699: 弥次郎 :2021/05/07(金) 23:54:58 HOST:softbank126066071234.bbtec.net


日本大陸SS 漆黒アメリカルート 「戦時交錯エトセトラ」Case.3 日英、あるいは強敵と無能な味方の天秤




 WW1あるいは欧州大戦の勃発時において、日英同盟は控えめに言って第三者の立場にあった。
 というのも、局地的に見れば独と露仏の間で勃発した殴り合いにすぎないのである。
 無論、夢幻会の持つ未来知識からすればこの局地的な戦争がやがて世界全体を巻き込む大戦争になることは知っている。
しかしそれは、あくまでも夢幻会の認識にすぎない。世界的な一般認識からすれば日露戦争の縮小版程度になるだろうというレベルの話だったのだ。
 独仏間の開戦が世界に伝わった時も、所詮は局地戦争に収まるだろうという根拠なき憶測が飛び交い、マジョリティを占めた。
 故にこそ、日英陣営の世論はこの戦争に対する無関心を選んだ。
 独仏間の関係が悪いことなど常識であるし、事実として近年は両国間の国境がかなりきな臭いことになっていた。
それは同時に、あくまでも発展するとしても独仏間の問題でしかない、ということであった。嘴を突っ込むなど藪蛇でしかないのだし。
現在のところ、日英同盟を基礎とする大英帝国の覇権は揺らぎ兆しをほとんど見せておらず、その安寧をだれもが疑っていなかった。

 仏ロがドイツの戦術・戦略によりメタクソに凹られ、特にフランスが日英同盟その他欧州諸国に泣きついてからも、彼らは無関心に近かったとさえいえる。
 だが、国家を動かす立場の人間たちは考えていた。対岸に強大な勢力が出来上がるのは具合がよろしいことではない、と。
あくまでフランスが勢力として弱体化するのは構いはしないのであるが、かといってドイツが勝ちすぎては困る。
つまり、ドイツが勝とうがフランスが勝とうがあんまり関係はないのだが、その結果強大な勢力が生まれるとこちらが将来的に困るのだ。
 そんな事情もあり、イギリスはフランスの泣きつきに応えてやることにしたのであった。すなわち、フランス側に立っての参戦である。
 そして、日英同盟の条項にのっとり、英国と同様に日本もドイツに対して宣戦布告。ここに新たな勢力が参戦することと相成った。

 ここまでの動きに関しては、ドイツも見越していた動きであった。イギリスがこちらの動きに注視していることは把握していた。
それに、フランスとロシアをぼこぼこにしている状況をいつまでも見過ごすはずがないと捉えていたのだ。
ドイツにしてみれば、フランスなどの相手はまだ前半戦にすぎず、ここからが本番というわけであった。
そんなわけで、ドイツは国家動員体制を維持し、来る日英との激突に備えた準備を着々と進めることとなったのであった。

700: 弥次郎 :2021/05/07(金) 23:55:48 HOST:softbank126066071234.bbtec.net


 だが、ここにおいて思わぬ事態が発生していた。
具体的に言えば、フランスサイドに立って参戦した日英と、その救援を受けた立場のフランスの間の軋轢の発生であった。
 ここでフランスの状況をもう一度振り返ってみよう。
 ドイツの電撃戦を以て、フランス正規軍、特に陸軍はいくつかの会戦で野戦撃滅を食らい、あっという間に飲み込まれた。
準備していた武器弾薬その他車両などは鹵獲され、パリまで一気に貫通され、一気に占拠されてしまった。
その結果、まともな組織だった撤退すらおぼつかず、残っているのはまさしく敗残兵の群れと、逃げ出すことはできた政府だけであった。
そして、ドイツにしてやられたことに腹を立て、尚且つそのために犬猿の仲であるイギリスの手を取ることになったのである。
 では、フランスの心情は果たしてどのようなものであっただろうか?
 答えは簡単。沸騰している鍋よりも触るのが危険なナニかになっていたのである。
 そんな状況で、まともなコミュニケーションなどを期待する方が愚かしかった。

 最初の打ち合わせ、日仏英の三か国が集まっての話し合いの場において、フランスはいきなり戦力や兵力・物資などの要求を突き付けたのである。
それも、すさまじい剣幕を以て。ぽかんとする日英を置いてけぼりに、フランスの亡命政府は「反攻作戦」についての夢想的なまでの計画を語りだした。

 曰く、ドイツは不意打ちでしか勝てない。曰く、今もフランスは民間も含めて決死の抵抗を続けている「はず」でありドイツはいずれ消耗する。
曰く、ドイツの戦略はお粗末そのものでありここからフランスの戦略により打倒可能である。
曰く、フランスに戦力が整えばあとは簡単であるので、必要なものを用意すればそれだけでよい。
曰く、フランス国内にはドイツに内通した裏切り者がいるのでそれを排除する必要がある。
曰く、曰く、曰く----

(こいつ、正気か?)
(いつも通りのフランスだった…)

 ご高説を語るフランスを前に、日英は呆れと呆然でもはや何も言えなかった。
 日本にしても、イギリスにしても、これには落胆したというか、言葉を失うしかない。
 確かにこれまでに例のない電撃的な突破と浸透、そして奇襲によってフランスがアドバンテージをとられたことは明らかだ。
それに関しては、まあいい。備えていても、相手がその上を行くことはよくあることであって、フランスはたまたまそれに該当したに過ぎないのだから。

701: 弥次郎 :2021/05/07(金) 23:56:22 HOST:softbank126066071234.bbtec.net


 だが、なぜその大敗を喫した後で、こうにまで助けを乞うた相手に圧倒的なまでの上から目線、あるいは態度で臨んでくるのか理解できなかった。
 これが完全にプライドを投げ捨てた泣きつきであればまあ、理解できなくもなかったのかもしれない。ドン引きはしたかもしれないが。
 さりとて、このフランスの態度はなんであろうか?強気に出ることで足元を見られないようにするための戦術であろうか?
それとも、敗北を喫したが、まだ不屈の闘志があることをアピールするためであろうか?
 否、そうではない。イギリスは経験則から、日本は冷静に振り返ってみて、それらの考えを否定した。
 フランスは自己の無謬性をかたくなまでに信じ込み、状況に酔っ払っているのだ、と。

 そう、劇的な勝利は人を狂わせるが、その逆もまた然り。
 わけのわからないままに敗北し、フランス本土を蹂躙され、たたき出されたことによってフランス政府は端的に言えば正気ではなかった。
そして、その状況を受け入れることができないがゆえに、防衛機制や本能的な自己弁護に走ってしまったのである。
この場に心理学者や臨床心理士などがいれば、そのように診断したことは想像に難くない。

 だが、これが曲がりなりにもフランスという国家の意思であり、国民の意思の総意である以上、無碍にできようもなかった。
例えふざけていて、正気と思えないような戯言であろうとしても、それが正式な回答であるならばそれを受け取らざるを得ないのだ。
だから、狂人と付き合うことを余儀なくされた。当然交渉はあれることになる、と日英は理解していた。
フランスの救援は英国の事情もあり、また、ドイツの背後で蠢く米合という存在故の行動。しかし、これがその対価なのか。
 ともあれ、日英はこの後、フランスの理論に振り回されながらも対独戦に移行することになる。
 それが両国にとっては単なる戦争よりもよほど苦労の多いものであったことは、ここで語るまでもないことであろう。

702: 弥次郎 :2021/05/07(金) 23:57:13 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
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最終更新:2021年05月09日 19:34