763: 弥次郎 :2021/05/15(土) 11:17:32 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
憂鬱SRW GATE 自衛隊(ry編SS 集う力の山猫たち
電子ネットワーク。
C.E.世界および融合惑星、さらには特地(F世界)にまで伸びる電子と信号のネットワーク。
日々膨大な情報が飛び交うそれの中で、一般とは少し離れたネットワークが存在していた。
それは企業の精鋭戦力たちだけが専有する特別な回線。余人が入り込むことを許さない、選ばれた者たちの空間。
そこには、今日は多くの人間たちが集っていた。社会的にも、武力的にも大きな力を持つ人間たちが。
一般にこれを「お茶会」と呼ぶのが通例となっている、一種のサロンが開かれていたのだ。
「随分と久しぶりの面々が集まっていますわね」
「ええ、本当に……もう4年も過ぎてしまいました」
「まったくだ。卿らはもう妻になったのだったか?」
「うふふ……」
「素敵な生活を送っておりますわ、ええとても」
「……家族サービスは大変なんだけれども」
「それは予測されたことでしょう、アマツミカボシ。結婚とは契約であり、営みですから」
「まったくですよミカ君。私は超充実してますけどね!」
「仕事も兼ねているから忙しいんだがな…」
「しかし、こうして特地に派遣されていたリンクスが集まるとはどういう事態だ?」
そう、彼らは4年前の邪神戦争においてヴォルクルスと戦った面々であった。
4年という歳月を経て、結婚をしたり子供が生まれたり、あるいは出世や転戦をしたものなど様々だ。
そんな彼らが、久方ぶりに電子ネットワーク上とはいえ集合したのは決して偶然ではない。
「さて、そろったようですね」
主催者たる大空流星は外向きの丁寧な言葉を紡ぐ。
主たる参加者は企業の精鋭戦力たるリンクスたちであり、あるいは上位ランカーに食い込むようなレイヴン達。
彼らがこうして集められたのは決して同窓会のようなものでもなければ、4年前の戦いの祝勝会というわけでもない。
れっきとしたビジネスの話であり、同時に本業たる戦いの後始末にかかわる話だ。
そして何よりも、彼ら共通の友人---相手は恐れ多いと感じているだろうが---のかかわる重大な話であった。
「伊丹耀司……今はもう一佐にまで出世しているそうですが、彼から個人的に依頼が来ています」
ほう、と誰もが興味をそそられた。
彼のことはこの場にいる誰もが買っていた。それこそ、スカウトの手紙や紹介状を何通も送ったほどに。
彼の成長能力、戦闘適正、謙虚な態度、そしてこれまでの実績。どれもが平凡な人材とは一線を画すものだったのだ。
そんな彼のことは誰もが気にかけていて、個人的な友誼を結んでいた。個人ごとに形こそ違えども、様々な形で。
「依頼というと、何か特地…ファルマート大陸でなにかあったのですか?」
「いえ。彼に直接何かあったわけではありません。彼の依頼は……これです」
流星の操作で、全員に情報が瞬時に共有される。
彼の依頼、それはファルマート大陸東部に展開している米軍の捜索と救助をPMCに依頼したいので仲介してほしい、とのものだった。
「……米軍の?」
「ああ、そういえば、あちらの世界の
アメリカは随分とファルマート大陸の東部に入れ込んでいましたわね」
「彼らの勤勉なるは見習うべきと思うが…しかし、捜索と救助とは穏やかではないな。流星、もちろん説明してくれるだろう?」
「ええ」
次の操作で、そのミッションの背景についての情報が提示される。
「ご存じの通り、あちらの世界のアメリカ政府は政権交代後、ファルマート大陸東部に大々的に進出しています。
市場の獲得や現地の資源の調達などを目的とし、さらには『民主主義の輸出』までもを考えているようです」
どこからともなく笑い声が回線に乗る。
それには流星も苦笑するしかない。何しろ、やろうとしていることが実に無謀で、ともすれば滑稽に見えるのだから。
そして事実として、
アメリカはファルマート大陸という名の泥沼にはまり込み、身動きが取れなくなりつつあった。
それを証明する言葉を流星は紡ぐ。
764: 弥次郎 :2021/05/15(土) 11:18:11 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
「ですが、その実態はお寒い限り……広すぎる不慣れな土地、兵站線の維持の苦労、現地住人との不和。
そしてとどめに、元の世界において怪獣が出現して国家を傾けるかのような大きな被害を出したことで、急遽戦線の縮小が行われています」
「ああ、そういえばそんなこともありましたね」
「幸い、怪獣自体は討伐を終えています。が、そんな状態の本国を放置できるわけもなく、大規模に展開していた軍は撤収を命じられました」
「となれば……発生することは一つですわね」
オディールは自らの予想を代表して述べた。
「薄く広く展開した軍を本国からの支援抜きに撤兵させることが困難になった……いえ、それ以上に、現状把握さえ難しくなってしまわれたのですね」
「その通り。どのような装備も補給や兵站が途切れれば邪魔でしかない。けれど、余りにも広く広げたがために、そして支援体制が乏しく、孤立しているとのことです」
「そして、本国に新たな支援を送る余裕はない。そして、連合は表向きには米国進駐地域に進出しない取り決めが交わされていますわね」
「クソですねー、それ。つまり、見捨ててるってことじゃないですか」
「桜子、卿の物言いは素直でよろしいが、もう少しオブラートに包むべきだ」
「でもクソじゃないですか?お上の都合で何万人もの人間を不慣れでよくわかっていない土地に放り込んでおいて、無責任もいいところです」
事実として、桜子の言葉は多くのリンクスたちの意見を代弁していた。
そうなったことは民意なのだからしょうがないだろう。だが、その民意が結果的に何万人もの人間を苦しめておいて尻拭いしないなど、まさに無責任だった。
それが文民統制というものであることはわかっている。だが、文民統制はあくまでも軍の独断専行を防ぐ機構であり、正しい選択を選べる保証ではない。
そして、その文民を選ぶのは無責任な大衆という存在であり、その大衆の判断能力の保証はどこにも存在していないのが現実。
連合では少なくとも民衆の声にこたえることという基本的な原則は変わらなくとも、民意に絶対性を見出してはいない。
まあ、これは民主制についての教訓や積み重ねの違いというものがあらわになっているのでしょうがないといえばしょうがないのだが。
「そして、この事態を知った伊丹一佐は、義憤に駆られました。
日本国政府も、自衛隊も、連合も手を出せないところで、友誼を結んでいた米軍が苦しんでいるのを見過ごせなかったのです。
現地にいるアメリカ軍の高官からも、極秘に接触があり、内情を打ち明けられたのだとか」
「……ソース元はリー中佐かな?」
「ご明察です、タケミ君。彼は機動兵器運用の研究にかかわり、伊丹一佐とも顔見知りでした。
彼は一度は本国に呼ばれていましたが、左遷の憂き目にあっているようです。
そして、現地でこき使われているようですね」
ともあれ、と重要なのはここからだ。
「その取り決めの穴をつくことができるのが傭兵ということになります。
我々は確かに基本的には地球連合傘下の企業連に属し、傭兵の統括組織に身を置いています。
ですが、雇用関係を結べば、我々の所属は一時的にではありますが雇用主の下に入ることになります」
「つまり、取り決めの縛りを抜け出せるんですね」
「はい。ですが、ファルマート大陸に展開可能であり、同時に相応の規模を持つPMCに依頼するのが困難であり、我々を介するという形になったわけです」
「それならば異論はございませんわ」
「ですが、問題なのは報酬。如何に私たちの友人とはいえ、ロハでPMCを動かすのは考え物…」
「身銭を切るのはさすがに。とはいえ、そこは考えがあるようですね?」
特にお金にシビアな欧州組の言葉に、流星はうなずきを返す。
「あちらの世界の
アメリカおよび日本政府からの現物での取引を行うというのが提案されています。
現物でダメならば、大洋連合を介して現金化も可能ですので、PMCを動かすのに十分なモノかと思われます」
「現物……」
「美術品、嗜好品、コレクションとしての価値のあるモノなど、
アメリカから出せるだけは出すそうです。
ですが、正直なところ、報酬の保証はありません。依頼は過酷、期間は長期、報酬少な目、名誉と満足感はあり。そんなものです」
なんともふざけた依頼だ。このようなものを実際に出そうものならば、審査の時点で弾かれること請け合いだし、受けようという好事家もいないだろう。
なんだかんだ言っても傭兵というのは金にうるさい仕事であり、シビアである。だから、こんな依頼よりも他のものを選ぶのが賢いというもの。
「まあ、彼も無茶を承知で、私たちからの依頼という体で傭兵を集めたいようです」
「ですよねぇ。普通、やりませんよこんなの…」
「ファルマート大陸東部全体に薄く広く展開している上に、組織的撤退が難しいとなれば……」
「控えめに言って割に合うか微妙だな」
765: 弥次郎 :2021/05/15(土) 11:18:57 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
ネガティブな言葉が自然と漏れる。流星だってそんなことは承知している。
依頼主である伊丹もそれは把握していることであろう。こんなものは慈善事業もいいところであり、言い方は悪いが拝金的なところもある傭兵に頼むことではない。
PMCに限った話ではないが、これほどの悪条件の依頼を受けてやるのはよほどの事情がなければ在り得ないところ。
「ですが、受けましょう。この依頼を」
「姉さまもそう思いますか」
「やりましょう」
「クハハ、やらざるを得ないだろう、ここまで言われてはな」
「心のぜい肉っていうか…ふぅ…断れないじゃないですかー」
「異論はない」
だが、リンクスたちはそれを受けると宣言した。彼らに限らず、参加者たちは次々と了承を示した。
個人的な依頼だからというのもある。伊丹一佐との友誼もある。同情心が湧いたことも確かだった。
自分の持つ伝手でPMCを動かすに足る満足な報酬がない可能性も考慮してもやりたいと思ったのだ。
いうなれば惻隠とでもいおうか。少なからず縁を結んだ相手が異国の地で苦境に陥っているのを座して眺められるほど人間性は薄れていない。
「感謝申し上げます。プライベートな仕事の依頼ということですので、相応に慎重にお願いします。
仕事の割り当てが決まり次第、こちらから連絡を入れていきますので。必要に応じて『招集』をかけます」
そう、本来ならば傭兵を私的な依頼で動かすのは難しい。権利や権限、あるいは企業の精鋭としての権力を以て動かすことは容易ではある。
桜子など次期社長夫人であり、その気になれば企業傘下のPMCを自在に動かすこともできる。ただし、できるからと言って乱用は許されない。
今回の件に関しても、信条的には理解を示されるかもしれないが、一歩間違えば私的な権力の乱用とさえとられかねないものだ。
だが、そのリスクを冒しても良いというだけの理由が存在した。
何とも愚かしいかもしれない、けれど、とても人間的で、ロマンがあることだった。
報酬だけでは満たされない満足感、精神的な充足。そのために動いても良いと、それだけ彼を彼らは買っていた。
「では本日は解散とします。皆さんのご協力、感謝します」
「報酬でお願いしますわ」
「ええ、新婚というのは物入りですもの」
「生々しい……」
「タケミカヅチ、貴方もでは?」
「うふふー、私もです」
「ハハハ、いいものだな慶事が続くというのは!」
若干被弾したが、まあいいだろう。いいのだ、未だに結婚できていなくても。人生はまだまだ長いのだ。
そう自分に言い聞かせながらも、流星は自分の端末を操作してネットワークからログアウトする。
そして、あらかじめ用意していたメールを一斉に送信する。それは、自分の伝手のあるPMCへ送った依頼だ。
個人の持ちうる権力はこういうところで使うべきではないかと、流星は思うのだ。
そしてミーティングに参加していた彼らもまた、自分と同じように動いているだろうと予測していた。
なんだんかんだいいつつも人間性も担保されているのがリンクスたち傭兵だ。伊丹一佐の義憤を理解でき、同じく義憤してしまうだろう。
それを利用している、というところには若干の負い目を感じてしまうところもあるが、それはそれ、だ。
「しかし、まったく愉快な話だ」
時代的に見て過去の世界の、ただ一人の自衛官がここまで自分たち連合や企業連という巨大な組織を動かしてしまう。
しかも、悪意などからではなく、ただの善意、小さな意志一つを以て大々的に動かしてしまったというのはすさまじいものだ。
それだけの影響力があり、評価を受ける逸材。やはり、欲しい。主人公であるということを差し引きしても、彼という人材は高い価値を持つ。
試すまでもなく、というかこれまでさんざん評価してきたが、彼はまぎれもない黒い鳥。それも相当な近似値だ。
「いつか、ともに戦えるといいですね」
そう呟いて、流星は笑みをこぼした。
力を持つ山猫の、獰猛とさえいえる笑みであったのは本人は知らぬばかりであったが。
766: 弥次郎 :2021/05/15(土) 11:19:41 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
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最終更新:2023年11月15日 20:19