229: 弥次郎 :2021/06/30(水) 23:55:15 HOST:softbank126066071234.bbtec.net


憂鬱SRW 融合惑星 パトレイパー世界編SS「WXⅢ」6-4


  • C.E.世界 融合惑星 γ世界 日本列島 関東日本政府施政下 都内 ○○大学キャンパス 地下研究所 午前6時01分


 端的に言って、彼らは追い詰められていた。
 誰か?それは、ニシワキセル計画およびBETAの細胞を用いたB.O.W.の研究を推進していたグループの研究員たちだった。
 前述の研究は、決してこの大学だけがかかわっていたことではない。国防族、自衛隊、大学OB・OG、米軍などあらゆる勢力がかかわっていた。
B.O.W.の培養と製造というとんでもないコストのかかることを実行し続けられているのも、これら後援組織や援助を申し出る団体あってのことだった。

 しかして、これはとんでもない協定破りでもあった。
 元々BETAの研究というのはいつ来るかもわからない外敵に備えるという意味で、融合惑星各国でも行われていることであった。
そのモデルケースというかサンプルとして着目されたのがBETAだったのだ。しかし、そのBETAは非常に危険であることに変わりはない。
故にこそ、研究目的のみが許され、他の用途への転用、殊更生物兵器としての転用を禁じるという取り決めが交わされていたのだった。
 が、そこはそれ。このγ世界日本、殊更に関東政府の指揮下にいた石原一佐を主とする一派は、これを協定を破って兵器として研究したのだ。
他国が協定を破って生物兵器として使ってくるだろうという疑心暗鬼の下に、入念な根回しや工作を行って。
隠れ蓑とされたのが、ニシワキセルの研究であった。これの細胞と混ぜ、培養することであくまでもニシワキセルの産物と言い逃れるつもりだったのだ。
 尚且つ、入念に隠匿することにより、情報が漏れないようにかなり苦心してきた。

 だからこそ、ここにきて急に連合が名指しで介入を宣言して実行に移してきたのは彼らの度肝を抜いたというわけだ。
 それの連絡が来たのは真夜中のことであり、主要な人員に連絡が行き渡り、集まることができたのは強制調査のほんの少し前という有様だったのだ。

 そして、事実上包囲されてしまったことで二進も三進も行かなくなった彼らは今後の対応をどうするかを話し合っていた。
とはいうものの、彼らはどうしようもなく詰んでいた。ほぼほぼ王手飛車取りといったところであろうか。
研究内容の調査と関係した研究員の身柄の捕縛などを宣言しており、明らかに研究内容が露呈している。
それが単に注意をするためだけではないことくらいは研究員たちにもわかっていた。

「一体どうする……?」

 その言葉が、端的に状況を、彼らの思考を表していた。
 逃げることも、研究内容を隠しとおすことも不可能。何しろ、生物兵器として研究していることなど調べればわかるし、それを明言している。
逃げ出すことができるかと言われれば不可能である。地上には機動隊がおり、その外側に数えきれない兵器と兵隊が並んでいる。
 彼らは所詮は研究者にすぎない。軍人と戦うなど無謀極まりなく、

「もう、あきらめたほうがいいのではないか?」
「いや、もしもおとなしく捕まったとしても無事でいる保証などないぞ……!
 連合が何をしてくるかわからんのにそんなことできるか!」
「そうだ!これは学問への干渉だ!許されざる行為だ!徹底的に抵抗すべきだ!」

230: 弥次郎 :2021/06/30(水) 23:56:01 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

 諦観する声に、反発の声が上がる。学問を犯されてしまうなど、とても許容できないということだ。
 学問の自由や大学における自治への干渉を許せば、今後も同じような名目で干渉されるかもしれない。
ある種特権階級でもある彼らは、それが脅かされることを嫌っている、というわけだ。

「かといって、どうやって抵抗するんです!?」

 しかし、それへの反論には口を思わずつぐむ。
 そう、繰り返すが、彼らは抵抗しようにも手段がない。武器などあるわけもなく、せいぜいがバリケードなどを作る程度だろう。
そもそも、かつての学生闘争のような事態に備えてこの手の大学の設備というのはそういった「活用」ができないように対策されている。
また、早朝ということもあってまだ大学構内には人が少ない。人の数によって押しとどめたりするのは不可能だった。
 まして、今回は警官などというものではなく軍隊だ。しかも、他国の軍隊。こちらに武器を向けて使うことにためらいはないだろう。
自衛隊や警察のように明確な弱点がないのだ。少なくとも、日本国憲法に縛られていないのは確か。

「明らかに犯罪行為だと明言してきているのですから、あちら側に正当性があるのでは?」
「そんなものあっちが勝手に決めつけてきたんだ。事実が公表されればこちらに正義があることは明白だ」
「そうだ。俺たちは屈しない!」

 だが、それでも反発する声は上がる。理屈ではない、感情だ。
 元々人間というのは感情の生き物であり、本能を理性が押しとどめることで生きている動物にすぎない。
ひたすらに自分達の正義を、大義を掲げる彼らの目は危ういものが含まれていた。
 だからこそ、理性的な派閥は反対をする。そんな感情と反発だけで意思決定をするなど選択を誤る元であるからだ。
 かといって、徹底抗戦派も譲らない。彼らとてもはや引けないというのはわかっているからだ。

「そもそもだ…」

 やがて、一人が静かに切り出した。

「考えを変えればいいだけだ。相手が軍隊だろうがなんだろうが、戦う必要などない」

 どういうことだ、とだれもがその男の発言に耳を傾けてしまった。

「わかるか?なにもこの大学に固執する必要はない。研究設備など時間はかかるが準備はできるからな。
 必要なのは、研究内容と資料とサンプル……必要なものを選んで外に運び出すことだ。ついでに、我々も逃げる」
「逃げて、どうするんだ?」
「スポンサーとコンタクトをとって研究を続ける、それだけだ。
 例えば、身柄が確保できなくとも死んだと判断されれば追跡を逃れるのは容易じゃないか?
 そして、その為のものがいくらでもここにある」
「なにが言いたい?」

 そして、その男はおぞましい笑みを浮かべた。
 その口から放たれたのは、全くを以て利己的で、排他的で、何が起こるかを全く度外視し---そして目的に沿うものだった。

「どうせ持ち出せないサンプルや培養体……有効に使おうじゃないか」

 それは、決して犯してはならない領域に踏み込む言葉であり、意思だった。

231: 弥次郎 :2021/06/30(水) 23:56:49 HOST:softbank126066071234.bbtec.net


  • C.E.世界 融合惑星 γ世界 日本列島 関東日本政府施政下 都内 ○○大学キャンパス内 午前6時52分



 大学を囲う壁やフェンスを飛び越えて、あるいは門を潜り抜けて進行するMTやVAC、そして通常兵器も含む歩兵の集団は、大学からあふれてきたB.O.W.の群れと激突した。
 このγ世界の日本の警察などとは違う、B.O.W.を相手にする訓練や武器を準備していた彼らは、落ち着いて対処に乗り出す。
 まずは大型火器を搭載したMT---スティングバグやサーベラス、ビショップなどがその火力で群れを砕いていく。
機関砲やレーザー砲などの一撃は所詮は人サイズでしかないN-β型B.O.W.にとっては脅威そのものだ。
重火力によって地形ごと、あるいはキャンパス内の設備や道路に被害を及ぼしながらも、確実に数を減らす。

「GoGoGo!」
「相手に近寄らせるな!」

 そして、分断された群れ以下の集団を歩兵や通常兵器が、これまた対B.O.W.の武器で攻撃を加えていく。
 すでに同じ根源を持つと思われるB.O.W.との戦闘情報から再生能力に優れているのは判明しているので、ラムロッド弾などを惜しみなく打ち込んでいく。
身体の体積が小さい個体ばかりということもあり、次々と肉片に変えられるか、あるいは活動を停止していく。

「うお!?コイツ、変異しやがった!」
「HQ!HQ!敵B.O.W.の更なる変異を確認した!」
『HQ了解(コピー)。変異体の性質は未確認だ、慎重に対応せよ』

 だが、撃破された個体はそれでは終わらない。
 再生能力が飽和し、それでもなお生きようとして活性化した個体は、ありえない増殖を以て肥大化。醜悪な肉の塊となって暴れ始めた。
 手近なものを、それこそ他のB.O.W.の死体であれ、植物であれ、何でもかんでも捕食していくのはおぞましい。
これでもかと食らいつき、ひたすらに貪る。それは、ある種の嫌悪感を抱くのに十分すぎた。

「助けてくれ!」
「キャー!?」
「怪物、怪物!?」
「くそ、まだ民間人もいたのかよ……!」

 そして、状況はさらに悪化する。大学構内からはB.O.W.だけでなく、大学に勤める人々までもがあふれてきたのだ。
 こうなると、迂闊な発砲が難しくなる。B.O.W.の殲滅を支持されている関係上、全火器使用自由が通達されているが、巻き込まないように手加減しなくてはならない。
また、無事な生存者であるならば、すぐに保護してホットゾーンからの離脱をさせなくてはならない。
厄介なことは重なるもので、たいていの場合、生存者はパニック状態に陥っているので正常な判断ができないことがある。
だから、それに対して適切な対応をとるだけでもかなり危なっかしい綱渡りを強いられてしまう。
 これによってさらに連合や企業連の部隊の動きは鈍くなってしまう。保護対象と殲滅対象の入り混じる大混戦。
市街地で発生するバイオハザードの恐ろしいところがモロに出てしまっている。つまり、対処能力を超える事態が次々に発生するのだ。

232: 弥次郎 :2021/06/30(水) 23:57:25 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

 そう、それは研究者たちの狙った通りに。

「やられたわね……」

 指揮所でその様子の報告を受ける吉村は歯噛みをする。
 これは、この事態は、明らかに人為的に引き起こされたものだ。内部で培養されていたであろうB.O.W.の無作為な解放。
さらには大学職員らを逃がすことによる混戦状態の形成。それらによって、隙間なく布陣していた部隊は前線で処理能力が飽和させられている。
 おそらく、この状況を作り上げた人物たち---すなわち、研究員たちは必要なものだけを持って逃げ出している頃だろう。
 一般人と混じっていれば、さらに言えばこれだけB.O.W.が無作為に活動していれば、脱出されてしまう可能性がある。
一応大学のキャンパスは包囲してあるとはいえ、これだけのB.O.W.が暴れているとなれば、現場の混乱は避けえない。

「オペレーター、各セクションに通達。首謀者が民間人に交じって逃亡する危険性があると」
「了解」

 一応指示だけは出し、注意喚起をしておく。
 人為的にB.O.W.を解き放ったならばそれはもはや犯罪者。決して逃がしてはならない相手になる。
 かといって、無作為に民間人ごと殺してOKというわけでもない。おそらく相手は、その間隙を縫うことで逃亡するつもりだろう。

(想定が甘かった……!)

 吉村は己の想定の甘さを呪った。そうだ、B.O.W.を用いたバイオテロをやる連中に、倫理観などというものは通用しないのだと。
 ともあれ、主目的はB.O.W.の殲滅と大学内部に残っている研究資料の回収だ、と意識をリセットする。
 無論、証拠隠滅なども行われている可能性もあるが、それでも踏み込んで今回のバイオハザードに関する情報を集めねばならない。
 加えて、殲滅後には大学のキャンパスを隔離し、内部の滅菌や消毒などをしなくてはならない。
 これだけ広い大学なのだし、解き放たれたB.O.W.の数も多いことから、完了までにかなりの時間がかかることは間違いないだろう。

「……このバイオテロ、ここで終わりにしたかったけれどね」

 長引く戦いになりそうだ、と吉村は握りしめていた拳を一度ほどいた。
 ここから求められるのは長期戦に付き合う根気と負けん気だ。
 この事態を引き起こした馬鹿どもには絶対に報いを受けさせなくてはならない、そう誓いながらも。








 そして、○○大学キャンパスでのバイオテロ事態は2時間余りの戦闘で終結させることに成功し、大学内部の制圧に移った。
順次歩兵部隊を大学内部に突入させ、生存者の救出を進めるとともに、研究所内に残された資料やサンプルの回収などが行われることとなった。
並行して、大学キャンパスを丸ごと囲い込む隔離ドームが運ばれてきて設置され、下水道などのインフララインも含めて封鎖と隔離がなされた。
 しかして、最重要目標ともいえる大学の研究者の何名かは大学内部にも、自宅などにもその姿がなかったことが確認された。
 同時に、大学内部の研究所にあったサンプルや資料の一部が明らかに持ち出されていることも。
 γ世界でのバイオテロは、まだ、終わらない。

233: 弥次郎 :2021/06/30(水) 23:58:07 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
とりあえず大学の方はこれにて終了ですね。
一応関係者や資料は抑えることに成功、だけど、逃げ出した連中もいるという感じです。
研究所の方も大学でバイオテロが起こった段階で踏み込み、関係者の身柄を抑えています。

さて、次は特車二課の戦いでもちょろっと書こうかなと。
さっくりと終わらせる予定ですので悪しからず。
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最終更新:2023年06月22日 22:38