304: モントゴメリー :2021/05/25(火) 20:19:27 HOST:116-64-111-22.rev.home.ne.jp
リュクサンブール宮にある連邦議事堂では、招集された議員たちにより臨時議会が開催されようとしていた。

「同じ『女神』を母とする兄弟にして、同じ『指揮官』の旗を仰ぐ戦友である議員諸君!!」

壇上に上がった議員がFFRにおける定型の挨拶で演説を始める。

「既にネットなどでお聞き及びのことと思うが、先ほどサセボに寄港中の戦艦リシュリューより正式な連絡が届いた。
先日女神の御姿で降臨なされた『我らが指揮官』が、その船体にご帰還あそばされた。
我々FFR国民は、今再び『指揮官』の加護を得られたのである!!」

議場に歓声が満ちる。
誰も彼もが涙を流しながら声を張り上げている。
議員と言えども、不安であったのは一般国民と同じである。
現に、この場にいるほとんどの者たちも現役時の制服にそでを通していた。

「この慶事に際し、エスト=デ=パリに視察に向かった大統領より次のような連絡があった」

壇上の議員が通信紙を手に持ち、続ける。
歓声が止み静寂が満ちる。

「我、これより『我らが指揮官』に謁見するためにサセボに向かう。謁見せし際は、最後に拝領した剣を返上し頭を垂れよう」

おお!!
次に議場に満ちたのは感嘆の声であった。
現職の大統領であるマリー・マフタンは剣—「リシュリュー刀」—の最多数受領者として知られている。
そんな彼女が最後にその剣の賜ったのは大統領就任時、「FFR軍最高司令官『代行』」の証としてである。
その剣をリシュリューに返上するということは、軍の、FFRの「指揮権」を返上するという意味に他ならない。
あの彼女が、「謀将大統領」がそんな殊勝なことを行うとは!?

「降臨なされたリシュリューへの対応は、取り敢えず大統領閣下に一任するとして
私はここに取り急ぎ一つの事を提案したい。
…今日というこの日を『我らが指揮官顕現の日』、もしくは『降臨の日』としてFFRの祭日として制定すべきである!!」

うおおおおおお!!
今度は鬨の声が議場を支配する。
反対意見は出なかった。
出るはずがない。

「そして!その祝日に合わせ、我らが指揮官の出現を祝う『神現祭』を行う日としたい!!」

これにももちろん反対意見は出なかった。

「異議なし!!」
「そうだ!パリで…否!!FFR全土で『我らが指揮官』に捧げる祭典を開こうではないか!?」

議場は歓喜と熱狂に支配されつつある。
しかし…

305: モントゴメリー :2021/05/25(火) 20:20:24 HOST:116-64-111-22.rev.home.ne.jp
「神現祭を行う事に異存はないが、具体的には何をすれば良いのだ?」

この一言により議場から音は消え去った。
その通りだ。我々は、一体何をどうすれば良いのだ?
FFR国教の特徴が、ここでは「弱点」となって作用してしまった。
4億越えという信徒数の多さとその信仰心・団結力の強さが目立つために忘れがちであるが、FFR国教は誕生してからまだ70年も経ていない「新興宗教」なのだ。
そのため歴史に裏打ちされた「伝統」というものに乏しく、こういった「祭典」に関する知識や経験の蓄積もないのである。
他の宗教ならば、「経典」や「最高権威者」などこのような時に頼れる存在があるだろう。
しかし、FFR国教にはキリスト教における新約聖書のような経典は存在しない。
その点は日本の神道も似たようなものであるが、神道における「ミカド」のような存在もFFRにはないのである。
大統領や先任司祭などの候補者はいる。
が、序列などは全く決められていないのだ。
FFR国教において、「教義」と呼べるものはただ一つ。
「鉄人」、ジョルジュ=ビドー初代大統領が残した

『汝、フランス人たれ』

という言葉のみである。これすらもビドー大統領の真意が奈辺にあるのか、今となっては知る術はない。
そういう訳で、「フランス人らしい」神現祭とは何かというテーマで議論は迷走を始める。

ある者はFFR全土でファッションショーを開こうと芸術性あふれる案を出した。
ある者はFFR全土の料理や銘酒を集めて宴を催そうとフランスの誇る文化面を押し出した提案をした。
またある者は生贄をギロチンにかけてその血を捧げるべしと革命精神旺盛な案を出した。

このように様々な案が出るがどれも決め手に欠けていた。
結論が出せず、焦燥感が募りだしたその時

「諸君。何を迷っているのかね?」

長老議員の一人が声を発した。皆の視線と意識が彼に集中する。

「別に難しく考える必要は無い。『我らが指揮官』に捧げる儀式ならば毎年行っているではないか。
…観閲式を執り行う。これ以外に答えがあるかね?」

観閲式!!!
そうだ、観閲式で良いのだ。何故忘れていたのだろう?
議員たちは何故このような自明の理で悩んでいたのかと自問した。
観閲式(観艦式)は「国家行事」であるのは万国共通である。
しかし、FFRではそれに「神事」の側面が追加される。
「我らが指揮官」たるリシュリューを観閲官とし、彼女の「戦力」たるFFR国民の練度を披露する場であるのだ。
(これまでは「代行者」たるFFR大統領が観閲官を務めていた)
一旦方針が決まると、後はとんとん拍子で話が進んでいく。

「今年の担当は陸軍だったな」
「いや、ここは陸海空宙4軍を挙げた一大観閲式を行うべきだ!」
「しかし準備に時間がかかる。ここは拙速を重んじて小規模で良いから観閲式を行うべきだ。このような時のための即応部隊ではないか!?」
「その即応部隊は全部エスト=デ=パリに移動してしまったのを忘れたのか!!」
「ならばそのエスト=デ=パリで観閲式を挙行すれば良いのだ! 幸いにも『我らが指揮官』が降臨なされたのはサセボ。
そこに一番近いFFR領土ではないか!?」
「異議なし!!それに、エスト=デ=パリは『元帥』の墓標がある都市(まち)。
神現祭の初回を行う場所に相応しい。」

こうして神現祭の準備は進んでいくのであった——。

306: モントゴメリー :2021/05/25(火) 20:26:47 HOST:116-64-111-22.rev.home.ne.jp
以上、FFR狂想曲中編でした。
ウィキ掲載は自由です。

「サセボ異界紀行六冊目」の

『我々がこの世界に現れた日を『我らが指揮官顕現の日』或いは『降臨の日』としてFFRの祭日にし、
FFR全土で我らが指揮官の出現を祝う神現祭を行う日にすべしと議員達が鼻を荒くして訴えているらしい。
しかもこのままでは全議員が賛成し全会一致で採択されそうな勢いだとか。』

という描写に対応いたしました。
あと、635氏の

うむ、色々考えるとサセボ異界紀行のFFRが我らが指揮官の降臨の祭典を開くと最高存在の祭典じみたのになりそうな気が…。

という疑問にお答えするため、FFRの皆さんに
「『神現祭』ってどんなことやるの?」と聞いたところ

FFRの皆さん『やったことねぇよ』

と返され、後は本文中のような議論が夢枕で繰り広げられました。
最後は毎年やってる観閲式を発展させる方向で落ち着きました。

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最終更新:2021年05月29日 10:55