194: 弥次郎 :2021/04/24(土) 19:36:02 HOST:p2938249-ipngn19601hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp

憂鬱SRW GATE 自衛隊(ry編SS「The Lights in the Sky Are Stars.」



 NASA(National Aeronautics and Space Administration)、アメリカ航空宇宙局。
 覇権国家たるアメリカの国力の粋を集めた宇宙開発を推進する機関。
 この組織の長官は大統領への宇宙科学に関する最高顧問を兼ねる役職であり、どれだけの信頼と信用を置かれているかは明確だ。
 そして、このNASAという組織、最近急に景気が良くなり始めた。

 始まりは、音に聞く日本のゲートの先のそのまた先の世界から支援を受けることが決まった、というディレル大統領からの通達であった。
なにがなんだかわからんNASAであったが、余り間を置かず、大々的な宇宙開発計画を進めたいとのオファーまであった。
現物やら何やらが提供を受け、それらを分析し、技術を身に着け、将来的には月面に基地の設営や月以遠への人の到達までもやると明かされたのだ。
 その時、NASAの長官はディレル大統領を筆頭とした首脳部が頭がアレなことになったのではないかと疑ってしまった。

 しかして、その心配は杞憂に終わることになった。現物が、次々と運び込まれてきたのだ。
 スケールは小さいとはいえ、物体を実際に宇宙まで打ち上げるマスドライバー。
 これまたスケールは小さいが、単独で大気圏離脱と再突入が可能な航空艦艇。
 これまでの技術を軽く超える宇宙作業服や作業船。はっきり言ってしまえば、宇宙船。
 月面基地の、いやに具体的で詳細な設計図とそのための論文やデータ。
 見た目からは考えられないほど多機能で、極限環境下でも活動を可能とする多機能スーツ。

 連合からの供与品だと知らされ、大至急分析や解析、そして研究に取り掛かるように言われ、半信半疑で彼らは取り掛かった。
 マスドライバーは付属の発電設備とつなげて動かしてみたら、本当に衛星軌道上まで物体を射出できた。
ちなみにその打ち上げコストはふざけているのかというほど安く済んでしまった。ロケットやHLV関係者がやけ酒した。
 航空艦艇は多くの人間をノックアウトした。実際に飛び上がり、大気圏を超え、宇宙に行き、また戻ってきたのだから。
スペースシャトルだとかそんなちゃちな話ではなかった。おまけのように提供された再突入殻というのも、信じられないローテクで大質量を地球に降ろせた。
 途中から、NASAはだいぶテンションが上がって、受けた衝撃もあって途中からもはや熱中していた。
 そして、そしてだ。彼らは理解できた。できてしまった。これらは、とんでもないほどに完成されたものだ、と。
それでいて、自分たちが決して手が届かないようなオーバーテクノロジーなどではないということも。
発想の違い、考え方の違い、あるいは当時的な分野の違い、それら程度しか違いはなく、自分たちの糧として、あるいは指標として使えるモノだと。

 そして、しばらくしてからNASAは長官を筆頭にしてホワイトハウスに大挙して押し寄せた。
 その目的に関しては言うまでもない。ディレル大統領に対し、少し前まで荒唐無稽と思っていた計画の受諾をいうためであった。

「我々は特地という狭いところで満足しない。宇宙というフロンティアを目指すのだ」

 やや疲れた様子ながらも歓迎したディレルは、NASAの関係者一同に対して確固たる自信をもって宣言した。

「君たちは、空を夜に見上げたことはあるだろう?」

 そんな問いかけに、NASA長官はYESと返した。それがNASAの仕事の基本だ。
 空を、宇宙を追いかけ、研究し、追い求めることこそが彼らの動力源に他ならない。

「だからこそだ。天の光はすべて星(The Lights in the Sky Are Stars.)。
 あれだけの恒星が存在するならば、我々が手を伸ばし、踏破するべき領域はいくらでもあるだろう」

 それは夢があり、ロマンがあり、心躍る言葉だった。
 空想と言われたらおしまいかもしれないが、説得力が違いすぎた。

195: 弥次郎 :2021/04/24(土) 19:36:33 HOST:p2938249-ipngn19601hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp

「はっきり言ってしまえば、冷戦期から宇宙開発は低調だ。月面に人を送り込んでからは無人探査機などでお茶を濁すばかり。
 現在は過去の遺産に積み重ねる形でしか発展をしていない。どこか、壁がある。その壁の内側に我々はいる」
「……確かに」

 NASA長官はディレルの言葉を否定しない。冷戦期は国家の威信や国家の安全保障という諸々の事情があり、信じがたいほどの予算と人が付いた。
だが、それも過去の話だ。冷戦期以降も宇宙開発や研究は続けられているし、技術更新も続いているとはいえ、他へのリソース注入が進んだことも確か。
ディレルが言うところの、壁というモノにぶつかっているかもしれない。

「私は、その壁を破ろうと思う。
 特地はもちろん魅力的な土地だ。同じ地球の中だ。だが、結局はそこまでしかない。
 宇宙はもっと広い。そして、連合は宇宙に飛び立ち、その版図を大きく広げている。なんとも輝かしく、またうらやましいものだ」

 そう、果たして人間は特地という狭い世界だけで満足するものであろうか?
 同盟国とはいえ他国のそこに横やりを入れて力で押し入って、富を収奪することが果たして誇れることであろうか?
 答えはNoだ。それが押し込み強盗と何が違うというのか。それを果たしたところで、覇権国家アメリカというブランドに似合う成果であろうか?
ディレルは自身に問いかけ、悩み、考え抜いたのだ。確かに特地は興味深い場所であることは確かな事実だ。
しかし、だ。それ以上に魅力なものはもっとわかりやすいところにあったのだ。

「正直なところ、これはまだ粗削りのプランにすぎない。不確定なところが多いのも事実だ。私の在任期間だけで終わるものでもないだろう」

 だが、とディレルは続けた。

「だが、始まりだけでもなんとかすれば、次世代が引き継いでくれるだろう。それだけの材料は手に入れることができた。
 これがアメリカの国威発揚のためという面もあることは確かだが……だが、まぎれもない一歩なのだと信じたい。
 アームストロング船長が踏みしめた一歩のように」
「大統領……」

 その言葉の元は知っている。人類史上最初の月面到達者であるニール・アームストロング船長の言葉だ。
その一歩は、まぎれもなく人類の版図を広げた。地球という狭い惑星の上から、月という衛星まで。だが、人類はそれ以上はいけないのだろうか?
 否、断じて否であろう。事実、無人機とはいえ探査機はさらに遠いところにまで飛び立っているのだ。ならば、人がいけない道理はない。

「……正直、妥協で得られたものだ。だが、それでもやってくれるかね?」
「大統領」

 その場にいたNASA関係者を代表し、NASA長官が一歩前に出て宣言した。

「我々は、その先を見たいと思います。政治で得たモノであれ、なんであれ、我々の果たすべき使命と夢はそこにあるのです。
 ためらう理由など何程ありましょうか。大統領のお考えの偉大なアメリカというのは、我々の出す結果についてくるものでしょう。
 ならば、我々は全力を尽くすまでです」
「そうか……そうだな」

 一つ頷いて、ディレルはほっとしたような笑みを浮かべる。

「人類の新しい一歩は君たちの手にかかっている。NASAの総力を挙げて、これに取り組んでくれたまえ」
「はっ!」

 アメリカという国家は夢を見る。まだ見ぬフロンティアを、人がいつかは至る新境地を。
 人工の、未だに若い国家が夢見る荒唐無稽なものかもしれない。だが、彼らはたどり着くべき星を確かに見出していたのであった。

196: 弥次郎 :2021/04/24(土) 19:38:15 HOST:p2938249-ipngn19601hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp

以上、wiki転載はご自由に。
暗い話ばかりでは気分もよろしくないので、ちょっとアメリカの明るい話題を。
なお、この計画、ディレル大統領から政権が代わって新しい大統領が変わってから「荒唐無稽」と凍結を食らう模様。
史実でもやった人だし躊躇わないだろうなって…

199: 弥次郎 :2021/04/24(土) 19:49:05 HOST:p2938249-ipngn19601hodogaya.kanagawa.ocn.ne.jp
誤字修正
195
×未だに和解国家

〇未だに若い国家

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2021年04月30日 10:03