619: 弥次郎 :2021/03/25(木) 00:00:03 HOST:p2938249-ipngn19601hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp

憂鬱SRW マブラヴ世界編SS「Zone Of Twilight」第2章 プロローグ




 S.M.S.の合流も完了し、ユーコン基地での交流及び新型戦術機の開発などの一連の計画は、シェリルの歌のショックというトラブルを超え、本格始動することとなった。
 ユウヤには、早速ヴァリアブル・イーグルが割り当てられることになり、ACTVはタリサとヴァレリオに、F-15Eにはステラが乗ることになった。
そして、アルゴス小隊に割り当てられていた残りの戦術機は予備機となることになった。
 変則的な3機種4機編成。まあ、単独の小隊で2種の新型をF-15Eと比較検証を行う仕事の関係上、変則にならざるを得ないのであろう。

「とはいうが……」

 ハンガーで整備作業を受けているXF-15Vを遠目に見つめ、ユウヤは改めて手元のスペック表を確認する。
 よくわかっていない機体に乗り込んで、乗りこなしてみせてこそのテストパイロット、と自負はしている。
 だが、それはそれ、だ。あれだけの動きができるというヴァリアブル・イーグルに対して、何処まで自分が適応できるのか、
それに不安が無いわけではなかった。詳細を知らされてしまっているが故に、F-15Eなどとは違うのだと理解できるからだった。
無論、初めての搭乗となるユウヤに配慮してか、最初は基礎訓練を行いながらのデータ収集が主として行われる予定だ。
最初はどうなのか、と思っていたが今となってはありがたい限りだった。戦術機同士の比較検証実験を行いつつ戦闘技能の教導も受けるのはハードスケジュール。
だが、やりがいはある。あの高みに、ハンターやタケミカヅチらの領域にたどり着けるかもしれないのだ。
 しかし、吐息を一つ。高みを見上げすぎるのも中々につらいものがあるのだ。
 それに、自分の、米軍の戦術機の動かし方をヴァリアブル・イーグルに試さなくてはならないということも絡んでくる。
技術の習得をしつつも、以前の米軍らしい操縦方法も維持して一般的なレベルの衛士が使った時にどうなるかを確かめる必要がある。
かなりアクロバティックではある。まあ、数段上の操縦技術にも追従できる戦術機として完成させるのもアリといえばアリなので、やる気はある。
それに、良い戦術機を生み出してなんぼのテストパイロット(開発衛士)だ、XF-15Vをとんでもない戦術機として完成させたい。

(あー、やめやめ!)

 欲望と悩み事とが一緒くたになってユウヤの頭の中を占めていて、ごっちゃごちゃだ。
 連合や統合政府のパイロットたちとのこともあるのだし、米軍からの命令もあるという複雑な状況。
ユノー中尉にくぎを刺されたとおりだ、余計なことを考える余裕など全くない。

 あれこれ考えてしまうのを止めるため、ユウヤはヴァリアブル・イーグルのコクピットに滑り込んだ。
 コクピットレイアウトや操縦系そのものにあまり変化はない。ただ、網膜投影に依存しないモニター類が充実しているのは変化している点だろう。
さらにこまごまとしたところ、フットレバーや操縦桿に仕様変更がされており、いつもの感覚とは違うのを感じる。
人間工学という概念に基づいたものだと聞かされている。人間の本来の肉体構造に合わせた設計をすることで、負担や負荷を減らすという考え方。
なるほど、考えてみれば、今自分の体を預けているシートにしても居心地の良さというモノがある。
良くも悪くも武骨な兵器というパーツであるのだが、座り心地というか、身体がまるですっぽりと収まるような、収まりの良さがある。

(と、それもそうだけど…)

 本当に重要なのはここじゃない、とユウヤはコンピューターの立ち上げを行う。
 OSの大きな変更により、操縦が大きく楽になったというのは聞かされている。すでにシミュレーションでの慣らしはすんでいるのであとは実機での実践だ。
このOSの運用データ収集もまた重要なモノであり、このアルゴス小隊の重要な任務の一つであるのだ。
というか、一つの小隊でやることが多すぎじゃないだろうか?ほかの、つまりこのユーコン基地に集まる各国の小隊でもやっていることとはいえ、タスクが多すぎる。

(コンボ、キャンセル、先行入力、それに…入力した動作に対するオーバーライド…)

 数えるだけでもかなりの改善が加えられているのだ。
 それは、改善ではあるが、同時に自分に対する負荷の発生でもある。

620: 弥次郎 :2021/03/25(木) 00:01:11 HOST:p2938249-ipngn19601hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp

 そう、操縦系はあまり変わっていないが、OSが違う。要素がいろいろと付け足されたことで、これまで以上の自由度を得ているのだ。
 だが、同時にそれは衛士に求められる操縦負荷の増大にもつながっている面がある。途中で操縦した動作をキャンセルできるとしたら、相応に操縦量が増えているのだ。
だから、これまであった余裕というモノが消えていることになる。衛士であるからユウヤも理解しているが、そのわずかな差というのは大きい。
そのずれについてはシミュレーションで慣らしているので問題ないと思うのだが、不安がないわけではない。
まして、教官や教則などに基づいてではなく、新境地を開拓するの等しいことをするのだから猶更。
 考えつつも、設定画面を呼び出して数値やら何やらの確認を行っていく。こうしていないと落ち着かない。
 意味もなく操作をして、元に戻して、またいじる。操作をしていないと、落ち着かない。
 そして、気が付く。何も解決していない、と。

「ダメじゃねーか!」

 思わず叫んでしまう。
 ともあれ、これからの演習を前に落ち着きがないのは問題だ。

「どうしたんだ、急に」
「…!?ヴィンセントかよ…」

 そんな声と共によく見知ったメカニックの頭が上から生えてきた。
 ヴィンセントもこのXF-15Vのメインのメカニックを任せられることになり、大いに盛り上がっていた人間の一人だ。
この世界の人間の中でも早い部類で新鋭機にかかわれるとあれば、ヴィンセントの性格を考えれば無理もないことだが。

「いやぁ、ずっとぶつぶつ言って入ればいやでも気が付くぜ?」
「そりゃあ、そうかもしれないけどよ…」

 言われるまでもなく、自覚がある。
 この感情は、不安だ。
 この国家レベルのプロジェクトを任されていることに対する、どうしようもない感情。
 正直なところ光栄であると思うし、自分の実力を自分の血などを抜きにして評価されていると知れたし、期待されていると分かったのだし。
 だが、浮かれた気分がいろいろな要因もあって吹き飛び、あるいは冷静さが戻ってくるとようやく実感できることもあるのだ。
背負うことになった重責が、余りにも重いということだ。アルゴス小隊の衛士やスタッフたちはこちらの仕事を把握はしているだろう。
だが、それはあくまでも知らないことになっている。だから、これは自分の仕事ということになるわけだ。
アルゴス小隊はACTVの開発や検証を進め、その中でヴァルアブル・イーグルとの比較を行うのが主体となる。
 協力はしあえるが、結局、完成するかどうかは自分にかかっている。F-22の時以上の感情を、自分は抱いている。
まだ出会ってから数日も立っておらず、尚且つ実際に乗り込んでもいない戦術機に対して。

621: 弥次郎 :2021/03/25(木) 00:02:01 HOST:p2938249-ipngn19601hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp

 当てられた、というべきであろうか。
 それとも、あの模擬戦で見た動きを自分のものにしたいという向上心だろうか。
 あの模擬戦、自分の中で何かが決定的に変わったような気がするのだ。

「おい、ユウヤ?」
「……」

 手持ち無沙汰に動かしていた手を止め、思考に沈む。
 これまでユーコン基地で過ごした短いながらも濃密な時間は、これまでの人生の中でもとびぬけていたといえる。
これは自信を持って言えることだ。衛士としての技量やプライドで負け、未知の技術を知り、未知の世界を知り、未知の人と知り合うことになった。
傭兵だという衛士にコテンパンにされた。銀河の歌姫の歌に魅了された。よくわからない少女二人と友達になった。
違う世界のアメリカの作ったMSという兵器を知った。英雄と呼ばれるような衛士にあった。戦艦から人型に変形するとんでもない船を見た。
 これまでの経験が生ぬるいものだったといってもいいほどに、ここでは多くを知った。
 それと同時に、失ったものがあった。自分の小ささやプライド、あるいは、狭い世界観というべきか。

「……」
「ユウヤ?」
「ヴィンセント……」

 そうだ。自分はこれまでアメリカにいたのだ。世界最大の国家であり最先端を行く国だった。
 だが、世界のすべてではない。世界はもっと広いのだ。あらゆる人間が、このユーコン基地のようにあらゆる人種がいる。
 考え方だって違うわけだ。あのソ連の衛士のように共産主義を掲げる東側諸国の人間を筆頭にしている。
それが、BETAと戦うため、戦術機を開発するためという共通の目的のために立場や国家を超えてここに集い、協力し合っている。
 自分は、ヴィンセントの言うようにアメリカの代表としてここにいるのだ。それは何の冗談でも何でもない事実。
 だが、自分はそれにふさわしくあれるだろうか?
 だから、もっとも身近なヴィンセントを鏡のように見立てた。そして、問いかけることにした。

「ヴィンセント、正直に答えてくれ…」
「ん?」

 一拍いれ、呼吸をする。一回だけのそれが、ひどく重たい。
 絞り出そうとする言葉が、重たい。言葉を吐き出す喉が、口が、動きが鈍い。いや、身体が拒否しているかのようだ。
 なんだこれは。言葉が物理的な重さを持っているかのようだ。だが、聞かなければならない。
 自分、極めてセンシティブなことも含めて、口に出した。

「俺は……アメリカに相応しい衛士か?」
「なんだ?俺の言ったこと急に思い出したのかぁ?」
「からかうなよ…俺だって、真面目なんだ」

 吐き出したら、思いのほか身体が軽くなったような感覚を覚えた。
 言葉が重かったというか、言えたことですっきりしたようでさえあった。
 そんなユウヤの言葉を最初こそからかったヴィンセントは、しかし、キャットウォークの上に降りて腕を組んだ。
最前までのお茶らけた雰囲気は消え、真剣にユウヤを見据えている。そして、しばし考えたが、やがて答えを放ってきた。

622: 弥次郎 :2021/03/25(木) 00:03:49 HOST:p2938249-ipngn19601hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp

 口調としてはいつものように軽い。だが、真剣さは紛れもなくあった。
 だからユウヤもふざけることなく聞くことに集中した。

「そうだな……色々お前も悩んでいるみたいだけどよ、別に気負わなくとも、お前はアメリカの衛士だ」

 それは、ひねったことのない、まっすぐな回答だった。

「別にお前の生まれがどうとか、やってきたことがどうとか、関係ないと思うぜ。
 俺たちに求められているのってよ、これから何をやるかだし」
「……そう、だな」

 そうだ。開発衛士は、このユーコンの衛士たちは、共通の目的をもってここに集っているのだ。
 技術を学び、研鑽し、BETAとの戦いに向けて牙を磨き上げることこそがレゾンデートル。
 元々の国家という枠組みもある程度存在しているが、重要なのは己の仕事にどこまで向き合えるか、ということ。

「まあ、これはオフレコだけどよ。実際、ユウヤはアメリカの代表としても仕事をするんだろ?XF-15Vの」
「ああ……」
「けど、何も他の奴らを無視しろってわけでもないだろ?」
「そうだな……アメリカ単独の小隊じゃなくて、わざわざ多国籍の混成小隊だし……ッ!」

 そういって、はっとする。そうだ、確かにヴァリアブル・イーグルは確かにアメリカの戦術機になるべく検証を受ける。
 だが、そこで終わるだろうか?いいや、むしろ始まりだ。F-4ファントムの例を見るまでもなく、アメリカの戦術機は積極的に他国に輸出されている。
F-15も第二世代の戦術機として輸出され、各地で軍務についている戦術機だ。だが、それはアップデートが可能ということである。
それこそ、アメリカだけでなく、他国の衛士もまたこの素のF-15からアップデートを経た制式仕様のF-15Vを操るということになる。
 そんな未来を待ち受けているならば、アメリカだけの、アメリカ本位過ぎる戦術機など評価は低くなってしまうかもしれない。

「そうか……混成小隊ってことは、意見を交わす機会も多いってことじゃないか」
「ん?ああ、そうだな…そうか…ほかの衛士の意見も非公式でももらえるのか?」

 改めて、ユウヤはこのアルゴス小隊への編入を考案した人間の思慮深さに舌を巻いた。
 F-15の派生機との比較検証試験と評価試験、さらにはその過程において他国の衛士の意見も柔軟に取り入れることによる評価の多角化。
それはアメリカ国内での試験やテストや慣熟だけでは決してできないことだ。ここだからこそできることに他ならない。

「お、いい顔になりやがったな?」
「うるさいな…」

 だが、悪い気分ではない。やることもわかってきたし、何より自分の内側の憂いが晴れた。
 今の自分は開発衛士としてとてつもなく恵まれた状況にあることも、改めて認識できた。
 ならば考えるべきは、これから何を成すか。この一点に尽きる。
 さあ、いよいよ始まりだ。
 ユウヤは強い号砲が身を突き動かすのを感じ取った。

623: 弥次郎 :2021/03/25(木) 00:04:53 HOST:p2938249-ipngn19601hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
以上、wiki転載はご自由に。

ZOTを久しぶりに書きました。
ちょっと未来編とかで詰まっているので……

アレコレとアイディアをまとめたり文章にしてみたり、あるいはプロットを書いたり…
うーん、身体があといくつかほしい…

624: 弥次郎 :2021/03/25(木) 00:13:44 HOST:p2938249-ipngn19601hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
621
修正

×
 なんだこれは。言葉が物理的な重さを持っているかのようだ。だが、聞かなければならない。
 自分


 なんだこれは。言葉が物理的な重さを持っているかのようだ。だが、聞かなければならない。
 自分の、極めてセンシティブなことも含めて、口に出した。

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最終更新:2021年03月25日 23:06