117: 弥次郎 :2021/05/09(日) 00:23:49 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
憂鬱SRW 未来編鉄血世界SS「絶海の領域」3
- P.D.世界 地球 オセアニア連邦領 ミレニアム島 屋外会談場
卓上にはいくつかのコンピューター、空中モニター投影機、そして書類が並べられた。
同時に、会談の参加者の喉を潤し、口のわびしさを紛らわせる菓子も同様に。
あるいは、卓上には文字通り花を添えるための花瓶もさりげなく、それでいて確かな美しさを放つように置かれている。
それらすべては、これから始まる戦闘の道具であった。また、議事録を作成するアンドロイドも部屋の隅に控え、無機質な目を議場に投げている。
火星連合代表のクーデリア・藍那・バーンスタイン、アーブラウ元代表の蒔苗東吾之介。この両名はまさに戦場にいた。
「さて、どこから話したものでしょう、蒔苗元代表?」
「ふふ、いろいろと積もる話はあるものじゃがな……」
会談は静かにスタート。号砲が上がってすぐに騒ぎだす愚は犯さず、互いの動きをけん制し合う---
「では、単刀直入に。蒔苗元代表、貴方は、まだアーブラウの代表選挙に出るおつもりでしょうか?」
と思いきや、クーデリアは直球でいった。
これは前提条件であり最低条件。アーブラウとの国交を結ぶためには、蒔苗がアーブラウ代表に就くことが必要だ。
そして、そのうえで火星連合とアーブラウの間で交渉を交わして、経済圏と火星連合の戦争状態の終結を目指す。
そのまっすぐな問いかけは、嘘や婉曲な表現を許さないモノが含まれていた。
茶碗を持ち上げかけていた蒔苗は、その手を下ろして頷く。
「そのつもりじゃ。もっとも、今はこうして亡命しておるがな。まずはエドモントンに向かわなくてはならん」
これは、蒔苗の最低条件であり、前提条件だった。
汚職疑惑や火星連合との内通疑惑などを以て蒔苗は代表の地位を追われ、オセアニア連邦に亡命している。
とはいえ、それの追求元はギャラルホルンとの関係を持つ対抗馬のアンリ・フリュウらの工作の結果でもある。
それを跳ねのけるだけの材料として、火星連合が話が通じる相手であり、尚且つほかの経済圏ともども火星連合と争うことを選ばない方が得と証明しなくてはならない。
そしてそれ以前に、手続きなどを済ませるにしても本人がアーブラウの首都エドモントンに赴かなくてはならないのだ。
そして、本人にその気があるのかどうか。それを確認しておかねば、そもそも始まらない。
「なるほど。それでは私たちの間で取引はできるものとなります。
私はあなたをエドモントンに連れていくことができる。あなたは私の願いをかなえる立場に立つことができる。
これは公正で公平、尚且つ両者が得る利益がある。そう認識してよろしいでしょうか?」
「異論はない」
短い会話。されど、隙の無い会話。
ここで曖昧なところを残せばつけ込まれることはわかり切っているので、両者はその余地を徹底して省いた。
とはいえ、だ。これが両者にとって必要だったことは、繰り返しになるが当然だった。
では、と視線でアンジェラを促したクーデリアは卓上に紙を並べさせる。
「口約束ではいくらでもごまかせますが、古典的ですが契約書を交わすとしましょう」
「構わんよ」
まずはファーストステップ。
一先ずはアーブラウ代表に就いてもらうこと、そのためにセントエルモスが蒔苗を送り届けることが確定した。
互いの書いた書面に目を通し、抜けや漏れがないことを確かめ合い、交わす。これがまず始まりだ。
では、と今度は蒔苗が口火を切った。
「では、続きとまいろうかの……」
クーデリアはそれを受けた。
「では、教えてくれんか。おぬしら火星連合が独立してからこれまでアーブラウが被った害と、これから失う利益をどうするつもりなのかを、な」
やはりそう来たか、とクーデリアは一つ頷いた。
アーブラウ代表として、地球経済圏の利益以上に、アーブラウの利益を追求する。
一見、対火星連合という意味で協調をしているように見える地球経済圏だが、その内実は暗闘や腹の探り合いの連続だ。
目的は同じであっても決してなれ合いをしているわけではなく、むしろその後の利益の奪い合いが起こることは確実だ。
そして、もしほかの経済圏と強調することで得られる利益が、火星連合と和平することで得られる利益より少ないならば、選択の余地が発生する。
偏に火星連合が目の仇にされるのも、火星植民地及びコロニー群の独立によって多大な害を被ったからに他ならない。
そこをどうするつもりか、そのように蒔苗は問いかけたのだ。
118: 弥次郎 :2021/05/09(日) 00:24:34 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
- P.D.世界 地球 オセアニア連邦領 ミレニアム島 屋外会談場 警備詰め所
セントエルモスの陸戦隊と共に外部を固める鉄華団の面々の一部、オルガを筆頭とした経営陣は警備の傍らで蒔苗とクーデリアの会談を聞いていた。
彼らにとってはスケールの大きすぎる話ではある。だが、決して無関係ではいられないことでもあるのだ。
なぜ自分たちが苦しい生活を送ることになったのか。その根本の根本には、火星を支配するギャラルホルンと経済圏の意思があった。
だが、その経済圏側の事情などこれまで知る由もなかったし、どういう構造で搾取されていたかなど一部しか知らない。
いつまでも無知ではいられない。無知でいることは、そのまま貧しさや苦しさに直結するのだから。
「なあ、オルガ…」
「静かにしろ、今大事なところなんだ」
会談場に置かれたカメラからリアルタイム中継されているそれに耳を傾けるオルガは、真剣そのものだ。
彼は経営学のほかにも経済学を学んでおり、また、P.D.世界の経済構造についてのレクチャーも受けているので理解できるところが多い。
つまるところ、自分たちが貧乏なのは、地球経済圏にとって火星という惑星が資源の出涸らし状態であり、植民地経営の一環として搾り取っているからである。
クーデリアが交渉のカギとしていたハーフメタル資源というのは火星で現在も産出されている鉱物であり、同時に現在の文明維持に必須なものだからだ。
現状、その採掘や加工、輸送などは経済圏や大手の企業が一手に握っており、そのおこぼれはあまりにも市井に落ちてこない。
尚且つ、火星でとれる穀物や食料植物なども安く買いたたかれている状態で、火星は万年貧乏というわけである。
そうした状態が続くことで、火星は貧困に陥り、挙句に無法が蔓延する。
だが、視点を変えてみれば、経済圏としてはそうでもしなければ利益が得られない、ということでもある。
アーブラウも火星に植民地を有し、そこからの上がりで本国の経済を回し、生活を営んできた。
それはアーブラウだけの話ではないが、ともかく、アーブラウの国民を養うという目的のために必要なことであったのだ。
(搾取される側にとっちゃ、たまったもんじゃないがな)
そう思うのだが、相手も必至ということだ。何しろ自分たちの生活が懸かっている。
得られた資源・食料などを輸送し、加工し、市場に流し、経済を循環させる。それだけで莫大な人間が仕事を得て、生活を営んでいるのだ。
そして、それが火星連合の独立によって破綻するかもしれないとなれば、当然のこと火星連合の独立を認めず、鎮圧をしようとするだろう。
(蒔苗の爺さんが指摘しているのもそこだな……)
そう、実際に火星連合として独立したことでアーブラウを筆頭とした経済圏は火星から得られる利益を失った。
今はまだ落ち着いている状態ではあるが、下手をすれば経済的な混乱からの不況などが起こりうる状態でもある。
さらに、火星同様に搾取されていたコロニーの独立を火星連合がバックアップし始めたことで、経済圏の得られる利益は大きく減じることになった。
つまり、そこをどうするのか。何らかの補填をするのか、それとも無視してしまうのか、それ以外の手段をとるのか。
場合によっては、火星連合が提示する条件によってはアーブラウを味方につけることもできるということである。
アーブラウだけではない、他の経済圏に対しても同じことがいえる。
「ただ、相手に利益を差し出すだけじゃぁ、意味がねぇんだよな」
果たして、クーデリアもそれを蒔苗に対して突き付けた。
119: 弥次郎 :2021/05/09(日) 00:25:06 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
「確かに経済圏との交易で火星連合が提示できるものは多くありますので、これまで通りの利益を得ることもたやすいかと思われます。
ですが、それでは形と名称を変えただけの搾取体制そのままとなってしまいます」
「ふむ……じゃが、こちらとしても損失を飲み込めといわれては困るのぉ」
アーブラウ代表であったころの蒔苗は、火星からの上がりが少ないことなどから損切りを考えていた。
だからこそ、火星独立運動で有名どころの人間と交流を持ち、その中でクーデリアと交渉を持った。
まず必要なのは経済的な独立、ということでハーフメタル資源が交渉の場に出され、それがたたき台となるはずであったのだ。
だが、状況は大きく変化し、火星連合は段階を経る前に独立を宣言し、事実として施政を行い始めたのだ。
蒔苗の側から見ても、梯子を外されてしまったといっても間違いではない状況だ。
「それはもちろん火星連合としても懸念しています。
これまでの反動から地球経済圏だけに害をなすような関係を作ることはお互いのためとはなりません。
しかし、かつてのままの関係でもいられない。だからこそ、独立した火星連合と経済圏の間で再度の通商条約などが必要となるのです」
クーデリアも蒔苗の指摘を受け入れた。
事情が事情とはいえ、相手のおぜん立てを蹴ったに等しいからだ。
「通商条約……大きく出たものじゃな」
「元々アーブラウの管轄であった火星の領域での経済的な低迷は私も把握しています。
だからこそ一方的な搾取を終わらせる良い機会ととらえました」
「そうじゃの。じゃが、上がりが良くなればそちらの条件を飲まなくてもよいわけじゃ」
「ですが」
蒔苗の発言にかぶせるように、クーデリアは断言した。
過去には戻らない、戻してはならないという意思を込めて、だ。
「すでに火星連合は独立を果たしており、これまでと同等のものを差し出せといわれても、それは受け入れられません」
すでに火星連合は独立しており、それは覆せない、覆してはいけない。そのようにクーデリアは断言した。
一瞬、蒔苗とクーデリアの視線が交差し、しかしほどかれる。
「……では、どうするつもりじゃ?通商条約を結ぶとしても、結ぶ価値はあると?」
その答えを、クーデリアは準備していた。というか、蒔苗はそれを知っている上でこんなことを言っている。
此方を試しているつもりか?とクーデリアは内心笑った。
「一方的に搾り取るだけでは、そもそも片方の利益でしかないのです。
だからこその通商条約と、相互利益ということですよ」
そこで始めて、クーデリアは笑みを見せた。
殺伐とした交渉の場に、少しばかり花が咲いたかのようであった。
120: 弥次郎 :2021/05/09(日) 00:25:45 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
「どういうことだ?相互利益っつーのは……」
「さあ…?」
少し戸惑う声をユージンが出したので、オルガは他の団員のためにも解説してやることにした。
「……これまでは一方的に火星が買い取る側で、地球が売る側だったってことだよ」
オルガは手近な紙とペンをとると、ささっと絵図を書き始める。
地球と火星の二つの惑星と、その間を結ぶ矢印を二本。それは二つの惑星を結ぶ交易の流れであり、同時に金の流れでもあった。
しかし、その矢印は明らかに火星から地球に伸びる方が太く、大きく書かれていた。
「火星から物が地球に流れていくってのは知っての通りだ。
けど、それ以上に火星には地球で作られたものが売り込まれているんだよ。
まあ、正確に言えば買わされているって感じなんだがな」
そう。ただ絞るだけでは火星の経済が循環しなくなり、同時に上がりが減る。
そして、絞るだけでは地球で物が飽和し、値崩れし、これまた経済が回らない。
だからこそ、地球圏の産物を火星に売り込みつつ、同時に火星から買い取ることでバランスをとっているということになる。
オルガは矢印に貨幣のマークとコンテナのイラストを書き添えて続ける。
「クリュセだと、俺たちが入れねぇような店で高いものをうっているのを見たことがあるだろ?
アレは火星で作られたものだけじゃなくて、地球から売られてきたモノが含まれている。
当然、高値が付くし、それだけの質がある。だからクーデリアみたいな高級層が金を出して買うわけだ」
「あー、そういえばそんな店結構あったな」
「それだけじゃねぇ。火星で作れないモノや調達できないものは山ほどある。いや、地球から買わざるを得ないものが多いんだ」
オルガの手は地球から延びる矢印をさらに付け加えながら続ける。
書き連ねるのは、P.D.世界の経済について学ぶ中で知ったいくつもの品目だ。明らかに火星が地球から買っているものが多く並んでいく。
「そうだな……ビスケットの実家の農場で使っている農薬があるだろ?あれの大本は地球経済圏の企業が握っている」
「そうなの!?」
「そう。ノルマをクリアするには生産量をあげる必要がある。けどそのためには高い値段の地球産の農薬を買わないといけない。
もっと言えば、あの農場で育てられているコーンの種だって地球由来だ。育苗とか育種を握っている企業に頭が上がらねぇんだよ」
「……ってことは?」
「そう。買いたたかれたコーンの販売利益を、さらに地球の企業に吸われているって寸法だ。
農業をやるにしても、そもそもの種がなければ始まらねぇし、成長促進や病気を避けるための農薬はなければ困る。例えそれが吹っかけられたものでもな。
こうすれば地球経済圏は最大の利益を得つつ、尚且つ一応の経済循環を作ることができる」
「これがクーデリアさんのいう、一方的な搾取……」
身近なものを例えに出され、ビスケットも合点がいったようだった。顔色は明らかに悪くなってしまったが。
「まあ、これも一種の交易なのは確かだ。そうまでしなければ、利益が出ないくらいにひどいもんだけどな。
だから、蒔苗の爺さんはおそらくやめてぇんだろう。けど、やめてしまうのも問題だってことになる」
「じゃあ、相互利益ってのはどうすりゃいいんだ?」
ユージンの問いかけに、オルガはにやりと笑って言う。
「それはこれからクーデリアが提示するさ。さ、続きをゆっくり聞こうぜ」
まだ交渉は始まったばかりだ。オルガはクーデリアがその答えを出すのを聞き出した。
121: 弥次郎 :2021/05/09(日) 00:26:33 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
とりあえず、途中まで、でした。
経済の話をがっつりするとか、これってホントにガンダムなのよね?
〇おゆうかな?かなかな?
126: 弥次郎 :2021/05/09(日) 00:41:10 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
118誤字修正を
×そう思うのだが、相手も必至ということだ。何しろ生活が懸かっている。
〇そう思うのだが、相手も必死ということだ。何しろ自分たちの生活が懸かっているのだから。
最終更新:2023年11月23日 14:01