196: 弥次郎 :2021/04/15(木) 22:43:06 HOST:p2938249-ipngn19601hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
憂鬱SRW マブラヴ世界編SS「Zone Of Twilight」第2章1節「信仰と紅い射手」
ソ連高等機密機関である中央戦略開発軍団331特殊実験開発中隊所属のイーダル試験小隊の任務は多岐にわたる。
п計画のことは当然として、Su-37UBのテストという任務を帯びている。殊更、紅の姉妹に関しては秘匿されていることばかりだ。
しかし、今回の連合の戦力がユーコン基地へ出向してくるという事態において、そこに新しい任務が付け加えられることになった。
即ち、連合の機動兵器および技術の戦力査定と、連合の供与技術の吸収と実践形式でのテストである。
極めて短期間に開発されたSu-27DおよびMig-27Fといった改修機を持ち込んできているので、それについての比較検証をすることで評価する。
さらには、現在、イーダル試験小隊の戦術機に搭載された新型OSによる旧来とのスペックの比較実験というのもある。
イェジー・サンダークが病室のベットの上で胃痛と戦いつつ必死になって手はずを整えたことにより、それらは奇跡的に遅延なく開始されることになった。
すでに西側においては模擬戦が行われたことは伝え聞いていることであるし、シベリアの方では連合の戦力が多大な戦果を挙げているとの情報もある。
ソ連としては、ここで置いてけぼりにされることを忌避していたのだ。明確に、戦後というビジョンが見えてしまったことも原因であった。
さらには、最前線において連合供与の機体がなぜか潤沢に使われるようになっており、持て余しているのが本国という有様であったのも。
かくして、戦術機同士の模擬戦やJIVESでの演習を繰り返すことになったのであったが、発覚したのは、Su-37UBさえ置いてけぼりにするスペックと操縦技術であった。
スペックに関してはまあしょうがない。相手側の戦術機のスペックの方が高くなければむしろ困るほどだったのだから。
問題なのは、操縦技術、すなわちパイロットの差であった。
第三計画の遺児であるイーニァ・シェスチナとクリスカ・ビャーチャノワの二人が連携しても追従できないのだ。
高い相互理解とそういうように調整された衛士としての能力を以てしても、一般兵にさえ追いつけないというのはとんでもないことであった。
これまで国運や威信をかけて長い年月とコストを費やしてソ連が積み上げてきた強化人間が、そこらの一般兵に同じ土俵で負ける。
ソ連の政府および軍内部の動揺については言うまでもないであろう。それこそ、恐慌一歩手前だった。
それについては、サンダークが送った、連合がこれまでに経験してきた外敵についてのレポートなどで鎮静化できたものの、ソ連はなおのこと連合の手を離せなくなったのだ。
前述の通り、戦後を見越して「しまった」ソ連は、BETA駆逐後の戦後における東側陣営盟主としての地位に今更ながら欲を出したのだ。
そして、それを担保するために、連合の助力を引き出すだけ引き出したいと、欲が湧いたのだ。
- C.E.世界 融合惑星 β世界北米大陸 アラスカ州 国連軍ユーコン基地 ソ連基地内 病室
「……」
ソ連内部につながる伝手からの情報を整理したサンダークは、頭を抱えてベッドの上で考え込んでいた。
いや、まじなにしてくれてるん。偽りなくサンダークは思っていた。
連合、正確にはソ連や東欧の国々の支援を担当するユーラシア連邦が、明確に拒否してきたことは記憶に新しいというのに。
また、そういったあほなことを言い出している連中が怪奇現象に巻き込まれている、というのも聞いている。
ユーラシア連邦の手によるものや内部粛清かと考えられたが、前述のように怪奇現象、物理的に在り得ないようなことが起きており、その件は否定されている。
それがある程度抑止になっているとはいえ、予断を許さない状況であることに変わりはない。
そのためには、自分たちがここで結果を出し続けることが重要だ。今の関係を維持することが優先だと、そう思わせなくては。
(それにしても……)
思い返すのは、連合の、ユーラシア連邦の有する機動兵器の力だ。
核融合炉を標準搭載、信じられないほど軽く頑丈な合金、光学兵器、戦術機を超える機動力。
未来だというのは伊達や酔狂ではない。少なくとも、サンダークはそう感じている。
そして、それと触れ合うのに必要なのは謙虚さであるとも。
西暦を過去のものとした世界。そんな世界をいちいちこちらの尺度でとらえようというのはよほどのバカであろう。
連合の援助が、完全に善意から発生したものとは言い切れなくとも、相手に悪意を見出そうとすると疑いきれない。
それを上層部が共通見解としてくれるのは、いったいいつであろうか。そんなことを、サンダークは思った。
果たして、相手に歩み寄ることができるのか。少なくとも自分がそれができるのか?思わず、不安を抱かずにはいられなかった。
197: 弥次郎 :2021/04/15(木) 22:44:05 HOST:p2938249-ipngn19601hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
そして、そのソ連の党と軍の意思は、明確にロートス・リング大佐をはじめとしたユーラシアの面々にも伝わっていたのであった。
恐れると同時にどこか縋るような視線と言動。当初、ドイツが主体であるということで少なからず向けられていた悪意が消え去っていれば嫌でもわかる。
まあ、同じく行われたMSと戦術機同士の模擬戦で惨憺たる惨劇が起こってしまったこともあるのだろうが。
リングはそれらの事実もまとめて報告している。今回の件に限った話ではないのだが、ソ連の動向はあまりにもセンシティブだ。
これ以上人身売買の真似事や人道に反することを持ち出して接近されては困る、ということだ。
ソ連側に対しては何度も釘を刺してはいるのだが、うまく刺さっているか、そして効果を発揮しているかというのは微妙なライン。
故にこそ、一日の訓練が終わって自分たちの領域である輸送機に帰っても、リングはあまり良い顔をしない。
政治的に厄介すぎる案件であるというのは聞いてはいたが、ここまでとは思いもよらなかったというのがリングの正直な感想。
とはいえ、仕事は仕事だ。彼らに技術を教え、戦闘が何であるかを身につけさせ、これからの新時代の基準となるOSに慣れさせる。
また、技術を担うメカニック班や技術者たちには座学や実地訓練も含めて供与技術についての知見を伝えている。
いくつもの場所で、いくつもの動きがあって、いくつもの変化が起きている。それは良いことだ。
ただ、その影響がビリヤードのように玉突き衝突して、思わぬ変化を呼び起こしかねないのではとも懸念している。
どちらかといえば、俯瞰する立場のリングからすれば、現状の不可視の部分が大きい状況は好ましくない。
とはいえ、徒な干渉は内政干渉に発展しかねないし、関係がこじれてしまう遠因になりかねない。
(それに、あの姉妹)
紅の姉妹。彼女らは明らかに強化人間だ。明らかに幼すぎる上に無垢すぎるというのもある。
同時に、ロート・フライシュッツに属するその手の能力者たちからは、あの姉妹がこちらを探っているとの報告が上がっている。
それ自体は別にかまいはしない。強化人間など、連合でも割とよくいるのだから。そんな彼女たちがこちらを疑っているのも、まあ、許容できるか。
(ですが……)
同時に、リングは思うのだ。
そんな腹の探り合いをしても意味がないのだと。
そうしなければならない立場にあるのかもしれない。だが、だからこそ、胸の内を打ち明けてほしいと思うのだ。
疑い、疑われ、疑心暗鬼になって触れ合うだけなどあまりにも悲しすぎるのではないか。
「こちらから歩み寄る、それしかないですね…」
ともあれ、動き出さねばならないことは確か。明日からよりアプローチを試みるか。
前衛に出るのは得意ではない、と思うが、是非もない。
明日は実機演習なのだから、物理的に近づいて、お近づきになろうじゃないか。そんなことをリングは考えた。
そして、それを部下たちに伝えるべく通信機を手に取った。
198: 弥次郎 :2021/04/15(木) 22:45:02 HOST:p2938249-ipngn19601hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
以上、wiki転載はご自由に。
ZOTの方が先に書きあがったのでこちらを先に。
ロート・フライシュッツとイーダルの様子を3,4話くらいの形にしようかと思います。
SMSのスカル小隊とハンター中佐の激突とか、皆さまお楽しみのアルト姫とか、ユウヤ君の奮闘とかを描きたいものです。
今週末にはGATE編を投下できればいいかなと思います。
最終更新:2021年04月19日 00:22