723: 名無しさん :2021/06/14(月) 02:05:17 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp
思いついちゃったので、投下します。
ttps://w.atwiki.jp/teitoku_bbs/pages/6907.html
ttps://w.atwiki.jp/teitoku_bbs/pages/6908.html
前に投下した、この手の作品群の一つになります。
途中、規模的にファンタジーと言える要素が入るけど、下駄履かせた米ソだからヨシ!
ちなみに、まーた1万字越え、しかも前後編の前編です。次こそは短くすぱっといくぞ……
724: 名無しさん :2021/06/14(月) 02:05:48 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp
―― 西暦1945年7月、皇紀2605年、ユーラシア夏季枢軸大攻勢 ――
・作戦目標:大連合、ソ連主力軍の廃滅並びにモスクワの占領。
・目標達成の手段:枢軸陣営三大盟主国、全軍協力のもと、ソ連領への全戦域での攻勢作戦の実施。
・帝国陸軍参謀本部算出、帝国陸軍参戦兵力:総兵力21個師団
〃 枢軸陣営参加総兵力:161個師団
各戦線の概算
ドイツ、ルーマニア担当、東欧戦線72個師団
イタリア、ルーマニア、並びに諸国連合、バルカン戦線51個師団
イタリア、ヴィシーフランス担当、シリア北方戦線17個師団
日本、ペルシャ戦線、11個師団
日本、満州バイカル湖以東戦線7個
日本、満州、沿海州占領軍3個増派
・作戦名 『赤い夏』
・作戦目標:『赤い夏』作戦への支援を目的とする、対米英攻勢。
・目標達成の手段:帝国海軍によるハワイ限定侵攻作戦及び、大西洋におけるイ400型潜水艦を動員したワシントンDCへのV1爆撃。
そして『アフリカ西部(マグリブ)』地域へのイタリア軍全面侵攻。並びに英国上陸作戦。
・帝国海軍軍令部算出、機動部隊を5艦隊編成。
空母、雲龍、天城、葛城、笠置、阿蘇、生駒、鞍馬、妙義、蓮華(G18-01)、親不知(G18-02)、烏帽子(G18-05)
以上の11空母をもって編成を行う。
・枢軸陣営参加戦力:戦艦16隻、空母12隻。駆逐艦数に関しては現在も調整中であるが、約200隻近く参加する物とみられている。
なお、本作戦に参加する戦艦のうち4隻はイタリア海軍のヴィットリオ・ヴェネト級であり、外務省よりなるべく無傷でイタリア本国にお帰り
いただけるようにお願いしたいという要望があった。くそ食らえである。以上。
725: 名無しさん :2021/06/14(月) 02:06:55 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp
各戦域の概要
ハワイ方面。敵太平洋艦隊は再建が進み、ハワイには空母及び戦艦が6隻配置されていると言う情報が入っている。
南太平洋。敵の通商破壊部隊により、我が軍の海上護衛部隊に水雷戦隊の多くが従事しており、艦隊編成における
ボトルネックとなっている。よって、早急に事態打開の為、敵潜水艦隊の駆逐を必要とする。
・作戦名 『N号作戦』
大日本帝国戦時大本営最高統帥府は帝国将兵の勇猛果敢なる勝利を得た時に全将兵に振る舞う勝利の美酒を準備する事をここに約束する。
同年。
・作戦目的:枢軸軍に大きな動きアリ。通信料並びに物資の集積状態などから多方面での大規模な夏期攻勢に出る物とみられる。
本作戦はそれらを文字通り迎え撃ち、逆に敵軍に痛撃を与える事を目的とした攻勢防御作戦であり、主戦線は東部戦線とし、ポーランド領全域の
奪還、もしくは敵軍100個師団前後の壊走を目的とした物である。
・目標達成手段:使用機材として――――(省略)
作戦名は『光あれ』。
『大連合(グレート・ユニオン)』連立司令部は光の子たる我らが闇の子に勝利する事を疑っていない。諸君らは必ずやり遂げる事を我らは知っている。
皆に神のご加護を。
726: 名無しさん :2021/06/14(月) 02:07:39 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp
―― 1951年2月、継続大戦。仁川沖にて ――
継続大戦が始まって半年が過ぎ、あと4ヶ月で1年になるこの時期に、史実と呼ばれた世界線であればクロマイト作戦、スレッジハンマー作戦と呼ばれた
例の作戦が実行に移された。
「…………」
どす黒い雨が降りしきる中、日米の兵士たちが荒れ狂う海の上で動き出す。
ボートの上で兵士たちはガスマスクに身を包み、砲火の轟音の中、マスクのせいでさらに良く聞こえぬ状況下で動き出す。
「……・……」 「Hey! Mr.ナガタ」
連絡将校であるはずのそれも将官級であるはずの永田鉄山にこの扱い。
思わず口から出そうになったため息を飲み込み相手に反応する
「何でしょう? ウィロビー大佐」
チャールズ・ウィロビー。マッカーサーの情報参謀にして『側近』。マッカーサー宮廷における筆頭家臣。
アメリカ海軍のモンタナ級戦艦ニューハンプシャーのCICに二人は居た。
「みたまえ、我が国のボーイズたちよりも遙かに多くのライミーたちが奮起して居るぞ。この黒い雨の中を!」
「…………」
狂っている。永田はそう思うが決して表情には出さない。
夢幻会、ひいては日本政府の必死な政治干渉によってやっとの思いで
日本兵の出陣を減らしたが、それでも喜び勇んで『黒い雨』が降りしきる中、飛び出していく日本兵たちがいる。
その多くに少年少女の兵隊の姿を見て、吐き気がわき上がる。
「君らがどうやって、放射線の人体への悪影響の情報を得ていたかは私は知らない。ところで……」
ウィロビーはそこで一度口を止めて永田鉄山の全身を見る。帝国陸軍の国防色の軍服には至る所に『占領下日本』を示す
英単語のネームプレートが張り付けられている。徽章はすべて剥がされ、残るのは占領下日本の英単語だけ。
「まだ、何か貴国には切り札があったりしないかね? 未完でも何でも構わないから……いい加減教えてくれないか?」
服部卓四郎という史実の陸軍参謀がいる。
その参謀は有能だが、それ以上に野心が強すぎて周囲を巻き込んで自爆するタイプであった。奇しくもそれがまた起きた。
それも戦後に。
「……何のことですかな?」 「北極星と言うそうじゃないか」
戦後すぐ、服部は敗戦の衝撃で脳死状態で行われた機密書類、行政書類の焼却作業が実は間違っていると気がついた。
そして、彼はあくまでも彼個人の出来る範囲とはいえ、多くの陸軍関係の重要書類を確保、保護するのに成功したのだ。
……そして、それらの書類は2つの事に使われた。一つは将来の再軍備を目指した研究資料として。
727: 名無しさん :2021/06/14(月) 02:08:36 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp
「さすがに状況が悪くてね。フィンランド大使がこっそり教えてくれたよ。確か、君たちは北極星作戦なる物を行ったそうじゃないか」
史実でもあった、北極星作戦はこの世界線、さらに拡大して行われた。ウィロビーはそれに気がついて、要求しているのだ。
「……将官にはさっぱり分かりませんな。仮に……もし仮に将官に何かしらの心当たりがあったとしても、将官一人の一存で
応える事は軍人の本分では無いでしょう」
「……」
ウィロビーの目が登場の表情を舐めるように見つめる。見る。観る。看る。視る。覧る。
「確かにそれはそうだ。では……仮に、もし仮に心当たりがありましたら、心のつかえを減らすためにも
あなた方日本人が得意とする『NEMAWASHI』とやらをお願い出来ませんか? そちらから」
遠回しな要求。
アメリカが要求したのでは無い。日本側がある日突然機密の一つを善意から見返り無く開示したと言う形式の要求。
「…………」 「どうです?」
服部卓四郎の重要書類の使用法その2。それはそれらの資料を使っての
アメリカ側将校との個人的取引。
特にウィロビーは服部最大の取引相手であり、何時しかこの有能だが野心が強すぎて周囲を巻き込んで自爆するコンビは
ほんのひとときとはいえ、固い絆を結ぶことになる。それが、史実。……そして、それと同じ事を
夢幻会は実行した。
「……考えて起きましょう」
史実服部の企んだ自分を元帥とする新たな軍を作ると言う野望は失敗に終わったが、服部が確保し守った数多くの資料は
その後、きちんとあるべき所に収まった。……では、この世界線では?
枢軸陣営で唯一核実験まで行った国。大日本帝国。史実より国力が倍増し戦線を拡大させたこの国の機密資料は下手な爆弾より凶悪だ。
「「………………」」
ウィロビーと永田が見守る中、上陸作戦部隊は次々と黒い雨が降りしきる中、朝鮮半島の大地へと。
728: 名無しさん :2021/06/14(月) 02:09:35 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp
―― 同年同月同時刻、占領下大日本帝国、旧松代大本営にて ――
「『北極星作戦』?」 「ええ、嶋田さん。ご存じですか?」
辻の言葉に首をかしげる。何かのアニメや漫画のタイトルか? パロディか?
「私もこの辺は平成の世に戦史家だったという人から聞いて知ったのですがね、何でも史実日本はフィンランドと協力して行った共同作戦が
あったそうです。それが北極星作戦。まぁ、共同作戦と言っても資金提供を行った程度らしいのですが」
「……どういう目的の作戦で?」
旧松代大本営、その地下壕の一つ、未完成で放置されもはや書類にも残ってないその場所に
夢幻会の面々がこっそりと会合を開いていた。
「フィンランドはドイツと協力して対ソ諜報活動やら何やらをやっていた訳ですが……戦局の悪化とソ連軍の進軍を受け、それらの情報や
非合法な活動の証拠の類を隠さないと行けなくなったそうです。そのために大がかりでかつ、秘密裏に遂行される移送作戦を立ち上げたとか」
「大がかりで、でも誰にも知られずに、多くの何かを運んで隠す……難しいですね」
無茶苦茶な条件。しかしやれと言われればやるしか無い。
「ええ、その通り、難しい。なので日本が資金提供を行ったと言う話です。フィンランドと史実日本の友好の歴史の影に潜む軍事交流史だそうで
フィンランド側の記録にははっきりと記載されているとか。尤も作戦の細かい内容までは平成の時代でも分からない事が多かったようですが」
それが、この世界線でも行われた。枢軸と呼ばれた陣営に属する国々が軒並み国力が史実に比べて拡大していたこの世界線でも。
南米さえも戦力を派兵していた(無理をしていたが)この世界の大日本帝国が史実で出来た事を、やらない理由が見つからない。
「史実以上に大規模に色々と無理をしてやったようでアンカレッジ経由、いわゆる極圏航路を突っ走って機材と人を派遣したそうです。
尤も人と行っても数人、機材もたった1機ですが……」
「それでも北極圏を飛ぶなんて平成でも特別な訓練が必要じゃ無いですか。なんともぶっとんだ……事を」
「この世界線のアメリカ様に比べたら負けますよ。改めてあれを思い出せば思い出すほどべいてー様のすさまじさに背筋が凍ります」
『赤い夏』作戦、『N号』作戦、そして対抗作戦『光あれ』。
あれで心をおられた枢軸陣営軍人は数多い。空前絶後のスケールでソ連へと踏み込んで、これまた空前絶後のスケールですべてひっくり返されたのだ。
とはいえ、冷静になって振り返れば、あれはインパクトがやたら強いだけで、あのまま力推しを続けていれば勝てたかもしれない。そういう物でもあった。
「……やっぱり思ってしまいますよ。何故戦後のタイミングで前世に目覚めるんでしょうね。せめてあの頃であればここまで破滅すること無かったのに」
「赤い夏、N号、共に膨大な戦費がつぎ込まれましたからね。
あの時点で目覚めていればかなり厳しい状態ではありましたが色々犠牲にすれば講和する事も出来たかもしれない」
犠牲。それを払う事が出来なかった事が史実よりバブリーだったのに史実以上の破滅へとたどり着いたこの大日本帝国の最大の失点だ。
いや、日本に限らずすべての国々が。
アメリカもソ連も。犠牲を一度許容してしまえばこんなばかげた『継続大戦』も起きなかった。
『『我々はこの世で尤も血を流した』』。まるで大カトーが如く、米ソの政治家や将官たちが演説する際必ず枕詞に使う言葉だ。
729: 名無しさん :2021/06/14(月) 02:10:52 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp
「……次の核攻撃は?」 「ソ連占領下ワルシャワへ。との事ですが、実際には失敗するだろうとの判断から中止になりそうです」
「……
アメリカさんもすごいですよね。仮にそのワルシャワが成功した場合、8発目ですよ」
ベーカー62に基づき投下された6発の核爆弾。追加で投下された7発目。そして今回の8発目。
「正直
アメリカも限界のようで。8発目あわせて残り2発しか製造していないという話も聞きます」
「それだけで大丈夫? それともそんなに作って大丈夫なんですか? どっちなんですかね」 「どっちもでは?」
史実では3発用意するだけで青息吐息。こちらの世界線では、WW2では日本に奪われた1発を含めて6発用意し、継続大戦で7発。
既に13発の核兵器を用意し、使用している。
アメリカの財政は実のところ既に破綻している事はそれなりに情報を収集し分析する政策担当者たちには公然の機密だ。
「カネも無いのにほんと、米ソの頂上決戦の規模には驚きますよ」 「だから、今、決着を付けねば滅びると思ってるのだろ。米ソは」
「近衛さんもそこまでで、話を戻しましょうよ。例の北極星作戦とやらがどうしたんですか、辻さん」
「……北極星作戦はあくまでも情報隠蔽作戦です。では隠蔽された情報とは何でしょう? 実はヒント一つ資料を漁っても全く出てこない。
人も航空機も提供していて、それが一切分からないのですよ。おかしいとは思いませんか?」
730: 名無しさん :2021/06/14(月) 02:11:35 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp
―― 同年同日。大英帝国:帝都ロンドン、ナンバーテン ――
「やれやれ、
アメリカにも困った物だ」 「……首相、正直な所もう我々は戦えません」
「ウソでも正直でもどこの国ももう戦えんよ。11年だ。あの大戦で11年も世界中で殺し合いに興じたんだ。どこもかしこももう一滴もだせんよ。米ソもそうだ」
「では何故、まだ戦いを続けるのですか!? 継続大戦が始まってもうじき1年! またしても11年続くのですか!?」
カレルギー・クーデンホーフ。史実では近代ヨーロッパ統合思想の父として、EU結成の源流に立つ男。
その彼が半分乱心状態で金切り声を上げる。その声から逃げるように窓の向こうに目を向ける首相チャーチル。
大英帝国の黄昏……。そう表現するべきか。大戦が終わって明るかったハズのロンドンの風景は相も変わらず灰色と黒煙にまみれている。
「我が国もそうだが、みな血を流しすぎたのだ。人口ピラミッドが歪んでおる。おそらく10年もあれば間違いなく全世界が超が突く少子高齢化社会を迎えるだろう。
傷病兵も山ほど抱えて、ある世代がぽっかりと存在しないそんな社会が。
おまけに財政は既に破綻している。アメリカ人たちはこの戦いはファシズムとの戦いと言っていたが、現状はそのファシズム諸国よりも遙かに凶悪な
社会、経済統制の元でようやく生きながらえている」
チャーチルは自虐したように「我が国もな……」と言いながら新たな葉巻に火を付ける。すっかり葉巻の値段が上がり、一国の首相でさえその凶悪な値段を
前に敗北を期すことが多くなった。
「……やはり、ヨーロッパを一つにまとめなければ……」
……むしろ、今戦時統制から始まった社会と経済への統制をやめればたちどころに国家財政はもちろんの事民間企業さえも立ちゆかなくなるだろう。
誰もが国家の計画に依存している。依存することで何とか今日を生きている。
クーデンホーフに取って、このような状態は異常であると同時に彼の理想へのチャンスである。
「ふむ……君のアイデアには夢があるね。良いと思うよ」
チャーチル、史実クーデンホーフの最大級のスポンサーであり、裏切り者にして最大の敵。チャーチルにとって、ヨーロッパ統合というアイデアは
あくまでも大英帝国の存続の為のプロジェクトであって、クーデンホーフ・プランの内容その物はどうでも良かった。
最大のスポンサーでありながら、クーデンホーフの最後にして最恐最悪の敵となったのはまさにその部分でついに折り合いが付かなかったと言う点だ。
(ヨーロッパを一つの国家連合体とし、大英帝国がその連合体の外にあって指導役となる……。どのみち主権国家の集まりが
一致団結するなどあり得ない。必然的にヨーロッパに最も近い大国、大英帝国が連合体内部政治におけるキーカードとなる……)
それはある意味で、内政干渉を当然とする発想。それはある意味で旧来のバランス・オブパワーへの回帰を必然とする発想。
ヨーロッパを一つにまとめたところで心まで一つになる事は未来永劫無い。むしろ連合内部の政治闘争は激しくなり
連合の外から、大英帝国が指導力を発揮する。
それが、史実でチャーチルが考えた大英帝国を生き残らせるための方策。世界四分割。
731: 名無しさん :2021/06/14(月) 02:12:25 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp
(米ソ、ヨーロッパ、そして大英帝国……世界をこの4つで実質的に分割してしまう。帝国が帝国として存続していく方法はコレだ……。
そのためにも、ヨーロッパには一つの大国として機能してもらわねばならない。そして、ヨーロッパに尤も近くてヨーロッパの
外に位置する大英帝国という政治的経済的立ち位置の確率が尤も重要だ――――)
「――――というわけで、フランス政財界の反応は快い物でした。マールバラ卿、是非ともさらなる支援をお願いします」
クーデンホーフの長々とした演説のような報告が終わり、チャーチルはそれにいくらかのねぎらいの言葉をかけると共に新たな支援を
約束する。尤も、現状から十分とは言えないかもしれないという但し書きを付けた上で。
「だが、急ぎたまえ、統合が成功するにせよ失敗するにせよ、米ソの決戦場がドイツである間にまとめなければ西欧は壊滅する」
「分かっています。マールバラ卿。……ソ連は死にすぎました。資源を浪費しすぎました。ドイツはもちろんの事。ヨーロッパを征服しなければ
その巨体を維持できないほどに。そして、
アメリカもまた同様に。……困った事に戦時統制の名の下に軍を維持できる今しかもう彼らも
我らも……戦えません」
それが、継続大戦の本質。少なくともヨーロッパ人にはそう見えていた。
アメリカ合衆国は長らく続く戦時統制によって、自由という言葉にこだわりのある国民性にもかかわらず、すっかり密告社会に変貌している。
おまけに血を流しすぎた国民は政府に対して勝利の分け前を要求する。今、戦時統制を解除し、軍縮を始めた瞬間、軍隊崩れがこうした不満と……
「どこの国も生き残るのに必死だ。戦争で儲かる個人はいても集団や国は存在しない。それは前回で皆大いに学習したはずだった。
パリ不戦条約はまさにそのための条約だった。国家理性とやらが始める戦争は違法と見なされた」
国家理性。国家には己の考える国益と自衛のために自由に戦争を始める事が許される。かつて戦争はそう考えられていた。
しかし、パリ不戦条約以降は違う。いかなる理由があろうが、戦争を始める事はいけないことだ。すべての国が『開戦の権利』を喪失した。
少なくともパリ不戦条約参加国はそれを失った。どんなことがあろうが自らの意思で戦端を開くことだけは許されない。
史実でもこの世界戦でもパリ不戦条約以降の国際法では、どんな理由があろうと戦争は許されない。
にもかかわらず世界中の国が軍隊を持ち、自衛戦力を持たない方が国際法違反と見なされる。
国際法には違反を取り締まる警察がいない。自衛の努力しない奴が違法行為をする奴らに食い物にされるのは自業自得。むしろ迷惑。
「ドイツが、イタリアが、日本が、自存自衛と叫ぼうが、彼らは戦争を始めた。
だから罪深いのだ。どんな大義名分があろうとそれが事実であろうと彼らは罰を受けねばならない。あの大戦はそういう大戦だった」
「だが、一貫してそういう戦争だったのは我々協商ぐらいだ。大連合はいつしか世界を自分たちに染め上げるための戦争になった。
その結果、すべてが破綻した。彼らはもう意地でも染め上げねばならない。世界を。そして唯一にならねばならない。
枢軸陣営……その参加国の財産をすべて1カ国で独占しなければ大戦で受けたダメージをもはや修復できない」
枢軸陣営参加国、特に三大盟主国と言われた日独伊は小さな植民地だけで世界の半分を敵に回しても戦い抜けるだけのパワーがあった。
それは技術であったり、工場設備であったり、純粋な兵力数であったり。そしてそれを支えるだけの人的資源や食料や社会システムが。
それらをすべて、すべて、すべて、とれるだけ全部取ってしまえば。たとえ戦争でぼろぼろであっても枢軸国民の命を考慮しなければ。
732: 名無しさん :2021/06/14(月) 02:13:00 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp
「米ソは世界に唯一の超大国として君臨し、世界を完全に自分のモノとして染め上げる事が出来る。
財政破綻も人口ピラミッドのゆがみもすべてがどうとでも出来る」
だから始まったのだ。継続大戦が。そしてその瞬間国際法の論理は消え去った。いや、まだかろうじて残っている。
開戦という選択肢を選んだのは社会主義者たちであり、
アメリカはそれに立ち向かう側ではあるからだ。
……警察がないからこそ、開戦という罪を犯した国家への制裁が必要だ。制裁手段として世界中の国が軍隊を持つ。
「むしろ今でなければ戦えない。その思いが米ソを動かしているのはわかります。実際動員をすべて解除した後で
戦争となれば文字通り政府も政権も国家も全部吹き飛ぶでしょう」
「……政治家として理屈も決断はわかるが。まぁ、私もフランスの将軍も全く同じ気持ちだ。『結局選んだか』とね」
クーデンホーフがヨーロッパの地図を見ながら口走る言葉に、首相として応えるチャーチル。
大連合領域と称された色塗りが残っている。かつて米ソの新婚旅行と呼ばれたエリアが赤色に塗られている。
世界の3分の1を塗り粒さんという勢いで広がっていく赤色。それにおびえるように存在する青色と黄土色。
「大連合は事実上崩壊。枢軸は滅び、残るは我々大英帝国とフランスとその植民地諸国で形作り『協商』か……」
果たして、継続大戦が終わった後、現れる超大国様の次の得物はどこだろう? そしてそのとき世界に
血を流す体力はどこまで残っている?
「……ああ、そうだ。クーデンホーフくん。君に一ついい噂話をしてあげよう」 「噂話ですか?」
「植民地人たちは北極星を探しているそうだよ。スカンジナビア半島にあると言われる特別な北極星だ」
「……特別な北極星?」 「なんでも日本人が関わってるそうでね。君の母上のコネが通じるかどうか、試して見ては?」
「…………私はヨーロッパ人です」
知ってるよ。君の故郷はヨーロッパだ。その言葉たちを飲み込むチャーチル。
クーデンホーフに祖国はない。祖国を理解出来ない悲しい愚か者だ。それがチャーチルが下したクーデンホーフの理想への判決だった。
一部の日本人は彼の母親が日本人である事を誇りに感じる。だが、彼は感じない。WW1で滅びたオーストリア貴族と日本人女性の
混血は自らへのコンプレックスへと結びつき、いつしか『ヨーロッパ人』という人種アイデンティティの狂信者となった。
別に東洋人を蔑視してるわけでは無い。ただ、ヨーロッパ人である自分以外に愛せない。そういう小さな男が史実では
ヨーロッパ統合への道筋を作り上げた。そして、そんなモノを屁としか思わないチャーチルの陰謀劇の果てに失意の終わりを迎える。
……この先の彼はどうなるのだろう? 史実を知らないはずのチャーチルだが、それでもこの哀れな男はどこまでもかわいそうな道化だった。
733: 名無しさん :2021/06/14(月) 02:14:04 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp
―― 同年同日:モンタナ級戦艦『ニューハンプシャー』の一室にて ――
偉大なる大戦艦、モンタナ級の調度品はかつて大連合という名で世界に自由と平和の千年世界共和国を作ると言う神の使命を
果たさんと言う意気込みにあふれたモノばかりだ。
聖書をモチーフにした宗教画から万国の労働者が団結し、偉大な世界を建設すると言う標語から様々な方向性のそれ。
光の子、闇の子というフレーズを無邪気に信じ込んでいた米ソの結婚がもたらしたそれ。
「…………光、あれ……」
ウィロビーはそれらのウチの一つの前に立ち目をつむる。天地創造の場面を描いたとされるその絵の前で。
思い出すのはあの日。あの狭い輸送機の中。ソ連へ枢軸が行った全方位大攻勢。大連合が恐れていた大攻勢。
それを覆すマッカーサー元帥閣下の偉大なる奇策。ウィロビーが、心の底からマックに心酔する最後の瞬間。
この瞬間に立ち会うために、これまでの人生はあったのだと確信したあの日。
荒涼とした大地の天空は、恐ろしいまでに荒れ狂う。揺れる機内の中、それでも悠然とトレードマークのコーンパイプを吸う
一人の男の背中。あの背中を見た瞬間から……。
(元帥閣下は敗北を恐れない。だが、同じ失敗を繰り返すことは恐れる。私が原因で元帥閣下の偉大な作戦が失敗することだけはあってはならない)
パットンはまだ面白い男だ。だが、アイゼンハワーは面白くないクソ男だ。なのにアイゼンハワー如きがマッカーサー元帥と同じ英雄扱いされる。
アイゼンハワーはいい意味でも悪い意味でも
アメリカ的だ。力押し出来るまで耐えて、あとは力押しで押し込めば勝てるというアメリカ人ビジネスマンの
論理でしか作戦を執行できないし提案もできない。
(だが、元帥閣下は違う。そして、その元帥閣下の奇策に大統領は希望と勝利への道筋を見出された)
それが『光あれ作戦』である。あれは以前から予想されていたワーストシナリオに対抗する戦略を模索していた大連合連立司令部に提示されたとき
あまりにも突拍子もない作戦に米ソの将軍たち、そして政治家たち全員が一度は難色を示したのだ。
だが、最終的に大統領が承認し、ついに始まったワーストシナリオにパニックになったソ連首脳の藁をもつかむ気持ちの中、ついに実行に移された。
それは純軍事的な作戦効果よりも、心理的打撃が著しく強いモノ。そして、枢軸諸国の軍は見事にパニックに陥った。
「今回も元帥閣下の大作戦は成功するのだ。一度や2度の敗北はこの先あるかもしれない。けれど、それでも元帥閣下の作戦その物は必ず
成功するのだ。いや、私が成功させるのだ」
寒空の下で、揺れる機内の中で、コーンパイプの男とともにソビエトの大空をとんだあの時から、ウィロビーはマッカーサー大王陛下の忠臣と
心の中で名乗る男となった――――。
734: 名無しさん :2021/06/14(月) 02:14:35 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp
―――― 1945年7月。『赤い夏作戦』大日本帝国陸軍担当第2戦区、ザバイカル ――――
バイカル湖は世界有数の古代湖だ。遙かなる太古の昔にできあがって100万年という悠久の歴史を刻んできた。
ロシアの大地はこのバイカル湖に支えられている。少なくともかつて、ロシア帝国と呼ばれていた国はバイカル湖に流れ込んだり
そこから流れる無数の河川を利用した河川交易によって支えられていた。あの広大なシベリアをロシアが制覇した理由がそれだからだ。
「あと少しで極東ロシアを屈服させる事が出来ますな!」
「然り。沿海州とロシア本土がこのザバイカル戦区の存在が分断している。そろそろ干上がる」
帝国陸軍ザバイカル戦区、大日本帝国陸軍第28歩兵師団の師団司令部。
満州での永続的な死闘を覚悟していた帝国陸軍だったが、さすがに東欧、ペルシャ、その他諸々での死闘でソ連軍も沿海州の主要都市の
死守で限界だったらしい。作戦が始まるとあっという間に崩れ、ついにはここまで到達した。
この戦争も終わりだ。大英帝国を戦争より脱落させるとともにその仲介の元で、
アメリカと講話を目指すという当初の戦争計画が
大英帝国の確固たる戦争遂行への覚悟を見せられた事で破綻したが、ソ連の屈服と言う形で終わりそうだ。
「先輩、あと少しで戦争も終わりですかね? 俺、ここに来るまで歩くしかやったこと無いんですけど」
「先輩って呼ぶな、階級で呼べ」 「すんません。でも先輩じゃ無いですか」
「たくっ」
同郷のよしみ。兵士たちが笑い合う。こんなド田舎まで来てやってることは、二十日大根の栽培というなの農作業。
バイカル湖の湖畔近くまでやってきた帝国陸軍は、さすがに補給面でこれ以上は無理という常識的な判断となった。
今は必死で補給用の単線軽便鉄道を満州からここまで引こうと頑張っているのと、最低限の自分たちの食べ物用で
簡単な農作業に精を出す日々。
ごくたまに銃声が響くことはあるがもはや、帝国陸軍に馬鹿正直真っ正面から戦闘を仕掛けるような相手はいない。
輜重輸卒と言う軍に雇われた業者による輸送部隊がそんな彼らのわきを通り過ぎる。
史実で「自分たちは戦場に行った英雄だと」偉そうに語った事で逆に笑われた連中。
「輜重輸卒が兵隊ならば、チョウチョ、トンボも鳥のうち~ってたまに歌いますけどあれって何です? 先輩」
「ばっ、k」
よりにもよって、その輜重輸卒が隣にいるときに言い出す馬鹿を先輩と呼ばれた曹長が頭をはたく。
史実で、偉そうに自分たちは戦場で勇敢に~と言った彼らを実際に戦場で戦った兵士たちが
『おまえら、軍に雇われた輸送業者であって戦場で一切戦って無いじゃん。ばっかじゃねーの』と笑ったのが
例の歌の始まりだ。巡り巡ってそれは史実旧日本軍が兵站を軽視した象徴として扱われるようになっていくが、元をたどれば
本当に歌の通りなのだ。輜重輸卒は軍に雇われた民間業者であって、軍人では決して無かった。
そんな人々が兵士として露助相手にばったばったの大活躍! なんて自慢してたら本当のことを知ってる奴に馬鹿にされるに決まってる。
735: 名無しさん :2021/06/14(月) 02:16:03 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp
「いえいえ、むしろ本当に言うんだ! って感動しています!」 「えぇ…………」
「先輩、はたく必要無いでしょ。体罰反対!」
とはいえ、逆説的に言えば、軍の補給、兵站線の重要事項を民間業者に委託しなければならないと言う大日本帝国陸海軍の組織的国力的
重要問題点を指摘できるとも言える。
史実湾岸戦争の時代ともなれば米軍も民間業者を数多く使用するが、大なり小なりそれらの民間業者は独自に武装し
元米軍将校などの指導の下で戦闘も行える特殊な業者であった。
国家総力戦の時代に非武装でろくに戦えない民間人を第一線のすぐ後ろで働いてもらわねば戦線を支えきれない。そういう意味となる。
このことに気がつけた人間たちはいったいどの程度いただろうか? 史実ノモンハン事変で帝国陸軍はソ連軍による大規模な攻勢は不可能と
考えていた。なぜならば補給できない。鉄道線が無いからだ。ソ連はトラックで突破した。
「それにしても、なんですか? それ」
輜重輸卒が運んでいたT字の鉄材。
「ああ、野猿用っすよ」 「野猿……? って索道の事か」
「ええ。自転車のやり方で綱を引いてゴンドラを動かすんですよ。焼き玉エンジンがありゃもっと楽なんで」
「日露の時にそれがあれば……! っていつも上がうるさい奴か……」
線路を引くより、適当なロープモノレールもどきでゴンドラを引かせた方が素早く大量輸送がしやすい。応急措置としては
きわめてコスパよく機能すると、最初に気がついたのは誰だろうか。
この世界線において、それは島津楢蔵である。史実日本最初のオートバイ、NS号を作った男だ。
彼は自分の自慢のオートバイを大量の犠牲と引き替えに史実よりかろうじて成功させた富国強兵なこの世界線日本ならば
間違いなく、売れると考えて敗北した。
いくら多少バブリーになっても、そもそも労働者がいない国だ。列島の陸上交通インフラはまだまだ未成熟だ。
「兵隊さんも頑張ってくださいよ。これが終わったら俺たち日本に帰れるんス、兵隊さんがかわいそうですよ」
「はははっ、つっても見ての通り農民のまねごとしかしてないけどな」
労働者がいない……と言うのに引っかかる人は考えて欲しい。読み書き計算が出来て、時間を守り、
書類に忠実に振る舞い、マニュアル道理の商材を提供する。それが当たり前に出来る農民や職人が
いるだろうか? 確かに日本は江戸時代から識字率が高かった。けれど、幕末期に来た外国人は口をそろえて
時間を守らないと証言している。時間の概念はあってもスケジュール道理に物事が動くのは時計が一般に普及して
それを見ながら行動しなければ仕事にならない時代の話だ。そういったことが当たり前に出来る労働者というモノ
特に工場労働者は世界史の千年単位で見ると間違いなく、インテリのあたり人材だ。
……逆説的に言えばそんな労働者を使いつぶせる社会がどれだけ恐ろしい社会なのかもわかるがそれは置いておく。
736: 名無しさん :2021/06/14(月) 02:16:39 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp
「ドイツじゃあ、とんでもない数の爆撃機が飛んできて、大変だって大騒ぎっすよ。日本からも飛行機を回すって話に
なってて、大騒ぎっす。だから今のうちに民間人は下がるように言われてます」
大正期になって学校教育によって、日本には労働者がようやく社会に供給されるようになっていく。だが、明治日本には
農民、職人はいてもまだ労働者がいない。この辺は近代化が始まった時期に由来する歴史的経緯だ。
そんな日本に近代的な交通インフラというもうけとは直結しない金食い虫がきちんと整備できるハズも無く
日本最初のオートバイを売り込もうと失敗するのは必然的と言って良い。
しかし、犠牲と引き替えに史実より富国強兵となったこの世界線の島津楢蔵は諦めなかった。軍の扉を叩いたのだ。
当然軍は不整地での走破性を求めて、国内で試験運用を開始、その際、島津楢蔵は出会ったのだ。野猿と呼ばれたそれと。
峡谷などで使用される原始的な貨物用ロープウェイ。エンジンでこのロープを引っ張れば道なき道を素早く移動できるのでは無いか?
「『千機爆撃』なんて単語が出るほどのモノだったって?」 「ラジオが言うには、本当に千機を超える爆撃機だったって言うっすよ」
正確には千機の作戦機による大規模爆撃作戦だったのだが、枢軸と大連合双方で様々な欺瞞情報を飛び交い、お互い正しい
戦果を把握できないのはいつものことだし、報道がそういった機敏を考慮できないのはよくある事だ。
すでに1週間にわたって千機前後の作戦機がドイツ上空に現れありったけの爆弾を落としていくその様は枢軸陣営諸国に
対処が必要であると判断するに十分のインパクトを与えると同時に、航空戦力をドイツに振り向ける決断を促すだけのモノがあった。
バトル・オブベネルクスとまで称される強大な航空決戦の数々。
枢軸三大盟主国たるドイツでさえも悲鳴を上げるのは仕方が無いとも言えなくも無い空前の規模である。尤も……その『千機爆撃』を
その先、枢軸三大盟主国、日独伊は何度となくその本土に食らうことになっていく。
「往生際が悪いっス……そんなすごい数の飛行機、さすがに米ソも無理してそうす」
その瞬間だった。この瞬間まで隠蔽されてきた虎の子のソ連軍重砲が火を噴いた。
いくら隠蔽されてるとはいえ、ここまで見つからなかった事から『唯物論者(ソ連軍)』の中からロシア正教による祝福を受ける手続きが
進むという、開戦当初より脱落すること無く、ソ連軍兵士たちと援護し続けてきたそれがついに隠蔽を解いて砲撃を開始した。
輜重輸卒は待避壕へと走り、ライフル代わりに鍬を構えた2人の兵士は急ぎ友軍へと合流するべく、連絡壕を走る。
その日、枢軸陣営諸国軍による対ソ全領域大攻勢たる『赤い夏』作戦に対して、全線にてソ連軍が反撃を開始。
尤も勢い余って進出速度の速さに枢軸参謀たちが悩む状況下で行われた反撃の殆どは瞬時に破られ、むしろさらなる破竹の勢いを持つ
進撃へと変貌していく。『ソ連の完全打倒は近い』と枢軸陣営諸国軍は判断。それより、
アメリカ連邦海軍の太平洋、大西洋、2艦隊が
全力出撃を行ったという情報と、バトル・オブベネルクスと称される千機爆撃への対処へ向けられることになる。
「村中大佐。こんなところにおりましたか」
大日本帝国陸軍参謀本部第2部ロシア課所属。ザバイカル戦区。
ソ連軍の決死の反撃は昨日のこと。残敵掃射の段階に移行し始めた帝国陸軍ザバイカル戦区。
737: 名無しさん :2021/06/14(月) 02:17:32 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp
「昨日の弾薬消費量を統計中ですが、野山砲基数にして51基数。開戦前の推計で、最低平均水準とされたのが1会戦、45基数。
……ソ連軍が脆弱すぎる」
「大佐はソ連軍が計画的に敗走していると?」
「ソ連軍の砲兵戦術は我々より優れているのは認めなければならない事実だ。何より、我々の砲兵は元々素晴らしい砲兵では無い」
「……」 「勘違いしないでくれよ? 意味も無くおとしめている訳では無い」
中村大佐と呼ばれた男が歩き始める。その後をついて行く軍人の階級章は中尉。
「日本列島の砲兵訓練施設は手狭なのだ。なので重砲の最大射程を砲撃する経験が圧倒的に不足している。何より
日露の戦いの時の損耗を砲兵たちは回復することが出来なかった。国内の砲弾生産能力が上がっても……そもそも
砲弾だけを買う金なんぞ衆議院が認めん。そうなれば貴重な訓練の時間もなかなかとれない」
史実でもバブリーな世界戦であっても、そこは史実と変わらず。いや、日露の激闘、そしてWW1東部戦線への参戦。
消耗しすぎた。それが答えなのかもしれない。
「必然的に、政治にも距離にも恵まれない我が軍砲兵とそれらに恵まれたソ連砲兵では元々のモノが違う。
……我が軍砲兵が陣地転換にかかる時間を計ったことは? ソ連軍より2倍以上もかかってしまっていたぞ。同じ重砲運用部隊でも」
彼らのすぐ後ろをホロ車が走る。史実でもあった奴だ。チハの車体に旧式の榴弾砲を乗せた自走砲。
「では、全部奴らの?」 「いや、たぶん敗走そのものは事実だろう。ただし、その敗走すらも計画の中という感じがするな」
空襲警報が鳴り始める。奴らめ、まだそんな体力があったのか? そう思っていた。
次第にエンジン音があたりを支配する。
「何をしている? 早く落とせばいいのに」
走る伝令たち。さすがに様子がおかしい。自分たちも全速力で走り、通信所へ。
「何が起きている!」 「そ、それが!! 敵機です!」
「それはわかっている! 何故我が軍は敵機を落とそうとしないのか? 我が軍の航空機が上がってる様子が無いぞ!」
「昨日の戦いで、整備中で! もちろん、予備部隊は存在し、それが上がろうとはしています! で、ですが! その数は少なく敵機の数が……!」
状況が、まさか、千機爆撃……? こんな場所まで? いや、そもそもどうやって? この周辺に大規模な航空基地が存在しないのは把握している。
738: 名無しさん :2021/06/14(月) 02:19:13 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp
「ち、違います! おかしいんです!
敵機の高度は1万2千メートル! その数、わかるだけで推定500以上! おそらくはすべてB-29のバリエーション!」
「B-29だと? どういうことだ!? 何故こんなユーラシアのど真ん中に米軍機が!? 超高高度爆撃か? だが、あれはチキン戦法過ぎて
効果が薄め。ましてやそんな超高高度だといかにB-29でも大量の爆弾なんかはこべな――――――」
――――千機爆撃。千機爆撃では無い。米軍。太平洋艦隊、大西洋艦隊の全力出撃。それを受けて枢軸の航空戦力は
ドイツと沿岸諸国の本土防空および、米艦隊来襲への対処。計画的な敗走。反撃。重砲。
「まさか……。まさかッ!?」
シベリアの空を飛ぶのは、B-29をベースにした特殊輸送機の群れ。
コーンパイプの男が、息を吐き出し酸素マスクを口に当てる。そして、一言
「諸君。『光あれ』」
作戦が始まる。
ウィロビーは背中が震える。元帥はこんな場所の来る必要は一切無い。例え作戦立案者であろうとすでに作戦は
大連合連立司令部が指揮するモノとなっている。この作戦を実行するに当たり、数度の実験を行った。
だが、一番重要な事項である『北極経由で
アメリカからソ連領へ進出する』部分はたった2回の実験で済まされた。
それほど大連合にとっても時間は無かったと言える。すでに空中給油機は対比しており、もはや撤退は物理的に不可能。
後に、よくよく考えれば所詮は軽歩兵の群れに過ぎず、心理的インパクトがすべてと言って良い作戦だった。けれど。
そのインパクトに粉砕されたと枢軸将兵は皆口をそろえた。あんなごり押しの狂ったギャンブルに負けたのだと。
本来であれば爆弾を落とす扉が開かれ、記録に残る世界最初のHALO降下が始まる。
空前絶後の規模。空挺戦車による中隊を含んだ空挺旅団。その数ザバイカルに5個。ペルシャ戦線に5個、東部戦線に10個。
総合計20個の空挺旅団で、枢軸の夏は豹変した。
ソ連軍の本気の反撃はその数分後に始まった。
―― 継続大戦。ウィロビー ――
元帥はあの偉大な賭けに勝利なされた。あの方は神に選ばれている。
「故に、今度も成功する。成功させねばならない」
ウィロビーは確信と狂気に満ちた笑みを浮かべながら、この戦争の行方に思いをはせる――――。
739: 名無しさん :2021/06/14(月) 02:21:03 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp
以上です。続きは後編で。色々な意味で無茶した顛末になるはずです
下駄履かせたマックならこれくらいの奇策をどや顔で披露する。たぶん
最終更新:2021年06月18日 16:50