332: 弥次郎 :2021/05/11(火) 00:25:13 HOST:softbank126066071234.bbtec.net


憂鬱SRW 融合惑星 蒼き鋼のアルペジオ世界編SS「蒼と赤」3



  • C.E.世界 融合惑星 δ世界日本列島 硫黄島 屋内会議室



「これは、想定以上だな……」

 地球連合を構成する理事国「大洋連合」との第一段階の交渉の場から一度引き上げた群像は持ち帰った情報の精査を行いながらも群像はつぶやいた。
 イ401とそれの運用能力を売り込むことで傭兵契約を交わし、後ろ盾となってもらうという目的。それはあっけなく達せられた。
とんとん拍子に地球連合の国際的な傭兵組織への加入が決まり、契約が交わされ、この世界という狭い領域から飛び出すことになった。
契約に基づいて連合の通貨で膨大な額の支度金が支払われ、処々の手続きや今後の支援などについても取り決めが交わされた。
イ401と霧の重巡洋艦「タカオ」は連合の傭兵組織にも属する艦艇として登録され、自分たちもまた同様であった。
いざとなれば、この世界、日本政府に別れを告げ、大洋連合の下に逃げ込むこともできるという状態だ。

 聞くところによれば、この融合惑星の勢力を連合は傭兵という形で積極的に取り込んでいるとのことで、自分たちのような団体は珍しくないという。
実際、ミスリルという傭兵組織の実働部隊の指揮官であるテレサ・テスタロッサと会談することでそれは補強された。
彼女らの暮らす世界もこの融合惑星に転移してきて、連合と接触を持つことで混乱した情勢を乗り切ったのだという。
 そして、それは自分たちの世界の日本政府も同じことだと説明された。
 嫌というほど知っているが、霧の封鎖で日本政府はかなりの統制を国内に対して課しており、内実は苦しい限りだった。
そこで連合から差し伸べられる支援の手はどれほどの価値があろうか。ともあれ、日本政府は地球連合に頭が上がらない状態である。
そして、その連合の傘下に自分たちが収まるとなれば、穏当に振動弾頭の返却なども可能なのだという。
 ここまでうまくいくというか、都合よく転がると逆に不信感さえ浮かんできてしまうのはなぜか。
 常に苦労や面倒事がついて回っていたのに慣れてしまって、難易度が下がったことについていけないためか。
 ともあれ、最初の交渉と契約などを済ませ、蒼き鋼のクルーはクールタイムも兼ねてこうして硫黄島基地内に戻ってきたのである。

「交渉は大成功、ですね」
「ああ。あっけねぇ位にな」

 僧と恭平の言うとおりだった。
 戦闘時にもにた緊張を以て挑んだ交渉は、あっけなく簡単に終わってしまって、想定以上の戦果を得られた。
細かい話はこの後さらに詰めていかなくてはならないのだが、それでも当初の目的はおおよそ果たしてしまったといってもいい。
蒼き鋼とイ401が前に進めなくなる、という事態は避けられたのだ。クルーの顔色も明るい。
 だが、ブリーフィングルームの中でただ一人険しい表情のままなのが群像だ。

「どーしたの、艦長?僧たちの言う通り、交渉は大成功に終わったんでしょ?」
「ああ、そうだな」

 いおりの言葉は正しい。交渉はまごうことなき成功だった。
 当初の目的は間違いなく果たせた。そのはずであった。

333: 弥次郎 :2021/05/11(火) 00:25:49 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

 だが、と群像は自らの懸念を語った。

「俺の懸念は、その後がどうなるかということだ」
「その後?」

 ああ、とうなずいた群像はラップトップを操作する。
 モニター上には、この融合惑星の地図が表示される。呆れるほど大きい。同じ地球を何個も張り合わせたかのような、でたらめな大きさだ。
そんな世界の中で、日本列島などとてつもなく小さなものでしかない。自分たちのいる硫黄島も、猶更のこと。

「俺たちは傭兵として雇用され、地球連合及び企業連合傘下の傭兵組織の登録を受け、今後の活動を行うことになる。
 日本政府だけに縛られることなく、自由に動ける立場になった。
 だが、これまで以上のスケールで戦うことになる。これまでの狭い範囲じゃない、もっと広いところで、もっと多様な価値観の中で動くことになる」
「確かに。この融合惑星というのは、いくつもの世界が融合している、とのことでした。だとしたら、我々の常識だけでは生きていけないでしょう」
「所変われば事情が変わるってことかしら?」

 ヒュウガも言わんとすることを理解した。
 霧をして、常識外のことが起きた。そして、今いるのが常識外の世界であることも。
 これまでの考え方や常識だけでは測り切れない。
 霧の艦艇は、その演算能力でメンタルモデルを手に入れたことで霧は変化した情勢に対応することに成功したかに見える。
だが、それ以上の衝撃が、あるいは状況や常識の変化が発生したことは言うまでもないこと。これまでのままでは決していることはできないだろう。

「そのうえで、俺たちはこの融合惑星に展開する連合の傭兵となった。つまり」
「これまで通りの戦い方や立ち回りではダメ、ということですね」

 僧の言葉に群像はうなずく。ダーヴィンの進化論に基づくならば、必要なのは環境の変化に対して適応する能力だ。
 今は傭兵として認められているが、そうだからと言っていつまでもOKというわけではない。必要とされる能力と常識を持っていなければ淘汰されるのだから。
連合と渡りをつけて身を立てていける方法を作っているとはいえ、それもいつまでも頼れるとは限らない。
いつか聞いたことがある、地獄にたらされたクモの糸の話のようなものなのだから。

「そこに関しては、今後連合や企業との折衝で何とかしていくことになると思う。
 各員の努力に期待している」

 そして、最後に最も重要なことを群像は切り出した。

「それに、この後の人類と霧の関係がどうなるのか。それを、俺は考えていた」
「人と霧の関係……?」
「これは……まだ上陰次官補とイオナにしか話していないことだが、振動弾頭はこの後合流予定だった白鯨に載せ替え、太平洋を横断してもらう予定だった」
「!?」

 それは、衝撃的な事実であり、計画だった。クルーにも動揺が走る。
 人類の最先端の技術とはいえ、霧の艦艇に劣る船に乗せてしまうなど、危険すぎることだ。
 日本という国家が総力を挙げて作り上げ、あらゆる方法で輸送しようと試みては失敗し、最後に残ったたった一つのサンプル。
それを霧の艦艇ではない白鯨に任せるというのは、常識的に考えて選ぶべきものではない。

「振動弾頭は霧にも有効な兵器だ。だが、戦うことだけが人類にできることとは思えない。
 俺たちが仮に霧の包囲を潜り抜けてアメリカに届けたとしても、俺たちが特別だったからと言われるだろう。
 自分たちにはできないことだと、諦めや言い訳が成り立つ」
「……」

 クルーの誰もが言い返せない。それは、純然たる事実だ。霧の艦艇であるイ401を有するからこそ、航路を持つ者と呼ばれ、包囲網の中でも活動してきた。
霧の艦艇をいくつも撃沈し、大陸との交易を担い、あるいは何でも屋として活動することができていた。
その原動力は、結局のところ、人類の理解を超えた艦艇であるイ401に依存している。例えクルーが自分たちではない他の誰かでもできたことだ。

334: 弥次郎 :2021/05/11(火) 00:26:24 HOST:softbank126066071234.bbtec.net


「だが、それではいけない。人類が霧と対等になるためには、人の手によってそれがなさなければならない。
 俺は、そう考えていた」

 だからこその白鯨による輸送だ。自分たちはあくまでも手助けするだけ。人類が失った自信を取り戻す何かが必要なのだと、そう考えていた。

「いた、ということは……」
「今はそうもいっていられない。霧でもわからない現象に巻き込まれ、たまたま連合の助けを得られた状態だ。
 まだ、俺たちの世界の人間は、霧に対して自信を持てていない」

 そして、俺たち自身も、と言葉を飲み込む。
 霧の総旗艦ヤマトに肉薄したあの赤い機体。その存在は、人の作り出したものが霧を上回るのだという事実を証明した。
人の力が及ばないと諦めていた世界の常識を覆す、とてつもない衝撃。イオナ、タカオ、ヒュウガという身近な霧のメンタルモデルも口をつぐんでしまう、規格外の存在。
アレのようなものが今後多数出てくるとするなら、文字通り世界は変わることになる。常識が変わり、情勢が変わり、すべてが変わる。
時代の大きなうねりというものが生じて、一気に世界が激変することになるだろう。
 だが、そんな中で自分たちは何ができるかと、群像は思うのだ。ちっぽけな自分たちが、何を成せるのか。
まさに嵐の海を渡っていけるのか、自分にはわからなくなってしまったのだ。艦長であり、蒼き鋼のリーダーとしてあるまじきことに。

「このまま、外部の力で霧と対峙し、争うことが本当に良いことなのか。俺たちが進むべき道なのか。
 人類が、俺たちがこれまで暮らしていた世界の人間が選んでいく道として正しいのか。
 ただ、外の世界からの救いに甘えるだけが、本当に……」
「群像」

 不意に、イオナが群像の言葉を遮る。
 これまで席に座って静かに聞いていたイオナがふいに発言した。それは、拒否を許さないものが含まれている。

「一度休むべきだ。慣れないことを一度にやったのだから、休息しなければ身が持たない」
「だが……」
「群像が抜けた分は私やほかのクルーで補える。こまごましたことならば一々群像の承認を得なくともいいだろう。
 それに、タカオのこともあるのだし、群像に決断してもらわなければならないことはいくらでもある。
 だから、群像は今すぐ休むべきだ」
「そうね……艦長は自覚あるかもしれないけど、貴方大分疲労しているわよ?精神的にも、肉体的にもね」

 イオナの言葉をヒュウガも肯定した。それは掛け値なしに事実だった。群像の体をスキャンすれば、その状態がよろしくないことは明らか。
ここで無理に働いて判断を下し続けていては、やがて致命傷となるか、あるいは倒れてしまうかもしれない。

「そう、なのか」
「頭が倒れたらどうしようもないしな。やすめよ。どうせこのとあとは色々やることがおおいしな」
「せっかくの硫黄島です。休めるときに休むべきです」

 クルーたちの後押しに、群像は思わず息を詰まらせる。
 彼らも、群像が色々と考えを巡らせていることはわかっている。それこそ、自分たちの及ばないスケールで、だ。
だからと言って、それに甘えたままでいるつもりはない。群像にすべてを押し付けてしまうことなど自分たちが自分を許せない。
 大事なことを言おうとしているのはわかる。だが、それ以上に大事なのは群像自身だ。

「みんな……すまない」

 その言葉を以て、蒼き鋼クルーの会議は一時中断となった。
 群像はヒュウガの監視付きで休憩。それ以外のクルーはそれぞれが業務に就くことになった。
 連合との詰めの交渉はいましばらく時間をおいて行うことになった。その間の対応はイオナと僧が代行すると決められた。
 蒼き鋼に事実上加入したタカオもまた、連合の人員との交流を行いつつ情報取集を行うと自ら発言し、実行した。
 大きな決断と、新たな航路を見出した少年少女たち。しかし、未だ船は出ない。いずれ来る時に備えて。

335: 弥次郎 :2021/05/11(火) 00:26:59 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
やっとこさかけました。
ちょーっと仕事がまた修羅場ったので…いやぁ、仕事中にアレはアカンですね(白目
というか、また明日から修羅場ることが確定ですし…本当にお〇ackですわ

338: 弥次郎 :2021/05/11(火) 00:51:07 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
334修正を
×クルーたちの後押しに、
〇クルーたちの後押しに、群像は思わず息を詰まらせる。
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最終更新:2023年06月18日 22:10