330: 弥次郎 :2021/06/21(月) 23:00:22 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
憂鬱SRW 融合惑星 パトレイバー世界編SS「WXⅢ」4
その夜、帰宅した秦は渡された資料---バイオハザードに関する基礎知識を学んだ。酒に逃げたくなる気持ちを抑え込み、目を通したのだ。
それはズイカクらに念を押されたこともあるし、そこまで警戒する災害がなんたるかを知らなくてはという義務感だった。
しかして、その内容の衝撃は、秦の人生でも最大級だった。
想像もできないような、舶来物のSFの世界のような物語。しかし、それらはすべて未来の時系列の地球連合が経験したことなのだ。
そして、それらは形こそ違えどもこの日本列島の東京において発生しようとしている。いや、すでに発生している。
「……」
資料を一度机に置き、部屋の片隅に置かれたトランクケースを見やる。
そこには、夕方に渡された自衛用の自動拳銃「アルバート-01」が収められている。
対B.O.W.を第一義としたその拳銃は、普段支給されているニューナンブをはるかに超えるおっかないものだった。
正直なところ、正式な許可もなくそんなものを持ち歩くなど御免被りたいところであった。一歩間違えば銃刀法違反で逮捕されかねない。
できれば銃は控えたいと思うが、同時に、こんなものが必要になるほど事態が切迫しているのだと思う。
今一イメージしきれないところもあるのだが、それだけは確かなのだとも。
「他人事じゃない、か」
自分はあくまでも刑事だ、という意識はある。すなわち、犯罪を取り締まり、見つけ、捜査をし、犯罪者をとらえることが仕事。
一般のイメージからすれば刑事や警察官というのは犯罪に立ち向かうヒーローのようなものだろう。
だが、現実は違う。靴底をすり減らして情報を集め、資料と格闘し、いろいろな情報を基に汗水たらして泥臭く捜査していくのが警官であり刑事だ。
所詮は組織の歯車。それこそ、下から数えたほうが早い部類のそんな下っ端だ。
そんな自分が、バイオハザードというものに立ち向かう?それこそ舶来物のSFじみているし、そんな創作の中でしかないような身分だと自惚れるわけもない。
『クズミもハタも無関心に戻ることはできる。我々は別に強要はしない。関東政府における協力者のあてはいくらでもあるからな』
突き放すようにさえ言われたその言葉。それは、事実だった。対応しきれるものではないから、このまま彼女らに任せてもいいかもしれない。
『だが、それで結局後悔するのは自分かもしれないぞ。選択をするのは自由だが、自由には責任が伴う』
しかし、同時にズイカクの言葉がよみがえるのだ。
バイオハザードを抑えることができなければ、今度はレイバーだけでなく、数えきれない人々が害を受けるかもしれない。
自分は非力で、刑事としての力しかない。けれども、今も進行しているであろう事態から目を背け、無関心に戻れるだろうか?
(後悔、か……)
知ってしまった以上、あとには戻れない。もし彼女らにすべてを任せて、自分は後悔も呵責も感じないままでいられるか?
しばし迷ったが、秦は立ち上がる。そして、渡された拳銃をケースの中から取り出した。
ズシリと、重たい感覚にとらわれる。正直なところ、怖い。明らかに殺すことに特化したこれに触れることさえも。
けれども、それ以上に恐ろしいものが闊歩しているかもしれないという恐怖が、それを秦に縛り付けていた。
いざとなった時に、資料にあるような怪物に襲われたときに、無防備に死にたくはなかった。
それは、戦場に立つ兵士と同じ心情。殺すためではなく、身を守るためにこそ銃を使う、そんなドグマに落ちていたのだ。
それは正しくもあり、間違ってもいる行動の結果。けれども、秦は身の内側で固まる意志を無視はしないことにしたのだった。
そして、秦が銃を手にしていたころ、連合もまた動きをいくつも作っていた。
昼間の間に収集された膨大な量の情報を精査し、調査し、裏付けをとる作業に追われていたのだ。
殊更、メンタルモデルのズイカクとイ400が秦と久住と共に集めた情報は、このバイオハザードに関わる重要参考人につながるものとして注目された。
だからこそ、即座に入念な調査が行われたのだ。
彼女と彼女の所属する東都生物医学研究所。そこに所属する学者や研究員。ここ最近の活動や論文など、あらゆることを調べた。
331: 弥次郎 :2021/06/21(月) 23:01:09 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
その中で、岬冴子、その父西脇純一、さらに東都生物医学研究所所長の栗栖敏郎の共通項として浮かび上がったのは、南極への調査であった。
極限環境微生物---通常の生物では生存できない高温あるいは低温、無酸素環境、強酸あるいは強塩基下などで生存する微生物を求めての調査だった。
南極というのは知っての通り極寒の大陸だ。故にこそ、そこに生息する生物や微生物は通常の環境では得られないサンプルがあるかもしれないということだった。
そして、最新の論文や情報によれば、その調査チームは南極において有機物の付着が確認された隕石を回収した、とのことだった。
宇宙からの飛来物。有機物。そしてそこに遺伝学などを混ぜれば何が生まれるか?
簡単だ、地球の常識外の生物が再生されうる、ということ。
これらの情報から、連合はこれをバイオハザードの原因となった根源の一つとして候補に挙げた。
地球外生命体の情報を基に再生されて誕生した意図せぬ生物兵器によるバイオハザードとして。
もとより連合は地球外生命体による侵略を跳ねのけてきた経験があった。加えて、融合惑星上の世界でも似たような例は存在したのだ。
もしもそれが危険な生物によるものとは知らないままに再生をしてしまい、それが外部に流出して起こったのならば納得がいく。
そこからさらに追跡(トレイル)を行う中でいくつかの情報が上がってきた。
一つ目は、くだんの○○大学の研究室に侵入したズイカクが、岬冴子の持っていたトランクを発見。内部に収められた試料を回収した。
それが、レイバーの破壊現場周辺において採取された物質と同じものだということ。
二つ目には、○○大学や東都生物医学研究所において大規模な資材の搬入が行われたことだった。
それも、ただの研究用の機器ではない、大型の培養タンクやらそれに付随する観測機器、計測機器といったものだということだ。
巨大な檻なども後から搬入されている、というのは何とも不自然だ。まるで、生き物を培養し、隔離するためのようではないか。
さらに三つ目に、東都生物医学研究所や○○大学の資料から、出どころ不明の生物の細胞サンプルが届けられたこと。
そのサンプルについてはトップ機密扱いらしく、それの保管されている研究室や保管室に出入りできるのはごく一部に制限されているということだ。
そして、それを許されているのが、くだんの岬冴子であるということも。
内政干渉を、それこそ官民学領域の問わない干渉や介入を地位協定に基づいて行うことができる連合。
既にレイバーの破壊という形で生物災害が発生し、生物の変異までも確認されている以上、時間的な余裕はなかった。
故に、根源追跡(ルートコーズ)の第一歩としてこれらの施設への立ち入り調査、場合によってはその場での殲滅も行うことを決定した。
東京湾で起こっている汚染が偶然であるにせよ意図的なものであるにせよ、現地のカルタヘナ法と照らし合わせてもアウトな行いであることは間違いない。
東京湾の封鎖を行って拡散を防いでいる状況であるが、手を打つのは早い方が良い。連合は油断なく準備を進め、翌朝には執行を行う手はずを整えた。
しかして、結果的に言えば、それは遅い対応となってしまった。
連合は決して後れを取っていたわけではない。だが、このγ世界における管理体制の甘さ、あるいは習熟の未熟さを甘く見てしまったのだ。
すなわち、いつかは発生するであろう重大なエラーが発生してしまう方が彼らの行動より早く発生してしまったのだから。
そして、マーフィーの法則の如く、悪しきことは重なってしまう。どうしようもなく、不運だったとしか言えない。
だが、神の悪戯のように見えてしまうのは、そんな運の悪さを嘆くしかない人間の性であろうか。
332: 弥次郎 :2021/06/21(月) 23:02:01 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
- C.E.世界 融合惑星 γ世界 日本列島 関東日本政府施政下 都内某所 午前4時23分
自室で惰眠を貪っていた秦は、突如としてたたき起こされることになった。
それも、昨日時間を決めて落ち合うことになっていたメンタルモデルの二人と、久住によってだった。
鍵?そんなものはメンタルモデルによってあっけなくピッキングされて解放されていたのだ。
「起きろ、秦」
「なんですか……って久住、さん?一体……まだ時間には早いですよ……?」
「それどころじゃなくなったんだよ。地球連合が大規模な介入を宣言してな、岬冴子の勤め先の大学と研究所に踏み込むことになったんだとさ」
強制捜査って言えばわかるか?と言われると、秦は自分の眠気が一気に吹き飛んでいくのを感じる。
早い。いや、早すぎるを通り越して急だ。確かに昨日の時点でかなりの情報を集めることに成功して、それを報告したのは確かだ。
かといって、昨日の今日でいきなり実力行使にまでおよぶだろうかと。
「特級の生物災害という疑いが強まってな、強硬策に出ることにしたのだ。急げ!」
「すでにBSAAとブルー・アンブレラ、それに連合の現地部隊が各所に展開済みだ。踏み込むまで秒読みだ」
「そんな、事前通達もなしに……?」
「もう済ませてある。夜の間にな…正式な通達はこの後だが」
言われながらも、何とか着替えを済ませると必要な荷物を持って秦たちは家を出た。
厳しい声の久住に促され、秦の体はパトカーの座席に押し込まれる。
ようやく慌ただしさが抜けて落ち着いたところで、イ400が「それ」を自分へと差し出した。
「万全は期している。だが、何が起こるかわからんから持っておけ」
それは、昨日扱いを確認して準備を済ませておいたアルバート-01だった。付属のホルスターバッグも、予備弾倉もセットされた状態で並んでいる。
「……わかった」
覚悟は、まだ決まっていない。だから、今から決めるしかない。秦はそれらを受け取ると手早く身に着ける。
重さがズシリと体に「来る」。それは、何の重さだろうか。身を守るための武器の頼りなさか、あるいは、命を奪う重みか。
「ズイカクさんよ、現場はどうなっているんだい?」
「少し待て……即応部隊は移動を開始し、もう間もなく現地に到着予定だ。
あとは周辺住人の避難などを済ませればいつでも実行に移せる段階にある」
「俺たちの到着はぎりぎりってところかね」
「ああ。まあ、現地の部隊だけでも対応しきれるだろう。あくまで見届け人という形になるかもしれんな」
そう会話する久住とズイカクの二人をよそに、秦はサイレンを鳴らしながら車を出す。
早朝ということもあって車も人の姿も少なく、パトカーは合法的に信号を無視しながらスムーズに道を進んでいくことができた。
「だが、油断はならない。私たちも経験があるが、決定的になったと思った状況から思いがけないことが起こるのは在り得るからな」
「例えば?」
「以前も言ったが、生物兵器のコントロールは一つ間違えば通常の兵器よりも大惨事を引き起こしかねない。
何しろ、生物兵器は極論コントロールする必要がなく、自律的に動くものだからだ。時として、使用者の意図や意思も超えてな」
「管理されているとしても絶対じゃないってことか」
「そういうことだ……ん、少し待て」
その時、ズイカクとイ400の接続している通信網に異常を知らせる通知が響いた。
333: 弥次郎 :2021/06/21(月) 23:02:41 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
しばし、二人はその内容の精査を行ったが、やがて険しい表情となり叫ぶ。
「まずいことになった……!」
「なにがあったんです?」
「昨夜の時点で関東政府と警察には話を通しておいたのだが、どうやら余計なことをした阿保どもが出たようだ。
すでに大学と研究所が警察の機動隊によって包囲されている!」
「え!?」
「まさかこうなるとは……生物災害の前に現地政府や現地治安維持機構とぶつかる時間などないというのに!」
「それだけではない」
叫ぶズイカクに落ち着くように言いつつも、イ400も焦りを隠せない口調で通信の内容を明かす。
「東京都内の運河沿いのライブハウスから警察に通報があった。大きな怪物に襲われている、とな」
「怪物……怪物!?」
「ああ、怪物だ。そして、電話越しには破壊音と何かを咀嚼するがしたそうだ…」
「人が……」
それが意味するところを理解できない秦ではない。
それは、昨日ズイカクたちから指摘されたことだ。レイバーを破壊した生物兵器が見境なく人を襲い始めたということに他ならない。
「場所は!?」
「比較的此処から近い!ハタ!進路を変えて、至急該当のライブハウスに向かってくれ!近づけば私たちがレーダーで捜索する」
「わ、わかった……でもどうするんだ!」
「私たちで初期対応するしかあるまい。今のところ、連合に余剰戦力をすぐに動かす余裕はないからな。
悪いが二人にも戦闘に加わってもらう」
いきなり物騒なことを言い出す二人のメンタルモデルに、秦も久住も目を白黒させるしかない。
たった四人で、巨大な怪物を相手に戦う?無謀どころではないのではないかと、危機意識が叫ぶ。
「大丈夫だ、メンタルモデルの戦闘力なら劣りはしないはずだ。というか、何とかするしかない。
最悪、発信機を撃ち込んでおわりにしてもいい」
そのための力もあるだろう、とズイカクは続ける。
力。それは、秦も久住も渡された拳銃のことであろうか。
昨日までは恐ろしく見えたものが、ふいに頼りなく思えてきてしまうのだから、人間とは現金だなと思ってしまう。
情けない、と秦は自分を下卑してしまう。昨日覚悟を決めたつもりだったのに、いざとなるとこれだ。
見た目は幼い彼女たちのほうがよほど頼りがいがあるではないか。
(けど……)
秦も刑事として、警官として一丁前に責任感はある。
大惨事で人が傷ついたり殺されたりするのは嫌であるし、元々自分たちの追いかけていた事件(ヤマ)だ。投げ出すことなどできない。
「飛ばしますから、つかまってくださいよ久住さん!」
「おうよ」
そして、ズイカクのガイドに従い、パトカーは進路を大きく変え、速度を増して突っ走る。
事態は連合の想定していた予定を大きく超え、まるで違う状況での臨機応変な対応が要求されることになった。
口さがない言い方をすれば、それは行き当たりばったりということに他ならない。
それに対応しきるだけの力は備えているだろう。だが、時としてそれ以上の事態が発生してしまうことも、また確か。
γ世界の日本は、大きな局面を迎えようとしていた。
334: 弥次郎 :2021/06/21(月) 23:03:43 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
というわけで事態が急に動きました。
冷静に考えるとおちおち調査するよりとりあえず突っ込んで事実を確認するよなと思いましたのでこのようになりました。
原作より急展開となっておりますが、ご容赦くださいませ…
338: 弥次郎 :2021/06/21(月) 23:16:11 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
330に見逃しが…
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所詮は組織の歯車、それこそ、下から数えたほうが早い部類の、
〇
所詮は組織の歯車、それこそ、下から数えたほうが早い部類の、そんな下っ端だ。
最終更新:2023年06月20日 21:38