99: 名無しさん :2021/05/04(火) 12:42:35 HOST:M014009102000.v4.enabler.ne.jp
布哇県 布哇軍港

太平洋のど真ん中。
そこの最重要拠点である布哇軍港から今出ようとしているのは、250メートルクラスの巨大ステルス艦。

長門型沿海域戦闘艦「陸奥」

それが、このステルス艦の名前だ。
全長270メートル、満載排水量7万トン。
分厚い装甲に身を包み、41㎝単装速射砲2門と無数のロケット、ミサイル兵器を搭載する海上のモンスター。

だが、これは戦艦ではない。あくまでも沿海域戦闘艦である。

対艦戦闘も可能ではあるが、その程度、この船が出張らずとも駆逐艦か巡洋艦のミサイルで何とかなる。

この船の第一目標、それは沿岸砲撃である。
揚陸作戦において、味方揚陸部隊に随伴して沿岸部へ突入。毎分20発、射程300kmクラスを誇る41㎝電子熱化学砲 2門を以て、1トンの砲弾を敵の頭上に降らせて滅多打ちにする……と、そんな任務を担っている。
まさしく、海軍国だからこそ重要となってくる上陸作戦の火力支援の要となる艦だ。

しかし今、そんな艦が出て行こうとしているのは、敵艦隊の真正面。



その敵艦隊……正しく言えばまだ完全な敵ではないが……とは、アメリカ海軍の太平洋艦隊。

今は第3艦隊隷下の水上戦闘群が正面向いて対峙しているものの、無線傍受によると相手はこちらに2個艦隊ほど差し向けているらしい。

仮に突発的な水上打撃戦になった場合、極めて不利な状況に陥るかもしれないとの事で、援軍として単独で殴り合う事にも強いだろう陸奥が向かうこととなったのだった。



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アメリカ合衆国統合参謀本部


北アメリカ大陸の地図が大きく示された部屋の中。
そこでは高級軍人達が得られた情報を元に、急な行動に出た日本に対する策を練っていた。

「ハワイの方で動きがありました。日本海軍の大型ステルス艦らしきものがハワイ沖の第3、第7艦隊の前に出てきたとの事です」

「衛星で確認された謎の大型艦か」

「いよいよ、何かしらの行動を起こすのでしょうかね」

「いや、ただ単に此方の正面戦力に対応する為の増援かもしれない。もっとも、今のところ情報が足りないから確実とは言えないが」

“異変”発生から彼等に絶え間なく襲い掛かっているのは、“情報不足”という不定形のモンスターだった。
その最たるモノは、異変発生前には影も形も見えなかった巨大空母や戦闘艦達である。

「日本に対するシギントはどうなっているんだ?」

「異変発生ごろから、日本の電子的な壁が異常に厚くなったらしく……何もわからないとの事です」

「大型艦艇に強固な電子防壁、少なくとも軍事力は相応に強化されていると見て間違いない」

「であるならば、やはり中国、ロシア軍と歩調を合わせるべきでしょうか」

「気は進まないがな。しかし、日本本土との距離は彼方の方が近い。日本の陸軍も、重点を置くとするならばユーラシア方面になるだろう」

日本は国際社会の禁輸措置に対して何度も撤回するように頼み、譲歩する姿勢も打ち出した。
つまり、彼等にとって資源自の少なさが弱点であることは変わって無い、と考えられる。

ユーラシア方面での消耗戦で、日本はいずれ息切れするだろう。
そこが、我々にとっての攻め時になる筈だ。

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100: 名無しさん :2021/05/04(火) 12:45:46 HOST:M014009102000.v4.enabler.ne.jp
中国 北京

「反撃の準備はどうなっていますか?」

中国某所にて、人民解放軍高官と党幹部が、来るべき“日本侵攻”についての計画を話し合っている。

「はい、つつがなく。機甲師団を中心とした遼東奪還部隊は既に配置済みであり、命令一つで行動を開始できます。また、空軍も全作戦機の2割を投入し、多少の妨害があろうとも数で押し潰す準備は整えております」

「海南島と台湾については?」

「こちらも、上陸部隊の編成は終わっており、海軍の集結を待つだけとなっております。日本海軍はアメリカ海軍に対応する為多くが西太平洋方面へと出る筈ですので、そこを我が軍の大艦隊で横殴りにすれば一網打尽にできましょう」

「また、日本は大型空母を投入しているらしく、これに対応する為に対艦弾道弾の用意も進めております」

「よろしい」

男達の中で一番の高官が、
東アジア全域の書かれた地図の日本を指す。

「では、引き続き日本本土への侵攻計画を立てて下さい。日本を我々の手中に納めることができれば、東アジアは完全に我らの庭となり、太平洋への大々的な進出も夢ではありません。日本が何を思ってこんな事をしたかは分かりませんが、いい機会です。せいぜい踏み台になって貰いましょう」


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ロシア連邦大統領府

「閣下、現在ヨーロッパ、中央アジア方面から戦力を引き抜いて、極東方面へ展開させています。あと2週間程度で、大規模な攻勢が可能となります」

もともと、ヨーロッパ方面に要所が集中しているロシアは、地上戦力の比率で言えば国土の西側に重点が置かれていた。
最近は中国軍の台頭もあって、そこまで欧州偏重という訳でもなくなったものの、それでも有力な部隊は欧州方面に駐留している事が多かった。

その為、いきなり極東方面で大規模な陸戦を行わなければいけなくなったこの異変において多少後手に回ってしまい、初期のタイミングにおいては無防備な状態の国土を晒してしまっていた。

しかし、そこは日本が当初は融和的な外交を展開してくれたお陰で、こうして陸軍の再配置が可能となっていた。


「そうか……戦略ロケット軍はどうなっている」

「命令があらばいつでも攻撃が可能です」

「では、命令があるまでそのまま待機だ」

「了解!」

なんにせよ、我が母なる国土を荒らした事は許されない。
それに、うまく行けば日本本土をある程度影響下に置くことも不可能ではないだろう。

日本の陸上戦力がそれほど大規模でもないという偵察結果もあるが、中国では日本の小規模部隊に多大な被害を負ったという情報もある。
ならば、相手に小手先の手品を使わせる前に一気呵成に攻め立てるしかない。
それに、ここで中国やアメリカに任せきりになり極東で彼の国らの影響力が増大するのも面白くない。
ロシアの要職達は皆そう考え、極東に戦力を積み上げていくのであった。



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101: 名無しさん :2021/05/04(火) 12:48:00 HOST:M014009102000.v4.enabler.ne.jp
日本 東京某所

今日も帝都の一角で密かに行われている有力者達の“会合”
ここ最近どん詰まりの様相を呈してきたこの会合であるが、今回ばかりは少々様子が異なっていた。


「おぉ!お前達も来てたのか!やっぱりお国の危機にはあんた達が居ないとな!」

「そんな某少年探偵みたいな……というか、あなたが来ているということは…去年あの航空機メーカーから唐突に提出された原子炉搭載無補給航空プラットフォーム計画って……」

「はっはっはっ!」

「冷戦面に堕ちたな…!」


それは、参加者の面々である。
各方面の有力者達は勿論、その中に混じって複数の会社員や一般企業幹部、主婦、学生等々の所謂“一般人”が参加しているのだった。

しかし、それらの人々は皆妙に馴れた様子で……纏う雰囲気もどこかしら浮世離れしたものがある。

それもその筈。
彼ら彼女らは、過去のこの国へと転生し要職に就き、多大な国難を乗り越えてきた「この道のプロ」達なのであったのだから。

平和な世が訪れ目覚める必要も無く意識の奥底に眠っていたままだったか、たとえ目覚めたとしても一般社会で現代を楽しんでいたかの彼等は、今回の異常事態を受けて再度ここに集まったのだ。


「まず、状況を整理しましょう」



「現在我々が敵に回している主な国はアメリカ、ロシア、中国。次点で韓国、欧州諸国と。こういった感じです」

アメリカ、ロシア、中国は、領土を大々的に削られたこともあり、もはや生半可な事で和解はできないだろうと容易に判断できる。

次いで韓国と欧州諸国。
この二つは敵対しているものの、軍事・経済的にはそこまで大きな脅威とはならない為、一つ優先度が下がる。

「つまり、先進国の殆どは敵になったということだな」

「えぇ、まさしく。その上、今現在我々に対してこれらの国から、全面的な資産凍結と禁輸措置が行われています。勿論、先進国の殆どが禁輸を行った以上、その他の中小国もそれに習って我が国との貿易を打ち切り始めました」

現在日本にとって直接的な危機と言えるのが、この禁輸措置である。
日本単体での資源・食料自給率が満足いかない状況において貿易を止められるというのは、ジリジリと喉元を締めつけられていく感覚に近い。
物の不足で経済はストップし、国民は飢え、国は内部から崩壊する事になる。


「それに加えまして、現在我が国に対する直接的な軍事行動の準備も進められておるようで、当事国同士の首脳会議、もしくは軍幹部レベルでの接触が頻繁に行われていることを情報局が掴んでいます。おそらく、あと2週間程度で主要国の準備は整う筈です」

軍事力的にも、相手はほぼ世界連合軍とも言うべき存在であり、量的戦力は脅威という他無い。


「各国が出している条件は“即時撤退と日本本土を含めた平和維持軍の受け入れ”です。現在我々は各国政府に交渉を持ちかけておりますが、状況は芳しくありません」



一見すると絶望的とも言える状況の中、半ば場違いともいえる金髪の少女が、手を叩いて場の注目を自らに向けた。


「さて、ここまでの説明で現状の共有は成されたかと思います。ですので、先ずは我々が採るべき大目標……つまり基本方針を決めましょう」

目を細める少女。

「外地を全て手放して国際社会に降伏するか、それとも……」

そこには、嘗て“大宰相”と言われていた。その風格の一辺が写し出されていた。

「……国際社会を打ち倒して我々を認めさせるか、です。」

102: 名無しさん :2021/05/04(火) 12:57:36 HOST:sp49-98-146-92.msd.spmode.ne.jp
今回分の投下完了です。
いくつかの小競り合いでなかなか手強いと判断した各国が、とりあえずタイミングを合わせて攻撃に出ようとしてます。
さあ、日本はどうなってしまうのでしょうか(予定調和)

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最終更新:2021年05月04日 22:44