324: ひゅうが :2021/03/02(火) 21:44:20 HOST:p185191-ipngn200303kouchi.kochi.ocn.ne.jp


海神の雷世界 ネタSS――「We shall never surrender!!」



――1942年12月15日 第1次ニューファンドランド沖海戦の結果は英国を慄然とさせた
基本的に海上ではここ2世紀ほど優勢を保ち続けていたロイヤルネイビーの大敗北であるのだからまさに当然だろう
いや、慄然というよりも恐慌状態一歩手前の戦慄といってもよいかもしれない
フレイザー提督が新鋭戦艦キングジョージ5世級(それぞれ1938年起工であったことから就役から半年たっていなかった。以下KGV級)「訓練状態未了」と判断したことから旗艦を慣れ親しんだセント・ジョージ級に置いたという偶然があったからこそまだマシではあった
おかげで新鋭戦艦KGV級と高速の空母機動部隊護衛艦たり得るフッド級が残されたわけではあったが、それでも20隻に達する米艦隊による本土来寇を迎撃するのに精いっぱいの規模であった
この危機に際してようやく首相に就任したのが、ウィンストン・マールバラ=チャーチル卿であった
彼はまず、パニックに陥っていた英国国民を鼓舞する必要があった
そんなとき、格好の材料が向こうから飛び込んでくる

ロング総帥(プレジデント)あらため総統(ザ・リーダー)による英国向けの名誉ある停戦勧告である
早い話、英国が中東に持つ大油田の権益を代償にした降伏を彼は要求していたのであった
その中にあるフレーズを、稀代の演説家としてのちに評価されるチャーチル卿は見逃さなかった

「わが艦隊は20インチ砲に換装済みである」

「卑怯者の植民地人が!口では東京条約の順守を要求しつつ軍拡を進めるだけでは飽き足らず、『もとから条約破りの主砲換装をやる設計で戦艦を作っていた』な!」

議会上院で開かれた読会において、敗軍をまとめて帰還したフィリップス提督からの報告に加えて同時期に重ねられたロング総統の演説を聞いたチャーチル卿は、顔を真っ赤にして激昂してみせた
一拍おくれて、保守党の議員たちが
もう数拍遅れて、野党労働党の議員たちも激昂して立ち上がる

「我々は降伏しない。決して。決して。決して!」

チャーチル卿はネバーと3回繰り返した
彼一流のパフォーマンスである
彼ほどの政治家が本気の激昂に任せて演説を始めることなどないのである

「我々は確かに一敗地にまみれた。世界平和を20年以上も前から裏切っていたアメリカ人のために
だが降伏などしない
我々にはまだ戦う力がある。
アンジュー家の旧領へ向かう輸送船団はわが艦隊によっていまだ封鎖されている
何より、諸君。我々には戦力化されつつある戦力があるのだ
この場にて発表しよう。
主力艦20隻!
頼り甲斐のある極東のサムライたちが作り上げた大艦隊はすでに完成していると!」

ここで主力艦艇と称し、航空母艦、それも簡易建造された量産型航空母艦であると明言しないのがチャーチル卿である。

「ブルワーク コロッサス グローリー オーシャン…」

チャーチル卿は手元からメモを取り出し、何かの名前を列挙しはじめた
BBC放送によって国会中継を聴取する英国民たちには次第に何事かがわかりはじめた
これこそ、同盟国に発注されていたという新鋭艦艇である
もう命名されるまで工事が進んでいたのだ
チャーチル卿は19隻目まで名前を読み上げ、高らかにこう述べた

「そしてHMS.アルビオン!」

実際は1番艦である。
英国の別名をトリに持ってくるあたり、このときのチャーチル卿の弁舌は冴えわたっていた
この場において、すでに数時間前にチャーチル卿が第1次ニューファンドランド沖海戦の報告を受けていたことや、日本列島からの「量産型空母群は着々と完成状態にあり。降伏されるべからず」との悲鳴のごとき電文を読んでいたことは問題にならない
演説家 チャーチルはこのときこの世の者ならざる域にまで達していたからである
悪魔か、天使か
いずれにせよろくでもない者には違いない

アルビオンの名を聞くとともに興奮で喝采を挙げる議員たちの前で彼は宣言した

「新大陸の傲慢なる住人たちに我々は宣言しよう。
くそっくらえ(ナッツ)!戦いはこれからだ!!」

かくて、歴史は動いた

325: ひゅうが :2021/03/02(火) 21:46:14 HOST:p185191-ipngn200303kouchi.kochi.ocn.ne.jp
【あとがき】――感想いただき、嬉しくなって書いてしまいました
伏せカードオープン!チャーチル登場!

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最終更新:2021年03月16日 11:20