435: 弥次郎 :2021/06/13(日) 23:46:34 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
憂鬱SRW 未来編鉄血世界SS「絶海の領域」6
- P.D.世界 地球 オセアニア連邦領 ミレニアム島 屋外会談場 控室
「なるほど、優待ですか」
「今回のアーブラウとの国交樹立や通商条約の締結は極めて大きなモデルケースとなり得ます。
そして、これを公開し、先に交渉を持つことで利益があると公表すれば、話し合いを持とうとする経済圏も増えると期待できます」
控室での打ち合わせを進めるローやクロードらは、クーデリアの発案を聞いていた。
いかに今回の交渉を活かすか。あるいは、如何にアーブラウをこの交渉に繋ぎ止めるか。それが問題だったのだ。
ならば経済圏に対して早くに飛びついた方が利があると提示するのが一番である。
「結局のところ、経済圏は決して一枚岩ではない……早く火星連合を承認することに利益があると分かれば、経済圏間の連携を乱せる可能性がありますね」
「もしもアーブラウが対火星連合の戦線から抜ければ、他の経済圏やギャラルホルンからの追求や攻撃を免れません。
ですが、そこに火星連合や地球連合からの手助けを確約すれば……」
「経済圏間の争いに優位性を持てると、そういうことですな」
「無論、ただではありません。火星側にも便宜を払ってもらい、尚且つ、地球連合との条約を改めて実行に移してもらう。
それを前提条件にし、尚且つ、自助努力をしてもらわねばなりませんが」
求めるところは実際のところかなり多い。それでも、早くに条件を飲めば他の経済圏に優位性を得られるというのは魅力であろう。
エドモントン条約の内容の再度の履行を促し、監視してでも実行してもらわねば、そもそも同じ土俵に立つことさえできない。
そも、火星連合は宣戦布告をされている立場であるが、積極的に打ち倒そうという意思は乏しい。
地球との全面戦争になれば勝てはするが、決して良い影響を及ぼさないことは請け合いであるし、良い未来図が描けない。
だからこそ、戦いを抑えつつも、交渉で決着をつけなくてはならないのだ。あくまでも戦闘や戦争は手段でなくてはならない。
「まずは、私たち火星連合と同じところに蒔苗氏が、そしてアーブラウがたどり着けるか、すべてはそこでしょう」
コンセンサスをとれなければそもそも話にならない。
その場合、地球経済圏は圏外圏の発展に取り残されてしまい、徐々に衰退していくことになるだろう。
クーデリアは壁越しに蒔苗邸の方を見やる。おそらくだが、蒔苗はエドモントン条約のことを調べ直していることだろう。
既に地球連合が経済圏を見切った理由はほぼ伝えたも同然。加えて、条約が結ばれるまでの経緯も調べていることだろう。
(蒔苗氏がこの後どのように対応してくるか……それにすべてがかかっていますね)
ボールは渡した。だから、返ってくるボールがどのようなものであれ、受け止める用意をしておかねばならない。
だから、クーデリアは首脳部との打ち合わせを続行する。
「いやでもアーブラウには火星連合に味方してもらわなければなりません。ふんじばってでも…」
思わずその出自に見合わぬスラングが飛び出すクーデリアは、アーブラウを繋ぎ止める気満々であった。
436: 弥次郎 :2021/06/13(日) 23:47:11 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
蒔苗の邸宅で行われているエドモントン条約の内容の精査および関連情報の閲覧は開幕の時点ですでに蒔苗に答えを突き付けていた。
閲覧していたのは、交渉の場において交わされた内容を要約したものではない原本の方だ。
つまり、閲覧者のことを考慮して要約や情報の精査などを経たものではない、生のままの議事録。
それは、蒔苗の疑問、すなわち、地球連合の目的が何であるかの答えを導き出す一助であり、事実であった。
それは、P.D.太陽系が連合の支配地域のど真ん中に転移してきていたということ。
それは、自分たちが如何に小さい領域やレベルで話をしていたかということ。
それは、如何に地球連合のことを知らず、周りを知らずに無為に過ごしていたかということ。
「つまり、井の中の蛙ということか……」
次々と読み解いていく資料は、それを語る。
無論、信じられないような内容であることは確かだ。
圏外圏よりさらに外側からやってきた異星人とのコンタクト。
無意識のうちに同じ程度の規模の勢力と侮り、バイアスをかけて見てしまい、その結果、肝心なことを見過ごし、正しい情報を棄却していた。
そして、その驕りや慢心のままに、エドモントン条約を締結し、安寧を選んで何もしないままでいた。
なるほど、地球連合が経済圏を信用せず、火星という圏外圏の出涸らしの惑星に目をつけて独立運動を支援するわけだ。
既存の権力体制と折衝し、妥協し合い、取り決めを交わしてもダメだったならば、代理の勢力を作りたがる、というわけである。
まして、火星を独立運動の時点から支援し続けておけば、地球連合にとって都合の良い国家になることは確かだし、聞き分けの良い勢力となる。
時間もコストもかかるが、同じ分だけの労力などを弄しても変わるかどうかも怪しい経済圏などよりはよほどマシに見えるだろう。
そして、地球連合がエドモントン条約で求めたこと。それは、自分がまさかと思った「治安の向上」にあったのだ。
地球連合は長らく外敵、それも敵対的な行動をとる侵略者との戦いに明け暮れていた。その版図を広げつつも、常にその脅威にさらされ続けていたのだ。
そして、その侵略者が攻め込んできた時、後顧の憂いとなりうる要素は排除してきたという過去がある。
その後顧の憂いに該当したのが、自分たちの暮らす太陽系ということになる。ここにもし侵略者が現れれば?
此処が侵略の拠点となり、連合は対応に追われることになる。だからこそ、迅速に接触を行い、対応を呼びかけたというわけだ。
まったく、これでは無知をさらけ出したも同然ではないか。
「はぁー、なんたることか」
相手をうまく追及してアーブラウの利益を引き出す、というのを考えていたが、まるで意味がないどころか逆効果に等しかったわけだ。
いや、事前の情報をこれまでの観点から見て判断して選んだ戦術としては決して間違っていたわけではないが、同時に合致するものでもなかったか。
(ともあれ……ことはアーブラウだけのことでは収まらん。じゃが、それでもアーブラウが先頭に立つ必要もあるということ)
このまま何もしないままでは、単に火星連合を承認しただけでは、いつ訪れるかもわからない外敵につぶされることになる。
ならば、最大限を火星連合や地球連合から引き出すか、それが重要となるだろう。高々惑星二つの間の関係どころではない、もっとスケールの大きな話なのだから。
正直なところ、蒔苗でさえもイメージが付きにくいこともまた確かな話である。だが、これは自分が代表に戻るにあたってはアーブラウ全体で共有しなくてはならない。
「まったく、ままならぬ話じゃの」
とまれ、やることはわかったのだから、あとはいかに対応するかだ。
休憩時間は決して長いとは言えない。短い時間を活かして最大を。蒔苗は思考を巡らせ続けた。
438: 弥次郎 :2021/06/13(日) 23:49:36 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
その後、再開された交渉は順調に進んだ。
火星連合はアーブラウに対して、他の経済圏に先駆けて国交などを結ぶことで得られる優待や優遇のメリットを説いた。
蒔苗は前言を大きく撤回し、火星連合の承認を今度は前向きにとらえ、これを認める方向で話を進めた。
双方の思惑が、一致した瞬間であった。
アーブラウは火星連合を承認。また、国交を結び、通商条約や今後の交易についての体制の見直しを行うことを確認。
また、火星に存在していたアーブラウの管轄下にあった火星の都市の施政権その他は火星連合が引き継ぐことが承認されることとなった。
それに合わせ、火星連合側も独立によって生じたアーブラウの損害の補填という形で、地球連合や企業連からの物品や技術の販売や供与を確約。
そこには、ギャラルホルンが独占していた工業力---殊更、エイハブリアクターやMSの開発・製造技術も含まれていた。
アーブラウという国家の国力の増強、さらに外敵に備えた防衛力の構築、技術蓄積。やるべきことは山のように存在してた。
そこに火星連合を経由する形で企業連合や地球連合は参加し、これに協力することも確約された。
惑星の一地方にすぎない勢力に、銀河規模の国家群が協力するのだから、過剰とさえいえる支援体制であった。
まあ、そうでもしなければ迅速な改革や状況の改善につながらないというのもまた事実であった。
無論、これらはすべて蒔苗が代表に返り咲いた際に行われることであるが、それでも大きな一歩であった。
少なくとも、条約だけを適当に結び、何もせずに安穏と惰眠をむさぼった状態であった時よりは遥かに良かった。
その日の会談においてはここでタイムアップとなった。流石に数時間どころか半日以上を費やした会談は双方にとっての大きな負担であった。
そして、翌日からはさらに話し合いを重ねることになった。
具体的なスケジュール、すなわち、火星連合が地球連合に求められている事項の確認や背景の説明。
それらをアーブラウ内に、そして他の経済圏に対して説明し、働きかけ、実際に政治を動かしていくタイムラインの構築を行ったのだ。
これまでに地球連合が相対した幾多の外敵や勢力との戦いの歴史、そして、星間国家となって接触した幾多の異種族。
彼らとの今後の交流に備えた事前知識を蒔苗とその秘書に叩きこむということまで行われたのだ。
歴戦の政治屋たる蒔苗さえもグロッキーになりかけたが、そうでもしなければならぬことであった。
数十や数百という幾多の異星人たちが地球連合には参画しているのだ。このP.D.太陽系の周囲だけでもそれなりの数の異星人たちがいる。
もしもこのP.D.太陽系を脱した時、彼らとの交流を持たなければならないのはほぼほぼ確定であったのだ。
さらに、蒔苗の仲介の元、亡命先であったオセアニア連邦ともコンタクトをとり、蒔苗との交渉とほぼ同様のことをこなした。
オセアニア連邦にとってはまさに驚天動地の事態であり、情報であり、事実であったことだろう。
彼らにとってみれば過去の条約のことがまさか今になって芽吹いて、大きな問題となるまで成長していたことは衝撃だった。
本格的な交渉ではなく、今後行われる交流や交渉の前段階と但し書きが付いたとはいえ、まさに眠っていたところをたたき起こされたのだ。
とまれ、オセアニア連邦との交渉を含み、数か月の滞在を経て、セントエルモス一行はミレニアム島を抜錨。
目指すはアーブラウの首都であるエドモントン。エドモントン条約の結ばれた地であり、今回の地球行きのゴール。
多くを成すための最後の進路をとり、聖人の火は北米大陸めがけ飛び立った。
439: 弥次郎 :2021/06/13(日) 23:50:25 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
なんか、無理やり終わらせた感マックス……
まあ、下手するとさらに3話くらいかかりそうだったので一気にカットしました。
その資格試験てえやつに負けた時はどうするんだ
笑ってごまかすさぁ
最終更新:2023年11月23日 14:13