393: 弥次郎 :2021/04/17(土) 23:47:50 HOST:p2938249-ipngn19601hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
憂鬱SRW GATE 自衛隊(ry編SS「書架の人形」
『Lasciate ogne speranza, voi ch'intrate.』
そう記された金属の門の向こう側は、まさに異界だった。
素人目にもわかる。霊感と呼ばれるものがなくてもわかる。ここから先は、違う世界だ。
そのように感じるのは、白百合 玲子。本位内閣において首相補佐官を務め、現在は特地および連合との折衝役という役目を務める人物だった。
部下を数名、信頼のおけるものだけ連れて、都内にあるとある書庫を訪れた。
そう、書庫だ。首相官邸や霞が関などからもアクセスがたやすいそこは、連合の用意した、ある種の避難場所であった。
なぜ、そこに置かれたのか。それは霊的に見てこの書庫の立地が優れていたからに他ならない。
すなわち、ここからならば平成世界の日本における情報に呪いを帯びさせることがたやすく、同時に、各省庁に出回る文書の遠隔管理がしやすいためだった。
そして、意を決して厳めしい文言を、『神曲』地獄篇において地獄の門に刻まれた言葉を刻んだ門を潜り抜けた。
その先には事前に知らされていた通りの幼い少女が白百合を待ち受けていた。
「お待ちしておりました。白百合様」
「あ、あなたが…」
「はい。連絡がいっているかと思われますが、私がこの書庫「ウルスラ」の管理者を務める百野栞と申します。
本名は『書架のウルスラ』。魔導義体『フランシーヌ』の使い手です」
150センチにも満たない彼女が一礼すると、まるで子供だ。しかして、その纏う空気、言葉の重み、威圧感はどう考えても子供ではない。
「こう見えて、私はすでに200歳を超えていますので、悪しからず。
リーゼロッテ・ヴェルクマイスター様の創設したウルティマ・トゥーレより派遣されてまいりました」
「に、二百歳……」
「脳と脊髄以外が生まれたころより不随でしたので、この義体に。以来、ウルティマ・トゥーレにて活動をしております。
さて、私のことはともかくとして、奥へどうぞ」
「Index Librorum Prohibitorum」と書かれた書籍を片手に、幼い少女の外見の連合の呪術の派遣官は白百合を導いていく。
「この書庫は、単なる書庫ではないというのはご存じかと思います」
「ええ。情報が漏洩した際にそれを……その、非科学的な方法で潰してしまうための、施設だと」
「その通りです。いつどこから情報が洩れるのか、分かったものではありませんからね。
私もこちらの世界で情報収集をしておりますが、どうにも芳しくない方々もいるようですから」
その言葉に、白百合は苦い表情を隠せない。
情報漏洩。それは、破防法やスパイ防止法といったものを制定できずにいる日本の懸念事項だった。
そして、その情報漏洩はスパイだけでなく、内側の内通者を通じて発生するものでもあった。ただでさえ、そういった傾向のある人物が多いのだから。
それに、市民や官僚、あるいは職員と疑えばきりがないほどに情報の漏洩をしかねない人間がいる。
ただでさえ圧力を受けている状態において、その存在は疎ましいどころではない。下手をすれば国家の存亡にさえ発展するのだから。
「我々連合としても、徒な情報の拡散などは望まぬものです。ゆえにこそ、今回のような対策を打つことにいたしました」
「……立証不可能な手法による、防諜ですね」
百野は無言でうなずき、奥へとさらに足を進める。
内部は現代的な図書館のように、多くの本棚が並び、あるいは検索や書籍管理を行うためのパソコンが並べられている。
机もテーブルもあり、まるでそういったオカルトとは何ら関係のない施設であるかのように見えてしまう。
394: 弥次郎 :2021/04/17(土) 23:49:36 HOST:p2938249-ipngn19601hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
だが、ここは科学ではない、魔術やオカルトの支配する世界だと聞かされている。
一見すると何気のない光景であるが、その実態は自分たちの考えの及ばぬ世界の一端なのだ。
「白百合様、こちらに手を。それとサインをいただけますか?」
言われるままに、クリップボードに挟まれた紙にペンで名前を書き、手のひらをそっとあてる。
サインはともかく、手を当てることに意味はあるのか?と一瞬思うが、あるのだろうと推測できた。
事実、一瞬、自分の掌に何かが潜り込んでくるような、そんな奇妙な感覚が襲い掛かってきた。
「入館証を書きこみました。こちらに入る際に必要です。持たないものは、こちらに入ることができませんので」
「書きこんだ…?」
「はい。目には見えませんし、手のひらにモノを埋め込んだわけでもありませんので、白百合様を騙って入ることはかないません」
そして、と百野は続ける。
「日本国外へはここ以外の場所から行っておりますが、情報漏洩が官庁や省庁から起これば、あるいは不法な持ち出しがあればここから自動報復がなされます。
同時に、ここに通報がなされることになっております」
それ即ち、立証も立件も不可能な、法に縛られることのない防諜活動であり諜報活動。情報漏洩対策。
スパイ防止法などがない国ではその手の国民を監視する活動は非合法になる。だが、既存の法で縛れなかったり立証できなければ問題がない。
それこそが連合の並べた理屈であった。そして平成世界の日本はそれを追認せざるを得なかった。いや、むしろ積極的に追認した。
平成世界に対して提供された情報や技術その他もろもろの価値はとてつもないもので、日本政府は手放すわけにはいかなかったためだ。
それは国益を捨ててしまう行為であり、同時に、連合に対する不義理となる行為であるからだ。金銭では賄いきれないほどの恩義があるということ。
そして、その情報分野でのフォローをするためのオカルト方面での組織が、この書庫を拠点とする『ウルスラ』の役目でもあった。
『ウルスラ』だけでなく、白百合が知らされていない複数の組織が同じ目的で行動しているというのだから、恐ろしい話だ。
「ここはあくまでも一次対応と予防にすぎない箇所です。本格的な対応に関しては他の組織で対応いたします」
「わかりました。ここまでおんぶにだっことは、我が国のことですが、お恥ずかしいですね」
だが、百野はそんな白百合の自虐を責めはしなかった。
「得手不得手というモノがあります。持ちつ持たれつと考えていただければ」
それに、と百野は薄く笑って付け加える。
「我々は盤外戦術を、そのまた盤外戦術で叩き潰すのです。後ろめたいことをこそこそやる相手をねじ伏せるのは、清々しいと思いませんか?」
「……そう、ですね」
嗚呼、やはりこの少女は、200歳を超えているという「書架のウルスラ」こと百野は常人ではない。
人を人とも思わないという言葉があるが、その次元が違うのだ。
裏の人間。人を追い詰め、埒外の力でねじ伏せ、破滅させることにためらいがないのだ。
(怪物……)
その言葉が脳裏に浮かぶ。国家という名の怪物から見れば、だいぶかわいい方ではないか、と。
ホッブズの著書「リヴァイアサン」では、国家というのは社会契約に基づいて生み出される怪物「リヴァイアサン」と例えられた。
この国は、日本という国家は、敗戦から牙を抜かれ、飼いならされているようなものだった。
それ故に、他国の牙に対して弱く、そして、畏れを抱いている。そんな国家がいきなり強力すぎるほどの怪物の力を得たら、どうなるのか。
(いや、やめておきましょう……)
とっさに、本能として、判断を中止した。意味合いは違うが、エポケーと言えるか。
まだ表の人間だ。裏に、秘匿されているところに踏み込みすぎては、帰れなくなる。それくらいの嗅覚は彼女にもあった。
「では、もう少しここの中の案内をいたします。それと、ここの役割について説明を」
「はい。お願いします」
これも国家のため。その言葉と共に、白百合は摩訶不思議の世界へと少しだけ踏み込むことにした。
そして、彼女がこの「ウルスラ」をはじめとした連合のオカルト組織の力を知ることになるのは、もう少し先のことであった。
395: 弥次郎 :2021/04/17(土) 23:51:52 HOST:p2938249-ipngn19601hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
以上、wiki転載はご自由に。
即興で書き上げたので荒いかと思いますが…
今回は11eyesよりケフィアこと百野栞を登場させました。
まあ、SRW時空なのでちょっと設定とかいろいろ違いますけどね。
彼女の管理するウルスラは、官公庁や首相官邸での防諜、特に魔導関連の力による膨張を行っております。
まあ、やっていることは警察で言うところの交番レベルで、もっと本格的なのは他の人に任せていますが。
それでも、取材と称して盗みを働こうとしたり、忍び込んだりしようとすると……ここから先は、言わないでおきましょう(黒い笑み
最終更新:2023年11月15日 20:24