612 :597=SARU ◆CXfJNqat7g:2012/02/07(火) 00:11:36
―199×年×月×日 帝都某所

「「(どうしてこうなった)」」

帝都の胃袋を預かる築地市場は今日も活況を呈していた。その一角では──
「ネギだくトロ抜き」
「つゆだくだく」
「アツシロかるいのに黄身だけ」
「ツメシロに頭の大盛り」
市場で働く男たちが仕事着のまま呪文じみた言葉を叩き付けるように叫ぶ。店員も慣れたもので、その複雑怪奇な注文に応じて凡そ二十秒前後で品物が出てくる。
言葉少なにかっ込むや否や「ごっつぉおさん!」の一言と共に代金を置いて飛び出す。
全世界に約200店舗を展開する牛丼チェーン『吉野家』築地総本店の日常である。

200店舗?
史実の吉野家はこの時期1000店舗に届く勢いだったはず。いくら海外展開が難しいこの情勢でも200は少なすぎる。実際、カリフォルニア共和国で展開している店の数は変わらない。
同業者を見渡せばなか卯はうどん屋のまま(メニューに牛丼はある)だし、すき屋やらんぷ亭は関東一円でも十指に満たない。松屋に至っては創業者が吉野家の重役に収まっている始末だ。

雰囲気も違う。ここが創業店という一種の聖地である点を考慮しても何か“空気”が違うのだ。
違和感の一つは価格である。
ここに書いてあるスローガンは『早い、うまい、安い』。忙しい合間に食べに来るのだから“早い”は当たり前、市場の人間が口にするだけに“うまい”は等閑に出来ない。
そう、価格がトレードオフの対象なのだ。物価換算すると大盛一杯で(元の世界の)千円札が飛ぶ。

この世界は農水官僚の怨念が届いたのか、牛肉や小麦への依存が全体的に少ない。当然の事ではあるが、他の牛丼──いや、牛肉を使うファストフード全般が小規模だ。
あっても高級品なのでおいそれとは手が出ない。間違ってもスナック代わりに食べられる100円バーガーに使われる食材ではない。
日本のファストフードは半ば国策の鶏肉・魚肉(フィレオフィッシュの材料だ)シフトに迎合したケンタッキーフライドチキンや、マクドの有無に関わらず史実通りわが道を行くモスが牽引している。
つまり牛丼の活況は──

「ツメシロニツユヌキネギダクアタマノトクモリ!!」
ゴム合羽の親父がお●ャ魔女かネ●まの呪文でも通用する言葉を絶叫する図。

「「(ああ、ラー×ン●郎なのか……)」」

ちなみにカリフォルニア共和国では『YOSHI-GYU』という看板を掲げているそうな……

おちまい


「この作品は実在する個人・企業・国家・ラーメナ二郎とは何の関係もありません」

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2012年02月24日 22:04