461 :ひゅうが:2012/02/07(火) 05:30:48
→438-441 の続き、蛇足ネタのようなものです。
銀河憂鬱伝説ネタ 閑話「サジタリウス回廊は…」その5.5~タキオン談義~
――同 サジタリウス回廊(エア回廊)中枢 対馬要塞 厳原港(旧対馬第一要塞泊地)
自由惑星同盟軍所属 多用途支援艦「ティアマト」
絶句。
それがこの場にいる全員の感想だった。
「ウソだろ・・・全部あわせると総出力はトールハンマーの20倍!?」
「海賊集団のうち3000隻を撃沈破――」
「しかもあれって確か…旧式艦で代替艦建造計画が承認されたよな。」
「なんて奴らだ!」
自由惑星同盟軍情報部や技術部に属する男たちは、わざわざ気を利かせた第1軍集団(回廊防衛軍集団)がまわしてくれた回線を通じてこの「第1次回廊防衛戦」の中継映像を見ていた。
「射程距離も少なくとも10光秒は超えていますね。」
「だからわざわざ多数の砲塔へエネルギーを分流しているのだろう。我々が光子ビーム砲を多数の砲口にまとめたのと同じ理由だろうな。」
「しかし、ビーム速度は光速の3倍か・・・おまけに衝撃波で小型艦を爆発させている。」
「チェレンコフ光みたいに『光の衝撃波(ショックウェーブ)』を実際に目で見ることになるとは思いませんでしたよ。この分だと彼ら、波動機関まで作りかねないですよ――」
「波動機関!?」
この中では一番の若手であるバグダッシュ中尉が思わず叫んでしまった。
おや、知っているのか?と技術士官が首を傾げたからいいものの、上司は顔をしかめている。
それをごまかすために中尉は興味があるふりをして技術士官に質問をぶつけた。
名前を知っているだけだからと。
「波動機関――我々が通信において実用化を目指している準タキオンのような『代替物』ではなく超光速粒子タキオンを使ったエンジンのことだよ。
知っての通り、超光速で常に運動し続けるタキオンはアインシュタイン空間(つまりは通常の宇宙空間)においては安定的に存在できない。
というのも、常に超光速で運動し続けないと粒子はたちまちエネルギーとなって消滅してしまうからなんだ。
しかしビッグバンと同じくらいの超高温高圧状態、つまりは相対性理論が適用できないほどの特異点といわれる空間ではタキオンは安定して存在できる。
真空の相転移といわれる現象を使ってスプーン一杯程度の真空空間のエネルギー順位を下げることで生じるエネルギーの大半がタキオンに変換され、そのわずかな相互作用が宇宙を膨張させる際のエネルギー源となったのは知っての通りだが、このタキオンを制御、もっといえばほとんど無限に近い運動エネルギーを『光速程度』にまで下げることができれば差引分で莫大なエネルギーが発生することになる。ここまではわかるな?」
要は、恒星の超新星爆発をとらえるニュートリノ天文学と原理は同じだ。
非常に微細で地球などをそのまま貫通してしまえる高速のニュートリノという素粒子は、ほとんど物質と相互反応を起こさない。
しかし、大量の水の中を貫通すると何十億分の1かの確率で水の原子と相互作用を起こす。
通常のニュートリノが飛ぶスピードは真空中の光速より遅いものの、水中の光速よりは早いスピードだ。
光のように水原子と相互作用を起こすことがほとんどないニュートリノは運動エネルギーを保ったまま水原子の間をすり抜け、稀に水原子のすぐそばを通る。
そして相互作用を引き起こす。
速度をほんの僅かに犠牲にするかわりに衝撃波を発生させるのだ。光の形をとって。
これがチェレンコフ光。
かつて人類を恐怖させた核分裂反応動力炉の炉心で発生していた青白い光だ。
これが、宇宙誕生時のエネルギーを保ったまま飛び続けるタキオンの場合は与えられるエネルギーはさらに巨大になるだろう。
462 :ひゅうが:2012/02/07(火) 05:31:21
なにせ、じっとしていたら消滅してしまう粒子だ。これの速度がわずかに落ちるだけで莫大なエネルギーが解放され、うまくすれば自己崩壊を起こしてエネルギーすべてを解放するだろう。
重要なのは、タキオンと通常物質の相互作用は極めて弱いのであるが、タキオン同士の相互作用は通常の物質と同様ということだ。
要するに、1個のタキオンが自己崩壊を起こせば周囲のタキオンが数個自己崩壊する。
こうして生じたエネルギーを「炉」内にそのまま溜めておけば宇宙誕生時に近い環境に近づき、真空の相転移現象の結果としてさらに多くのタキオンが生じる。
そして周囲の自己崩壊につられて自己崩壊を重ねることで大量のエネルギーが真空中から取り出されるのだ。
その効率たるや、反物質を利用した危険な対消滅リアクターや少し効率は落ちるが安定的な縮退炉(日本帝国はこれを主機関として大々的に採用しているが同盟側ですら研究段階である)の1万倍から3万倍と試算されている。
その効率をどんどん高めてタキオン反応半径を拡大させてやれれば、その辺を飛び回るタキオンを捕獲してさらに莫大なエネルギーを取り出すことも不可能ではない。
ビッグバンの膨大なエネルギーを電源にした実質的な「永久機関」が完成してしまうのである。
仮に、技術的には容易な機動鎮守府レベルの主機関と同様の大きさで作っても、その発生エネルギーはG型天体、つまり太陽のそれに匹敵するだろう。
いや、それどころか現在は理論段階にある「重力サーフィン航法」を用いた通常空間での超光速航行すら可能になるかもしれない。
「まさに人類の夢だよ。単純に考えても、1万光年を優に超える超長距離ワープをこなせるようになるし、銀河系の『外』へ出ることもできるようになるだろう。
小型化が進めば、200メートル級の宇宙船で大マゼラン・・・いやアンドロメダやその先にもいけるようになるだろう。人類のような知的生命体の能力と同様に相互作用という観測行為で波動関数を収束させる。だから『波動機関』というわけだ。」
理論はわかり難いが、何やらすごいことは理解できた。
「見たところ、日本帝国宇宙軍はこの前段階、つまり相転移機関の限定的な実用化とタキオン的な要素を持つ光子・・・準タキオンを運用できているようだ。
これは、あと200年もせずとも実用化されるかもしれないな。」
「博士――今は・・・」
「おっと、話が脱線しすぎたな。では、見続けるとしようか。日本帝国宇宙軍の能力を。」
お隣で青ざめているであろう銀河帝国の皆々様と一緒に。と技術士官はよこしまな笑みを浮かべた。
最終更新:2012年02月07日 07:28