64: 名無しさん :2021/05/01(土) 04:33:46 HOST:M014009102000.v4.enabler.ne.jp
アメリカ合衆国
NY州マンハッタン 国際連合本部



「日本政府はふざけているのか?!」

安保理理事国、いや国連総会に出席した全ての国が一様に抱いた感想を敢えて表すのであれば、その一言に集約されていた。

しかし、それも仕方の無い事だと言える。
当事者としても何も分かっていない、別世界の日本がやって来てこちらの土地が上書きされた、等々。
そのまま言えば全くもって荒唐無稽でしかない出来事を正しくそのまま言うしかない事態である以上、諸外国は日本政府が妄想に取り憑かれたか全員薬をキめてしまったのかのどちらかに違いないと思うのも無理は無い。

困惑する国連大使達を前に、日本代表は尚も言葉を続ける。

済州島、千島列島、海南島、南太平洋島嶼など……すぐにでも解放できる所は解放する準備がある。
しかし、ハワイやアラスカ、樺太、台湾等は大規模な都市が存在しており居住者も相当数が存在する為、直ぐの解放は難しく、これについては関係各国と話し合って決めていきたい、と。

勿論、会議は紛糾した。

確かに、衛星写真から確認できる都市などにとても数日では不可能な改変が発生していたり、当時異変の起きた地域に居た人員がいつの間にか本土に帰還しており、当人達からはそもそも当該地域に着任もしくは移住してなどいないという証言しか得られなかった等、単なる軍事占領だとすると不自然な点が幾つも存在していた。
しかし、それを以て別世界の日本……それも、WW2に完全勝利した日本の土地が突如この世界にやってきたなどというお伽噺にも似たストーリーを信じ切る事など不可能としか言えなかった。
その為、国連安保理各位が話し合って出した、おそらく今のところはもっとも現実的だと思われる一応の結論というと、
日本が記憶を混乱させる新型のBC兵器を使用し当該地域住民を昏倒させ、秘密裏に各国本土に移送。
それと同時に、住民に偽装した制圧部隊と工作部隊が上陸、既存の都市に簡易な偽装工作……いわゆる外見を改変する為のハリボテを作成し監視衛星を欺いた……
というモノだった。

勿論、この説もかなり無理があるものだが、当事者達にとってはこれ以外の可能そうな、もしくは現状から考え付く妥当な方法は思い付かなかった。

この各国の疑念に対して日本は、占領地域への査察団の受け入れまで表明した。
都市が偽装用のハリボテではない本物であることを証明するには、実際に見てもらうしかないからだ。
しかし、各国はこれを日本の時間稼ぎとしか受け取っていなかった。

故に、日本に対して言い渡された国際社会の結論は「占領地からの即時撤退、それが成されるまでの資産凍結、全面禁輸措置の実行」だ。
PKF(国連平和維持軍)の派遣はほぼ決定事項であり、更には日本を物理的に排除する為の、有志連合による多国籍軍の編成が始まるのも時間の問題だった。


中国はこれに乗じて台湾を手中に納めようと、即座に行動する為の部隊が沿岸部に集結を始めていた。
更に、日本を「世界の平和と秩序を大きく乱す危険な政府に支配された」として、日本本土へPKF(そして本国軍)が監視のため“一定期間”の駐留を行う事を提案。
ロシアはそれに賛意を示し、アメリカすらも、その必要があるのではないかと考えていた。

日本代表は、全面禁輸措置の発動はとにかく不味いとして、査察団の迅速な受け入れと当該地域の暫定的な非武装地帯化の検討などで各国に対応の軟化を促すが、この場合、ほぼ全世界を敵に回した日本側があまりにも不利な舞台だった。


───────────
日本国 某所

『侵略反対!軍国主義はいらない!』
『空襲を受けるくらいなら降伏を!』

『全臣民を奴隷にせんとする卑劣な者らに鉄槌を!』
『犬の如く外国の足を舐める恥を知れ!』



「随分と騒がしいな…」

「反戦派と大宰相主義者のデモ隊が睨み合ってるそうで、一触即発ですよ」

「反戦派はともかく、大宰相主義?」

「WW2時の救国の英雄、嶋田大宰相の意思に沿う事を至上とする右翼タカ派の集団です。トルコのケマリズムみたいなものですよ」

いよいよもって、混乱の度合いを増してきた日本国内においては、一つの対立が浮かび上がってきた。
それは、主に令和日本側の人間からなる反戦派と、大津波世界側の人間からなる主戦派の対立だ。

日本が外地を占領したことが自覚され始めたら頃から、反戦派は様々な活動を始めたのだった。
異変によって国内で暗躍する外国勢力が消滅し、各種の援助が消え去ったにも関わらず活発化、大津波世界側の司法行政全てに対する大規模な抗議活動を展開するに至った。
それに対して大津波世界側は、令和日本反戦派のあまりにも対外従属的な態度に驚愕、とくに強行的なタカ派の思想団体がカウンターデモを仕掛け始めたのだった。


「……あいつが見たらなんて言うかな」



───────

65: 名無しさん :2021/05/01(土) 04:34:48 HOST:M014009102000.v4.enabler.ne.jp
「他はともかく、アメリカを敵に回すのだけは不味い」

「遼東半島や海南島、済州島なんかは大陸封鎖の為の最低限の設備が存在するだけだから、これを解体したらすぐにでも解放できるが……」

国際社会を全面的に敵にしてしまった日本国内の某所では、連日に渡って会合が行われていた。
こちらの会議も日本の現状相応に紛糾しており、逼迫した雰囲気が場を支配する何とも精神的に悪い場となっている。

「ハワイ、アラスカを解放することはできないのか?」

「ハワイには重要拠点、それも第3艦隊の根拠地である布哇軍港がある。現地に居住する日本人も多い」

かの大戦の末、帝国の内海となった太平洋。
そのど真ん中にあるハワイ諸島は当然重要拠点であり、帝国日本が保有する主要4個艦隊の内ひとつが駐留する重要拠点なのである。
ここを失った場合、本土の防衛ラインが一気にグアムや硫黄島の辺りまで後退することになる。

「アラスカも艦隊根拠地だ。それ以上に大量の地下資源、とくに北新須賀油田がある。それに大規模植物プラントも、な」

割譲されたアラスカは大規模な港湾と都市が造成され、第4艦隊の拠点として、そして日本の資源自給地帯として発展してきた。
さらに、10年代にようやく実用化した核融合型原子力発電所や、無線送電システムとセットの軌道太陽光発電によって大規模化にこぎ着けた植物プラント……つまり水耕栽培型農業工場が、アラスカの広大な無主地を存分に活用して建設されている。

もちろん、ここだけで全需要を賄うことは不可能であるものの、ここを手放した場合、日本の資源・食料自給率は一気に危険な水準へと降下し、国家生存戦略が根底から崩壊することになってしまう。

「だが、世界を相手に経済統制したまま延々と冷戦なんぞ不可能だ!最低でも何処かと和解する必要がある!」

「中国、ロシアは信用できない。なら多少負担を負ってでもアメリカと関係改善を進めるしかないのでは」

「だが、もうそうも言ってられんかもしれないぞ。全て捨てて両手を上げたら、多国籍軍が乗り込んできてこちらの40年代に後戻り、なんて事になるかもしれん」

「いっそ早い内にアメリカの進駐を受け入れてしまえば、中露は手を出してこないのでは?」

「そりゃ、まぁ、しかし、それでいいのか……?」



──────

「先生、おはようございます」

「えぇ、おはようございます」

とある女学園、礼節ある淑女を育てる為のお嬢様学校。
そこの広い正面路を歩くのは、一人の年若い男性教師だ。

「ごきげんよう、先生。本日も良い日和ですわね」

「えぇ、そうですね。とても良い一日になりそうですね。貴女も良い一日を」

「ふふっ、ありがとうございます」

社会科目を担当する彼は、その歳以上に優秀と称されており、女学園の男性教師という奇特の、そして疑惑の目で見られかねない立場にありながらも、その深い教養と話術、そして紳士的な態度で女学生達の信頼を掴んでいた。


「おはようございます、先生」

「えぇ、はい。おはようございます」

そんな彼の前に、一人の女学生が現れる。
薄い色素の金髪のシニヨン、くっきりと整った顔立ちは文句なしの美少女で、立ち振舞いは正しく端麗。

その少女は、彼の真正面に立ちまっすぐと彼を見上げてくる。

「ええと、どうしれましたか…?」

疑問に困惑を浮かべる彼、その様子を知ってか知らずか、少女は薄く笑みを浮かべながら口を開く。

「その様子だとどうやら“野望”は達成、今生を楽しまれているようでして」

「……!?」

その時、黒塗りのスモークガラスを完備したSUVが複数台、敷地内へと乗り付けて来た!

「あ、貴女は……!」

「さ、先生。国の危機ですよ、久しぶりの会合に行きましょうか」

「しかし、私は今──」

「“立っている者は親でも使え”そう言ったのは貴方ですよ?それに、今回は我々が表に立つ必要はありません。あくまでもオブザーバーとして助言を与えるだけでいいんですから」

「待ってください……」

「問答無用!さぁ、私たちの知識と経験が必要とされていますよ!行きましょう!」


哀れ、年若き先生は黒塗りのSUVに乗せられ、その女学生と共に何処かへと連れ去られていったのだった。

66: 名無しさん :2021/05/01(土) 04:38:34 HOST:M014009102000.v4.enabler.ne.jp
今回分の投下は完了です。
正直もう少し濃い内容にしてから投下した方が良いのかな、とは自分でも思ってますので…

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最終更新:2021年05月04日 22:43