416: 弥次郎 :2021/04/02(金) 22:25:01 HOST:p2938249-ipngn19601hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
日仏ゲート世界「モードを担うほど華のある仕事はない」
日仏間の交流が始まったことは、当然であるが夢幻衆の間でも大きな旋風となった。
というのも、夢幻衆の人員は様々な未来知識を持ちうる集団ではあるが、その能力を常に100%生かせるとは限らないからだ。
つまり、どう頑張っても戦国時代が終わったばかりの頃であるということは、1600年代に調達できる材料とバックアップで実現できる範囲しかできないということ。
例えばだが、宇宙工学の知識と経験とがある超がつくエリートだった人がいるとしよう。この時代では本来の力の1割も出せればよい方だ。
宇宙なんて夢のまた夢であり、どうやっても未来に任せるしかないというわけである。ヴィンチ村のレオナルドよろしく、その構想をノートに残す程度しかできない。
無論、何もできないというわけではないのであるが、どうしても縛りは存在するということなのである。
だが、欧州といきなり接続したことは夢幻衆の持ちうる知識や技能を生かす場面が急に増えたということでもある。
調理という世界で大いに跳躍したどこぞの誰かを例にとるまでもなく、日本ではなく欧州という文化圏では通用する技能を持つ者がいるということだ。
そう、例えば、洋服という分野の知識と技能を持つ人間だとかである。
どこぞの料理人の例をとるまでもないが、和風の縛りが存在していても、海外との交流が始まればこういった洋風のものを出しても問題がなくなるのだ。
まして、保守的でありながらも流行モノや最先端のものが好きな大殿(織田信長)が主君とあれば、その手の技能者が重宝されるというモノ。
また、
夢幻会が総力をあげれば動力こそ手回しや足踏みであるがミシンなどの繊維機械を作り出すことも可能であり、運用もできた。
それだけでも相当なアドバンテージになったことは言うまでもないことだろう。
そして、欧州との、フランスとの交流の中で実際にその腕前を振るうことになった。
「リアル中世ふざくんなー!」
が、ダメ……ッ!現代の流行(モード)と中世の流行は違いすぎた……ッ!
よく言えば……先進的……!だが!それは見方を変えれば!異端、我流、マイナーということ……っ!
そして、良くも悪くも和風の服装を中心に、大殿の好みに合わせた洋装を時に作っていたゆえに、本場の流行というモノを理解しえなかったのだ。
無論、ファッションを作るデザイナーやパタンナーは洋裁にかかわる歴史を学びはする。だが、ガチ中世・近世の流行を事細かに把握している人間がどれほどいるか?
流行というのは大きな流れが存在することは確か。だが、もっと拡大すれば、その中に存在する小さな流れが存在することに気が付けるだろう。
その微細な流れこそ、大きな流れを形作るものであり、同時に一瞬一瞬のトレンドとなるのだ。最近ようやく欧州とつながった日本にそれを知る方法はない。
一応技術や制作の方法論、あるいは質という点では決して劣っていない。むしろ、時代を経て洗練されたものを使っているので勝っている。
また、大局的に見れば流行を抑えているデザインではあるし、短い期間で学んだにしてはよく吸収したといえる。だが、少し合わない。
つまり、要約すれば「日本の洋服は本場の流行からすればどこかずれている」というわけである。
まあ、悪い評価を受けているというわけではないのであるが、先ほど叫んだ者のようにそれを良しとしない
「叫ぶのもいいが、どこに耳があるかわからんから注意してくれ……」
思わず叫び声と共に倒れた服飾師を、別な服飾師が疲れた声で諫める。
ここは安土の一角、夢幻衆が構えるアトリエ。織田家御用達の衣服を扱う店であり、武家から庶民までも受け入れるという間口の広さがある。
それだけの大店を構えられるのも、これまでとは全く違うスタイルで商売ができるのも、偏にその商品の質がとびぬけているからに他ならない。
まあ、未来技術マシマシで糸の生産から布の生産、さらにはデザイン、型紙、縫製までもをやっているのだから負けたら恥、というべきか。
だから、大きな土地をぜいたくに使い、工房と店を分けて、尚且つ夢幻衆の人員だけのスペースも設けられている。
だが、一流であるとの自負のある彼らだからこそ、流行に追いついていけないというのは己の矜持が許せない。
目下、オルレアンやパリの流行についての調査を進めつつ、流行を覆すようなデザインやモードの制作に取り組んでいる。
417: 弥次郎 :2021/04/02(金) 22:26:39 HOST:p2938249-ipngn19601hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
彼ら以外にも、黙々とデザインや型紙に取り組む人間ばかりだ。
彼らも、経歴や過去こそ違えども、それこそ今の身分や年齢も違えども、それでも同じ道を選び、進んでいる求道者同士。
だから、誰か一人が奇声を上げた程度で目くじらを立てるほどカリカリしてはいないし、加えて集中している。
だから、二人はそんな中でも遠慮なく話し合う。
「けど、笑われるのは我慢ならない。所詮蛮族かっていう侮りが見え見えなんだって」
「まあ、それはしょうがない。この日本はキリスト教圏の外側で、蛮族の暮らす世界なんだから」
フランス側への接待や歓待、あるいはこの日本という国家の情報がフランス側に流れるにつれて、そういった侮りの声は小さくなってはいるのだろう。
だが、早々に彼らのプライドが折れることなど在り得はしない。彼らとて矜持というモノがあり、伝統を積み重ねてきた者たちだからだ。
自分たちがそうであるように、彼らもまた衝撃を受けて、自分たちと競い合うようにして進化しようとしているのだろう。
「蛮族、ねぇ」
「化外の地なんて言われるわ、蛮族呼ばわりされるわ、ほんと大変だな」
「プライドの塊の方がよほど蛮族で化外だろうに。
けれど……まったく不本意だけど、欧州のファッションを生で見れるとは思わなかった」
「まったくだ。わけのわからん現象だが、それにだけは感謝だな」
そう、服飾に限ったことではないが、歴史という俯瞰するものではなく、現実というモノとして今の世界を見れるとは思いもよらなかった。
後の世の歴史研究家などからすれば万金を積んででも同じ経験をしたがるであろう、とてつもない有意義な経験。
「というか、大殿のオーダーの担当分はどうなってんの?」
「今のところ順調……と言いたいけれど、さっきも言ったように流行を追いかけて取り込みたいから、情報が届くのを待っている段階」
「ああ、そういう……こういう時、文明の利器が恋しいね」
そう、オルレアンにゲートができて一瞬で行き来できるとはいえ、そこからフランス各地に赴くには時間がかかるというモノだ。
この時代は良くて馬か馬車、そうでなければ徒歩が基本。そして、そのフランスという国土を横断するにはあまりにも遅い移動方法。
まして、現代のようにファッション誌などがあるわけでもなければインターネットもないこの時代、流行を追うには宮廷に行くしかない。
あるいはその宮廷にいる人間に衣服を提供する職人などを追いかけるというのもあるが、いずれにしてもやすやすとたどり着けない。
そしてそんな流行を生み出す彼ら彼女らも、そうやすやすと手の内を明かしてくれるわけがないのだ。
「難儀だね…」
「難儀なんですよ…」
「大殿も無茶を言う……着こなしが妙にならない、日本人に合致した洋服を急ぎで仕立てろなんて」
「おまけに、フランス人を驚かせろ……デザインはともかくとして、裁断と縫製だけでぎりぎりなのに、1か月足らずとか」
だが、そんな無茶はこなしてきた。
その程度で音を上げるような軟な精神をしているわけがないのだ。
むしろ、やってやろうという気概さえ湧いてくる。たまに、先ほどのように愚痴りたくもなるが、伊達に大殿の無茶を聞いてきたわけではない。
「キャンセルになった衣服のパーツ、余りがまだあったよね?」
「ああ。糸と布についても他の奴から先に使わせてもらおう。先方には申し訳ないが、将軍家御用達である以上、優先度はこっちが上だ」
獰猛に笑い、彼らはすぐに打ち合わせを再開する。
彼らは一流の人間、職人、マイスター、あるいは、テーラー、クーチュリエ、ドレスメーカー。
彼らは彼らの戦場で、日本という国家の誇りをかけて戦うのだ。
418: 弥次郎 :2021/04/02(金) 22:27:18 HOST:p2938249-ipngn19601hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
以上、wiki転載はご自由に。
ふとしたことで平民でありながらもマリー・アントワネットのモード大臣を務めたローズ・ベルタンのことを知ったのでちょっと書いてみました。
彼女にフォーカスしたSSもかければいいなぁと思います。
420: 弥次郎 :2021/04/02(金) 23:04:26 HOST:p2938249-ipngn19601hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
専門用語ばっか盛り込んだので解説を…
ヴィンチ村のレオナルド:
レオナルド・ダ・ヴィンチという言葉の意味するところ。
ダヴィンチちゃんと呼ぶのは「ヴィンチ村のお嬢ちゃん」みたいな感じである。
ファッション:
説明不要なワード。ファッションの最先端というのは、当時もっとも金の集まる宮廷などが該当する。
現代においては、4,5年前から話し合いによって流行のファッションが定義されるという事実上の談合がビジネスとして成り立っている。
モード:
色々と意味はあるが、ファッションにおいては「流行」や「流行り」「トレンド」といった意味合いを持つ。
デザイン:
いうまでもなく衣服の形や色を決めるもの。想像力を働かせることが重要。
型紙:
わかりやすく言えば衣服の設計図。
デザインを実際に形にして、布や糸に反映させるために作る。
ここから安い布を用いた仮縫いを経て、実際に衣服を縫う過程に入る。
裁断:
布や糸を切って整えてパーツを成形する工程。
ガンプラで言えばランナーからパーツを切り離すようなもの。
縫製:
型紙を基にして裁断した布などを実際に衣服という形に縫い上げる工程。
職人、マイスター、テーラー、クーチュリエ、ドレスメーカー:
衣服を仕立てる人間の呼称。
ローズ・ベルタン:
断頭台の露と消えたマリー・アントワネットの専属のモード大臣を務めた女傑。
要するに専属のファッションデザイナー。王妃の衣服や髪形について彼女が采配し、王宮の流行をけん引した。
本名をマリー・ジャンヌ・ベルタン。驚くべきことに彼女は貴族でも王族でもない平民出身。
そして、彼女の仕えたマリー・アントワネットの夫であるルイ16世が彼女に挨拶するためだけに席を立つほどに寵愛された。
後修正を
416
× そして、欧州との、フランスとの交流の中で
〇 そして、欧州との、フランスとの交流の中で実際にその腕前を振るうことになった。
最終更新:2021年04月04日 16:04