456: 弥次郎 :2021/06/22(火) 23:25:30 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
憂鬱SRW 融合惑星 パトレイパー世界編SS「WXⅢ」5-1
現場に近づいた段階で、一行はパトカーから降りての移動を余儀なくされた。
それもそのはず、ライブハウスのある方向から人々が逃げまどい、津波のようになっているからだった。
まさに着の身着のままといった彼ら彼女らはわき目も降らず、転んでもはいつくばってでも前に出て逃れようとしている。
が、後続はそれをお構いなしに乗り越え、あるいは踏みつけてでも前に進んでいこうとする。まさに、大惨事だ。
他にも乗り捨てられた車や自転車などが散乱しており、道路は半ば封鎖されている状態だ。車同士がぶつかったようになっているのも見受けられる。
「ひどい……」
「悪いが怪獣の鎮圧を優先する。市民にはあまり構わずに前に進むぞ」
パトカーのトランクから大きめのスーツケースのようなものを引っ張り出しながらもズイカクは宣言した。
実際、そうでもしなければ本命を見失う可能性があるし、この場にいる4人程度ではパニックになった彼ら市民を制御しきれない。
必要な犠牲と割り切り、最優先目標である怪獣を叩かねばならない。あるいは、増援到着までの時間を稼がねば。
「いくぞ、準備は?」
「いつでもいいぞ」
「久住さんは無理しなくても…」
「ここにいたら踏みつぶされそうでな、一緒に行動させてもらう」
久住の判断は果たして正しい。ひときわ大きな破壊音がしたと思えば、さらに多くの市民が逃げ場を求めて殺到してきた。
とっさにパトカーの陰に隠れることで難を逃れたが、人の津波は他者への配慮という物を失っていた。まさに濁流のように逃げ出していった。
今の流れに呑み込まれてしまえば、五体無事な秦ならばともかく、久住では下敷きにされただろう。
「でも、その怪我じゃ…」
「問題ない」
その久住の足に、イ400が何かを装着していく。人工的に作られた筋肉、骨格、そして駆動系。骨折した足を丸ごと覆うアシストスーツだ。
「稼働時間はおよそ20時間。少しバランスが崩れるかもしれないが注意してくれ」
「おう」
合わせて、久住はアルバートー01を引き抜いて確認する。普段とは違う自動拳銃だが、落ち着いているように見える。
秦もホルスターからそれを引き抜くが、今朝持った時よりもさらに重たいような気がしてならない。
「さあ、行こうか」
パトカーのトランクから取り出したスーツケースのようなものを片手に持つ少女二人と刑事二人。なんともちぐはぐなチームは駆けだした。
「事前の打ち合わせ通り、怪獣への対処は前衛に私たちが立つ。防御手段を持つのが私たちだけだからな。二人は援護攻撃を頼む」
「この拳銃で、か?」
「ああ。そこに水色のマーキングがされたマガジンがあるだろう?それはラムロッド弾と呼ばれる、対B.O.W.の特殊な弾丸だ。
たいていの生物ならばこれが効くはずだから、どんどん打ち込んでくれ」
急ぎながらも、彼らは簡単に打ち合わせをする。ここに来るまでにすでに話したことだったが、確認を改めてしておいた。
おそらく、そうでもしないと戦場で呆然としてしまいかねないと、そう危惧していたからだった。
457: 弥次郎 :2021/06/22(火) 23:26:03 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
対生物センサーと該当生物のまき散らした細胞などを目印に、4人は疾走する。破壊の音や悲鳴は断続的に響いており、その怪物が暴れているのが伝わる。
というよりも、その中心に近づくほど破壊の痕跡が大きくなり、おまけに見境なくなっていることに気が付いた。
車はひっくり返り、あるいは原形をとどめないほどに請われている。建物にしてもガラスが割れ、壁面に何かがぶつかったかのような跡が見受けられる。
そして、そこら中にあるのは逃げ遅れたり、こと切れた人間の姿だった。原形をとどめているモノだけではない、とだけ言っておこう。
正直なところ、刑事二人は足が止まりそうになった。一度や二度ではない。凄惨さに、あるいは、戦場の空気に呑み込まれそうになっている。
だが、その二人をアジャストさせて引っ張るのがメンタルモデル二人だ。ここで止まるわけにもいかないし、二人を放り出すわけにもいかない。
そして、そんな短いながらも地獄のごとき長い移動は、唐突に終わりを告げる。
「奴め…なんてデカさだ」
思わずズイカクが漏らしてしまうほどに、それは巨大だった。
計測では全長はおよそ40m前後。地面のアスファルトが簡単に砕け、陥没することから重さは数十トンはあるだろう。
そして、その外観。連合の人員がいれば、リッカーやハンターなどを想起するような、醜悪な肉食動物そのものだった。
爬虫類と人と魚をごちゃごちゃに混ぜたかのような、そんな独特の嫌悪感を覚えてしまう。
身体には明らかに長く、そして四足歩行に適した手足。光を放つ二本の触覚。そして、人間にもどこか似た頭部には巨大な口がみられた。
それらが、絶妙なまでの恐ろしさと生々しさを湛えて形作られていた。
「お楽しみの真っ最中というわけか……」
そして、そこは赤と鉄の匂いで満たされていた。
語るまでもない、犠牲者がいたのだ。逃げそこなったのか、あるいは、その長い腕部に捕まったためか、捕食され、食い散らかされていた。
「うっ…」
思わず胃からせりあがるものがある。秦も久住も、目の前の光景にはさすがに限界があった。
《グウアアアアアアアア!》
そして、くだんの怪物がそんな隙を見逃すはずもなかった。
彼我の距離は20mはある。だが、そんな距離は一瞬で詰められてしまい、さらにそこから恐ろしいものが伸びる。
そう、恐ろしいまでの速さで前腕部が、鋭い爪と指を備えたそれが振りかぶられ、繰り出されたのだ。
「や、やば---」
秦の目は、それを認識できた。だが、身体は動かなかった。あまりにも相手が早すぎたのだ。
刹那、走馬燈が走る。ここで終わりか、あるいは、なぶられながら食われるのか。
それでも、腕だけはとっさに拳銃を相手に向けようとしていた。こんな大きな怪物に拳銃程度が効くかわからない。
だが、身体の本能は生存のために必要な行動を選ぼうとしていた。
間に合うか、いや、間に合わないか。そもそも、これで止められるか。
スローモーションの世界で、秦は自分でも驚くほどに冷静だった。
「やらせん!」
そして、その怪物の腕は強力無比な壁によって拒まれた。
秦と久住を守るようにズイカクが展開したクラインフィールドが、その強力な一撃を見事に受け止めていたのだ。
そして、その間にイ400は手にしたスーツケース--否、持ち込んできたナノマテリアルを変化させた。
瞬時の操作でそれは形を変え、望むものを生み出すことができるのがナノマテリアルの強みであり、利便性。
「発射!」
形成されたのは、かつて伊400型潜水艦が装備していた40口径14cm単装砲---のミニチュア版だ。
間髪を入れず、その単装砲は火を噴いた。発射されたのは実弾ではなく、プラズマ弾だ。
数千度の熱を帯びたそれは、怪物の体表を大きく焼き、貫いた。
《ギュウアアアアアアアアアアアアアア!?》
「くっ……」
「ぼさっとするな、ハタ!」
458: 弥次郎 :2021/06/22(火) 23:26:54 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
痛みに咆哮する怪獣。そのあまりの咆哮に身をすくませる秦だが、ズイカクの 咤を受け、アルバートー01を構える。
一発、二発、三発と打ち込む。意外と冷静に狙いを定め、クラインフィールドで受け止められている腕部に叩き込んだ。
ラムロッド弾---火薬を増強したマグナム弾であり、B.O.W.の再生や活動を阻害する薬品を撃ち込むための特殊弾。
それは秦の命じるままに飛翔し、怪獣の腕に突き刺さり、遅滞なく効果を発揮した。運動エネルギーによる破壊。
そして、弾頭から放出される阻害薬が一気に怪獣の細胞を侵食した。
「いい腕じゃないか」
痛みで跳ねあがっていく腕部を見送り、ズイカクは一気に前に出る。痛みに悶えている隙は逃さない。
人間とは思えない運動能力で距離を詰めると、ズイカクもまた手にしたナノマテリアルを変化させる。
形成するのは銃火器などではない。もっと原始的で、破壊力があり、この手のB.O.W.の対処によく使われるものだ。
すなわち---質量打撃兵器。
「マスブレェェェェド!」
その装備の名を、ACで使われるオーバードウェポンを模したそれの名を叫びながら、ズイカクは飛んだ。
そして、マスブレードの先端に装着されたブースターが火を噴き、大質量のそれをとんでもない速度域まで加速させる。
そして、頭部にその鈍器は吸い込まれるように叩き込まれ、一気に地面に縫い付けた。
地面が、割れた。比喩でも何でもない。アスファルトが衝撃で凹み、割れ、砕け散っていくのだ。
それは、幻想的ですらあった。まるで、怪物と戦う神話の英雄を再現したかのような、とてつもない光景。
「ハッハー!」
巨大な鈍器に押しつぶされた頭部から血液と、血液以外の液体やら何やらをまき散らし、怪獣は大きく姿勢を崩し、地面に伏せた。
その一撃を入れたズイカクは満足げに咆哮した。だが、彼女もまた体液やら血液で凄惨な姿になっている。
というか、見た目少女--というか幼女に近い彼女が身の丈をはるかに超える鈍器を持ってそんな声をあげているのは、別ベクトルでショックが大きい。
だが、と秦はアルバートー01を下ろしながらほっと一息ついた。
「これで……」
「終わっていないぞ」
油断なくクラインフィールドを張るイ400の言う通りであった。
一撃を入れたズイカクは一度とび下がり距離をとる。その動きは、明らかに怪獣への警戒を含んでいた。
「とりあえず一撃入れてみたが、どうだ?」
「……細胞の活性化を確認、まだ生きているぞ!」
「嘘だろ……」
「なんて怪物だ……!」
秦と久住としては信じがたいことだった。
あれだけの一撃を頭に食らったということは、普通ならば脳震盪なりを起こして立ち上がることさえできないはず。
にもかかわらず、怪獣は再び立ち上がる。そして、テープを巻き戻すかのように、砕け、損傷した頭部が再生されていく。
そして、明らかに怒りを込めた咆哮を上げ、姿勢を整える。
《グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!》
「B.O.W.ってのは、こんなのばっかりなのか!?」
「ああ、そう思っていいぞ。さあ、くるぞ!」
再び動き出す怪獣に、秦はせめてもの抵抗で銃を向ける。
これを何とかしなくては、とんでもないことが起こるのだと、義務感と使命感が体を動かす。
それ以上に、怒りがあった。こんな怪獣に、わけもわからずに殺された人間がいることが、どうしても許せない。
明確な意思と共に、秦と久住はアルバートー01を構えた。ここに、怪獣との戦端が幕を開けた。
459: 弥次郎 :2021/06/22(火) 23:27:27 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
とりあえず、戦場が3つに分かれているので、3つそれぞれの様子を描こうかと思います。
やりたいことをやった、反省はしているが後悔はしていない。今は反芻している(SS執筆中)。
最終更新:2023年06月22日 22:30