167: 弥次郎 :2021/06/20(日) 22:08:34 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

憂鬱SRW 融合惑星 パトレイバー世界編SS「WXⅢ」3



 ヘルメス商事がダミーの会社であり、何かをするために書類上設立されたということが判明した帰路は、これまた重たい空気が車内に満ちていた。
どこの誰かは知らないが、そんな手間をかけてでもやるということは後ろめたいことをしていると宣伝しているようなものだ。
 というか、社内の空気の重さは後部座席のメンタルモデル二人から発せられており、秦はとてもだが居心地が良いとは言えなかった。
 実際は、彼女たちは無言のまま会話しつつ、連合の拠点とも回線をつないでやり取りをしているがための態度だったが、それがわかっていても怖いものがある。

「……ん」
「久住さん、この車禁煙ですよ。彼女たちもいますし」
「見た目通りじゃないんだからいいだろ……」

 堪え切れなくなったのか久住は煙草をくわえるが、それを秦は咎める。
 だが、それは少し前に美女を助手席に乗せ、あまつさえタバコを進めた人間の言うセリフではなかった。
加えて言うならば、ズイカクとイ400は久住の言う通り外見通りの少女ではなく、人間ですらないのだ。
まあ、久住の気持ちもわからなくもない。ただでさえ情報の嵐を受けていっぱいいっぱいだったのだから、タバコが恋しくなるのもむべなるかな。

「ん……なんだこりゃ」

 その時、久住の手が何かを探り当てる。引っ張り出してみれば、それはライターだった。それも、洒落た女性向けの物。

「おい、この車は禁煙だったんじゃないのか?」
「……」

 揶揄う言葉に何も言い返せなくなる秦は目を逸らすしかない。
 が、次の瞬間久住は見せびらかしていたライターごと手をすさまじい力でつかまれた。

「うぉ!?」
「な、なんなん!?」
「少し貸せ!いや、今すぐ渡すんだ!」

 その手は後部座席にいたズイカクのものだ。かわいらしい手をしていて、触り心地も良いというのに、その力は大の大人顔負けだった。
 パニックになりそうだった刑事二人だったが、ズイカクも、そして傍らのイ400も真剣だった。

「なにがあったんです!」
「そのライターにあのノコギリザメと類似した細胞がついている。早く手を放せ!」
「なんだって!?」
「汚染源がついているといっている、早く!」

 そう、彼女らの目は常人の目ではない。それこそ、望遠顕微鏡のようなことさえも容易い。
 そして、その目は、そのライターに付着していた微量の汚染済みの細胞をとらえたのだ。
 が、急にそんな動作をすれば車は揺れるし、驚いた秦はハンドル操作を少し緩めてしまった。
 そして、大の大人の情けない悲鳴が二つと、それを超える少女の声が、迷走する車から響いたのであった。

 もめること数分、車内の騒動は落ち着いた。一先ず、近くのコンビニの駐車場に車を止めることから始めた。
 件のライターをナノマテリアルでくみ上げた即席の密封容器に押し込み、直接触れた秦や久住の体にそれ以上付着していないかのチェックが行われた。
また、ライターが落ちていた車の中も入念な精査を行うことになった。最悪の場合、車ごと滅菌する必要さえあるかもしれないのだ。
 ズイカクがそれを行っている間に、イ400はコンビニでアルコール消毒液と水などを調達してくる。
一先ずのところ、それらを用い、さらに彼女らの体を構築していたナノマテリアルを組み替えることで用意した滅菌装置で初期の消毒は完了した。

169: 弥次郎 :2021/06/20(日) 22:09:07 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

 だが、事態は決して終わってなどいなかった。むしろ、始まったばかりとさえいえる。

「しかし、ズイカク。本当なのか?このライターに、その、細胞が付着しているっていうのは…」
「ああ、間違いない。目に見えてわかるわけではないが、私たちメンタルモデルの目はごまかせん」

 容器越しに真剣に見つめるズイカクの様子に、秦も久住も嘘を言っているとは思えなかった。

「間違いないんだよな」
「そうだといっているだろう」
「おい、秦。このライター、いったいどういう経緯でお前の車に落ちていたんだよ」
「どうって…」

 問い詰められれば、秦は話すしかない。
 4件目のレイバーの破壊事件の現場から移動する際、駐車場で車が故障して困っていた女性を見かけたこと。
見かねて自分の車に同乗させ、目的地の大学まで連れて行ったこと。その際に彼女が自分のカバンからタバコとライターを取り出し一服したこと。

「あ、あとは重たいトランクを持っていましたね、彼女」

 話を終えると、それを聞いたメンタルモデル二人は険しい表情だ。

「やたらと重たいトランクを持った女か」
「しかも、大学にそれを持ち込んだときたか。その大学はどこだ?」
「ええっと……確か〇〇大学でしたね」
「……なるほど、生物学や生態学、遺伝学などの学部がある大学だな」

 即座にネットに接続して調べたイ400は、その情報をまとめて投影スクリーンを表示し、秦に見せる。
 そこには膨大な数の顔写真が並べられている。比較的老若男女、学問に関わる人々の顔ばかりだ。

「この大学の講師や附属する研究所の職員の顔だ。
 秦が連れて行ったキャンパスに努めている女性であるということならば、特定は容易いかもしれない。
 まあ、末端まで全員載っているわけではないかもしれないが、この中にいる可能性がある」
「秦、思い出せ。お前はその顔を見たはずだ」
「え、で、でも彼女が?」
「彼女が関係者であることは間違いない。そうでなくとも、汚染源になった生物や細胞に近づける人間なのは確かだろう。
 有力な証言が得られるはずだ」

 久住にまで言われれば仕方がない。秦は候補になっている女性の教授や準教授、あるいは研究員の写真を一つ一つ確認していく。
 それなりに整った顔立ちで、いかにも研究者といった理知的な雰囲気だった。しかし、同時にどこか憂いを帯びていたようにも思える。
年齢は自分よりも少し上くらいだったと記憶している。割と美人なので若く見えたが、実際はそれ以上だろう。

「ええっと……この人は違う、この人も違う、この人は……ちょっと違うな」

 やがて、残ったのは数人の講師や研究員の女性ばかりとなった。
 そして、髪の長さや顔立ち、身体の特徴から、候補は一人に絞られた。その女性の名前は、岬冴子。

「この人、だと思います」
「ふむ……岬冴子。大学の講師もしているが、東都生物医学研究所で主任研究員を務めている才媛か」
「家族構成……なるほど、生物細胞学の権威の一人でもある西脇順一の娘か。
 その西脇教授は、彼女が務める財団法人東都生物医学研究所の所長と親しい」
「……知っていたんですか?」
「ふん、メンタルモデルをなめてもらっては困る。インターネットに接続して情報を調べるなど容易いことだ」
「まあ、彼女たちのことは気にするな。そういうものだと思って付き合うんだ」

 秦を諭した久住はつまり、と続ける。

「彼女の所持品に付着していたということは、彼女が該当の何かに近づける人間であることは確かだ。
 そして、彼女の活動範囲にそれがあるということにある」
「ああ。候補となるのはその○○大学、そして、彼女の勤務先である東都生物医学研究所だ。
 バイオハザードというのは、その手の研究施設が発生源になることが多いと聞く。ならば、そこを探せば特定できるかもしれん」
「そんな……まだ決まったわけじゃ」
「だから、それを確かめに行くんだ」

 それは任せる、とイ400に言った久住は車へと向かう。

「一先ず今日は撤収して報告を済ませよう。まあ、妄想と言われてもおかしくはないが」
「ですね……」
「私たちを通じて連合から口添えもできる。ありのままを報告しても構わないぞ」
「そんなに顔が効くのか」

 もはや秦は呆れるを通り越して感心するしかなかった。
 陽は徐々に傾き、一日が終わりに向かおうとしていたころであった。

170: 弥次郎 :2021/06/20(日) 22:09:59 HOST:softbank126066071234.bbtec.net


「よし、クズミ、ハタ。ここだ」

 久住と秦はズイカクの指示の元、車で指定された場所へと向かった。到着してみれば、そこは巨大なビルがデンと建っている。
昨今の治安悪化のためなのか、高いフェンスや物々しい警備が敷かれており、見るものを威圧する何かを放っていた。
そのビルの前に止めた車から降りたズイカクは、待ち受けていた人員と何か話を始めている。
 そんなズイカクに代わってイ400は二人に説明を始めた。

「ここは地球連合が抱えているビルでな。一種の治外法権が認められている」
「治外法権……?」
「つまり、ここの敷地の中は大使館や米軍基地などと同じ扱いを受けている土地ということだ」

 ええ?と引いてしまう秦。それもそうだ、こんな都会のど真ん中にそんな扱いを受けるような重要な建物があるなんて聞いたことがなかった。

「二人が捜査をしている間に、色々と準備をしてもらっていた」
「準備?」
「そうだ。事がすでにB.O.W.…生物兵器によるバイオハザードとなれば、警察が対応しきれるものではない。
 だが、二人には我々と行動を共にしてもらう必要があるからな。早急に準備を整えてもらわなくてはならない」

 準備。なんだろうか、なんだか嫌な予感が止まらない。
 そんな秦にイ400はあまり表情を変えることなく淡々と宣告する。

「具体的には、装備の貸与、連合で標準的なワクチンの接種、あとはバイオハザードに関する知識を身に着けてもらうことだな」
「……はぁ」
「ボケっとしないでもらいたい。命がかかっているのだから。
 我々はメンタルモデルである以上病気などとは縁がないが、生身の人間である二人には対策が必要だ」

 だから、とイ400は物々しい音共に開くゲートを振り返りながら言う。

「すまないが時間外労働をしてもらうことになる。
 1時間もあれば終わることだし、バイオハザードについては資料を渡すのでそれに目を通してもらえばいい」
「なにを、させるつもりなんだ…」
「そう警戒するな!まあ、少々普通ではないかもしれないが安心しろ」

 何やら手続きを終えたズイカクがこちらにやってきて朗らかに言うが、秦は全く安心できなかった。
 そして、その予感は的中することとなる。
 ビルの中に用意された医務室で数種類のワクチンを接種し、防具だと機動隊のようなボディアーマーを渡され、おまけに拳銃までも渡されたのだ。
重たいボディアーマーは言うに及ばず、拳銃に関しても明らかに普段使っているニューナンブなどと比較にならない自動拳銃であった。
銃弾はマガジン複数個と予備の弾薬が箱に収まったものがいくつも渡された。「対生物細胞抑制弾」などと書かれているのは気のせいだ、多分。

「明日からよろしく頼むぞ」

 帰り際、そういわれて刑事二人は自分たちが大変なことに巻き込まれ、抜け出せなくなったのだと、改めて認識せざるを得なかった。
 だから、せめてもの抵抗で、その日はやや酒の量が多くなってしまったのだった。
 待ち受ける運命から少しでも逃避したいと、そう思うがゆえに。
 だが、運命からは逃れられない。そう宿命づけられた刑事二人は、未知の領域へと踏み込むことになったのであった。

171: 弥次郎 :2021/06/20(日) 22:10:43 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
駆け足で行きますね。
鉄血よりは戦闘シーンを入れたい…という願望と目標があるのだ…!

183: 弥次郎 :2021/06/20(日) 23:13:29 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
ちょっと誤字修正を

169
×
「この大学の講師や附属する研究所の職員の顔だ。大学のキャンパスと女性であるということならば、特定は容易いかもしれない。
 まあ、単なる職員ならば乗っていないかもしれないが、可能性はある」

「この大学の講師や附属する研究所の職員の顔だ。
 秦が連れて行ったキャンパスに努めている女性であるということならば、特定は容易いかもしれない。
 まあ、末端まで全員載っているわけではないかもしれないが、この中にいる可能性がある」


170
×
銃弾はマガジン複数個と呼びの弾薬が箱に収まったものがいくつも渡された。「対生物不活性化弾」などと書かれているのは気のせいだ、多分。


銃弾はマガジン複数個と予備の弾薬が箱に収まったものがいくつも渡された。「対生物細胞抑制弾」などと書かれているのは気のせいだ、多分。
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最終更新:2023年06月20日 21:36