715: 弥次郎 :2021/04/09(金) 00:00:23 HOST:p2938249-ipngn19601hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp

憂鬱SRW 未来編鉄血世界SS「絶海の領域」2




 屋外に設置された会談の場は、ピリリとした緊張に包まれていた。
 極東の島国の野点という体裁で、しかし、要人が会談し、話し合う場を作り上げつつある場はもはや戦場のそれだ。
役者がそろい、盤面がそろった次の瞬間には、そこらの紛争地域などを超えるような激戦が繰り広げられることになるだろう。
給仕のアンドロイドたちが動き回り、エウクレイデスから降ろされた食材やら何やらが即席の調理場で調理されつつあっても、空気は穏やかではなかった。

 まあ、それも無理もないことだ。
 蒔苗東吾之介とクーデリア・藍那・バーンスタインの会談。それは、今後の火星連合とアーブラウの関係を左右するものになる。
 そんな場面で、いきなりの砲艦外交の展開によってクーデリアはいきなりマウントをとった。少なくとも、アーブラウは「敵国」なのだ。
嘗ては友誼というか、交渉を持った相手と言えども、敵国の元元首ということを考えれば、これくらいは当然の態度であった。
まぎれもない「敵国」。あまり良いイメージを抱けない言葉だ。クーデリア自身、あまり意識したいとは思わない。
だが、いつまでも敵対できるわけではなく、それでは火星と地球の間の戦争が終わりを迎えることができなくなる。
だからこそ、敵国からせめて和解をした関係にしなくてはならない。利害関係の一致にまで至らなければいきなり失敗だ。
砲艦外交はあくまで手段で終えておくべきで、それがあったからと言われないように交渉を成功させる必要がある。

(重たい、ですね)

 控室で交渉の最終確認を進めるクーデリアはそのことを深く認識していた。
 相手が、蒔苗氏が自分に比べれば危うい立場におり、自分たちとの交渉が決裂すればここに逼塞せざるを得ないのはわかっている。
砲艦外交もあってこちらが優位な立場にあるのだが、かといって相手を追い詰めすぎてはいけない。あくまでも対等に。それが要になる。

「……」

 スタッフから色直しを受けながらも、クーデリアの頭脳はフル回転だ。
 事前の打ち合わせで地球にいるインフォーマントからの情報や情勢については把握しているし、如何にアプローチするかまで決まっている。
あとは、交渉の流れに合わせ、それらを有機的にくみ上げ、取捨選択し、言葉として繰り出していく行為が必要となる。
 集中しているので、周囲の人間の動きはクーデリアの意識に入ってこない。正確には、意識の深いところにまで入ってこないのだ。
自分の意識の浅いところで、まるで自分ではない自分が対応しているかのように感じ取れるのだ。
自分がそれだけ集中しているということだろうかと、クーデリアはどこかぼんやりと考える。
そう、例えるならば、意識に壁が存在していて、その外と内とで違う自分がいるかのような。
マルチタスクというべきか、それとも、ゾーンに入っているというべきか。

(領域……)

 そう、この世界、領域に自分はいる。
 四方を海に囲まれたこの絶海の領域に、自分という存在がいるのだ。
 ただ、無意識に在るのではなく、意識的に、唯我の下に、クーデリア・藍那・バーンスタインという人間がいる。
 膨大な情報の海と嵐の中に自分がいる。いや、もはやその情報と有機的に一体化して---

「代表」

 そして、急速に意識は引き戻される。
 目を開ければ、これまで着ていた衣服が仕舞われ、自分の体は新しい衣服に包まれている。着心地も悪くない。姿見で見ても問題のない状態だ。
余り着た経験のないタイプではあるが、よくある豪華すぎる衣服に自分が着られる、ということもないだろう。
 そして、目を開ければ準備が整ったことをフミタンが伝えてきた。ならば、自分がすべきことは一つ。「

「行きましょう」

 いよいよ本番、これまでとは違う次元。そこに、クーデリアは踏み込んだ。

716: 弥次郎 :2021/04/09(金) 00:01:06 HOST:p2938249-ipngn19601hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp


 エウクレイデスの艦内か、それとも蒔苗邸の中か。
 会談の場所をどこに設けるかの時点ですでに両者は平行線にあった。無理もない、互いは表向きには敵対国の人間だ。
宣戦布告も交わされ、現在進行形で戦争状態にあり、事実交戦がここではない遠い火星と地球の航路の間で発生までしている状態なのだ。
そんな中で当事者同士がひざを突き合わせて会談など早々にできない。脅迫・誘拐その他もろもろのことが警戒される。
この戦争において戦時協定というモノが存在していないので、そんな外道さえも許される状況にあるゆえに、だ。
 蒔苗はその時点で鋭く火星側を警戒していることをあらわにし、邸宅内での会談を要求した。
エウクレイデスクルーは、表にこそ出さないが、誰もが白々しいととらえているのであるが、蒔苗は全く気にも留めない。
 そして、クーデリアもエウクレイデス艦内での会談を提案する。
 正直な所、とんだ茶番だ。こんなことでいちいち時間を浪費は勿体ない。
だが、それはすでに前哨戦。砲艦外交を繰り出したクーデリアへの仕返しのようなものだ。
結果として、折衷案として屋外での会談となったわけであるが。

「時間が惜しい代表への当てこすりでしょうか」
「まあ、本音半分、牽制半分だろう。
 こちらからの威圧の意味は理解しているだろうが、言いなりにはならないと言う意思表示か……」
「しかし、稚拙にこちらの手に乗らないとしても、乗りすぎないというのも問題では?」
「いや、案外そうでもないかもしれない。もしアーブラウが敵対を選んで全面戦争になっても、そのあとが控えているともいえる。
 そうであったとしても、囲まれた状況でもふてぶてしいのは、流石大物政治屋といったところか」

 クーデリアの交渉の席にローと共に参加するクロードとエリーゼは小声で言葉を交わす。
 眼前、既に席に身を置いている蒔苗は紋付き羽織袴姿で悠然と構えている。
多くの人員に囲まれ、これから重要な会談だというのに、なるほど場馴れしているのを窺わせる。
落ち着きと余裕、それらが巌のような安定感を醸し出す。紛れもなく強敵。
 だが、その強敵を倒すのでも、力で従わせるのでもなく、合意を勝ち取らねばならない。

「と、来たか」

 空気がさらにピリリと張り詰めた。脇息に身を置いていた蒔苗も姿勢を正した。
 誰だってわかる、本命が来たのだ。この場を席巻し、世界に旋風を巻き起こした女帝が。

「……ほぉ」

 感嘆の声を漏らしたのは、蒔苗だった。クーデリアはその体を上等な仕立ての和服に包んでいたのだ。
 いや、純粋な和服というよりは、より女性らしさを出した和風ドレスというべきか。金髪に映える朱を主体としたそれは、見事に似合っていた。
そして、それを着たクーデリアの所作も堂が入ったものだ。裾を踏みつけてしまうことも、畳敷きの床に戸惑うこともなく、己の席に腰かけた。
傍らのフミタンの服装もそれに倣った和服で、こちらは比較的地味だ。だが、華がないというわけでもなく、うまくクーデリアを引き立てていた。
伝統的な、あるいはクラシックなスタイル。それでいて、染まり切らない美しさがあり、所作も自らも型にはまり切っていない。
蒔苗は揶揄いの一つでも言ってやろうかと思っていたが、ここまで見事だと口をつぐむしかない。

「お待たせしました、蒔苗元代表」
「なんの、年寄りにはのんびりが一番でな。仰々しくやるより肩ひじ張らん方が好みよ」
「私は少し派手なくらいが好きですよ」

 一瞬、視線が交錯した。
 すでに始まった牽制合戦。さらりと蒔苗は砲艦外交に言及するが、クーデリアは素知らぬ顔だ。
 いきなり難題を吹っかけることは蒔苗には不可能になってしまったのでその嫌味程度は言うが、クーデリアもわかっていたことなので気にしない。
むしろ、砲艦外交という圧力を出汁にされて弱者の理論を展開される方がよほど厄介なのだ。

717: 弥次郎 :2021/04/09(金) 00:01:45 HOST:p2938249-ipngn19601hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp


 そこですっとアンジェラが進み出てきて給仕をする。
 茶菓と東洋のお茶。エウクレイデスに積み込まれていた賓客をもてなすためのそれらは、これまた見事に調和を成していた。
 手を伸ばし、それぞれを深く味わった蒔苗は感嘆の声を漏らした。

「これは見事。ワシもうるさい方じゃが、引けを取らぬもの。火星連合に協力する地球連合というのは偽りなしのようだの」
「偽りも何も、地球連合は地球をその始まりにもつ複数の国家による連合組織ですから」
「いやぁ、正式な名前が『地球圏を中心とする近隣星域及び多次元連邦を盟主とする多種族銀河統一連合』、だったかの?
 地球の文化を引き継いでいるとは思っていたが、期待以上で、そしてこうして楽しめてうれしいものじゃ」
「あら、ありがたいことですわ」
「?」
「提供こそ地球連合や企業連ではありますが、茶葉と茶菓は火星の農場で栽培されたものですわ」
「ほっほっほ、これは驚いたわ」

 そこでようやくクーデリアもお茶に手を付け、一息入れる。
 そして、一気に踏み込んだ。

「さて、蒔苗元代表。そろそろ---有意義にお話をしたいものですが、いかがでしょう?」

 瞬間、蒔苗の目が鋭さを増す。
 この辺境での世間話のために、わざわざ地球くんだりまでギャラルホルンなどを跳ねのけながらきたわけではない。
 火星連合と経済圏の間の国交、そして現在の戦争状態、そして未来における交易や外交の在り方。そういったものを話し合うための地球への来訪。
ひいては、この太陽系という世界と、それより大きなスケールの国家群との付き合いや今後について話し合うためだ。
 そして、蒔苗にとっては、アーブラウ代表という地位に返り咲く唯一の機会でもある。亡命してはいるが影響力は大きい。
それこそ、代表戦に出馬すれば勝つことができるだけの仕込みは済ませてある。問題は、そこに行くまでが大変ということだ。
何しろ、ギャラルホルンによる「警備」が行われているのだ。ほかならぬ自分とクーデリアがエドモントンを訪れることを警戒して。
 即ち、両者の思惑は一致する余地があり、十分に妥協し合えるもの。しかし、そうやすやすと相手の手を取れないのも確か。

「火星と地球と……この太陽系のすべての人々のための一歩を、始めましょう」
「大きく出たものだの。まあ、それもまた一興」

 そして、両者が交渉という戦闘を始める。
 互いが互いの利益と目的のため、目指す領域のため。
 これまでの戦闘に引けを取らない交渉が幕を開けた。

718: 弥次郎 :2021/04/09(金) 00:02:45 HOST:p2938249-ipngn19601hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
以上、wiki転載はご自由に。
次回より交渉が始まります。
これってガンダムなのよね?(今更


722: 弥次郎 :2021/04/09(金) 00:25:47 HOST:p2938249-ipngn19601hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
修正

717
×「偽りも何も、

〇「偽りも何も、地球連合は地球をその始まりにもつ複数の国家による連合組織ですから」
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最終更新:2023年11月23日 14:00