生まれた時代こそ違えども、その共通項が見出せるか、あるいはアドバイスをもらえると判断していた。
 相談を受けた側である流星も彼女の言わんとすること、あるいは考えていることが何であるかはよく理解できた。

(とはいえ、なぁ…)

 かつて、遠い記憶の果てではあるが、日本人として生きた流星をして、日本人との付き合いは難しい。
 場の空気とかノリとかその手の、分かりにくいもので動いているのだ。表情を表に出さず、ぎりぎりまで耐える。
そして、超えてはならないラインを超えると一気に豹変し、突発的に行動に移る。日本人でも理不尽に思うのだから、外国人ならばもっとだろう。
 しかし、ラヴィエベルの指導方法に少なからず不満の声があるのは知っているし、彼女の性格を考慮すると米軍ならばともかく自衛隊には合致しないと推測できる。
だからと言って、そんな複雑極まりない情緒を説明しても、彼女が行動に反映して的確に行うのは難しいだろう。
 だから、慎重に切り出す。

「日系人の情緒について説明しても、理解はすぐにできないだろう」
「それについては同意します」

 伸張でありながらも流星は断言で言うが、ラヴィエベルも平然と受け入れた。

「遠慮や配慮という概念が強いというのは認識しています。けれど、そればかりされて結果に響いては困ります」
「私に求めるところは?」
「最低でも、自衛隊のパイロットたちのフォローを。私の指導のローテーションをずらしてもらっても構いません」
「だが、それではスケジュール調整全体に響きかねないな」

 ラヴィエベルはうなずく。その程度は予測の範囲内だ。
 決戦までに可能な限りの漸減をしつつ、しかし、調整や教導をこなす都合上、スケジュールはタイトに組まれている。
ここでリンクスが一人いきなり抜けるというのは中々にフォローしにくい。リンクスという高い質の教官が抜けるのは錬成においても痛手になるのだ。
かといって、ラヴィエベルと同レベルのリンクスは早々にいない。レイヴン達で補えるかといえばそうでもないのだし。

766: 弥次郎 :2021/02/27(土) 19:22:01 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp

 ならば、とラヴィエベルは代わりのプランを提示した。

「なら、せめて緩衝材が欲しいところです」

 それは、流星にとっても想定できたものであり、想像の範囲内にあるもの。
 彼女自身が合わせることが難しいならば、誰かが仲介に入ればよい、というモノだ。

「それなら何とかできそうだ。大洋連合系のレイヴン達に声をかけてみる。打ち合わせとかはセッティングする」
「お願いします」
「人材のリストがそろったらそちらに送る。

 以上、終わり。ドライといえばドライ。けれど、無駄を排除したこれもまた乙なものだ。
 流星は彼女を見送りつつも、さっそく端末を操作して連絡を取ることにした。彼女らの力を借りる以上、ホストとしてやることは一つなのだから。

「ラヴィエベル…ね」

 彼女が退出していってから、流星は自室でそのリンクスの名をつぶやく。
 ラヴィエベル(La vie est belle)。フランス語において「美しい人生」という意味の言葉。
 香水の名前としてもつかわれていたとおぼろに記憶するリンクスネームの彼女は、そんな明るい言葉とはいささか縁がないようにさえ思える。
 かといって、流星はそこまで他人に干渉するつもりもなければ、そこまでおせっかいを焼くことはない。
彼女の充実は彼女の主観でしか決められないものであり、その「美しい人生」かどうかは彼女が選ぶ道の結果だ。
 美しき人生。しかし、なんとも自分---いや自分たちへの皮肉のような言葉だ。
 企業の先兵、パックスエコノミカの駒、戦争経済の歯車---かつて戦った記憶が苛む。
 地上にコジマをばらまき、破壊をまき散らし、幾多の命を軽々と奪っていた。
 それが自らにできることであり、自らが望んだ生き方とはいえ、なんとも言い難い。すでに前世のことと理解しても、なお。

「せめて、結婚はしたいものだな…」

 充実した生活、素晴らしい人生を今は歩めていると思う。
 少なくとも、人を、世界を救う戦いができているのは確かだ。
 けれど、現状仕事が恋人、戦場が住処、有り余る報酬は腐らせている有様で寄付に投じて税金対策。
 趣味はあるが仕事優先であり、自宅で趣味に没頭という時間も最近は取れていないような気がする。

(あ、あれ、目から汗が……)

 そういえば、ラヴィエベルはああ見えて既婚者で子持ちだったか。まさに素晴らしき人生。名前の通りだ。
 それに比べ自分は何という人生を送っているのか。

(あれ、あれあれ……?)

 その後しばらく、大空流星は自分の生活を鑑みてしまうことになり、袖を涙で濡らすことになったのであった。

767: 弥次郎 :2021/02/27(土) 19:22:43 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
以上wiki転載はご自由に。
ふとしたことでダメージを食らってしまう流星さんでしたとさ。

778: 弥次郎 :2021/02/27(土) 21:20:53 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
ちなみに日企連リンクスたちの出自とか…


大空流星:比較的裕福な一般家庭出身。前世の経験もあるのでここら辺の社交の方法とかはよく心得ている。未婚。

タケミカヅチ:実家は意外と歴史が長い家。β世界で言えば赤を纏うことを許され、山吹の篁家と婚約できるレベル。前世の経験(ry

アマツミカボシ:実は銀の匙を咥えて育っている。家柄も社会的地位も高いところの出。愛想笑いとポーカーフェイスがうまい。双子に目を付けられており、婚約も秒読み…?

一目連:説明不要の良家で名門。流派の宗家である。妻もおり子供もいる。

桜子:一般家庭出身だが、有澤家の長男と婚約するにあたり教育を受けているため隙が無い。

ルナスカイ:一般家庭出身。平成世界の日本人に比較的近い感性を持つ。ただし、リンクス稼業もしているので相応に俗世離れ。

永:実は孤児で、養子に入って独立したという過去を持つ。金にはシビアだし世渡りは自前で身に着けた。

アックスブロウ:妻子持ちの老兵。ネクスト研究の初期からかかわるベテラン。一般家庭出身だが、社交界での歴は長い。

779: 弥次郎 :2021/02/27(土) 21:24:15 HOST:p1537109-ipngn14201hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
あ、忘れてた…

虎鶫:一般家庭出身。ただし現在の自衛隊で言えば特戦群とかその手の特殊部隊員上がり(通算で3回目)。BFFのメアリー・シェリーと結婚している。

社長:説明不要の企業の長。


こう見ると、マジで違う世界に生きていますね、リンクスたち…

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最終更新:2023年10月15日 00:42