720: 弥次郎 :2021/03/17(水) 21:54:33 HOST:p2938249-ipngn19601hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
憂鬱SRW 融合惑星 パトレイパー世界編SS「ズイカク提督、斯くの如く見たり」
関東日本政府の首都、東京。
そこは分断前から変わらず日本という国家にとっての首都であり、経済活動や政治活動などの集約地であった。
しかして、現状はどうであろうか。
一言で言うならば、東京に限らず、関東圏ほぼ全体が暗雲に飲み込まれようとしていた。
人は減り、心なしか首都中心街でさえも閑散としている。
あちらこちらの建物は破壊されたのかブルーシートで覆われていたり、あるいは破壊の後が生々しくさらされている。
道を見れば、明らかに警戒を強めている警察官が巡回している。それも、それなりの数。覆面パトカーなどではない、正規のパトカーが堂々と出ている。
警察官たちの緊張度合いも決して平時のそれではない。張りつめた糸のようであり、いつ切れるか分かったものではない。
関東日本政府の内情は悲惨だ。
軽犯罪は増加。強盗や窃盗や誘拐といった重犯罪は枚挙にいとまがない。史実で言うところのオレオレ詐欺などの特殊詐欺も増加。
とどめとばかりにレイバーが問題だ。民間用のレイバーを用いた犯罪が増加している。民間用と侮るなかれ、それがあるだけでも犯罪のハードルは下がる。
元々が重機として使われていたものであるならば、その頑丈性は推して測るべし。
無論、関東政府も対策を打ち出してはいる。関東圏の警察組織の尻を叩き、集団的な、あるいは組織的な犯罪の抑止を促している。
が、人間に抑止できるのは人間の犯罪だ。レイバーを持ち出されると、同じくレイバーかそれに準じる戦力が必要となる。
キルドーザー事件において、装甲化されたブルドーザーを警察の装備で止められなかったという事実があるように、歩兵とは装甲目標に対して不利なのだ。
拳銃でもライフルでも、歩兵の携行できる火器では早々にダメージを受けない。無論、ATWもあるが、そこまでくるともはや自衛隊しか持たない。
もちろんヤのつく自営業の皆様、特に福岡当たりならばあるかもしれないが(偏見)、ともかくそういう武器は民間にはないのだ。
そのほか、外出を控えるように通達したり、広報を通じて犯罪への警戒を強めるように勧告している。
このように警官が配置されているのも政府の根回しだ。
だが、自衛隊はまだ待機が命じられている。準備はしているが、本格的な動きはしていないのだ。それは関東政府が紙一重にバランスをとっているが故だった。
客観的に見て、関東政府は失態こそ犯しつつも、連合や他国との折衝でバランスを取りつつある。まあ、100点ではないにしても70点くらいは取れているといえる。
しかし、その100点に近づけない理由こそ、世論にあったのだ。ひいては、それが自衛隊を迂闊に動かせない理由でもある。
すなわち、政府を支持する声が弱いという点だ。
一般的な民主主義を突き詰めていけば、政府や政権というのは須らく奴隷である。
そして、民衆の意にそぐわぬ政府や政権は、法と精度にのっとった手順に従い淘汰される。
その権利は歴史の中で時間をかけて作り上げられ、認められたものであり、今日の政治システムを動かしている根本理論。
たとえそれが、踊らされているにせよ、正しい情報を知らないにせよ、である。
721: 弥次郎 :2021/03/17(水) 21:55:10 HOST:p2938249-ipngn19601hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
そして、その民意は分割統治などを経てますます迷走を極めていた。
故に、関東政府は自身の支持基盤を揺らがないようにしつつも、それでいて他国から見て問題ない絶妙なバランスを取らねばならなかった。
反戦・反自衛隊・反権力・反暴力……市民団体のお題目は良いものではある。だが、それをお題目にしてもどうにもならない状況が迫っている。
既に融合惑星という世界に転移してきており、いつ何時外敵が現れるかもわからないのだ。その時に果たして誰が責務を負うのか。
「人間の感覚で言えば、荒んでいるって奴か」
そんな東京の街を見下ろす摩天楼の一角、ビルの屋上に腰かけているのは霧の海域強襲制圧艦のメンタルモデル「ズイカク」だった。
γ世界を担当する「提督」の地位にいるズイカクは、そんな人間たちの営みを眺めてつぶやいていた。
δ世界での相対戦のさなかに誕生したバーサク・スティンガーの討伐はその場の戦力の総力を挙げて何とか達成された。
しかし、バーサク・スティンガーの子機-リトル・スティンガーは不特定多数が逃亡したのだった。
さらには、フォッグ・スティンガーと同時に発見された小型個体-フォッグ・アスモデウスもバーサク・スティンガーに影響されて暴走・逃亡した。
生存と繁殖という極めて原始的な衝動に基づいた行動の結果多数生み出されたそれらは、総数が不明なこともあって、対処に苦慮した。
皮肉にも霧の艦艇と同等以上のスペックを獲得したそれの追跡や探索は楽ではない。そして、それらがどこでいつ活動してしまうかもわからないときた。
霧はその尻拭いというか、自分たちの不始末の処理に追われている。連合も力を貸してもらっているので、外の世界を知る作業と並行している。
そして、このパトレイバー世界は立地の関係上、リトル・スティンガーやフォッグ・アスモデウスらが出現する公算が高いのだ。
そんなわけで、この日本列島を占拠する勢力はその人類に対して敵対的行動をとるバーサク・スティンガーの眷属のことを伝えられている。
「でも、これだけ情報を探っても政府広報がまともに信じられていないってのがな…」
ズイカクは一人ごちる。東日本と西日本においては、連合に対処を依頼、あるいは霧の艦艇との協力関係を作りつつある。
メンタルモデルを持ってから人間と接触を続けてきたズイカクをして、人外とわかってもなお友好的に、あるいは協力を求めてくるというのは新鮮だった。
メンタルモデルはぱっと見には人間と区別が付けられない。だから、自分を人間だと思って接してくる人間は山ほどいたのだ。
が、この世界に来てからはそうではないケースが多い。戸惑っていることは確かだが、それ以上に頼りにしている、と縋られているのだ。
これでも「提督」の地位にいるズイカクである。人とのコミュニケーションや折衝を担当する役目だ。
故にこそ、彼らの陥っている複雑怪奇な事情を知る羽目になり、演算能力をフル活用してその感情の分析をしていたのだった。
そんな中でネックというか、理解が追い付かないのが、この関東政府の民衆だ。無責任な不特定多数の人間の集まり、という意味合いの大衆。
東日本や西日本がそれらの脅威に明確に抵抗を試みようという中で、関東だけが動きが鈍い。民間レベルでもそうである。
眼の前の惨状もまた、民意の結果ということに他ならない。民衆は無責任であろうと何であろうと、国家の主体者なのだから責任も負うべきである。
722: 弥次郎 :2021/03/17(水) 21:56:29 HOST:p2938249-ipngn19601hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
『提督、提督』
『キサラギか、どうした?』
その時、量子通信がズイカクの意識を叩く。発信源は連れてきていた駆逐艦のメンタルモデルであるキサラギ。
発信源は陸地、東京都の中の一角だ。なぜ地上にいるのか、と言えば、上陸して生存している可能性を考慮しての行動だ。
空を除く全域行動が可能なスペックを有する対象を探す関係上、陸地を探すのも仕事の内だ。それに、地面を掘って隠れているかもしれないのだし。
『一言で言えば、攫われました』
ユニオンコアの位置情報を探してみれば、どうやら車で移動しているようだ。
なるほど、ログを追いかけてみれば、キサラギが歩いているのを見ていいところの子供と踏んで拉致し、車に連れ込んだらしい。
ところが、身元を示す物品があまりなく、親元を聞き出そうにも口を割らないためにしびれを切らし、アジトまで連れていくつもりらしい。
まあ、見た目は少女でも中身は霧の艦艇だ。親もいなければ、持っている身分も連合のそれ。そもそも誘拐が成り立つ相手ではない。
『OK、状況は把握した。どうすればいい?自力で脱出はできると思うが』
『騒ぎは避けろといわれていますし、拘束を脱出するのは不可能です』
『そうだな…』
確かに状況を第三者、特に霧の艦艇のことを知らない勢力に知られるのは厄介だ。
霧のメンタルモデルはその気になれば人間を圧倒できる。だが、その力のままに暴れると騒ぎどころの話ではない。
最悪、メンタルモデルたちの行動にも支障をきたすかもしれない状況だ。ただでさえ、この関東は治安が悪い状況なのだから。
『わかった、こちらから連合の即応部隊に連絡を入れる。わかっていると思うが、下手に抵抗するな?』
『了解です。ハッキングなども通用しないようなので、おとなしく救助を待ちます』
そう、それが問題の一つだ、とズイカクは思う。
このγ世界は時系列的には2000年代に入って少し経ったばかりの頃だという。ズイカクたちの活動していた世界とは技術水準が違う。
電子機器による管理や管制が行われているとはいいがたく、ネットワークも貧弱で、技術的にはかなり後進国だ。
逆に言うと、周囲の電子機器へのハッキングなどを得意とする霧のメンタルモデルにとっては活動しにくい場所でもあるのだ。
そうなるとメンタルモデルの戦闘力を発揮するなどしなくてはならないのだが、それはそれで問題だ。
連合の身分こそ持っているが、そんな少女が人外の如く暴れるとあればあらぬ疑いがかかりかねない。
これも人間社会に溶け込む苦労か、と霧の中でも地位を持つことになったズイカクは内心ため息を漏らす。
ともあれ、すでに連合の即応部隊が対処に向かったようである。
誘拐犯たちにしてみれば子供一人をさらったら未来の群に追いかけられる羽目になるとは思ってもいないだろう。
まあ、連合に言わせれば天網恢恢疎にして漏らさず、らしい。手を出したのだから、相応の報いは受けてもらおう。
「あーあ……もっと外の世界を気楽に楽しみたいよ」
ハァ…と吐き出す声は、摩天楼に消えていく。
彼女の憂鬱な仕事はまだまだ続きそうであった。
723: 弥次郎 :2021/03/17(水) 21:57:31 HOST:p2938249-ipngn19601hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
以上、wiki転載ご自由に。
華はないですが、γ世界の殺伐とした関東の様子を。
東西の日本政府はまだ好意的に連合に接していますし、国民レベルで納得ができています。
が、関東には純正培養された連中が集まり、関東についていけないと判断した人々が出ていくので…
次はβ世界に赴いたアカギでも出しましょうかねぇ…まだ未定ですけど
最終更新:2021年03月20日 20:40