962: 弥次郎 :2021/06/27(日) 23:16:31 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
憂鬱SRW 融合惑星 パトレイパー世界編SS「WXⅢ」6-2
- C.E.世界 融合惑星 γ世界 日本列島 関東日本政府施政下 都内 ○○大学キャンパス 機動隊現地指揮所 午前5時11分
意外と手間取った、と吉村は部下に資料を運ばせながら歩みを進めていく。
大学を包囲する機動隊の現地指揮所、仮設のテントで設営された指揮所は、明らかにこちらを歓迎していない空気だった。
まあ、無理もないだろう。この世界に地球連合が介入して以来、あまり良いことをしたという認識はあまりない。
それはともかくとして、資料の取り寄せと説明の準備は整った。
「大佐」
そして、部下の一人が駆け寄ってきて耳打ちする。
「外の方も準備は完了しています。いつでも…」
「わかったわ。これで効果があるといいんだけれど…」
「効果は間違いないでしょう。刺激的過ぎるくらいですし」
効きすぎるのも問題よ、と苦笑いしつつも、急遽整えた準備が終わったことを確認し、副官と共に用意された席に腰を下ろす。
対面には現地の指揮官、そして機動隊と共に現場にいた警視庁刑事課---いわゆる本庁の刑事が座っている。
そしてもう一人、明らかに軍人として訓練を積んでいる人物が傍らに控えている。見てくれは刑事に見えるが、軍人の吉村の目はごまかせない。
(訓練を積んでいる機動隊員とは明らかに違う……自衛官?)
おかしな話だ。状況を鑑みるに、大学が発生源と思われるバイオハザードの根源追跡(ルートコーズ)のための介入だ。
その図式上、自衛隊は政府の災害派遣命令に基づいて出動し、連合と共に共同で事態に対処するということが決まっていて、事実そのように動いている。
だというのに、なぜ、自衛官が機動隊や警察組織側にいるのかがわからない。そも、警察と自衛隊というのは別組織だ。
警察組織はどこまで言っても警察組織でしかなく、軍事組織もまた然り。故に、交わることはない。
となれば、何か意図があって此処にいることになる。その意図は、まだ読めない。
(注意を払っておくべき、かしら)
あくまで自然な風体を装っている以上、こちらから突っつく必要はないだろう。
プライオリティはあくまでも機動隊と警察機構に対し、この事態がいったいどういう物であるかを説明するかにある。
まあ、相手は明らかな警戒と敵意をこちらに向けてきているので、苦労はすることになるだろう。
(さて、始めましょうか)
いかに時間をかけることなく相手に事情を説明し、納得を得るか。そのための戦いが始まった。
963: 弥次郎 :2021/06/27(日) 23:17:05 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
- C.E.世界 融合惑星 γ世界 日本列島 関東日本政府施政下 都内某所 午前6時43分
東都生物医学研究所の研究員である増田は、早朝に主任研究員の岬の元を訪れていた。
緊急を要する事態が発生し、主任である岬に呼び出しがかかったのであるが、彼女が一向に電話にも出ず、研究所に来なかったためだ。
地球連合の介入という事態は、増田や所長の栗栖、さらにはスポンサーの自衛隊の石原一佐や米軍のマイケル・パッケンジーにとって衝撃であった。
即ち、ニシワキセルの研究とそれに連なる一連の計画が表ざたになりかけている、ということであった。
事態を何とか隠そうとしてはいるが、事実としてニシワキセルと外部からもたらされた細胞の融合体は順調に生育しており、最早隠しようがなかった。
石原一佐からの情報では自衛隊も専門部隊を動かしているとのことで、石原一佐は時間稼ぎも何もできないままに派遣を見送るしかなかったという。
そして、問題はそれだけではない。下手をうたなくとも自分たちは計画の参画者ということもあって追及を受け、進退窮まることになる。
なにしろ連合は生物実験により誕生した人工生物によるバイオハザードの調査を掲げて介入してきたのだ。
それに思い当たる節があるどころではない。ずばり、カルタヘナ法に抵触するようなことをしているからだ。
増田とてカルタヘナ法ギリギリの実験をしていることは把握していた。しかし、厳密に言えば、まだセーフのはずだったのだ。
カルタヘナ法は、ものすごく簡単に言えば、自然環境中に自然にはあり得ない遺伝子や形質を持つ生物の流出を規制するものだ。
だから、その手の生物を育成するとしても、研究所や研究室の外に持ち出すことなく管理すれば問題はない。
だが、厳密に管理、それこそ情報統制さえもしていたそれが、よもや外に出ていたとは。
「早く出てくれよ……主任……」
増田は何度もチャイムを鳴らすが、どうにも反応がない。
彼女の住所は知っているが、カギはないので彼女が出てくるのを待つしかない。
所長からは彼女に事態を伝えることと、如何に事態に対処するか、そして口裏をどう合わせるかの意見を聞くことだった。
事態は急を要する。だからこそ、こうして自分が派遣されたわけなのだが。
「くそ、出ない……管理人に言って鍵を借りるか…?」
だが、ふいにその時、扉の向こうで音がした。
人の足音だ。ややおぼつかないが、確かにそれがする。
「主任…?」
ガタン、と扉に内側から何かがぶつかるような音がした。
それはまるで人が倒れ込んだかのような、そんな衝撃を伴っている。
嫌な予感が止まらない。というか、なんだこれは。ドアの下の隙間から出てくる赤い液体は?
嗅覚は、何やら鉄くさい匂いをとらえている。いったい、これはどういうことなのか?
「……!?」
そして、がちゃりと、ゆっくりと鍵が開けられていく。
とどめに、一気に解放された。
「ヒィッ!?主任!?」
扉が一気に開き、内側から寄りかかっていた物体が、マンションの廊下に扉を押しのけて姿をさらす。
岬冴子が、扉という体の支えを失い、倒れ込んできたのだ。
その姿は、余りにも無惨だった。体中から出血しているようで血だらけ。尋常ではないものだ。
見れば、室内には血がべったりと張り付いているのが見える。その血の跡からするに、ここまでよろけながらも来て、ドアの鍵を開けたのであろう。
だが、そこで限界だったようだ。というか、これだけの出血をして動けたというのは奇跡か。
「しっかりしてください、主任!どうしたんです!」
「あの……子……あ、の…子が…いか……ない、と……」
「あの子?なんのことです?……ああ、もう!しっかりしてくださいって!」
うわ言を漏らす岬だが、増田はそれに構うことなく、取るべき行動をとった。
すなわち、岬のマンションの部屋に入ると備え付けの電話をとり、救急車を呼ぶことだった。
最前までの所長の指示など、頭から吹っ飛んでしまった。それもそうだ、こんな事態など、誰が予測できたであろうか。
964: 弥次郎 :2021/06/27(日) 23:17:44 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
- C.E.世界 融合惑星 γ世界 日本列島 関東日本政府施政下 都内 某ライブハウス付近 連合現地拠点 午前7時21分
ライブハウス周辺は、厳重な隔離状況にあった。
ヘリ数機を使って運ばれてきた防壁を兼ねる大きなドームのようなもので覆われ、該当の地域を外界と隔離しているのだった。
テント内部と外部の出入り口は数か所に限定され、尚且つ、長い通路を通っての滅菌・殺菌・浄化のプロセスを経なければならないようになっていた。
そして、その隔離ドームの内部では、作業員たちがもはや原形をとどめいていない怪獣の調査を行っていた。
細胞のサンプルの採取や大きさの測定、あるいはその身体的特徴の調査などを行ったりしている。防護服に身を包み動くその姿は不気味だった。
元々ライブハウスがあった周辺が戦闘の余波で破壊されつくしていることもあり、まるでそこだけ地球ではない惑星かのようであった。
実際、そのドームの内側は汚染源となる細胞のせいで地球であり地球ではないような恐ろしい未知の空間だった。
だからこそ、厳重な隔離を行って周囲に影響が及ばぬように取り計らう必要があったのだ。
そして、その戦闘に参加していた二人の刑事の姿は、その隔離ドームの近く、連合が設営した滅菌設備の中にあった。
「やっと終わった……」
病院の入院患者が検査の時に着用するような滅菌服を脱ぎ捨て、着慣れた衣服に戻りながらも、秦は深く息を吐き出した。
検査、滅菌、検査、消毒、入浴、検査、問診、検査、さらに採血や唾液のサンプル採取など、多くの行程を費やし、やっと解放された。
まあ、バイオハザードの現場にいたどころか、その汚染源と真っ向から退治して戦闘を行ったのだから無理もないことだろう。
体に付着しているかもしれない汚染源の細胞を徹底的に排除し、安全を確保するまでにかなりの時間を要したのだ。
まだ同定や性質の特定が完了していない以上、どれだけの消毒や滅菌をどの程度やればいいかも不明であったがため、というのもある。
「ああ、まったく疲れたな……」
同じく消毒と検査を受けた久住も、更衣室に置かれた椅子に腰かけてぐったりしている。
この手の検査は健康診断などで経験してはいるが、こちらの方がより行程が長く、あれこれとすることが多く、疲労してしまった。
必要なことだと分かっていても、文句の一つも言いたくなるのが人間という物だった。
しかし、と秦は口を開いた。疲労もあり、倦怠感もあるが、同時に達成感がある。何しろ、元凶と言える怪物を退治したのだから。
これで東京湾で発生していた汚染も、レイバーの破壊事件も解決したのではないかと。
「これで原因だった怪物は打倒された。それでよしじゃないでしょうか?」
「どうだかな……まだ大学と研究所の方でどんな動きがあるか分かったものじゃない。
それに、あの怪物がどこから来て、どういう経緯で暴れていたのかも分かっていない」
時間をかけて着替えながらも、久住は自らの予想を話す。
965: 弥次郎 :2021/06/27(日) 23:18:25 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
「まだ現象として現れた怪獣を叩きのめしただけにすぎない。
こんな生物が自然に生まれるなんてのはあり得ないって言っていただろう?だから、ここからがむしろ本番だ」
「……そう、ですね」
そういえばそうだ、と秦は浮かれる気分を戒める。
この事件はそもそも、明らかに通常ではありえない生物の細胞が原因と推測されていた。人為的に手が加えられた生物による大災害なのだと。
つまり、汚染をまき散らしていた元凶である怪獣の発生の元凶、つまり、これを生み出した人間がどこかにいるということになる。
もしもここで満足してしまえば、再び同じようなものが作られて同じように事件を引き起こすかもしれない。
「じゃあ、まだ捜査は続行ですね」
「ああ。次は当初の予定通り研究所と大学の方の調査を行うことにしよう。
細胞のサンプルは連合が分析して結果をよこしてくれるそうだし、俺たちは俺たちにできることをやらなきゃならん」
「根源追跡……でしたっけ。そのために最も怪しいところを調べて虱潰しにするしかない」
「怪獣の被害についても調査して対応しなくちゃならんしな。まったく、こんなものを生み出して何のつもりだったやら」
「それは、容疑者の岬冴子に問い詰めてみないと分かりませんね」
そういいながらも、刑事二人は滅菌設備を出た。
滅菌設備の外に出た瞬間、外界の匂いに思わず二人は顔をしかめた。
これまでいた環境があまりにも清潔で、無臭で、滅菌されていて、それに慣れ切っていたが故の反応だった。
こんなにも臭くてたまらないものを呼吸していたのかと、ちょっとぞっとするほどだった。
「お、来たな」
外で待ち受けていたのは、共に戦ったメンタルモデル二人だ。
「お二人も終わりましたか」
「我々は体を構成するナノマテリアルを組み替えるだけだからな、あっという間に終わった」
「うらやましいな…」
「いや、この体はこの体で不便なこともある」
それよりも、とズイカクとイ400は刑事二人を車へと促す。
「少し休憩を挟んだら、次の場所に移動するぞ」
「次?」
「ああ。昨日の調査で判明していた重要参考人の岬冴子のことだ。
連合も彼女の身柄を抑えるために今日の朝動いたのだがな、彼女の住居はもぬけの殻だった」
「逃亡した…?」
「いや、それより悪い。彼女のマンションの部屋は彼女のものと思われる血が大量に見つかった。
そして、通信記録によれば彼女は病院に搬送されたようだ」
これが写真だ、と空中ディスプレイでそれを見せられ、二人は絶句した。
まるで、内部で派手な殺傷事件が起こったかのような、そんな惨状が広がっていた。
「一体、どうして…?」
「さぁな。
だが、彼女の身柄は抑えねばならない。彼女が何らかのことを知っていることは確実だろうしな。搬送先の病院は突き止めてある、急ぐぞ」
「生きているといいんだがな……」
「念のため、医療班も同行する。彼女がどういう状況であれ、なんとしても生かして話してもらわなければならん」
まだ終わっていない。むしろ始まったばかり。そのことを改めて認識し、刑事二人はメンタルモデルたち共に車に乗り込んだ。
まだ、事件は終わりを見せようとしていない。むしろ、闇が深まっているとさえ言えた。深淵に飲み込まれないように、注意を払いながらも。
966: 弥次郎 :2021/06/27(日) 23:20:25 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
というわけで、ちょっとだけ話が進みました。
現地では認識の差を埋めるための戦いが。
岬冴子は原作に倣い、なぜか大出血。
刑事二人は重要人物(VIP)の追跡。
そして、背後にいる人物たちもようやく事態を悟り動き始めます。
それが何を生むかは…まあ、お楽しみに。
最終更新:2023年06月22日 22:35