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銀河連合日本×神崎島ネタSS ネタ ゲートの先は神崎島もヤルバーンも無いようですその三十七
永久に黎明を迎えることのない何処までも続く鏡の様な水面。
いつか見た光景、今思い出せば柏木が夢現で伊耶那美命と会った状況に似ている。
そこにはあの時と同じ様に女が一人佇む。
違うのは俯き加減に水面に映る自分を見つめること。
それは己が罪への罰を待つ罪人のようであった。
豊穣を示す双角、星を映す瞳。
太古の母、ティアマト。
「ティアマト神…。」
『かつて多くの生命を育みました…。』
声が頭の中に響く。
『多くの子らが私より旅立って行きました…。』
それでもそれは良いとティアマトは言う。
旅立つことが子の望みならと、それが可能性の世界の汎人類史の獣性との最大の違い。
そして此度、
『多くの子を傷つけました…。』
祟る暴竜を化していたとはいえ自らの子を傷つけた。
その瞳には悔恨が見える。
母とは慈しむもの、かつてその手を子に向けたことがあるがそれは本意ではなかった。
別の子に求められた故の行動、彼女は優しすぎた。
フェルは近づくとその手を握る。
「コッチを向いて下サイ、ティアマトサン。話す時は目を見るものデスヨ。」
ティアマトはその瞳をフェルの手へと向ける。
自分の子ではない異星の子、その青い肌は自分の子と同じ様に温かい。
ティアマトはその手を見つめ柏木とフェルに目をやる。
「貴女が荒神と化したのは俺ら子供達の罪、貴女が後悔する必要はありません。」
自分たちの罪だと柏木は断言する。
しかしとティアマトは言いかけその言葉を柏木は遮る。
戻って来いと、後悔するなら贖罪したいなら現世に戻ってしろと。
柏木にティアマトは問う。
『私は、戻っても良いのでしょうか…酷い母なのに…。』
戻っていいのかと、再び母になってよいのかと。
母になってもいいと柏木は言う、自分達と子供たち共にその歩を進めてくれるのなら。
371: 635 :2021/04/22(木) 07:06:57 HOST:119-171-231-231.rev.home.ne.jp
『子らと共に現世に戻りなさいティアマト。』
『貴女は…。』
柏木とフェルには聞き慣れた声。
いつの間にかそこにいた神代の白き衣を纏うもう一人の母、柏木はぽつりとその名を零す。
「伊耶那美命様…。」
『この子達は貴女を想いました。此度の騒乱を治める為とはいえ貴女を求めました。子に求められれば応えるのが母というものでしょう?』
自分もそうなのだからと伊耶那美命は言う。
『この子達は私を求めてくれました。』
だから再び立とうと、母になろうと思った。
子らが真に幼年期を終えるその時まで、いやその先まで見守ろうと。
いつか星の海のを、世界を超え広がるその先まで。
『私もその様な母に成れるのでしょうか。』
ティアマトは思う、怪物としか神話に謳われない自分が子を見守り続けることが出来るのか。
柏木は母の手を取る。
「親は勝手になってるもんじゃありません。子供と共に歩み成長するものです。」
自分達と共に歩んで欲しいと柏木は言う。
「もう貴女の創世神、主神の敵というその役目は終わったのだから。」
その言葉に涙を流すティアマト。
「ティアマト神、貴女をという存在をエヌマ・エリシュという叙事詩から撃ち落とし、いえ解放します。」
柏木は宣言する。
フェルは言葉を続ける。
「アナタはバビロニア神話の創世神よりこの日本、いえ豊葦原瑞穂国の八百万神と一柱としてお鎮め致しマス。」
そして対馬の天之狭手依媛命としてと言った所で伊耶那美命が待ったを掛ける。
疑問の顔を伊耶那美命に向ける柏木とフェル。
伊耶那美命は言う、ティアマトの霊基規模と質では天之狭手依媛命の枠では収まりきらないと。
あっと言う柏木とフェル。
考えてみれば当たり前である一神話の創世神にして大地と空全ての元となった存在。
如何に国産みで生まれた大八十島という高位の神であるとはいえ島一つの天之狭手依媛命では規模が違い過ぎる。
ならば…。
『取り敢えず神格の宛はありますのでご心配なく。』
伊耶那美命の言葉にホッとする柏木とフェルであったが、神格名を聞いて固まった。
372: 635 :2021/04/22(木) 07:07:41 HOST:119-171-231-231.rev.home.ne.jp
白木の持つ端末がティアマトの頭部に天沼矛を突き刺す柏木とフェルを捉える。
その瞬間ティアマトの竜体に亀裂が走り光が溢れ出し、竜体崩れだす。
それを見て白木は叫ぶ。
「始まったか!」
そして伊耶那美命の声が音ではない何かとして響き渡る。
それは明確な言語ではなく力ある言葉即ち言霊。
海域にいるものだけではなく、電波、量子通信全てを通しその意味を全ての種族に理解させる。
『荒ぶる神と化したバビロニアの創世神、私は貴女を八百万として奉り貴女を鎮めましょう。』
『貴女は私の一部であり、子の一部故に貴女を八百万として産みましょう。』
『私はここに再び神産みを致しましょう。』
"神産み"、その言葉に全ての者が息を飲む。
『和ぐ貴女は母故にこの国の産土神、荒ぶる貴女は海、荒ぶる貴女は川故に貴女はこの国の龍。』
『貴女は全ての大地故に貴女はこの大地の国御魂。』
『母にして海にして川にして大地たる貴女こそはこの大八十島の、豊葦原瑞穂国の、日ノ本の国御魂。』
『故に貴女を日本大国魂大神として産みましょう。』
『貴女を日本大国魂大神として奉り鎮めましょう。』
『龍たる貴女は荒御魂として奉り鎮めましょう。』
『母たる貴女は和御魂として奉り鎮めましょう。』
『ティアマトよこの地に鎮まり幾久しく健やかであれ。』
『Aaah―Aaa―――――!!』
その身を崩壊させながらティアマトの歌が響き渡る。
それは憤怒や怨嗟、悲嘆、悲鳴ですらない。
溢れ出すそれは歓喜の歌。
同時に光が溢れと海域を覆う夜海を祓い清め、空を覆う暗雲を吹き払う。
明るい朝日がその光で対馬を照らす。
神の力の降臨、大神降ろしだ。
砕けるその身の欠片は金色の輝きを纏い空へと昇る。
砕けるその身より幾つもの光が溢れ出し天へと還る。
それはティアマトを縛っていた呪いより解放された対馬の民の魂。
373: 635 :2021/04/22(木) 07:10:23 HOST:119-171-231-231.rev.home.ne.jp
そして彼女が舞い降りる。
金色の欠片が、幾つもの光が、天へと還る魂達が舞い上がり、純白の羽衣が翻る。
降りてくる。柔らかく降り注ぐ朝日の光のを、最古の神話の軛から解き放たれ、最古の神話の役目を終えた最も古き母が。
人に撃ち落とされ、地に降り人と共に歩むことを望んだ者が。
豊穣を示す双角、星を映す赤き瞳はそのままに蒼銀の髪が風を孕む。
纏うはこの国の上代、神代の白き衣。
その身はこの大八十島の国御魂となられた。
荒々しくも優しきこの国の母なる大地の魂へと。
そして彼女はふわりと波紋を浮かべ海面に降り立つ。
それは正しく神話の光景、この場にいる者達は、この場を見る者達は只々呆然と見入る。
だが魅入らない者達もいる。
合掌
日本人達はその光景を見て自然と手を合わせる。
「うわわわわ!?」
「ヒャアアアア!?」
竜体が砕け落下する柏木達を巨人はその手で優しく受け止める。
『お疲れ様なのです。』
「イナズマチャン。」
摂津式大具足、それを纏った電だ。
「漸く終わったな…お疲れ様…。」
「カシワギ、フェルフェリア大義でありました。」
「なんかどっと疲れました…。」
柏木とフェル労いの言葉を掛けるオリオンとアルトリア。
柏木は息を吐く、戦いは終わったのだ。
柏木とフェルはドサリと大具足の手の上に座る。
大具足の手よりぼうっと空を見上げれば純白の艦体を持つ大和と機神アルテミスが穏やかに朝焼けの空を揺蕩う。
歌が聞こえる。ティアマトの歌だ。
しかしその歌は呪いの歌ではない、魂を祓い清める神の歌或いは子を眠らせる母の子守唄。
輪廻の輪へと、或いは産土神の元へと還る魂達の為の歌。
柏木はフェルの手を握る、その視線の先にはティアマトの姿。
「良い歌デスネ。」
「ああ…。」
朝日の映る静かな水面で謡うティアマト、その光景こそが今の彼女の心象世界ではないだろうか。
その光景を柏木とフェルはいつまでも見つめていた。
374: 635 :2021/04/22(木) 07:22:02 HOST:119-171-231-231.rev.home.ne.jp
以上になります。転載はご自由にどうぞ。
ティアマトという大地そのものたる神は鎮まる為に日ノ本という世界の大地そのものとなりました。
そして彼女は竜であり、海であり、川でもあります。
それは日本の国土を流れる河川や海を神格化した龍神にも通じる姿であり、その代表格は八岐の大蛇。
奇しくもティアマトの竜の姿ともされるムシュマッヘという魔獣は七つの頭を持つ大蛇でもありました。
という訳で日本の国土そのものである龍となりました。
なお日本の国土そのものであることからこの世界の日本、神崎島領土はもとより航宙護衛艦や第二日本、火星?惑県、レグノス県に各国に在る日本大使館。
それら全てが権能の及ぶ範囲となります。
最終更新:2021年04月24日 15:19