44: 弥次郎 :2021/06/28(月) 23:45:45 HOST:softbank126066071234.bbtec.net


憂鬱SRW 融合惑星 パトレイパー世界編SS「WXⅢ」6-3



  • C.E.世界 融合惑星 γ世界 日本列島 関東日本政府施政下 都内 ○○大学キャンパス 機動隊現地指揮所 午前6時33分



「……ということです、いかがでしょう。バイオハザードについてご理解いただけたかと思いますが?」

 吉村は、顔を真っ青にしている機動隊指揮官や刑事たちに呆れたような目線を向け、問いかけた。
 1時間余りで簡単に地球連合が経験したバイオハザードが何たるか、そして、進行形で暴れていた怪獣の食事風景やライブハウス跡地の光景を見せられたのだ。
B.O.W.という物を今一イメージしきれず、侮って大きな口を叩いていた大きな大人が、まるで夜におびえる子供のようになっている。

 そして、それは彼らだけに伝えられたのではない。
 持ち込んできた映像投影機やスピーカーを通じて機動隊の隊員や刑事たち、そしてマスコミなどにまで伝えた。
さらに、それ以上の威力を以て、大学周辺に集まっていた一般市民にも強く浸透し、衝撃を与えた。
 彼ら彼女らは反連合や反戦を掲げてここに押し寄せてきた者もいた。元々関東政府の領域には東西日本からその手の思想や政治的傾向の市民が集まっていた。
つまり、かなり純度の高い人々が集っていたといえる。だからこそ、こんな早朝でも駆けつけて自らの信じるところを実行に移していた。
彼らはある意味で純粋であり、自分たちの大義や主張に酔っていた。それらは犯すことのできない絶対のものであり、故に自分たちは揺らがないと。

 しかし、連合の突き付けた現実はそんなものをあっけなく打ち砕いた。
 安全なところにいる限り、命の危険はない。故にこそ、好きなことが言えてしまえる。
 だが、命を脅かす存在が確かに存在し、実際に人の命を奪い、暴れていると分かればどうなるか?
 非常に簡単なことだ。薄っぺらな主義主張を投げ捨て、自己の生存に突っ走るのである。具体的には、逃避という形で。

 さらに、機動隊の面々にも大きな動揺が走っていた。
 あくまでも警察が大学内の調査や捜査を行うまでの間、連合の人員が入るのを阻止するように命じられていた。
そして、その職務に忠実に勤めていたのだ。つまり、内側で起こっていること、内側にあるものが何かまでは知らされていなかった。
そんなところに、大学内部にあるものが如何に危険で恐ろしいものであるかを示す証拠が提示されてしまったのだから、これは大変だ。
 彼らはあくまでも対人装備であり、暴徒などを鎮圧することを主眼としている。そんな中で、映像や資料にあったようなB.O.W.と戦うなど不可能だ。
 これは吉村大佐の意図したものだ。要するに相手の士気や意気を砕いてやればいいという、極めて乱暴なプラン。
だが、しかして効果は抜群としか言えなかった。健気にも連合の部隊に対峙していた機動隊が明らかに後退した。

「ほ、本部に問い合わせを……」
「その必要はありません」

 何とか絞り出した言葉を、吉村は容赦なく切り落とした。
 それはなぜか。それは、吉村らが警察がその手の返答で時間稼ぎを行うであろうことを予測して、先手を打っていたからだ。

「なにしろ、警視庁の方にもこちらの話は中継されておりますし……なにより、言って理解していただけないならば実力行使を行う手はずですので」

45: 弥次郎 :2021/06/28(月) 23:46:32 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

 そして、その言葉は正しかった。東京都千代田区霞が関にある警視庁本部庁舎は、突如として現れた連合の戦力により包囲されていた。
 いや、包囲されているだけで済んだならばまだいいだろう。大学を包囲する機動隊と同様にバイオハザードについての情報を見せつけられたのもまだいい。
 決定的だったのは、レイバーの何倍もある大きさの人型機動兵器が建物を包囲し、そのサイズに見合った武器を突き付けているということだった。
即ち、指先一つでこの事態に対応すべく集まっていた警察上層部、そして勤務にあたっている警察官や刑事などの命を容易く奪えると、そういうことであった。

「あなた方は!何を考えているのですか!」
「まだお分かりになりませんか?」

 激昂する刑事に、吉村は冷たく言い放つ。
 それは、非常に単純な選択だ。
 このまま時間が徒に流れるままにしてバイオハザードの被害を大きくするのを座して待つか。
 それとも、目の前にいる警官たちの命を奪ってでも強引に事態を収拾し、発生するであろう被害を抑えることを選ぶか。
そして、これまでは話し合い、事実を説明することで理解してもらえるという希望を持って行動していた。
いきなりなりふり構わずバイオテロの鎮圧を行っても、少々寝覚めが悪いからという理由も存在していた。
 だが、ことこれに至ってまだ理解せずに喚いて抵抗するようならば、その時に選ぶのは一つだ。

「バイオテロの被害はこのままでは拡散します。
 東京湾内部ではすでにバイオハザードによって通常の生態系ではありえない異常な変異を起こした生物が確認されております。
 いえ、入っている報告では東京湾に面する地域各所でB.O.W.が複数確認され、対応が急がれている状態なのです。
 このまま元凶を叩かないままでいれば、いずれはもっと広い範囲に拡散し、被害は途方もないものになる。
 そんな収拾がつかなくなる前に、動かねばならない。そして、その為ならば障害は排除します」

 鋭い剣幕に、機動隊指揮官も刑事も圧倒されるしかなかった。
 そして、理解できた。返答はYes.しかも止められていないと。
 もしもNoと答えたり、時間を引き延ばすようなことをすれば、仕方ない犠牲と割り切って自分たちを殺してでも鎮圧を行うのだと。

(そんなことをできるはずが……でも、彼らは本気……?)

 やるといったらやる。それは相手の態度でわかる。
 この地球連合という組織は、過去のバイオハザードで大きな被害を受けた。だからこそ同じことを繰り返すまいとしている。
 では、今の自分たちはなんであろうか?上からの命令とは言え、彼らの行動を邪魔している状態だ。
 そして、バイオハザードの脅威を知ってもなお、その拡散を黙して見守ることしかできない。まして、連合のように鎮圧など不可能だ。
最前も言ったが、機動隊の装備は警官や刑事と大して変わらない。SATのような組織ならば別であるが、彼らはこの場にはいない。
いや、仮にいたとしても大した戦力とならないだろう。そのことは、先ほどの説明でよく理解できている。

PiPiPiPi……

 その時、無線機が鳴る。
 それは、本部、すなわち警視庁とつながる無線機だった。
 促されて、その無線機の回線を開く。

「はい、こちら○○大学現地指揮所……」

 向こう側からは掠れた声で上層部の指示が聞こえてきた。即ち、直ちに連合に指揮権を委譲し、事態の対処を任せるように、という物。
 結局のところ、銃口を突き付けられて逃げられない状況に陥った時点で、上層部はそれを選ばざるを得なかったのだ。

(……あの刑事、いなくなりましたか)

 明らかに自衛官と思われる刑事は、いつの間にやら姿を消していた。
 ひょっとすると、と嫌な予感がよぎる。あの刑事が何かをやらかすのでは、という懸念を抱いていたのだ。
 優先事項ではなかったのでそこまで注視していなかったが、判断を誤ったか。
 だが、確約は取れた。ならば、あとは行動に移すだけになる。

46: 弥次郎 :2021/06/28(月) 23:47:27 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

「全ユニットに通達。ブリーフィングの通り行動開始を」
「了解」

 副官に伝えると、すぐに席を立つ。もうこの場にいる理由など存在しない。
 残念ではあるが、この世界の警察に斟酌してやる余地はもうなくなった。恨まれようが、そうしなければ多くの血が流れる羽目になる。

「それと、現地警察が独断行動をする可能性があるのでそれを前提に……」

 その時だった、大きな悲鳴が、大学の方から聞こえてきたのだ。
 尋常な悲鳴ではない。命が危うくなり、助けを求める、そんな切迫したものだった。

「……っ!遅かった!直ちに行動開始!」

 そして、地面が軽く揺れる。というか、衝撃が地面を伝ってくるのを感じる。
 それは、地震だとかそんなものではない。もっと不規則で、もっと乱暴で、もっと力任せの物。
 さらに言えば、その揺れには破壊音と悲鳴と、生物的な嫌悪を抱くような音も混じっていた。

「大佐、あれを!」
「ああ、見えていますよ……!」

 そして、それはやってきた。
 近いものはこの融合惑星の中で確認された異星生命体であるBETAであろうか。だが、より生物的で、生々しい外見をしている。
そう、まるで魚類や水棲動物のような、生々しさというべきか。あるいは、都内のライブハウス近くで撃破された怪獣そっくりというか。
 戦闘を突っ切ってくるのはサイズも造形も人型に近い怪獣。ついで、乗用車のようなサイズの個体が現れた。
その数は、かなり多い。連合の戦力に比べれば微々たる数でしかなく、大きさなどからも脅威とは言えないかもしれない。
 だが、それはあくまでも力のある連合の視点だった。

「ああ、まずい!」

 そして、力ないものの視点、すなわち、内部に先行していたγ世界の警察官たちは、まったくの無力のままに怪獣と真っ向からぶつかることになった。

「ぎゃあああああああああ!?」
「助け--」

 血が、虚空を舞う。
 人体が面白いように吹っ飛ぶ。

「い、痛い……だ、誰か……」

 あるいは力任せにありえない方向から押しつぶされ、形を失う。

「あぐっ……ざけんな、よ……」

 怪獣が持つ二本の手のような部位に捕まれ、まるで紙のように引きちぎられ、そのまま捕食される。

「こんなの、話が違う……」

 逃げまどう彼らを、怪獣たちが何の容赦もなく追いかけ、追い詰め、そして、命を奪っていく。
 これこそが、B.O.W.。人の生み出した、人を超える生物兵器。
 防げなかった悲劇を前に、吉村はその拳を卓上に叩きつけ、間に合わないと分かっていても救助の指示を出すしかなかった。

47: 弥次郎 :2021/06/28(月) 23:48:16 HOST:softbank126066071234.bbtec.net


 そして、悲劇は連鎖する。
 メディアは、そのカメラやリポーターを通じて、その様子を生中継していたのだ。
 折しも時刻は人々が目覚め、朝食をとり始め、ついでにという形でTVの電源を入れるような頃合い。
 そして、メディアの総力を挙げたその中継はどのチャンネルでも放映されており、誰もがそれを目にすることになってしまった。
 最初は彼らものんびりと他人事のように眺めていた。所詮はTVの向こう側のことなのだと。
例えそれが自分の生きている世界とつながっているとしても、それが遠い場所の物ともなれば、現実味は途端に失せてしまう。
 だから、起こりうることを想像することもなく、ただただテレビに映る映像を惰性で眺めてしまった。

『ご覧ください!〇〇大学の中から!未知の生物が現れました!近づいてみましょう』
『止まれ、近づくんじゃない!』

 レポーターとカメラマンはここが正念場と制止の声を振り切って動く。画面が揺れ、走る足音が響く。
 彼らは、まるで気が付いていない。自分たちの足の向かう先が、地獄だと露とも疑うことなく。
 そして、侮っていた。現れたモノが未知の生物であり、それ故にそれまでの常識が通用しないということを失念していたのだ。

『えっ?』

 そして、その生物は尋常ではない速度で接近してきた。おかしい、とレポーターは呆けた表情で思った。
 彼我の距離は大きかったはずだ。だというのに、いつの間に目の前にいるのか。まさに一瞬で、自分は相手の懐のうちにいたのだ。
 不意に上を見上げれば、無機質な目のような部分と視線が交わる。

『ひっ……!?』

 そこに、一切の感情も何もなかった。
 存在したのは、ただの動物的な衝動。
 即ち、食欲。

『あ……』

 大きな空洞が広がり、自分に迫ってきた。それが、リポーターの最後に認識できた光景だった。

「----------------------------」

 そして、都内で一斉に恐怖の悲鳴が上がった。
 いや、悲鳴などという生ぬるいものではなかった。恐怖そのもの、彼らの抱える生存本能の叫びであり、どこまでも命の叫びだった。
 TVというものは、どうしても没入感という物がある。故に視聴者はリポーターに自らを投影したのだ。その叫びは切実だった。
 何しろそれを中継していたカメラが、至近距離で最期の瞬間を映してしまったのだ。
 リポーターの頭が、いや、頭どころか上半身の一部までもが一気に怪獣の口の中に呑み込まれ、食いちぎられる瞬間を。
 殊更、流血や残酷な光景とはほぼほぼ無縁に生活できる、現代日本という環境に慣れ切っている人々には、余りにも。

「中継カット、急げ!」

 TV局の調整室がとっさに中継を切り、画面を切り替えて対処する。だが、十分すぎる時間を与えてしまった。
刹那の間であろうとも、その光景は間違いなく人々に見せつけられてしまった。そして、それは遅滞なく脳に伝達され、意味を理解してしまった。
その後、テレビを見ていた人々がどのような生物的な反応をしたのかは、想像に任せるとしよう。

 だが、悲劇はまだ始まったばかりであった。γ世界日本関東政府の各地で発生した放送事故は、これらの事件のほんの一部にすぎない。
 廃棄物13号事件は、まだ序章が終わったに過ぎないことを、まだ人々は知らない。

48: 弥次郎 :2021/06/28(月) 23:48:46 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
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守れなかった…

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最終更新:2023年06月22日 22:37