334: 弥次郎 :2021/04/17(土) 19:01:23 HOST:p2938249-ipngn19601hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp


憂鬱SRW GATE 自衛隊(ry編SS「空想夢転のカブリオール」



  • 特地 企業連合拠点 講堂


 機動兵器を操るうえにおいて必要なこととは何か?
 リンクスたちに尋ねたならば「イメージ力」と答えが返ってくるであろう。
 というのも、AMSを通じたダイレクトマンマシンインターフェイスを採用している都合上、イメージがそのまま操縦となるのが特徴だからだ。
コンピューターや機械による補正やアシストもあるとはいえ、基本的には「できると思ったことができる」という特性。
パイロットの持つ能力を最大限操縦に反映させることで、最大の力を出すという発想である。まあ、ダイレクトすぎる弊害がないわけではないのだが。

 そして、この「イメージ力」や「発想力」の重要性は、リンクスに限ったことではない。
 人型機動兵器は、人の延長に形がある。人にはない機能や機構が含まれているが、基本的には人の延長であり拡大型。
故に、その動きは人のできることに基本がある。そして、人間はイメージしたことができるように体の構造ができている。
 すなわち、イメージしたことがそのまま人型兵器の操縦に直結する、ということである。

 機動兵器の訓練が始まったばかりのころに、自衛隊と米軍の候補生たちはそれを最初に教えられた。
 そして、同時に篩い分けがなされることになったのだ。

「卿らも繰り返し聞いていることであろうが、人型兵器は人の形を模している。
 だからこそ、極めて汎用性があり、柔軟性がある。車では後ろを振り返るという動作ができない。飛行機ではその大きさや構造によって動きが制限される。
 戦車は搭載し運用する砲や砲弾を自由自在に選べるか?不可能だ。重さや反動という問題が存在するためだ。
 だが、人の形ならば?それらの複雑な、人間的な、あるいは生物的な動きが可能だ」

 その基本を語るのは、講師を務めるリンクスのモンテ・クリストだ。
 即席の講堂の中で、身振り手振りを交える彼は、堂々と多くのパイロットたちに語り掛ける。
 恐らく最も有名な復讐者、あるいは報復を成し遂げた架空の人物の名前を名乗るリンクス。
彼が語るのは、極めてシンプルで、とても残酷なまでの真実であり、未知の知識であった。

「動き回り、機動し、動きを有機的にする。それこそが基本だ。
 そして、多くの機動兵器が旧来の兵器を駆逐できた最大の理由が、この柔軟性にある」

 それは基本にして基礎。とてつもない、単純な心理。
 あらゆることができるという、シンプルで、他では決して真似できないモノ。
 歩兵であり、戦車であり、砲兵であり、壁であり、飛行機であり、車であり、潜水艦であり、重機でもある。
オールインワンという在り得ないか、絵空事と思えるような、極めて稀有な存在。それこそが機動兵器なのだ。

「卿らはまだ乗り物という感覚であることは否めない。まあ、これについては実地訓練で潰してもらう予定だ」

 そして、とモンテ・クリストは告げる。

「先日まで行ってもらった適性試験や訓練の結果を踏まえ、グループ分けを行った。
 即戦力を欲している自衛隊や米軍の要望に基づいてのものだというのは卿らも知っていると思う。
 よって、諸卿らの奮闘を期待するものである。各自、配られた適正表に書かれている通りの場所に移動を開始してくれ給え」

335: 弥次郎 :2021/04/17(土) 19:02:03 HOST:p2938249-ipngn19601hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp

 以上、と切り上げた彼は速やかに移動をはじめ、候補生たちもまた誘導に従って動く。
 時間は短く、また、余裕はない。本格的な訓練はノンストップで始まることになった。
 他方、平成世界の人々、自衛隊や米軍に属するパイロット候補生達は訓練を受けながらも、困惑を避けえなかった。
多くの候補生が人型兵器を乗り物という感覚で動かしているが、それを捨てろとたびたび言われるからだ。
 まあ、それはしょうがないのだ。人は過去の経験や知識を基にして動いてしまう者であり、新しい常識をいきなり身に着けられるものではない。
 とはいえ、である。そんなことは企業連からすれば予想された答えであり、ある種の選別の指針になり得たので問題視していなかった。
嘗て機動兵器というモノが生まれた時もそうだったのだ。速やかに適応できた者とできなかった者と別れてしまい、苦労を重ねた。
その苦しみや苦労こそが洗礼だと知っているがゆえに、焦りも驚きもしない。

「あれ、隊長?」
「クリにクロもこっちか…というか第三偵察部隊がそろってこっちになるなんてな」

 伊丹が振り分けられたのは、適正ありとみなされたグループ。
 適応ができて、即戦力となり得ると判断された彼らは、これからみっちりと扱かれる予定となっている。
 だが、あまり実感のないのが実情だった。確かにいくつかの試験や検査などを経たとはいえ、これからのことにイメージなどわきにくい。
それに、彼らも人型兵器についてみたことはあっても、それを操縦しているのは見たことはあっても、動かすとなるとよくわからないのだ。
ともすれば、人型兵器に対して懐疑的なところがある隊員さえもいるのだから。

「というか、即戦力を欲しているって、そんなに連合って人手不足なんですかね?」
「いや、どっちかというと俺たち自衛隊や米軍がお荷物になっているのを上が嫌ってのことらしい。
 炎龍の時だって、結局は傭兵たちが何とかしただろ?」
「そういえば……」

 栗林が思い出すのは、炎龍との戦いだ。
 あの戦いは確かに衝撃的な戦いだったのを覚えている。同時に、如何に自分たち歩兵が巨大な存在に勝てないかというのを感じさせた。
 戦車並みの装甲、ヘリの機動性と飛行能力、スケールを間違えたかのような火炎放射。そしてすさまじい馬鹿力。
一歩間違って歩兵が紛れ込もうものならば、一瞬で足蹴にされておしまいであろうことは想像に難くない。
あの時は観戦武官を送るという形だったが、それで発覚したことは、連合や傭兵たちにとって自分たちは足手まというという、残酷な事実だったのだ。
 そして、現在出現している怪物---ゴーレムという、これまたファンタジーな存在は、そんな炎龍さえも生ぬるい怪物なのだという。
かといって、そんな守られてばかりというのも都合が悪いし、寝覚めも悪い、という話である。
それに、万が一突破されてしまえば、東京にいきなり怪物の群れが出現する。そうなれば、ゲートが開いた時の比ではない悲劇が起こる。

「もしもだけど、あんなのがもっとたくさん都心に現れたら…」
「銀座事件の比じゃないですね……」
「映像だって見たしな……あれだけの群れと怪物とか、歩兵でどうしろってんだ…」

 彼らの脳裏には、出現したヴォルクルスとその眷属の群れの映像が浮かぶ。
 炎龍どころではない怪物が、文字通り大地を埋め尽くしているのだ。そんなものを相手に現代兵器で無双?不可能だ。どう考えても息切れする。

「だから、俺たちが少しでも食い止めないといけないんだよな…」
「その通りだぞ、英雄殿」
「わっ!?」

 そんなことを話していた伊丹の肩を叩いたのはモンテ・クリストであった。
 いつの間に、と驚く伊丹らを気にすることなく、彼は力強く言葉をかける。

336: 弥次郎 :2021/04/17(土) 19:02:42 HOST:p2938249-ipngn19601hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp

「人を守るというならば、武器をとれ。力を持て。そして使え。躊躇うことなくな」
「え、あ、はい…」
「卿らの国のことはある程度知っている。
 力に罪があったか、人に罪があったか。そして、力に罪があったと結論付けたのだったな」

 それは、伊丹達もよく知る憲法のことだ。その九条に記された「国家間の問題の解決手段として戦争を用いず、その戦力を持たない」というもの。
それは、軍部の統制という問題に苦しみ、そして敗戦した日本という国家にとっては、ある種の反動として形成された意識であり、憲法であるといえた。
そして、少なからず自衛官である伊丹達もそのことを叩き込まれている。だから、モンテ・クリストの解釈はある種新鮮であった。


「まあ、卿らの国の事情にまで首を突っ込む気はない。卿らは戦うことをイメージしてほしい」
「ですが教官、イメージしろと言われましても…」
「わかりにくいか」
「はい」

 物おじなく疑問を呈する栗林に、モンテ・クリストは少し悩み、しかし言い切った。

「先ほども言ったが、別にイメージできなくとも構わない。
 だが、想像力を働かせてほしい。自分が機動兵器を自在に操り、戦うところを。
 不可能だとか、ありえないと思えば、それだけの動きしかできない。やるのだ、という志、決意こそが卿らには必要だ」
「できるかもわからないことを、やり切る?」
「そういうことだ。我々の世界において人型機動兵器が生まれた時も、先駆者たちは同じように壁にぶつかった。
 だが、その壁を超えたからこそ今日がある。我々にできたことなのだから、卿らにできないということはないと信じている。
 困難にあたるだろう、苦しむこともあるだろう。だが、人はそれを超えてきた。これはあらゆることに共通することだろう」

 徐々に弁舌に熱が入るモンテ・クリストは、やがて、力強く断言した。

「だが、結局のところは喜びも苦しみも相対的なもので、最終的には意志なのだ。意思がなくては何も始まらん。
 意志だ。その強い意志こそが、命運を分けるといってもいい。状況に流されて終わるか、それとも、状況に抗い、人らしくあるかを」
「……意志」
「そうだ。卿らは命令で動くものだ。軍属というのはそういうものだ。
 だが、人形やロボットのように淡々と動くものに世界は動かせない。動かす苦しみがあるだろう、だが、その先にこそ答えはある。
 待て、しかして、希望せよ」

 そこまで言い切り、モンテ・クリストは去っていった。
 世界を、動かす。そんな大きくて、曖昧なことを言われたというのに、彼らの胸中にその言葉は重くのしかかっていた。

「ていうか、モンテ・クリストって名前であのセリフって狙っているんですかね?」

 しばらくのちに、倉田はぽつりとつぶやく。
 巌窟王という名で日本で知られているアレクサンドル・デュマの小説「モンテ・クリスト伯」の有名なフレーズだ。
ほんの一行知識として知るだけであるが、その独特な一節は倉田の記憶に残り続けていた。

「傭兵ってことで偽名というかセカンドネームを使っているって言っていたよな…」
「あの人、モンテ・クリストが好きなのかな?」

 首をひねるが、彼らがモンテ・クリストの事情を知る由もない。
 ともあれ、彼らはいよいよ始まる訓練に興奮と困惑を両立させ、挑むことになるのであった。

337: 弥次郎 :2021/04/17(土) 19:05:56 HOST:p2938249-ipngn19601hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp

  • 特地 連合敷設屋外演習場


 そして、候補生たちは本格的な訓練が始まってからというもの「イメージ力」という力の重要性を理解することになった。
 操縦桿が二つしかないのにとおもったが、そこはそれ。OSにはあらゆる動作を、モーションを、仕草を行うためのパターンが登録されていた。
そして、それらは数百数戦を超える組み合わせがあり、どれをとっさに選ぶのか、動作をどのように組み立てるかはパイロットの考え一つに依存してしまうのだ。
ある程度のオートマチック動作があるとはいえ、パイロットが思考を止め、操縦を止めてしまうと、致命的なまでに動きが止まってしまう。
そして、そのわずかな時間の硬直が発生するだけで、再度動き出すのに時間がかかる。そして、巨体であるがゆえに、人とは比較にならない時間がかかるのだ。
 人間で言うところの障害物競走---ただし銃火器でターゲットを破壊しながら---の訓練プログラムは、そんな想像力の足りないパイロットを容赦なく締め上げる。
センサーやカメラの捉えた情報を基にして先行入力し、逐次修正し、適切なコントロールを行う訓練は、それ故に能力を浮き彫りにするのだ。
 イメージ力というよりはマルチタスクと言った方がいいかもしれないのだが、ともあれ、そういう能力を鍛える必要がある。
操縦に関しては極論言えばOS任せでもどうにかなるのだが、そのOSに動作を入力するのは人間の役目なのである。
 そして、コースを必死に走り、ターゲットを打ち抜く候補生たちに、容赦のない叱咤が今日の教官を務める『ルネ・モルフォ』から飛ぶ。

『3番機、動きを緩めてはいけませんよー。センサーの情報を読み取って、動作を先行入力です』
『は、はい!』
『5番機、止まらない。落ち着いて動作を確認』
『え、いや、でも…!』
『3…2…1…はい、バーン』
『おうわ!?』

 そして、動きを一定以上止めると、『死亡判定』が教官から下される。具体的にはペイント弾が飛んできて着弾するのである。
レースが終わるころには、どれだけ動きが止まったり躓いてしまったのかが嫌でもわかるようになっているのだ。
そうして可視化することで、より競争心に訴え、奮起を促すのだ。ちなみにペイント弾を落とす作業もセットでついてくる。

『慎重すぎるとむしろ動作が止まる。だから、稚拙でもいいからまずは動きを継続すること。
 多少雑でもOSの側で補佐してくれるから、そこをまず意識して』

 がしょん、とルネ・モルフォの乗るアレイオンL型がペイント弾を装填したライフルを再度構える。
 多少の衝撃はあるけれども死にはしない。けれど、撃たれるということへの恐怖はあるし、被弾というのはそれだけで恐ろしいもの。
 故に、その動きを見た誰もが、動きを必死にせざるを得ない。

『機動兵器は既存兵器の攻撃を受けても大丈夫なくらい頑丈に作られている。
 けど、まったく無問題、というわけじゃない。動きを止めたらそこに攻撃が来ると思うこと。OK?』
『『『了解!』』』

 慌てた返事か、回線越しにちゃんと返事が返ってきていないパイロットもいる。
 そのパイロットの位置をすぐに把握すると、ペイント弾を撃ち込んでやって注意をする。

『今撃たれた人、生身なら指示を無視に等しいので、ちゃんと返事をすること。
 忘れがちかもしれないけど、集音装置は耳、振動感知は触覚、カメラとセンサーは目、通信機は耳と口。
 それらを制御できないことは目隠しや耳栓をして戦場に出ていることになる。そうなれば、即座に死ぬ』

338: 弥次郎 :2021/04/17(土) 19:09:40 HOST:p2938249-ipngn19601hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp

 冷たい声を意図して出してやる。
 慌てた動きでOFFだったいくつかの機体との回線がONになり、全員にようやく声が届くようになった。

『そんなバカな、と思うのは自由。だけど、その結果は戦場で自分の命で報いることになる。
 今ここで死ぬことができる幸運を、しっかりかみしめて』

 ルネは何も嘘は言っていない。鍛錬を怠れば命でそのツケを払うことになる。油断や慢心をすれば、あるいは些細な油断が、即座に死へと直結する。
そうやってたった一つしかない自分の命を落としたパイロットたちをルネは何度となく見てきたのだ。
 彼らはその危機感を未だに持っていない。そういう意味では戦場に立たせることさえ避けねばならない。
 だが、そうもいっていられない。だから、スパルタであろうと何であろうと叩き込んで覚えさせるしかない。

『各員、訓練を続行。私の目は背中にもついているし、空にも浮かんでいる。油断せず、集中すること』

 今度こそ全員から返答が返ってきた。彼らの中には不満もあるだろうし、困惑もあるだろう。恐怖や怯え、負の感情も。
 だが、死んでもらっては困る。彼らが生き延びるためのすべを教えることこそが自分の第一義だ。そこに余裕はない。
だから、そちらについては専門のメンタルケアやアフターコンバットケアに任せることとしよう。ルネは自らの心を鬼とすることをいとわなかった。
 すべては、彼らが徒に死ぬことなく、使命を果たしてもらうために。敬意と愛情をこめて、ルネの指導は続いた。

(無人機の方がよほどマシな動きをするけど、彼らも上層部の無茶振りの犠牲者ってところかしらね)

 はっきり言ってしまえば、彼らの戦力的な価値は大量に配備されている無人のMTにも劣りかねない。
 戦闘を仕事とする傭兵としては、そんな劣る戦力があるというだけで、戦場の不安要素が増えてしまうので歓迎できないものだった。
 だが、政治的なものが絡めば話は変わってきてしまう。彼らも彼らで事情があり、尚且つ、一つの国家としての矜持というのがある。
全くを以て面倒な話であり、同時に、かわいそうな話だ。一手間も二手間もかかる育成を吶喊でやって、戦力化して、放り込む。
 だから、せめてできる限りを。そして、ルネは動きが悪くなったスレイプニルL型に照準を合わせ、トリガーを引いた。

339: 弥次郎 :2021/04/17(土) 19:10:35 HOST:p2938249-ipngn19601hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp

以上、wiki転載はご自由に。
訓練が始まったばかりの頃の風景を。

長くかかり申し訳ないです。
「文章が長すぎ」と怒られてしまったので急遽分割して文章を書きなおしました。

349: 弥次郎 :2021/04/17(土) 20:51:34 HOST:p2938249-ipngn19601hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
348 New氏
oh...誤字修正感謝です


336のモンテ・クリストのセリフのところ、修正をお願いします

×力が罪かあったか、人に罪があったか。

〇力に罪があったか、人に罪があったか。

タグ:

憂鬱SRW GATE編
+ タグ編集
  • タグ:
  • 憂鬱SRW
  • GATE編
最終更新:2023年11月15日 20:25