293: モントゴメリー :2021/05/24(月) 20:11:53 HOST:116-64-111-22.rev.home.ne.jp
FFR狂想曲

(艦娘)リシュリューが(戦艦)リシュリューの艦長をあやしている頃——
フランス連邦共和国(以下、FFR)がどうなっていたかというと……

パリの街は大歓声に湧きかえっていた。
パリだけではない。
マルセイユが、リヨンが、ツゥーロンが、シェルブールが、Hexagone(六角形=FFRヨーロッパ州)に属する全ての街から歓声が上がっていた。
無論、その光景はダカールを始めとするアフリカ州やエスト=デ=パリを中心とするエストシナ植民地でも同様であった。

政府からの正式発表はなされていないが、サセボに派遣されていたFFR国営放送の記者によりその報せは国民に知れ渡っていた。
記者たちのカメラははっきりと捉えていたのだ。
港の臨時ゲートを通過するFFR標準軍用車両と、その後部座席に乗るリシュリューの姿を。

——Notre Commandant(我らが指揮官)ご帰還!!

その報を聞き、喜ばないフランス人など存在しないのだ。
マルセイユの市長は市民たちにシャンパンやジュースを振舞った。
「提督」の生誕の地にして霊廟を祀る都市であるモンペリエや、「元帥」の業績の出発点であるヴェルダンでは
市長自らがワインを捧げ、我らが指揮官を遣わしてくれたことを両名に感謝した。
ツゥーロンやシェルブールでは、市長が独断でリシュリューを讃える彫像を製作を命じた。
「歓喜」はもはや「狂乱」と言ってよい様相を呈して来た。

FFR各地の軍駐屯地や連絡所ではそれが顕著であった。
下は10歳に満たぬ幼児から上は70を超える老人まで、自分の足で歩ける全てのフランス人がそこに集結したかのような有様である。
彼らは一様に、現役復帰または早期志願を求めて集まっていたのである。
理由はもちろん、「『我らが指揮官』リシュリュー救援」のためである。
彼らは、リシュリューが姿を現さないのは日本人に捕らわれているからだと考えたのである。
これは一種の精神的防御反応であった。
我らが女神に見捨てられたと考えるより、我らが女神が敵に捕らわれていると考える方が精神衛生上マシであったのだ。
ならばこそ、リシュリュー救援のために馳せ参じようと行動したのである。
そこに、『我らが指揮官』ご帰還の報が入る。
そこから先は狂喜乱舞である。
皆、隣にいる見知らぬ者たちとこの喜びを分かち合った。
老人は幼子を抱きかかえ、若い男女は抱擁を交わす。
皆が皆、涙を流しながら心からの歓喜を表現していた。

294: モントゴメリー :2021/05/24(月) 20:13:02 HOST:116-64-111-22.rev.home.ne.jp
——パリ7区サン=ドミニク通り14番地「ブリエンヌ館」

国防省が置かれているこの建物の中央指令室では、国防参謀総長たるアナイス・ベルナルドが4つのコーヒーカップを用意しcafé royalを手ずから作っていた。
1つは「元帥」に、1つは「提督」に、そしてもちろん1つは「我らが指揮官」に捧げるためだ。
アナイスは3つのカップを指令室に掲げているそれぞれの写真の前に置くと、最後のカップを右手に持ち献杯をした。
その光景を見ていた部下たちも感動の涙を流しながら写真に向かい敬礼する。

——嗚呼、「反抗期(命名者:大統領)」と呼ばれその信仰心に疑問を持たれていた彼女も、やはりフランス人であったのだな——

…だがしかし、後々冷静になって考えてみると部下たちの脳裏に疑問が浮かんだ。
何故「我らが指揮官」たちに捧げる供物が、ワインやシャンパンではなくcafé royalであったのか?
そもそも、何故勤務時間中にcafé royalを作れる材料(コーヒー・角砂糖・『ブランデー』)と道具(ロワイヤルスプーン)を持ち歩いていたのか??
……自分が飲みたかっただけではないか?それも、勤務時間中に堂々と。

そんな部下たちの思惑などつゆ知らぬ当人は、自分が作ったcafé royalの味に満足しつつ2杯目を飲む大義名分を思案していた。
そこに、指令室の扉を開けて報告書を持った尉官が入ってきた。

「参謀総長、通信部より報告いたします。戦艦リシュリューより発せられていた暗号通信ですが、あと一時間ほどで解読が完了できます」
「ああ、そういえばリシュリュー艦長から解読を依頼されていたわね。忘れていたわ」
「…閣下。その…解読を続けてよろしいのでしょうか?」

中尉の階級章をつけた女性士官がアナイスに尋ねる。

「?別に中断する理由なんて無いでしょう」
「しかし…『我らが指揮官』の秘匿通信を解読するなど畏れ多いことです。『我らが指揮官』がご帰還なされた今となっては中断すべきかと愚考いたします」

中尉は、イタズラがバレるのを恐れる子供のような表情でアナイスに意見具申する。
アナイスはそれを見ると、人の悪い笑みを浮かべつつ返した。

「そうねぇ…。乙女の秘密を暴くなんてイケナイ事よねぇ。もし私がされたら、やった相手を地面に寝かせて足のつま先からじっくり丁寧に戦車の履帯で擂り潰してやるわ…」

中尉の顔は青ざめ、体が恐怖に震える。

「もしリシュリューがお怒りになったら、主砲に装填されてオセアンの下まで撃ち出されちゃうかもね~」
「⁉ そ、そんな…。そんな名誉な事こそ畏れ多いです!!」
「…ん?」
「『我らが指揮官』直々にオセアンの下へ転属させてもらえるなんて、我が一族末代まで誇りとできます!!
私自身も、先に『霧の向こう側』へ行った先輩たちに胸を張って自慢できます」
「…うん、そうね」
「あ…でも、『我らが指揮官』の剣を私の血肉で汚すなんてやっぱりできません。装填装置が故障してしまうかもしれませんし…。
ここは兵士の分をわきまえ、辞退いたします」

そう言った中尉の顔色は蒼から紅に、体の震えの原因は恐怖から歓喜へと入れ替わっていた。

「…私の方から話を振っておいてなんだけど、そんな未来は来ないから安心しなさい」
「えっ?」
「『我らが指揮官』は寛容なお方。きっとお許しになられるわ。
もしお許しになられなかったとしても、リシュリュー艦長や私たち上層部の命でお怒りを鎮めてもらうから貴官まで累が及ぶことはないわ」
「そう…ですか」

中尉は安心したような、残念なような表情で応えた。

「取り敢えずcaféでも飲んで落ち着きなさい。丁度、私もおかわりしようと思っていたからついでに作ってあげるわ」
「はい、頂きます!!」

…これが第4世代か。
マリーたちも大概だったけど、最近の若い子たちの信仰度合いにはもうおばさんはついて行けないわ。
(見た目20代の)40代であるアナイスがジェネレーションギャップを感じつつ、ちゃっかり2杯目を飲む口実を掴んだ時
(ちなみに、ご相伴にあずかった中尉は飲み終えた後に職務遂行困難となり医務室に放り込まれた)
新たな報告が上がってきた。

「参謀総長、エスト=デ=パリの大統領より電文です」
「うん?こっちに回して」

アナイスは通信紙を受け取る。なお、コーヒーカップは手放していない。
しかし、読み進めていくうちにアナイスはそのコーヒーカップを取り落としそうになった。

「……マリー、貴方…」

295: モントゴメリー :2021/05/24(月) 20:17:05 HOST:116-64-111-22.rev.home.ne.jp
本日はここまでといたします。
…8000字もいっぺんに投稿しても、みんな読む気を無くすでしょうから
上・中・下と3分割いたします。

ウィキ掲載は自由です。

いつも通り、635氏への感謝の意を(FFRの皆さんの分も含め)込めました。
あと、本篇の方でFFR因子をご活用いただいているご様子。

ご愛顧に感謝を込めまして、FFR成分おかわり入荷いたしましたw

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最終更新:2021年05月24日 23:51