991: 名無しさん :2021/04/22(木) 02:34:56 HOST:sp49-98-143-25.msd.spmode.ne.jp

個人的な思いつきでの投下失礼します。

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「国籍不明の衛星?」

「はい、それも確認できただけで200以上」

アメリカ合衆国コロラド州はコロラドスプリングスに所在するピーターソン空軍基地の中心部。
NORAD(北米航空宇宙防衛司令部)の司令センターは、困惑の雰囲気に包まれていた。

「その国籍不明衛星についての詳細は」

「現在調査中ですが……高度も軌道も多種多様、電波を頻繁に発信するモノとしないモノが混ざっており、あくまでも推測ですが、偵察から通信、測位と幅広い種類が存在するのかと思われます」

その混乱の理由は、突如として衛星軌道上に出現した、200を超える詳細不明の人工衛星によるものであった。
衛星の運航状況を常時監視しているNORADのレーダーサイトですらもその不明衛星の出現の前兆を捉えることはできず、まさに「気が付いたら増えていた」という事態の前に右往左往するしかなかった。

「何処かの国がひそかにステルスコーティングされた衛星を浮かべて、一気に衛星コンステレーションを構築した、とでも言うのかね」

「そんな都合のいいステルスはありませんし、そもそも200回以上のロケット打ち上げを我が国の早期警戒システムが見逃す筈ありませんよ…」

増えた不明衛星は既存の衛星とニアミスしながらも、衝突からの破損、崩壊という事態だけは奇跡的に起こらず、ケスラーシンドロームという最悪の状況へと無造作に足を突っ込む事は回避できたのが、現段階では唯一不幸中の幸いだった。

「仕方がない、とりあえず各所のレーダーサイトに故障の有無をもう一度確認して……」

アメリカ人の司令とカナダ人の副司令は、この不明衛星が、潜在的な敵国からの何らかの電子的攻撃であることを警戒し、再確認を促す。

しかしそれは、駆け込んできた職員のもたらした新たな報告によって止められることとなった。

「エルメンドルフ基地との連絡が……いえ、アラスカ管区の全レーダーサイト及び基地との通信が現在不通となっております」

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日本は東京の某所。
表面上は普段通りの日常を見せているものの、その雰囲気はどこか混乱と困惑が渦巻いている異様な夜の街の一角に、彼等は集まっていた。

「こうして集まるのも何年ぶり……というか前世ぶりですかね」

「えぇ、そうですね……お宅はいつ頃“目覚めた”ので?」

「つい先日、ちょうど異変が起きた頃になりますかね」

「なるほど、ということは私らとほぼ同じようで……」

その面々は極めて豪華。
与野党の重鎮に、各省庁の高級官僚、軍の高官、大企業の重役と……今の日本を掌握している、政経軍事に跨がる最重要人物達であった。


「……それでは、臨時の会合を始めます」

一通りの面子が集まった所で臨時の司会進行役が、会合の開始を宣言する。

「まず始めに言いますと……国外の状況から判断するに、この世界は史実に極めて近い、つまり我々のような転生者の存在しない世界の西暦2021年で間違いないと思われます」

「2021年……昭和世界への最初の“転生”の前に居た時代に近い、ということか」

「なるほど…」

憂鬱なる歴史介入を経験したメンバーが小さく唸る。

「はい、ですのでそれに関しての詳しい説明は、今回は行いません。問題は、我が国です」

「現在、皆様には三つの記憶が存在すると思います。」

「一つ目は転生前の記憶。二つ目は、ここ……便宜上“令和世界”とします……目覚める前の令和世界の記憶。そして……夢幻会が介入した後の世界の記憶。」

転生前の記憶は、ここでは然して重要ではなく、大事なのは後者二つだった。

どちらも、憑依した体の持ち主の記憶ではあるが、その持ち主の置かれていた世界が対照的であったからだ。
一つは、“令和世界”。
日本は大戦に負け、その後GHQの占領を経て復興を遂げた後の……いわゆる史実に近しい立場の日本の2021年までの記憶。

そしてもう一つは、突然の大津波でアメリカが沈み、その後に日独冷戦を経て緊張緩和の時代に差し掛かった……「夢幻会」が介入した後より続く“大津波世界”の記憶。

992: 名無しさん :2021/04/22(木) 02:40:10 HOST:sp49-98-143-25.msd.spmode.ne.jp

この二つの記憶を、ここにいるメンバーの全員が自覚していた。

「推測ですが、我々だけに限らずほぼ全ての日本人が、同じような記憶の混線に直面していると考えられます」

「よくもまぁパニックが起きないものだな……いや、突拍子が無さすぎてパニックを起こすべきであるかも判断が着かないのだろうな」

市井に流れる異様な雰囲気も、突然の記憶の混線によるものであろう。
今はまだ大きな混乱は起きていないものの、これから先、誰かが騒ぎ始めたときにどうなるかはわからない。

「はい。そして、ここからが本番なのですが……」

そこで、一息止める。
その先は一番の面倒な問題であるから。

「日本の国土、それ自体も“令和世界”と“大津波世界”の二つが混ざりあった状態になっている、と考えられます」




日本の国土はそのまま一つであり、“大津波世界”の大日本帝国が“令和世界”に転移……という訳ではない。

しかし、その一つの国土の内は“令和世界”と“大津波世界”の建造物が混ざった状態となっていた。

東京スカイツリーの隣には、“大津波世界”で建設された巨大電波塔。
“令和世界”の東京国際空港は、“大津波世界”のより巨大な帝都国際空港と融合するように東京湾に広がっている。

自衛隊基地と帝国軍基地が隣同士になったり、中央省庁においては、既に機能レベルで融合していた所が多いなど、“令和世界”と“大津波世界”の日本を足して2で割った、そんなカオスな状況が生まれていたのだ。

「現在の人口は概算で3億2000万人、おそらく“大津波世界”の2億人と、“令和世界”の1億2000万人が単純に足し合わされた結果でしょう。なぜ国土はそのままで人だけが増えたのかは不明ですが」

「人口過多にはならないのか?」

「えぇ、確かに東京大阪などでは過密状態による問題が噴出しかけておりますが……もともと地方の過疎化が進んだ“令和世界”と、地方分散を進めた“大津波世界”の人口分布が巧く組み合わさった結果、地域あたりの負担はなんとか許容範囲に収まっています」

いくつかの地方、“令和世界”では人口減少によって衰退していく一方だった地域において、その余った土地に“大津波世界”の大都市と人口、そして交通インフラが発生した事例が多く確認されている。
“令和世界”の20~30万人規模の地方県庁所在地は人口が軒並3倍になったという。

「しかしそうなると、食料品や資源の輸入を増やさなくてはなりませんな」

「ですので、増えた人口を経済力に変換する事が急務になると思われます。幸い、“大津波世界”の工業基盤はしっかり転移してきているようなので、そこまで悲観することもないでしょう」

「政経軍の融合が“大津波世界”側優位の形で進んだ事は幸運でしたな。政治の致命的な混乱は避けられそうだ。」

ある程度混乱はするだろうが、建て直しが不可能な訳ではない。
むしろ、増えた人口だけ内需が多くなり、国内経済に弾みをつけることも夢ではない、と希望が見えかけた。
しかし、そう上手くは行かないのが世の常である。

「台湾が“大津波世界”側である事が判明しました。よって現在は日本国の台湾県という扱いになっています」

“大津波世界”では日本の一部のまま同化が進み、日本を構成する一つの県となった台湾は、そっくりそのままこの“令和世界”にもやって来ていた。

「それはまた…こちらの中国は怒りに震えるでしょうな」

「……台湾を見るに、日本の施政下にある所が“大津波世界”より転移してきたと考えられます」

「まてよ……つまり、それは……」

「はい。我が国は、台湾はもとより海南島と遼東半島を押さえております。更に言うなら、ロシアの樺太、カムチャッカ、チュクチ。アメリカのアラスカにハワイ。スペインはカナリア諸島。ついでに南太平洋の島嶼も」



突如として起こった転移融合。
それは“令和世界”側からすれば、これら自国の土地がいきなり日本に占領された……ように見えることに他ならない。


「なんてこった……」

世界を相手に不可抗力で先制パンチを叩き込んでしまった大日本帝国。
果たして彼らはこの先生き残ることができるのか…

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最終更新:2021年04月24日 15:38