892: 弥次郎 :2021/06/27(日) 11:49:21 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
憂鬱SRW 融合惑星 パトレイパー世界編SS「WXⅢ」6-1
- C.E.世界 融合惑星 γ世界 日本列島 関東日本政府施政下 朝霞駐屯地 午前3時27分
関東日本政府の領域に地球連合が介入するというのは、介入前日にはすでに通達がなされたことであった。
性急に見えるかもしれないが、バイオハザードの拡散速度や危険度を考えれば、これでも待った方である。
ともあれ、関東日本政府としてもそれに何かしらの動きをしなければならない。具体的には、事態の対応に適した戦力を動かしたかった。
そこで動かされたのが、陸上自衛隊の化学科に配備されている化学防護車および生物偵察者、そしてそれらを擁する化学防護小隊の動員であった。
この生物災害というのがどういったものかは説明は受けていたために、彼らなりに対策を打った、というわけだ。
即時に中央特殊武器防護隊に連絡が向かい、その日の夜には駐屯地の大宮を発し、該当の大学と研究所のある東京へと移動した。
最も、この世界においては地下鉄サリン事件が発生していないためにテロに対する即応経験を持たない部隊であったが、贅沢は言えなかった。
関東日本政府としては、形だけでも事態の収拾に動いたという事実を欲していたのだ。
その姿勢に関しては連合も肯定的に受け止めた。彼らを最前線に送り込むことはないかもしれないが、少なくとも協力的であるのは歓迎できた。
そして、その日の早朝に連合の部隊の展開と共に近場の駐屯地である朝霞駐屯地を出発し、現地に到着して合同で対処を行うということが決定された。
朝霞駐屯地から現場までは2時間とかからない。そして、それは通常の法規や速度での話。踏み込む時間には余裕だ。
だが、その計画はいきなり躓くことになった。
それは、いざ出発となった早朝のことだった。
なんと、駐屯地の入り口に大勢の市民が押し寄せていたのだ。市民だけでなく、マスメディアまでも。
加えて、彼らの掲げるプラカードなどが問題だった。
「自衛隊による学問の自由の侵犯を許すな」
「政府の横暴を許すな」
「自衛隊の活動は憲法違反だ」
「憲法9条の順守を」
「連合の傀儡になり下がった自衛隊に制裁を」
つまるところ、単なる反戦・反自衛隊の抗議活動ではない。明らかに自衛隊のこの後の活動を知っている文面が並んでいたのだ。
確かに自衛隊が災害派遣という体で、都内にある大学と研究所に介入するのは事実である。それは連合の要請もあってのことだ。
だが、それはあくまでも外交上のやり取りであり、表に公表されるにしても時間をおいて行われるべきものだった。
自衛隊の派遣にしても、地球連合の要請に応じて、という体で話は進んでいるはず。だというのに、これはなんだ?
自衛官たちは、この事態に困惑した。殊更に、この報告を受け取った政府も自衛隊上層部も。
そして、この報告を受けた地球連合の現地司令部も大いに困惑することとなった。同時に、疑心も湧いた。
これまでの話はこれまで民間に流していない情報だった。となれば、政府の中から情報が早期に漏れたということに他ならない。
例えば、これを政府が朝方に公表したとしても、そんな時間から自衛隊の駐屯地を包囲するような人が集まることができるだろうか?
論じるまでもない、不可能だ。事前に、それこそ打ち合わせなどが完了した直後に漏洩されなければこうまでならないだろうと。
しかして、連合も理解していた。生物災害、バイオハザードは恐ろしい。だが、その根本には人がかかわっていると。
それ即ち、人こそが人の敵であり、恐ろしいものであると。
893: 弥次郎 :2021/06/27(日) 11:50:07 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
- C.E.世界 融合惑星 γ世界 日本列島 関東日本政府施政下 都内 ○○大学キャンパス 午前4時12分
自衛隊が「トラブル」により遅れるという報告は、警視庁の機動隊と対峙していた現場現場部隊にも通達された。
もとよりあまりあてにはしていなかったので、現場についてから遅れて報告を受けても、現場指揮官はあまり問題視しなかった。
むしろ、推測される生物の特性上、余計な人員が来て餌にならないだけ大分ましかもしれないとさえ思っていた。
「問題は、この『お客様』ですね…」
大学への突入の指揮を執る吉村香奈大佐はため息をつく。
警察の機動隊が包囲して進入を阻害する構えなのは非常に厄介だ。
一応、合法的に大学内に強制介入をする権限はえている。それは、物理的にも、だ。最悪大学の設備をぶっ壊してでも突入できる。
それをやらないのは、あくまでも人と争うことを主眼としない出撃であるということ、バイオハザードに対応するためという建前のためだ。
だから、鎧袖一触にできる戦力が相手であろうとも、とりあえず話は聞いてやろうというスタンスではある。
話し合いで解決できるならばそれに越したことはない。無論、時間がかかりすぎてしまうようならば強行も辞さないが、それは最終手段。
というか、バイオハザードに対処に来たのに同じ人間どうして殺し合うなど、ましてこちらが一方的になる虐殺など後味が悪すぎる。
これでいっそ悪意のある相手ならばまだやる気がわいただろうが、彼らは彼らの正義感から動いているのでやる気にもなれない。
「吉村大佐」
「どうも、レイデス中佐」
指揮車両に入ってきたのはユーラシア連邦のレイデス中佐。
西日本を占拠するユージアと関係が深いユーラシア連邦からの派遣員だ。彼もまた、この状況にどう対応すべきかを迷っている状況であった。
促されてデスクに腰かけると、さっそくレイデスは最前まで行われていた話し合いというか情報共有の結果を話す。
「関東政府の名前を出して退避を求めましたが、どうにも……元々関東政府の事案であり、連合の介入は不要と跳ね除けられました」
「……やはり、ですか。関東政府指揮下の自衛隊の動きが市民団体に妨害されている件と言い、明らかな悪意を感じますね」
「ええ。地球連合の現地駐留司令部で情報が集まって決定がなされたのが昨夜の夕方。
そして関東政府に通達されたのは昨日の夜。そこから12時間と経過していないにもかかわらず、こうにまで動かれるとなると…」
明らかに政府に通達した内容が公表される前に明らかにされている。つまり、政府内部から知るべきではない人間や組織に対して意図的に情報が漏洩した。
二人の佐官はそれを共通見解としていた。だが、現段階ではそれを疑っても先のないことだ。
今、現実として、大学は機動隊により包囲状態にあり、マスコミや民間人まで集まっている。言い方は悪いが、餌が増えている状況でしかない。
「現状、我々の装備は対B.O.W.……彼らを無傷で突破するには、些か不向きですね」
「威圧して押しとおることもできますが」
「武器を向けるのは気分がよろしくありません。必要ならばそうしますが…」
何より、民衆の目というのもある。極論無視はできるが、今後のことを考えると強攻策では政治的な問題に発展する。
少なくとも民衆はこちらに対して反発を覚えるだろう。そして、民主制である以上彼らは政府の意思決定にまで影響を及ぼすことができる。
国際的な政治問題にまで発展しかねない地雷を踏むのは、流石に彼女らでも躊躇うところであった。
無論、二人にしてもバイオハザードに対処するために強引に進めたい気持ちもあるのだが、その感情だけで突っ走るのは良しとは言えなかった。
「彼らを管轄する警視庁への問い合わせは?」
「行いました。ですが、拒否の一点張りです」
呆れたように警視庁へ問い合わせた吉村は言うしかない。
機動隊の装備はこちらから観測できるだけでも対人がメイン。NBC兵器を想定した防護車もなければ、それらしい防護服姿の人員も見えなかった。
そう、この世界においては史実における地下鉄サリン事件が起こっておらず、NBCテロ対応専門部隊が警察にも創設されていないのだ。
故にこそ、彼らはバイオハザードだというのに通常装備のままに行動しているのだった。
894: 弥次郎 :2021/06/27(日) 11:50:50 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
「……一先ず、交渉は続行します。
政府の方にも連絡を入れて、何とか退去してもらわねば」
「まったくです。こちらは最悪の事態に備えておくということで……よろしいですか?」
最高階級である吉村に、念押しのようにレイデスは確認する。
一つ深呼吸をした吉村は、しばし、卓上を見つめ黙考する。
そして、一つ頷いて断言した。
「……そうせざるを得ません。責任は私が負いましょう。
ギガフロートの駐留部隊司令部にも許可をもらっておきます。
私はこれから再度交渉にあたってみます」
「はっ。お気をつけて……」
「中佐にもご迷惑をおかけします」
「なんの、お互い様ですよ」
指揮車両の外に出れば、MTやVAC、そして圧倒的多数の歩兵に囲まれている機動隊の姿が見える。
彼らも立派な警官ではあるのだろう。実際、これだけの包囲を受けてもなお揺らがずに職務に対して忠実であるのは評価できる。
だが、同時に思うのだ。彼らは本当にこのバイオハザードについて理解しているのだろうか、と。
「大佐?」
「いえ、少し……」
彼らがこちらの警告に耳を貸さないのはこちらへの不信もあるのかもしれない。
だが、果たしてそれだけであろうか?とふと疑問に思ったのだ。
そう、まるで恐れていないのだ。何も知らぬ幼子が危険を知らずに壁を越えていこうとするように。
あるいは、暗闇に揺れる火に光走性に身を任せて虫が自ら飛び込んでいくように。それの恐ろしさをまるで知らないままにふるまっている。
考えろ、考えろ、考えろ、考えろ。いったい何を見過ごしている?
無謀ともいえる行動に移れるのは何故だ?これから起こるかもしれない惨劇を前に自信を保てる理由はなんだ?
連合でさえバイオハザードには恐れを抱いている。殊更、すでに東京湾で発生している汚染と濃縮で生物の変異まで起こっているのだから。
まさか、それを脅威と見ていないのだろうか?いくらなんでもおかしい。レイバーさえも容易く破壊するほどの怪物と想定されているのだというのに。
「あ……」
そこで気が付く。ここまでの想定や考えは、あくまでも自分たち視点のものだった。
彼らが自分たちと同じ常識で行動しているとは限らないということをすっかり忘れていた。
一応、関東日本政府に対しては解説がされているために、それが共通見解として広まっていると考えていたのだ。
自分たちの歴史上、旧世紀にはこの手のバイオテロだとかバイオハザードは頻発しており、それがC.E.に入ってからもたびたび発生している。
だからこその現代の厳格な対応がなされているのであって、それは経験と積み重ねによるものだ。
だが、果たして彼らに同じ経験があるだろうか?
つまるところ、彼らとの間でコンセンサスができていないのだ。それを、完全に失念していた。
「っ!」
だから、それに気が付いて、自分の、自分たちの失策を悟った吉村は指揮車両の中に全速力で戻ることを選んだ。
完全に失態だ。だが、リカバリをしなくてはならない。これが致命傷となる前に、なんとしてでも。
895: 弥次郎 :2021/06/27(日) 11:52:06 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
コンセンサスって大事だよねって話。
あるいは、相手に自分の頭の中にあることが全部伝わるとは限らないよねって話です。
最終更新:2023年06月22日 22:33