666: 弥次郎 :2021/07/04(日) 11:53:18 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
憂鬱SRW 融合惑星 パトレイパー世界編SS「WXⅢ」7-1
東京湾を囲むγ世界関東日本政府の管轄内は、にわかにあわただしさを増していた。
即ち、東京湾の物理的な閉鎖、東京湾内での地球連合及び企業連合によるB.O.W.の駆除活動、さらに活発化したB.O.W.への対処などが発生したためだ。
殊更、民間に影響が出たのは東京湾の封鎖と発生したB.O.W.との戦闘であろう。
前者はとにかく影響が大きい。経済的な面でも、物流的な面でも、あるいはそれらのかかわる産業の面でも、だ。
それに関してはカーズをはじめとした大型兵器や持ち込まれた隔離壁などを用いて東京湾内に通路を構築することにより、何とか解決のめどは立った。
要するに、浄化が完了していない海水に触れることが危険なのであるので、触れなければいいというわけである。
しかし、それでも船舶の出入りは大きく渋滞することになったので、その影響は大きくなることが懸念された。
後者はさらに深刻だ。排除された廃棄物13号の活動に誘引されたか、出自を同じとする変異体やB.O.W.が活動を活発化させたのだ。
変異体によっては陸上での行動も可能なパターンがあり、例によって生身の人間では危険が付きまとうものが多かったのだ。
中にはレイバーに匹敵するほどの大型個体も含まれており、各地で破壊活動や捕食を行うなどの被害が出てしまったのであった。
これに対し、地球連合や企業連は即応部隊を動かして対処にあたっていたが、全てに対応しきれるわけでもなかった。
個々の戦闘においては有利に終わらせることができたとしても、その数が多ければ、他の場所でも戦力を動かす手前、数が足りなくなるのだ。
よって、対応するにあたっては関東日本政府領内の警察や自衛隊及びその他の戦力の供出を求めることとなった。
直接的な戦闘はともかくとしても、住人の避難であるとか救助活動など、間接的な支援はいくらあっても足りないのだ。
加えて、関東日本政府領内でのレイバーを用いた重犯罪の増加に伴って提供されていた連合製レイバー「ミルトン」らもあり、一応の自衛は可能と判断されていたのだ。
この要請に対して自衛隊は一部で反対の声も上がったものの、災害派遣という形で軍用レイバーを含めた戦力の派遣を確約、実行に移した。
警察に関してもうだうだと警視庁上層部がごねたのであったが、銃口がモノを言って協力が決定された。誰だって、目の前の銃口は怖いのである。
そして、動員された戦力は、おそらく関東日本政府の中でも屈指の練度を誇る特車二課も同じであった。
軍用レイバーであるHAL-X10をはじめ、最新のレイバーである「ミルトン」やそれを運搬するヘリなど多数の戦力を抱えていたためだ。
また、連合も戦力の供出を求めるだけでなく、レイバーの輸送に使われる輸送車両や輸送ヘリの融通を利かせるなど便宜を払っていた。
最も重要なものとしては、対B.O.W.の武器弾薬の供与を行ったということだろう。ただの弾薬ではなく、有効な弾薬でなければ駆除は簡単ではない。
残念ながら武器弾薬の互換性---OSとの連動や使い方を合わせるなど---はすべて現場で対処するという泥縄式であったが。
ともあれ、準備は整い、各地で戦端が開かれたのである。
667: 弥次郎 :2021/07/04(日) 11:54:38 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
- C.E.世界 融合惑星 γ世界 日本列島 関東日本政府施政下 都内 某湾港施設
市街地に隣接する湾港。そこは、陸地と海とがつながる場所であり、人やモノが集まる場所であり、それ故にその手のB.O.W.が獲物を求め集まる場所。
殊更、N-β細胞に由来する生物がレイバーの駆動に伴い発生する一定の音波に引き寄せられる性質を持つために、作業用レイバーの集まる此処はホットスポットだった。
それをわかっていたがために、現地部隊は罠を張って待ち構えていた。
「ソナーに感アリ!数は大型5に小型4!急速に接近!」
指揮車両であり索敵を担当するアレクサンドルは、付近に設置されたソナーの情報を全体に通達する。
意図的にレイバー用超伝導モーターを用意して稼働させているために、次々とおびき寄せられているのだ。
これはレイバーが次々と襲われたということから予測されていたB.O.W.の特性だったが、ズバリ的中していた。
その証拠に、1時間足らずでB.O.W.や変異体の撃破数はすでに50を超えてなお増えているのだった。
『構えー!』
並ぶレイバーが、合図とともにその銃火器を構える。
ソナーの情報によれば、サイズはレイバー並みの大型種であることが確認されていた。なればこそ、陸地に上がった瞬間を狙って袋叩きにする手はずだった。
一瞬の沈黙と緊張。誰もが、恐れと使命感の中で、それを待つ。
そして、それらは一気に海から躍り出た。
連合呼称D型およびT型。突撃を得意とする種と、その腕部による攻撃を得意とする俊敏な種が一直線に迫ってくる。
『テェーッ!』
そして、一斉に砲火が放たれる。
前面に据えられた大型のシールドの隙間から砲口をのぞかせるレイバー用の重機関砲も含めた、一斉射撃。
嵐と言ってもいいそれは、飛び出してきた個体を瞬く間にハチの巣にする。
だが、それでもなおB.O.W.は前に出ようとする。本能を刺激する走性を発揮し、レイバーたちの後方に置かれた音源に近づこうとする。
そしてそれを可能とするのが、その再生能力だった。弾丸を浴びて、それでもなお前に進むのはその肉体が負傷しながらも回復しているためだ。
加えて、尋常ではないタフネス、生物として異業としか言えないその形状が、それを可能とさせていた。
D型はその堅い外殻、複数の脚、そしてそれらを支える骨格と筋肉。そしてT型は俊敏さと同じく堅い前腕を盾のように用いて、弾幕を潜り抜けてくるのだ。
『怯むな!』
『おう!』
だが、そんなのはすでに何度も経験したことだ。
最初こそ命が惜しいとも思わず突っ込んでくる様子におびえていたのであるが、彼らはとっくにそれに慣れ切っていた。
それこそ、未知の敵と戦うということに怯えを隠せなかった隊員でさえも、順応しきっていた。それが戦場の空気というものか。
あるいは戦い続けることで、戦場という非日常に精神が適応した結果であろうか。日ごろの訓練もあるのだろうが、いつしか、彼らは引き金をためらわなくなったのだ。
668: 弥次郎 :2021/07/04(日) 11:55:10 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
弾丸が撃ち込まれていくにつれ、B.O.W.の動きは鈍くなり始めた。
それもそのはず、通常弾に交じってラムロッド弾を交えた重機関銃による弾幕なのだから、食らえば食らうほど動きと再生力は阻害される。
加えて、ラムロッド弾や焼夷弾、あるいは外殻を貫く徹甲弾を撃ち込むライフルの射撃は威力と射程で劣るも、数の暴力を発揮していく。
やがて、どれほど撃ち込まれたか。いずれの個体も再生が追い付かなくなったか、あるいは致命傷を受けたのか。
集中砲火の中でもがくようにして、前に進もうとして、しかしそれができず、踊るようにして倒れ伏していく。
『……』
だが、誰もが気を抜かない。ここから一気に再生してくる、ということが何度もあったのだ。
だから、絶対に銃火器から手を放さず、油断することなくリロードを行う。
そして、新しい銃口がにゅっとシールドの合間から飛び出す。
『グレネード!』
そう、それはグレネードランチャー。発射されるのはきわめて強力な焼夷弾。あるいはナパーム弾。
生物兵器を焼き払うための、尋常ではない高温を実現する特殊な弾頭を小気味よい音共に射出する。
そして、着弾したそれは、遅滞なく効果を発揮し、一気に一面を火の海に変えた。
現場には、生物が焼ける独特の匂いが満ちていく。香ばしいような、あるいは、どこか苦みを感じる悪臭のような匂い。
使われたレイバーの銃火器の火薬のにおいも相まって、そこはまさに戦場といったものであった。
『……!?生物兵器2体が更なる変異!各員注意を!』
そして、案の定、C型へと変異した個体が2体現れた。
おぞましいというか生々しい動きで構成する細胞が膨れ上がり、一気に変異を遂げる。
それはもはや生物としての体裁をほとんどなしていない、不気味そのものな変異であり動きであった。
損傷を補うためか、それらの個体は倒れている別個体を捕食し始める。情け容赦のない、共食いであった。
『うへぇ……』
『今だ、撃て!』
怖気の立つ音を立てながらの捕食。弾で撃たれ、ナパームで焼かれたそれを貪るさまは、さながら餓鬼であろうか。
だが、同時にそれは大きな隙でもあった。動きを止め、共食いに走ったということは注意がこちらから逸れているということ。
これでもか、と弾丸が撃ち込まれていく。だが、先ほどまでとは違い、異常なほどに発達した分厚い脂肪の鎧が弾を通さない。
通さないというか、撃ち込まれても途中で受け止めてしまうのだ。加えて、ラムロッド弾の効果も肥大化したことで効果が鈍くなっている。
さらに、あとからあとから増殖してくるので、ラムロッド弾の効果を受けている割合が小さくなってしまうのだ。
だから、なおのこと撃ちまくるのだ。
もはや、自分たちが武器を使い、生命を蹂躙することに躊躇いなどなかった。変化をしているのは、彼らもまた同じ、ということだった。
669: 弥次郎 :2021/07/04(日) 11:55:57 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
特車二課は次回、出番がちょっとあるはず…です。
最終更新:2023年07月09日 21:33