438 :ひゅうが:2012/02/06(月) 23:55:05
→407 の続きです。


銀河憂鬱伝説ネタ 閑話――「サジタリウス回廊は…」その5


※ まじチートです、ご注意ください。目指せソーラレイ。


――同 宙京標準時0635時 海賊船「イヴァンのばか」号


「回廊管制より信号。『貴艦隊は事前通告なく回廊防衛宙域へ侵入している。ただちに停船しわが方に帰順せよ。しからざれば敵対行為とみなす。
5分の猶予を与える。』」

「・・・完全にばれていたのか。」

船長は苦虫を噛み潰したような表情から、何か悟ったような表情になった。

「全員に達する。作戦は失敗。本船は停船する。助力各企業(海賊たちは公認を受けるために企業体をとることが多い)にも――」

「船長!輸送船団に動きあり!」

「なんだと!?」

船長は目を剥いた。
スクリーンには、ステルス状態をとった味方梯団の前方を進む300隻あまりの全長1000メートルほどの球体に似た「輸送船団」が外殻を解いていく様子が映し出されていた。


「奴ら正気か!? 手前勝手バラバラに逃げ出しているぞ!」

船長は唇を噛む。
元同盟軍兵站部の将校である彼らとは違い、輸送船団にしまいこまれていたのは中小企業的な「業者」の200メートル級宇宙船――正真正銘の「海賊」たちだ。
さらに――

「船長!第2、第3梯団が全速突進を開始しました!」

「帝国の奴ら、正気か!?」

「正気だからでしょうよ。やつらは要塞砲の恐ろしさは知っているはずです!ですが撃たれたことはない!
撃たれる前に自分たちだけでも逃げ出すつもりです!」

バン!と船長はコンソールに腕をたたきつけ、叫んだ。

「なんてザマだ!」

「船長。どうします!?」

ブリッジの全員が船長の方を見つめている。
全員が、同盟軍内部で上官の罪をなすりつけられたり、兵站に理解のない上層部に煙たがられてパージされた連中だ。
中には辺境星系で「荒事もする運送屋」として働いていた者もいる。
第1梯団はそうした人々で占められていたのだ。

「第1梯団全船団に非常信号、『我に敵意なし』を全力発信しつつ回廊外郭銀南方向へ退避し停船!」

「了解です!――通信回線、開いておきます!」

「頼む!」

船長は冷や汗をかきながらステルス航行解除を指令した。
帝国側や正真正銘の「海賊」と同じ目にあうわけにはいかないのだ。

439 :ひゅうが:2012/02/06(月) 23:57:02

――同 第2艦隊(山本艦隊)旗艦「金剛」 CDC(艦隊戦闘指揮所)


「目標第1群、ステルス航行を解除し銀南方向へ退避していきます。」

「先頭は?」

「お待ちください。――停船しました!後続船も次々に停船していきます!」

「第2、第3群と、輸送船団内から出現した第4、第5、第6群は全速で回廊奥へ航行中です。」

「数は――1万2000か。よくもまぁ詰め込んだものだなぁ。」

山本は呆れたようにつぶやいた。

「一応1個艦隊ですか。しかも同盟データベースに載っているような艦ばかりですよ・・・
小型艦が多く速力が速いのは脅威かと。」

分かっている。と山本は参謀を手で制した。

「第4艦隊汎用艦部隊は所定の配置についたか?」

「ついています。『薩摩』と目標第1群の前方から全速進行中。」

「長官。重力震確認! CM(コズミックマグニチュード)8.21…実験艦隊です!」

よし。と山本は頷く。

「これで袋は閉じられたか。時間は?」

「5分まであと20秒!」


ふふっ。と山本は笑う。
実験艦隊に所属する島級機動要塞は、超大型の小惑星のような存在だ。
それがワープアウトすると、小型艦のワープドライブでは跳躍不能になるほどの重力震が発生する。

ただでさえワープ可能な宙域が限られるこの回廊内においてこの第2次決戦宙域から離脱を不可能にされた敵は袋の鼠のようなものなのだ。

本来の迎撃構想では旧式の機動鎮守府の縮退炉を暴走させ超大型の重力弾頭を撃ちこむことが考えられていたが、技術の進歩はこの試作艦に「重力ダンパー」ともいうべき役割を与えることになった。
現在計画中の70キロメートル級と仮称される機動鎮守府――いや「戦艦」にこの成果は反映されることになっている。

440 :ひゅうが:2012/02/06(月) 23:57:37
「よろしい。現時点をもって目標第2から第6群を『敵(エネミー)』と認定する。
全艦統制射撃!目標、『敵』先頭集団、弾種、焼夷榴散弾!」

「了解、全艦統制射撃用意。最終安全装置解除!」

「撃(て)ぇっ!!」

張りのある声で山本は号令を下した。

と同時に、安全装置が外されていた「主砲」に機関からエネルギーバイパス回路を通じて送られてきたエネルギーが殺到。
機関を構成する縮退炉の変形版のような砲尾で2組のマイクロブラックホール(真空の局所相転移でエネルギーが供給されている)とエネルギー飽和状態の真空空間を作り出す。
慣性制御技術によってヒッグス場を弾き飛ばされているこの「弾体」は砲身から供給される不安定な疑似タキオン粒子(光子のいわば同位体を強引に加速している)を用いて宇宙誕生時にごく近い「時空の歪み」の塊のような連星状の特異点とその周囲に満ちる高エネルギー空間を宇宙空間に弾き飛ばした。

相対性理論が無効になる程度の空間状況が維持できたのは数ピコ秒程度で、砲口からほとばしったエネルギーは周囲の真空中で正物質と反物質を作り出す「対生成」とそれらの「対消滅」によるまばゆい閃光を発しながら一方向へ与えられたベクトル場に従って進行する。
とはいっても弾体中心部は宇宙誕生時に近い状態のために光速を超えて飛翔し、光子の「トンネル」の中を進むが数ピコ秒中には条件が崩れ、大気中を超音速飛行する時のように衝撃波が発生する。

慎重な条件付けのために幅20キロ程度に広がる衝撃波による被害範囲では、時空構造そのものが崩れ、その補修のために物質はエネルギーへと分解されて消費されてしまう。
そして飛翔を続けた「弾体」は、やがて限界を迎える。
弾体の中枢を構成していたマイクロブラックホールがホーキング放射によって質量を失い、
ついには特異点を消失させ一気に大量の熱量と重力震、そして時空構造の破壊を起こすのである。

原理とプロセスこそ違うが、それは某宇宙戦艦ヤ○トの必殺兵器「波動砲」の起こす反応そのものであった。
ただし衝撃波を発生させ敵を宇宙の時空構造ごと叩き潰すために制式名は「衝撃砲(ショックカノン)」である。


「金剛」が発射した主砲1門あたりの威力たるや、直撃時においては8500万メガワットに達する。そしてこの恐るべき凶器を「金剛」は8門搭載している。
射程距離を維持しつつ、威力を高めたぎりぎりの線のためにこうした数に分割がなされているのだ。
艦首砲として発射する場合は、威力はさらに上がる(8億5000万メガワット)ものの射程は逆に短くなる。
対要塞用や広範囲の敵を薙ぎ払うためのものであった。


5隻の「戦艦」と呼ばれる移動要塞から放たれた火線に続き、要塞宙域の支援火力もその威力を発揮しはじめる。
固定型であるが威力7億メガワットの「要塞砲」(艦首砲の長射程版)や、主砲と同様の3600センチや4100センチ衝撃砲(機動重砲)、そして簡易版である某マク○スの主砲によく似た重砲群が白い宇宙をさらに漂白しつつ超光速で目標を切り裂くべく進みつつあったのだ。

第1弾の弾着時刻は、宙京標準時0641時。
広範囲に散らばっていたため艦隊戦ほどの被害は与えられなかったものの、敵艦のうち少なくとも1200隻が撃沈され、それに倍する艦が何らかの損傷を負っていた。

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最終更新:2012年02月07日 07:26