385: 名無しさん :2021/05/15(土) 22:48:58 HOST:sp49-98-146-23.msd.spmode.ne.jp
「それでは……戦いを挑む上で、絶対に避けなければいけない事があります」
「それは、長期戦です」
「長期戦とは、まぁ、言葉通りの意味なのですが……それ以外にも、例え一時の軍事的圧力で貿易を再開させたとしても、諸外国は我々への警戒を続ける筈です」
「そうなれば、我が国vs世界の永続的な冷戦状態の完成です。その場合、いくら我が国が圧倒的優勢を保ったとしても、数十年のスパンで見ればいつか必ず綻びが生まれてしまうでしょう」
「ならば、今現在の一撃で我々にとって都合の良い国際環境を作るしか、生き残る道は無い訳です」
軌道爆撃より数時間後
中国沿岸部 渤海 夜
つい先程、統制を取る間も無くバラバラに出てきた中国海軍を黄海のど真ん中で鎧袖一触に消し飛ばしてきた、空母「赤城」を中核とする日本海軍第一艦隊。
対艦装備を盛大に放ってきた艦載機の群が着艦していくのを横目に、渤海内部へと侵入する幾らかの水上戦闘艦で構成されている小艦隊。
その中心には、のっぺりとした外見が特徴の270メートル級大型ステルス艦が存在した。
長門型沿海域戦闘艦のネームシップ「長門」である。
その長門の中心部、何重もの分厚い装甲に守られたSMC(ship's mission center)の中では、各種偵察機や衛星が捕捉した上で攻撃優先度が紐付けされた主要目標の位置が、戦域データリンクにて送られてきていた。
主モニターに大きく映し出されている中国全土の地図、そこに表示されている多数のターゲットカーソルは中国国内に存在する陸海空の軍事施設、交通や通信の要衝、国家クラスの行政施設に重なっている。
「……時間だ、攻撃を開始せよ」
「総員、攻撃開始」
艦隊指揮官の短い指令と、艦長による命令。
それを切っ掛けに、この長門の保有する全攻撃力が始動した。
「1番砲、衛星データリンク完了、目標1-1、撃ち方始め」
最前列に存在する41cm単装速射砲……ETC(電子熱化学)発射薬によって秒速3kmクラスまで加速された砲弾は、最初の標的となった敵空軍集結地点である瀋河区の空軍基地に向かって飛翔していった。
速射砲というだけあって、その発射速度は一門あたり毎分20発。
僅か15秒の射撃時間で5発も放たれた1トン級の榴弾は、衛星による観測を受けながら空軍基地の管理施設やハンガー、駐機中の航空機に着弾し次々とそれらを破壊していった。
2番砲も同じように大口径弾をハイペースで吐き出しつつ、同時に艦の後方では多数のVLSの蓋が開いていた。
VLSから噴出する発射炎、そこから飛び出すのは多数の巡航ミサイルだ。
固体ロケットモーターで空中へと飛び出しながら加速し、モーターの燃焼が終わる頃にスクラムジェットエンジンが始動。
各々の目標に向かって散開しながら極超音速で飛び去っていく。
その数は優に100を超えており、夜の暗い海で盛大な花火のように明るく瞬いているのだった。
386: 名無しさん :2021/05/15(土) 22:53:50 HOST:sp49-98-146-23.msd.spmode.ne.jp
日本領遼東半島 大連空軍基地
「まさか、これを本当にやることになるとは思わなかったな……」
「えぇ、同感です」
大陸の喉元ということで、比較的大規模に整備されていた航空基地。
その管制塔では、2人の職員が航空管制を行いながら窓の外を見下ろしている。
彼らの見つめる先にあったメイン滑走路には、エンジンの始動を始めた小~中型機がエレファントウォークの如く整然と犇めいていた。
その数は、見えているだけでも数十以上。
機体規模は数mから十数m程度の、普通の戦闘機と比較して小柄な部類。
尾部にはエアインテークと二重反転プロペラが着いており、キャノピーは無い。
全体的なシルエットとしては、令和世界のMQ-9やRQ-4といったモノに近く、実際その通りに此れらの機も全て無人機である。
パワーアシストスーツを着用した作業員達によって、その翼下には大小の無誘導爆弾は勿論、クラスター爆弾、ミサイル、ロケット等々多数の物騒な品物が吊り下げられていた。
「これより作戦を開始する!」
「航空阻止作戦グループ第一梯団、発進開始」
作戦司令の号令と共に、無人機群の二重反転ローター、プロップファンエンジンが唸りを上げ、先頭の機から離陸滑走を始める。
これぞ無人機と言える正確な間隔を以て次々と滑走していき、全機がその編隊を乱さぬまま空へと舞い上がっていった。
はるか上空には、大きなレーダードームを背負った空中管制機が、周囲を護衛の戦闘機によって固められながら飛行していた。
『斑鳩ー1、第一梯団を掌握。目標振り分け完了、攻撃準備完了』
空中管制機は自慢の情報処理能力と通信能力を用いて、一つの群れとなって飛んでいる無人攻撃機群をその統制下に置く。
「戦域の航空優勢は味方航空部隊が確保している、攻撃を開始せよ」
『了解、攻撃開始』
空中管制機からの指令が各無人機へと伝達され、無人機達は一斉に散開し、各々の目標へと向かっていった。
かつての冷戦、ユーラシア中央や北米内陸部で欧州枢軸と激突する可能性が高まった際、敵の機甲部隊による大規模かつ同時多発的な突破への対応が課題となっていた。
それに対処する為に考案されたのが、優越した電子戦能力と大量の航空戦力を先制的に用い全面的なSEADと戦術爆撃、航空阻止を同時に実行して枢軸機甲部隊の突破力を鈍化させ友軍地上部隊の機動防御によって受け止め撃破する……
という、かの米国のエアランドバトルドクトリンをアレンジしたモノであった。
このドクトリンは、時代に合わせて段々とブラッシュアップされていき、80年代末には安価化・高性能化した無人航空機による飽和攻撃を可能とするまでになっていた。
海南島、台湾航空基地からも同時に行われるこの大規模航空作戦の攻撃能力は、平均して1000ソーティ超/日にも達すると予測されている。
尚、今使われている無人攻撃機はとある変態飛行機マニアの設立した航空機メーカーが開発したものであり……トライアル中は小型化したターボファンエンジンが妥当だろうと誰しも予想していた中にプロップファン+二重反転プロペラというゲテモノで殴り込んで来た挙げ句、速度や燃費が極めて優れている上にコストも提示された範囲にギリギリ収まっていた為普通に採用されてしまった本来色物枠な航空機だったりする。
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387: 名無しさん :2021/05/15(土) 22:55:29 HOST:sp49-98-146-23.msd.spmode.ne.jp
新須賀 旧アンカレッジ近郊
日本空軍基地
日本の重要資源、農業地域として高度な防衛戦力が固められていた他、
アメリカやロシア、北極海を通過して北欧等に直接アクセスできる此処、新須賀の空軍基地では敵となった先進諸国相手への本土直接攻撃に向けて慌ただしく準備が進められていた。
その攻撃の目玉となるのが、今誘導路上で待機している大型機である。
全体としては滑らかでのっぺりとした外見、ステルス攻撃機を太らせて大きくしたような雰囲気の四発機。
それは、日本空軍が誇る高高度極超音速爆撃機「飛龍」だ。
単独で宇宙空間に昇ることが可能な軌道往還輸送機からスピンオフした技術で造られたこれは、通常の航空機での迎撃が難しい超高高度を極超音速で飛行する事によって、敵の戦闘機と防空網を振り切って爆撃を行うことを主眼に置いている。
似たような用途にて日本は宇宙空間に対地攻撃衛星群を配備しているものの、こちらは発射機本体が宇宙に存在している。
その為、一度全面的な軌道爆撃を行った後には長い再装填作業が控えており、現在は緊急用に定数の10%程の弾薬を残しながら宇宙軍輸送隊による全力の再装填が行われている。
その点、こちらは地上基地から発進する爆撃機であり、攻撃衛星ほどの即応性は無いにしても、反復攻撃によってより多数の目標を攻撃できる。
“異変”前には緊張緩和等から、普通の爆撃機で十分ではないかとの意見も出されていたのだが、今現在、アメリカやロシアの本土に殴り込むのにこれ以上の爆撃機は無いと思われる。
「こちら管制、離陸を許可。貴機の幸運を祈る」
甲高いエンジン音を響かせながら飛び立って行き、半数はアメリカ、半数はヨーロッパロシアへと進路を向けた爆撃機達。
高度20000メートル超に上昇しスクラムジェットエンジンによって極超音速まで加速した彼らを阻止できる存在は、現在の地球上には存在していない。
388: 名無しさん :2021/05/15(土) 22:57:15 HOST:sp49-98-146-23.msd.spmode.ne.jp
本日分の投下完了です。
385
に脱字ありましたね。
「1番砲、衛星データリンク完了、目標1-1、撃ち方はじ」
↓
「1番砲、衛星データリンク完了、目標1-1、撃ち方始め」
最終更新:2021年05月19日 19:41