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銀河連合日本×神崎島ネタSS ネタ ゲートの先は神崎島もヤルバーンも無いようです 総督リシュリューは憂鬱なようです
戦艦リシュリューの一室、遣ゲート日本親善艦隊の一隻として派遣された彼女。
豪奢な内装で王侯貴族の執務室にも見えるその場所で金髪の美女が仮想造成されたキーボードに指を走らせ電子書類を決済していく。
そんな彼女は艦娘のリシュリューだ。
中にはリシュリューのサインが必要なものもあり彼女がスラスラと直筆のサインを書くとスタッフがその書類を外へ持ち出す。
しかし部屋の外、戦艦リシュリューの通路を見ると扉から出ていった筈のスタッフが存在しない。
そして執務室に備え付けられた窓、船舶によくある舷窓ではない。
ヨーロッパの宮殿などでよく見られる装飾が施され室内への採光を目的とした大きいものだ。
書類の処理を一通り終え、一息吐くとリシュリューはその窓辺に移動し外を見る。
窓の外にはよく手入れされた広大な庭園が広がり、その中央にはギリシャ神話のレトとアポロンの像のある巨大な噴水が存在する。
そう仮想造成されてはいるがここはヴェルサイユ宮殿の一室である。
より正確に言えばこの部屋は銀河連合日本のある世界のヴェルサイユ宮殿内の一室と量子通信で同期しており、
ここでの行動がゲートの向こうのヴェルサイユ宮殿にも反映される。
先程出ていったスタッフも向こう側のヴェルサイユ宮殿にいる人物だ。
そしてこの部屋こそは神崎島の信託委任統治領、実質的な保護国となっているフランスの総督リシュリューの執務室である。
ヴェルサイユ宮殿には現在リシュリューをトップとする行政機関フランス総督府が置かれ、
立法機関代行として神崎島、ティ連関係者による総督諮問機関が設置されている。
少しずつフランス人に三権を移行していくという話もあるがいつになることかとリシュリューは溜息を吐く。
現在のフランスは政治に関して関心が高い、しかし人が政治をすることに忌避感が強い故に妖精や異星人が政治家や役人をし、
挙句の果てには元無機物で元人間の被創造物の自分が国の舵取りをしているのだ。
それもこれも同じ欧州連合である筈のドイツによって軍を除くフランス政府機関関係者が開戦とほぼ同時に尽く根切りされからだ。
地域共同体は地域安全保障の意味を成さず、国家は守るべき国民を守るどころか指一つ動かせなかった。
フランス人という枠が作った第四共和制という国家、ヨーロッパ人という枠が作った欧州連合という地域共同体、
血筋や存在に重みもない人間の生み出した共同幻想なぞ所詮は夢想であったと断じたがフランス人にとってのあの大戦であった。
しかし故に神授王権或いは賢者(人除く)或いは神そのものによる政治を求めるに至るとは。
リシュリューはまたしても溜息を吐く。
あの日、対馬での神話大戦が終結してから少し後に神崎島は他に先行してドイツが占領を進行中のフランスへの介入を開始した。
ドイツと軍事同盟を組んでいた中韓と戦端を開いていたので開戦に問題は無かったが日米英露などは暫しの間軍事行動は不可能だった。
日本は対馬の痛手からの回復、政軍両面での体制の刷新中、
英は第二次BOBと第二次アシカ作戦で消耗した戦力の補充とロンドンを中心に受けた被害の復興中、
米は在日米軍に加え、欧州に駐留するNATO派遣軍に大きな被害を受け特に東欧方面は露方面に敗走中であった。
また東欧に展開したロシア軍も同様に被害を受け戦線を後退、近いうちに国境まで押し込まれるとの予測もあり救援部隊が編成中である。
それもこれも旧ナチスの残したサマルカ系技術や何処から入手したのかガーグデーラ系技術を使用した兵器が投入されたからだ。
数は少ないがの機動兵器両が東部戦線で暴れていた。
機動兵器は機体各部のユニット化が進められており、
四肢の換装により歩行型、多脚戦車型、無限軌道戦車型と一見同一機種と見えない機体でも互換性があることが確認されている。
神崎島の某米軍事メーカーヤル研と神崎島マッドのすくつ支社製のWAPとかいう歩行戦車を生み出したが、
以前中東で試験運用中に一機が上海条約機構側のゲリラに鹵獲されており関連性が疑われている。
そしてそれ以上に猛威を振るっていたのが人間が忘れ去った筈の過去の遺物、いや神々も表に戻ってきたのだから遺物というのもおかしいか。
とにかく呪い、呪術、魔術、魔導なんでもいいがそう呼ばれるもの兵器としてを戦場に投入したのだ。
差し詰め呪術兵器や魔導兵器とでも呼ぶべきか。
初期の研究は艦娘に対抗し人造神や人造英雄、神々を改造し使役する等の神を神とも思わぬ研究だったが結局は全て失敗に終わっている。
しかしその副産物は人間に対して効果的だった。
84: 635 :2021/04/13(火) 10:06:53 HOST:119-171-231-231.rev.home.ne.jp
脈絡なく人間が死ぬ、病気の大流行を引き起こすや死体を操る、精神を操り同士討ちさせる。
倫理的に使用に問題あるが使えば戦争に有利になるものばかりだ。
またそれらの開発の為に少なくないドイツ人が犠牲となっている。
手段を達成する目的の為には国民さえ必要な犠牲なのだ。
また研究対象や兵士として術者の存在も重視された。
しかし大量にそこいらに存在する筈もなく欧州のカルト魔術結社やアフリカや中南米の先住の宗教の影響を受けた後ろ暗い宗教組織、
内乱に明け暮れる国でそういった術が磨かれた部族等が集められた。
その異常さ、異質さはそれらが通り戦場となった街には文字通り人一人いなくなるという噂が流れる程であった。
そんな事を思い出しながらリシュリューの記憶はフランスへ降りた日を振り返る。
ドイツの電撃的侵攻により首都パリは開戦初期早くに陥落した。
軍はもとより政府首脳部も壊滅、指揮系統、補給網が寸断された現代の軍に組織的抵抗を行える筈もなく、
残っていた民間のインターネット網や通信回線を用いてどうにか通信こそ可能であったが焼け石に水であった。
フランス戦線のドイツ軍は既存の兵力や兵器で占められていたがそれは何の慰めにもならなかった。
そして開戦時ブレストにおり生き残った数少ない高官の一人が臨時に軍最高指揮官を代行し、
全軍に被害を受けなかったフランス西部の軍港ブレストへの集結と国民の護衛を命じた。
フランス軍はフランス国民を護衛しながら西部への敗走を重ねた。
難民?速攻でドイツに寝返った者がいる奴らを守る必要があるのか。
その最中、神崎島鎮守府は密かに動き始めていた。
ヨーロッパ全土に張り巡らせた電子、人的諜報網と探知偽装を行った偵察からドイツ軍の行動を常に把握。
軍や民間人の脱出を妖精達が影から支援していた。
しかしドイツの主力部隊に補足されてしまった者達も存在した。
ある部隊は多くの老人や女性、子供を守りながら退避していたがドイツに補足され損害をだしながらもなんとか逃げ続けた。
しかし元城塞であった街に入った所で街はドイツ軍に包囲された。
包囲するのはフランスはもとより本国ドイツでも悪名高い憂国騎士団の部隊、降伏すれば如何なる惨劇が待っていることか。
街へ逃げ込んだはいいが連日攻撃が行われた。
重なる部隊への損害、負傷する兵や民間人達と日々減っていく物資。
使用できる火器と動ける人員は減っていき、老い先短い老人や母が子供に自らの少ない食事を分け与え、
市民達にとって国も自治体も警察なぞ意味がなく、内輪もめが日に日に増えていき唯一頼られる軍人が仲裁に乗り出す始末。
これが国を守れなかった結果かと軍人たちは惨めだった。
兵士も、民間人も、子供も、老人も人々の表情の何処かに人間への絶望と達観の影がちらつく。
国家連合も国も政府も自分達を守ってはくれない、人の生み出した共同幻想なぞ幻だったのだろうと。
包囲するドイツ軍が舐めているのか攻撃を行わない夜間だけが安らぎだった。
そしてこのドイツの慢心により長く籠城出来たことが彼らを救うこととなる。
そしてついにその日が来た。
食料も物資はもとより弾薬もすらも殆ど尽きた。
明日の攻撃を防ぎ切ることは出来ず、この街は陥落し地獄が生まれるだろう。
そして夜を迎え残った物資でささやかながら宴が行われた。
そして日が明け、民衆が教会に祈りを捧げに集まった。
最早、国や国家連合という共同幻想に絶望し縋れるものは神をおいて他になかった。
これから地獄が生まれるが自殺は出来ない天国へ行けないからだ。
だからせめて苦しまず安らかに眠れる様にと信心深い者はもとよりただキリスト教徒であるというだけの者も、
無神論者さえも祈ろうと集まった。
85: 635 :2021/04/13(火) 10:07:54 HOST:119-171-231-231.rev.home.ne.jp
しかし先に教会の扉を開くとそこには先にいるものがいる。
鎧を纏う金髪の美しい女性が膝をつき祭壇の主に祈りを捧げていた。
差し込む朝日が女性を照らしその髪が金の光を放つ。
一枚の宗教画の様な状況に人々は息を飲む。
祈りを終え女性は足元に置いていた布を巻き付けたポールを片手に立ち上がり人々の方を向く。
慈愛を湛えた青い瞳が人々を映し涼やかな声が人々を諭す。
死ぬ必要はないと死に怯える必要はないと、我々はその為に来たのだから。
教会の外、街の城壁の上や外でフランス軍部隊は必死の抵抗を行っていた。
しかし蟷螂の斧、全ての弾薬が尽き城塞の街を守る城壁の門が戦車の主砲で粉砕された。
野蛮な兵士たちが街に雪崩込む。
男たちは少しでも抵抗しようと農機具や工具など武器になりそうなものを手に取る。
母は子を抱きしめ、祖父母は孫達を抱きしめその時を迎えようとしいた。
しかし怒号も銃声も聞こえず静寂だけが街を支配する。
一人の幼子は母の腕の中で身体を必死に動かして母の腕から顔を出すと門の方を見る。
敵と味方の間に広く間が空き、敵も味方の兵士も男も女も老人も皆空を見上げている。
幼子も空を見上げる。
そのどんぐりのような丸い瞳が大きく開かれ朝日の昇る空より舞い降りるものを映す。
その瞳一杯に白と黒の羽衣がはためく。
「女神さま…?」
帽子より溢れるプラチナブロンドを靡かせ彼女はふわりと大地に舞い降りる。
降り立ったのはフランス人とドイツ兵達の間、フランスの民衆と軍人達を背にまるで守るかの様にドイツ兵達の前に立ち塞がる。
その金色の瞳がドイツ兵を睥睨すれば気圧された様に後ずさる。
教会から出てきた人々もその光景を呆然と見つめる。
彼女の流れるプラチナブロンドが朝日を浴びて神秘的に輝き白と黒のドレスを纏う女性、その背からは守り抜くという意思を感じる。
天から降りた女神か天使が民衆を守らんと悪魔の前に立ちはだかる、言葉にすればそんな光景。
女神の降臨、そんな言葉が人々の脳裏に浮かぶ
そして鎧、正確に言うならばロボットスーツであるそれを纏い主に祈り捧げていた金髪の女性が民衆たちの前に出る。
教会、神の家のその前、城塞の中心の広場の更に中心に立つと手にした布を巻き付けたポールを高らかに掲げた。
巻き付けられたその布が風を孕み広がっていく。
それは太陽の御旗。
朝日を浴びて輝きながらたなびくそれは光を放つ赤き太陽。
心悪しき者を消し去り、穢を浄化し、生命を育む朝日。
神が降り、主が奇跡を示された地の証。
人々が思うドンレミの女の如く威風堂々と鎧を纏う女性は太陽の御旗を掲げる。
我らは神と共にあり、ここに神は共にある。
国という拠り所を失い迷える仔羊となっていた者達は涙を流し膝を折り、両手を握り祈りを捧げる。
救いはあった。
御旗の威光と女神の言葉に悪しき者達は狼狽える。
女神は言う、悪しき者達よ去れと。
「狼藉はこの戦艦リシュリューが許さないわ。野蛮人共どきなさい!!」
86: 635 :2021/04/13(火) 10:09:25 HOST:119-171-231-231.rev.home.ne.jp
以上になります。転載はご自由にどうぞ。
最終更新:2021年04月14日 19:42